第31話 少年

「神凪生徒会長! 僕に何か出来る事はありますか?」

「え、ええ」


 神凪生徒会長は困った表情で、茜と月白に視線を送る。茜と月白も困惑した顔で互いに首を横に振った。


「えーと、あのね……未來くん、気持ちは分かるんだけど、今はゆっくりと休んだ方がいいわ」

「えっ! でも、僕はほら、こんなに元気ですから!」


 僕はその場で飛んで見せたり、腕をぐるぐる回わして見せたりした。そんな僕の姿を見て、神凪生徒会長たちは一層困った表情をしている。


 分かっているんだ。


 僕自身も何を必死になっているんだろうと思う。でも、動いていないと僕の心が押し潰されてしまいそうになる。


「うーんと、わかった。未來くんには学園内の見回りをお願いするわ。蛇の妖がまた学園内に、妖力の核を設置しないようにしっかり見張って下さい」


 神凪生徒会長は優しく微笑みながら僕に指示を出す。たぶん僕の気持ちを汲んで与えてくれた指示なんだろうけど、今の僕にはその心遣いがありがたい。


「はい! それじゃあ今から行ってきます」


 僕は変わらず心配そうな顔をしている茜と月白を背に、学園内の見回りをする為に屋上から校内に戻る。


 学園内に何か異変がないか丁寧に調べて回る。


 紅緋と和哉が居なくなった僕に出来る唯一の役割だ。学園の廊下、階段、教室、屋上、校庭の隅々まで見落としの無いようにする。そうする事で、少しは心の中に開いた気持ちの悪い穴を感じないで済む。


 そんな僕の日々が一日、二日、三日と過ぎ、紅緋の消息が掴めず、和哉も戻らないまま五日が過ぎた日に異変は起きた。




 放課後 私立翡翠高等学園 三階渡り廊下


「……ん?」


 僕は目を擦った。


 渡り廊下の向こうの第二校舎に、見た事の無い少年が立っているように見えたのだが、次の瞬間には消え去り、また姿を現わすっていうまるで蜃気楼を見ているようだ。


「なんだ……?」


 よく目を凝らして見ると、うちの制服を着ているけど髪は真っ白で顔も血の気が無い位に白く、まったくこの世に生を得ているとは思えない。この世の者で無いとしたら、考えられるのはただ一つ。


「くそっ! 妖魔か!」


 紅緋が居なくなったために、僕ははっきりと妖魔の姿を認識する事が出来なくなっているみたいだ。


 少年は僕を見てニヤリと笑いこちらに向かって歩き始めた。


 僕はすぐに、和哉から貰った金色の棍を伸ばし構える。


 見えては消え、消えては見える少年の姿は歩きから早足、駆け足から全速力で僕に向かってくる。そして僕の前まで来て右手で殴りかかる。


 僕はその拳を避けるためバックステップを踏むが、少年の右手は蛇へと変わり僕に噛みつこうと伸びてくる。


「蛇の妖魔か!」


 僕は棍を使い右手の蛇を弾き飛ばす。少年の姿は一瞬消え、今度は左手の蛇の攻撃が伸びてくる。


 始めのうちは棍で何とか凌いでいたのだが、少年の姿がはっきりと目視出来ないのと、左右の蛇の連続した攻撃で次第に廊下の壁に追い詰められていく。


 棍を左右の蛇に掴まれ壁に押し当てられた僕に少年は顔を近づけた。


「いただきます」


 少年の口が裂けていき、僕を呑み込もうと大きく開く。




 こんなところで殺られる訳にはいかない!




 でもどうする?

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