第32話 新たなる情報
キューーーーン!
絶体絶命のピンチに、一発の銃弾が目の前を通り過ぎた。
「俺の大切な未來をそう簡単に喰わせてたまるかよ!」
聞き覚えのある声が僕の耳に聞こえくる。
「和哉!」
声のする方向を見ると、銀色の銃を構える和哉がいた。
「なかなか元気そうだな」
そう言いながら、三発の弾丸を蛇の妖魔に向けて放つ。妖魔は弾丸に反応して後ろに飛び退いた。和哉は僕の方に向かって歩きながら、間髪を入れずに弾丸を放ち続ける。
「和哉こそ、もう大丈夫なの?」
「だからあの時に言っただろ。俺は大丈夫だって!」
いつもの和哉の調子で笑いながら答える。僕にとっては、いつもの和哉っていうことが嬉しい。
「よかった……」
安堵している僕に、和哉は妖魔に向けて銃を連射しながら言う。
「よかったじゃねぇよ! 未來はこれからが大変なんだよ!」
「えっ?」
「説明するからちょっと待ってろ! 浅葱! 出番だ!」
和哉のペンダントトップが輝き出し、その光の中から浅葱が現れる。
「浅葱! あの蛇少年を少しだけ足止めしてくれるか!」
「分かりました。和哉さま」
浅葱は僕たちと蛇の妖魔の間に入り、少年の蛇と化した両腕の攻撃をエナジーウォールで弾き返していた。
「未來! これから話すのは紅緋に関することだ。ただ、情報を提供してくれた人物が人物なだけに、信用して良いのか怪しい部分がある」
「紅緋の……?」
「そう」
和哉は銀色の銃をホルダーにしまい、真剣な表情で僕に話し始めた。
「昨日のことだ……」
昨日の夕方 SINグループ医療施設の病棟の一室
「これで全部か」
柔らかなクリーム色の壁に大きめの窓、その窓から心地よい微風が清潔に保たれているベッド上をそよいで行く。
御代志和哉は退院の為に、荷物をバックに詰め込んでいた。
「もう全快したのですか……大した回復力ですね」
「誰だ!」
開かれた窓の外に見覚えのある姿が浮いている。黄色の髪の毛に赤色の帽子、真っ白の顔に赤色の丸い鼻と口、右目の周りに赤色の鳥の羽の模様と目の下に赤色の涙、左目の周りに青色の剣と目の横に青色の小さなハート、黄色をベースにしたドット柄の上着、黄色をベースにしたストライプ柄のズボン、赤色の靴と白い手袋。ジョーカーだ。
和哉は慌ててバックの中から銃を取り出す。そんな和哉の姿に、ジョーカーは大袈裟に手を上げて言った。
「すみませんが、そんな物騒なものはしまって貰えませんか」
和哉はジョーカーの話に耳を貸す気もなく、銃を構えたままその手を下ろすつもりもない。
「そうですか。ではそのままで結構ですので私の話におつきあい願います」
「何の話だ」
「鏡に囚われた紅緋さんのことです」
「紅緋のことだと! 何でお前があの時の事を知ってるんだ!」
「それは私が紅緋さんを助けて、とある場所にいるからです」
そう言うとジョーカーはにっこりと笑う。前に戦った時の嫌な笑いとは違い素直な笑顔に見える。
「お前の言うことを俺が信用出来ると思うのか?」
「それはあなた次第です。私はただ未來くんに伝えていただきたいだけです」
「何を伝えるんだ?」
「自分で行って、自分の目で見て、自分の声で紅緋さんを助けだしなさい! と」
真剣な表情で話すジョーカーに、和哉は銃をホルダーに収め向き合う。
「で、未來はどうすればいいんだ?」
「明日の夕刻。そうですね、学園で言うところの放課後ですね。私が音楽室に紅緋さんのいる所へと繋がる空間を開きます。そこに来るよう未來くんにお伝え下さい」
「再度聞くが、本当にお前を信用して良いのか?」
「いえ。信用する必要はありません。これは未來くんのためです。そして私にとっても未來くんは大切な人物なのです」
「大切な人物だと……」
複雑な表情を浮かべる和哉を見て、ジョーカーは軽やかに笑いながら話す。
「どういう意味で言葉をとらえたかは知りませんが、少なくとも私が未來くんの身に危害を加えることはいっさいありません。約束致します」
「わかった。未來に伝える」
少し憮然とした様子で答える和哉に、ジョーカーは深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
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