第19話 スネーク

「月白! 喰い千切れ!」


 その声と共に、目の前の蛇が引き千切られ、その千切れた蛇の間から月白が飛び込んできた。


「間にあったな。少年」


 月白がニヤリと笑う。その向こうで、右手の蛇を千切られた加藤先生と同化している妖魔は残り二匹の蛇を元に戻し、無くなった右手を押さえながら苦しんでいる。


 蛇の妖魔との戦闘が一時的に止まり、神凪生徒会長と茜が安堵した表情で僕たちに近づいてきた。


「助かりました。ありがとうございます」

「いえ。私たちこそ遅れてすみませんでした」


 僕と神凪生徒会長が話している所に、蜘蛛の妖魔と蜂の妖魔を片付けた和哉と浅葱が合流する。


「こっちは終わったが、そっちはどうだ?」

「僕が危なかったけど、月白さんが助けてくれた」


「未來、また無茶したのか?」

「ううん。違うよ。僕が油断をしたんだよ」


「……ったく」


 和哉はそう言いながら僕の頭をポンと叩く。


「これで、あとは今回の事件の黒幕のあの妖魔を倒すだけだが」


 みんなの視線が、加藤先生と同化している蛇の妖魔に集中する。


「う、うぐぐぐっ!」


 双頭の蛇の方が僕たちを見回し苦悶の表情をしている。


「妖魔! ここまでだ!」


 紅緋が双頭の蛇の顔に向かって炎の短剣を構えた。蛇の妖魔はそれを見て加藤先生を切り離す。


「えっ、加藤先生!」


 加藤先生はまったく生気の無い状態で教室の床に大きな音を立てて倒れる。僕たちがその様子に目を取られている隙に、蛇の妖魔は床を這いずりながら教室の外に逃げ出した。


「待て!」


 和哉があとを追おうとするが神凪生徒会長がそれを止める。


「ダメ! 一人じゃ危険だわ! それに今は加藤先生を助けないと」

「追跡は月白に任せて!」


 茜は、月白に蛇の妖の後を追うように指示した。


 程なくして、神凪生徒会長の会社の特殊修復部隊と医療班が到着して、加藤先生を担架に乗せて運び出す。


「容態はどうですか?」


 神凪生徒会長は医療班の一人に話しを聞く。


「意識レベルが低下しているので、少々記憶の錯誤が生じるかもしれませんが、うちの医療技術を持ってすれば問題は無いでしょう」

「そうですか。良かった……」


 ホッとした顔をして僕たちの方に振り返る。


「そういう事だそうなので、私たちも一旦授業に戻りましょう。蛇の妖魔については月白から情報が入り次第連絡します」


 神凪生徒会長の意見で、僕たちは各々の授業についた。僕のクラスの担任はああいう状態なので代わりの先生が教壇に立っている。それ程大事になっていないという事は、生徒会長が上手いこと話を付けたのだと思う。

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