第20話 和哉の能力

「ねぇ、紅緋」


 僕はみんなに聞こえない様な小声で、指輪になっている紅緋に話しかけた。


「ん? なに、未來?」

「和哉のことなんだけど」


「うん」

「鞄の中に銃を持っていたり、変な呪文みたいなのを言ってみたり、何かおかしくない?」


 僕は机に肘をつき、頬づえにして溜息をついた。そんな僕の様子を見て紅緋は笑いながら話す。


「んーと、未來は和哉の何に対しておかしいと思うの?」

「それは……」


「不思議な能力を使う事? それとも自分が知らない和哉が存在する事?」


 紅緋の問いに僕は答えを探した。

 僕がおかしいと思うのは、和哉が不思議な能力を使うを使うからなのか?


 いや違う!


 どんな能力を使おうが和哉は和哉だ。それじゃあ自分の知らない和哉が存在したからなのか?


 ……たぶんそうなんだと思う。


 和哉とは中学の入学式に仲良くなってから、ずっと親友としてつき合っている。そんな和哉に精霊が宿っていて、あんな特殊能力まで使えるなんて僕は全然知らなかった。あれほど一緒にいたのに、気づきもしなかった自分にも腹立たしい。


 そして何よりおかしいと、僕の口から出た言葉は和哉に対してではない。

 自分の知らない和哉とこの後どう接したらいいか迷っている、馬鹿な自分に対して発せられたものだ。


「それで未來はどうするの?」

「どうするって……」


「じゃあ、思いっきって友達やめちゃう?」

「そんなことできるわけ無いよ!」


 紅緋の単純な煽りに、僕はムキになって反論する。そんな僕を見ながら紅緋は柔らかに微笑む。


「だったら、答えは一つなんじゃない?」


 そうだ。紅緋の言うとおり答えは一つしかない。僕はハッキリと言葉に出して紅緋に答えた。


「僕は和哉の親友だ。だから、これからも和哉との関係は変わらない。和哉自身の事に関してもいつか話してくれるだろうから、それまでゆっくりと待つさ」

「うん! それでこそ未來だ! 悩むことは大切だけど未來には似合わないからね」


 紅緋はいっそう大きく微笑みながら話す。


「うぅっ、なんか紅緋、偉そうだぁ〜」

「そうかな?」


「そうだよ!」

「えへへ〜、あっ、そうだ! えーと、えーと、未來にお願いがあるんだけど……」


「なに?」

「今日も学校が終わったら一緒に歩いて帰っていいかな?」


「うん。いいよ」

「やった!」


 紅緋の嬉しそうな声が僕に心地よく響いた。


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