第9話 相思相愛!?

 みかやんをたいちが追いかけていってしまった。一部始終を俺はただ眺めて居ることしか出来なかった。杏南も同じようにポカンと口を開けて、その状況をただ見つめているだけだった。


「いっちゃったね」

「そうだな」


 すると、杏南の手が俺の手と一瞬触れ合った。


「あ!」


 俺はとっさに手を引っ込めて杏南の顔色をうかがった。

 杏南も少し驚いた表情を浮かべていたが、見間違いだろうか、少し顔が赤い気がした。


「わりい」

「ごめん」

「…」

「…」


 二人の間に沈黙が流れた。杏南は先ほどよりも顔を赤くして俺を見つめてきていた。

 俺はそんな杏南を見て、思わず目を逸らしてしまう。

 あれ?杏南ってこんなに女の子らしかったっけ?あれ?

 俺は頭の中で先ほどの杏南の表情を何度も再生していた。


「こらぁ!橋本ぉぉ!!」



 すると、この沈黙を破るように、また食堂の方から今度は図太い男子の叫び声が聞こえた。俺と杏南ビクっと体を震わせ、声の方へと振り向いた。


 俺たちが振り向いた直後、慶太先輩へ飛び蹴りキックをさく裂している人がいた。

 蹴られた慶太先輩はその場から吹っ飛んだ。


「俺のそばから離れるなって言ったろ!」

「ぐへぇ。」


 そのメガネの男子生徒は、メガネを一度持ちあげて、食堂の方へと向き直った。「


「うちの橋本が申し訳ない。マネージャーの大栗だ!」


 大栗さんと述べたその男子生徒は、丁寧に食堂の方へ今回の騒動を深々と頭を下げて謝った。


「栗てめぇ。」


 慶太先輩は蹴られた場所を痛そうにさすりながら反抗的な目を向ける。


「いいから、行くぞ!次の仕事だ!」

「いや、俺このあと大事な用事が…」

「いいから、行くぞ!」


 大栗マネージャーは、逃げようとした慶太先輩を捕まえて引きずりながら引っ張っていった。


「大栗先輩。『俺のそばから離れるなよ』ですって。」

「キャァ!!」


 もう何でもありなんだな…俺は呆れ顔で甘い歓声を上げる女子生徒たちを眺めながら、嵐のような騒動は幕を閉じたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る