うさぎさんいやす

夏のある日、ぼくは大学の頃からやっていた空手道で、

久しぶりに自分の会派の全国大会に一般有段組手の部で

出場した。


「先輩、ファイトでーす!!」


後輩から声援を受けて、1試合目は左上段蹴りと左上段逆突きで、2試合目はトリプルを多用して勝った。

その時点で夏に超弱いぼくはクッタクタだった。


すでにグロッキー状態の3試合目で、あろうことか前回優勝の菊山先輩と当たり、普通に負けた。

何の見せ場もポイントもなく、ぐうの音も出ない。ぐぅぅぅぅぅぅぅ。

その菊山先輩は、次の準決勝で高校アジアチャンピオンの繁木に負けていた。


菊山先輩お疲れ様です。


「なんもできなかったわぁ。動きがヤバい。」


でしょうね。彼、形も組手もチャンピオンですしね。

そのままこの大会も優勝してますしね。


菊山先輩に負けてしまったケド、ベスト8だったので、

表彰式で賞状をもらうことができた。


「やったじゃないか。入賞おめでとう。」


ぼくの賞状はぼくの空手道の師匠の老松先生にもらった。先生の前で成績的にギリギリセーフ。危ない危ない。

ちなみにこの老松先生、世界的に有名だったりするスーパーな先生である。


表彰式が終わって、アリーナ席に戻って着替えていたら、


「先輩。おめでとうございます。」


ありがとう。後輩の大林家康が祝ってくれた。

この大林、実は後に全国大会3位になったりと、

実績がある後輩で、空手道や私生活で色々サイコーの

エピソードを作り出してくる男だが、その話はまた今度。


負けて落ち込んだまま家に帰るとうさぎさんが、


「おかえりー。あのねー。うさぎさんぱーんち。うさぎさんきーっく。」


ポフポフとうさぎさんがタッチしてくる。


「うさぎさんぱんちとねー。うさぎさんきっくはねー。いやしのこうかしかないんだよ。」

「にいちゃんはかみさまだからね。やっぱにいちゃんすげーな。」


癒された。ベスト8よりも心が癒された。

試合よりもやっぱりうさぎさんの方が平和だね。

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