第10話 ずっと想ってきた

僕はひたすらみかを追い続けた。

みかは全力疾走で校舎を抜けていき、逃げ込むように体育館との連絡通路の道へと進んで行った。


僕にできることは少ないかもしれないが、ずっと小学校の頃から想い続けて隣で見てきたんだ。気づいてもらえなくても、僕にしか出来ないことがある。そう思いながら必死にみかを追いかけた。


連絡通路に出ると、みかやんの姿はなく、慌てて立ち止まる。


僕は周りをキョロキョロと見渡した。

すると、連絡通路から少し外れた、階段下のところに後姿のみかやんを発見する。


僕は大きく息を吸って、息を整えてから、みかやんの元へ近づいた。

みかやんは鼻を啜りながら目をこすっていた。


「…」

「みかやん」

「…」


僕は、声を掛けた。みかやんはピクっと反応はしたものの、こちらを向かずに鼻を啜ったまま何も言わなかった。


「…」

「…」



しばらく沈黙が続き、ふぅっとみかやんが息を吐いた。


「…はぁ!もうバカみたい私。」

「みかやん」

「私なんて最初っから無理だってわかってたのにね…」

「…」

「私、夢ばっかり見てたみたい。ほんとに何してたんだろう」

「…」


そうだ、みかやんは失恋したんだ。僕に何が出来るかなんてわからなかった。慰めることも励ますことも出来ずに、ただただみかやんを眺めていた。


しばらくすると、みかやんが僕の方へ振り返った。みかやんの目は充血しており、涙袋がプッくりと膨らんでいた。そして、最後に一滴の涙がツーっとみやかんの顔をつたって流れた。


「っふ、バカにしたきゃバカにしたら?どうせ私なんてこんなんだし、どうせこんなことになるならいっそう…」


僕は気が付いた時には、みかやんの会話をさえぎり、思いっきりみかやんを抱き寄せていた。これ以上こんなに悲しんでいるみかやんを見たくなかった。僕にできることは少ないかもしれないけど、なんとかしたい。ずっとみかやんを想ってきたからこそあふれ出てきた一身の思いが表に現れた行動だった。


みかは僕に抱きしめられ、固まっているようだった。しかし、僕はみかの表情をうかがうことが出来ない。僕は今思っている気持ちを素直に口にする。


「バカになんてするかよ」

「…」

「僕はいつもみかを見てきた、小学校の時からずっと想ってきた。だから、今みかが強がってるってことも全部わかる。だからそういうきは、頼りないかもしれないけど、いつでも僕を頼っていいんだよ。」

「クスン・・」


僕は、必死にみかやんを力一杯抱きしめ、頭を撫でた。

みかやんはズズっと鼻を啜ってから、両手を僕の肩に回してきた。


「っぷ。ほんとバカみたい…こんなに近くに私のこと想ってくれてる人がいたのに何でほったらかしにしてたんだろう…ホントに私って大ばか者だ…」


再び鼻を啜って、僕の肩に顔を埋め、体を震わせて泣いているみかを、僕は泣き止むまで必死に頭を撫でて、慰めたのだった。

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