第7話 未來を狙う者

「ごめんね、未來」


 指輪に戻っている紅緋が、僕にぽつりと呟いた。指輪になっているので、表情はうかがい知ることは出来ないが悲しげな声である。


「どうしたの? 紅緋?」

「私、さっき女生徒もろとも妖魔を倒すように未來に言った。最低だ」


「それは仕方がないよ。月白さんも言ってたじゃない。妖魔と融合した体は、妖魔にしか浄化出来ないって、あの時はそうするしか方法がなかったんだよ」

「でも、私は未來のあの女生徒を助けたいって気持ちに応えてあげたかった」


「紅緋……、そんなに自分を責める事は無いよ。僕なんて何も出来ないし。それにさっきは月白さんが一緒に戦ってくれて、あの女生徒も助かったわけだから、とりあえずは良かったと思うよ」


「うん。私も感謝しているし、大事に至らなくて良かったと思う」

「だったら、これからもみんなで協力して、悪い妖魔から人々を助けてあげればいいんじゃないかな」


「そうなんだけど、私はあの生徒会長は好きじゃない」

「どうして? しっかりしていて優しいし、何でも相談にのるって言ってくれたんだよ」


「それは分かっているんだけど、なんか嫌なんだ」


 僕は、紅緋の訳のわからない神凪生徒会長嫌いに苦笑した。


 そうやって、紅緋と話しているうちにいつの間にか教室の前まで来ていた。教室の入り口から中を覗くとクラスメートのみんなは帰ったようだが、一人だけ外の窓際に立っている奴がいる。西日を浴びて黒い影のシルエットだけなのだが、僕には誰かはっきりと分かる。


「待っててくれたの?」

「当たり前だ」


 和哉はそう言いながら、僕に近づいて頭の上に手を置き髪をくしゃっと撫でる。


「で、神凪生徒会長の話は何だった?」

「え、えーと……」


 僕が、和哉に妖魔や精霊のことを話せずに困っていると


「まあ、いい。未來が無事に戻ってくれれば」


 和哉は通学バッグを片方の肩に乗せ、笑顔で僕の背中を思いっきり叩く。


「痛ぁ〜、何すんだよ!」

「いや、何となく……」


「何となくってなんだよ!」

「だから、何となくは何となくなんだよ!」


 和哉は大声で笑いながら教室を出る。


「意味わかんないよ!」


 何となくで叩かれた僕の背中はどうしてくれるんだ! ……って和哉に抗議したいところなんだけど内緒にしている事もあるし、和哉もそれとなく気づいたのかもしれない。


 そんな僕らを見ている人物が居ようとは、その時の僕は知る由も無かった。




「彼が新未來です」

「ほう。彼が継承者の一人なのか?」


「確かな事は分かりかねますが、なかなか興味深い人物には間違いないでしょう」

「うむ」


「此処に根付いていれば、彼と接触出来ることも増えると思われます」

「そうだな。しかし、本当に彼の魂を食べると妖力が高まるというのは本当のことなのか?」


「私が調べたところ、彼がその継承者の一人ならば、彼の魂を喰らうことで貴方の妖力は数倍、いや数十倍高まるようですよ」

「ほう。それでは、早く彼の素性を調べて継承者か、否かをはっきりとさせるのだ」


「わかりました」

「ふふふ、楽しみにしているぞ」


 声の主はその人物の右手の中で、沈み行く夕陽を浴びて、まるで血の様な真っ赤な色に鈍く輝いていた。

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