Schnellboot

新たな仲間、ケープペンギンと一緒に、みずべちほーにあるライブステージに向かったロンメル一行。

道中は、特に目立ったこともなく、順調に目的地に向かっていた……

しかし、目的地のステージ目前というところで、突如、黒いナニカに襲われたのだった──


お久しぶりです

失踪はしてません、いや半年開けたらほぼ失踪したようなものか……


────────────────────────

汗は血を救う。血は命を救う。頭脳は両方を救う。

             エルヴィン・ロンメル



─突如、舞い上がる二つの白い柱

車内に伝わってくる振動

二回立て続けに水中からの爆発音が鳴り響き

ピリピリとした空気が頬を掠める


─敵襲か…!


爆発によって舞い上がられた水が、土砂降りの雨となって辺りに降り注ぐ。

それによって、視界が一時的に塞がれてしまう。

思わずブレーキを踏み込む。

車体がガクンと大きく前に引っ張られ、車内に複数の短い悲鳴が轟く。が、気にしている時間は無い。

覗き窓から橋の前方を見ると、橋の片側が大きくえぐれ、道端が狭くなっていた。


砲弾の着弾時に聴こえる落下音はなかった。

これは水中もしくは水上からの攻撃だろう。

戦場にいたときの経験でそう考える。


いかに大きな湖といえど、潜水艦のような巨大な船が潜れるほど深いとは思えない。この時点で敵は水上艦一択だろう。

もちろん、イタリア軍のもつ人間魚雷マイアーレなら可能かもしれないが、それにしてもそれを発射する母艦がいるはずだ。


「ロンメルさん…こっち来て!」

ケープペンギンが大きな声で、ロンメルを呼ふ。


言われた通り運転席から席を外すと、ケープペンギンにそのまま砲塔のハッチへ顔を出すように言われる。

ハッチは複数人が顔を出すのはキツいため、ハッチからほぼ全身乗り出す形になる。

滑り落ちそうになるため、フレームアンテナに掴まる


「ロンメルさん、あれ。」

そして、ハッチから続けて顔を出したフェネックが方向を示す。


塞がれた視界が回復するなか、少し遠くに黒い"何か"が水飛沫を高く上げてこちらに向かってきていた。

しかし、少しだけ距離が離れているため、あまり細部まではわからない。

すかさず、首に掛けていた双眼鏡を覗く。


双眼鏡にその正体が映り込む。


「あいつは─

    映り込んできた黒いナニカは

       ─さっきの軍用ボートじゃないか!」

  どこか見覚えのある"それ"は、先ほど船着き場で見た軍用ボートと全く同じボートだった。

なるほど、先程の魚雷は奴の仕業か。

しかし、誰かが操縦しているという訳ではないようで、その船体には、先ほど見られなかった大きな目玉が付いていた…


「あれって、もしかしてセルリアンじゃない…!?」

ケープペンギンが大きな声で、その正体を大きな声で言い放つ。


今まで相手してきたセルリアンとはまったく形状は異なるが、その船体に付いた無機質な目は、他のセルリアンと変わらないモノを持っていた。

ただし、奴はフェネックから要注意と言われた、黒いセルリアンだ。

フェネックの話の受け合いではあるが、セルリアンの中でも一番厄介なのが『黒い』セルリアンなのだそう。詳しくはわからないが、他のセルリアンよりも強く、少しばかりだが、知恵もあるらしい。といっても難しい思考が出来るわけではないそうだが……

それが本当なら面倒なことこの上ない。


しかも、その厄介な黒いセルリアンは、ボートの形をして水上を猛スピードでこちらに向かってきているというなんとも嫌な状況だ。

だが、セルリアンは水が駄目だと聴いていたが……


「セルリアンって、水が苦手じゃなかったのだ!?」

アライグマが、丁度気になっていたことを言う。


「わからないよ~。水に触れると溶岩になるはずなんだけどね~……」

フェネックも理解不能といった様子で頭を左右に振る。


やはり、セルリアンは水が弱点というのが、ロンメルとフェネック、アライグマの3人の中での共通認識であった。


「セルリアンって水が苦手なの?私、普通に水に浸かってる所見たことあるよ…!?」

しかし、ケープペンギンはそうではないようで、彼女の認識では少なくともセルリアンは水が弱点ではないらしい……


もしかしたら、多少セルリアンにも個体差があるのかもしれない。それにここは、見渡す限り水しかないみずべちほーだ。そんな場所にセルリアンが居るとするならば、水に対する耐性をもっていてもおかしくはない…か。


そうこうしている間にも、セルリアンは真っ直ぐと一直線に此方へと向かってくる。

まるで他のことなど眼中にない、といった感じだ。


「……それで、ロンメルさん。あのセルリアンはどうやって倒すの~?」

砲塔のハッチから顔を少しだけ出しながら、フェネックが言う。


その時、双眼鏡の中でボート《セルリアン》に搭載されていた機銃が微かに動いたように見えた。

いや、動いた──


背中に悪寒が走る。

当然、機銃の狙いは……

私達なのだから。


銃口が火を放つ


「伏せろッ!」


そう叫ぶより速く、身体が動く。


顔を出していたフェネックとケープペンギンを押し込むような形で、車内へと入る。

女性にする行為としては最悪な行為ではあるが、命の方が大事だ、致し方ない


頭上帽子スレスレを唸りを上げて銃弾が通過する。


撃たれるのは慣れているが、弾が側を通過していくこの感覚だけはどうにも慣れない。


車内に、金属音がこだまする。

奴の機銃が、車体に当たっているということだ。

幸い、こいつは装甲車だ。

戦車ほどではないが、機銃弾ぐらいは防げる程度の装甲は持っている。

だが、裏を返せば機銃弾程度しか弾けないということだ。

戦車砲なら木っ端微塵、機関砲なら車体が蜂の巣になってしまうだろう。


もしもセルリアンが本当に船着き場で見た船と同じ型の船ならば、少なくとも2cmクラス以上の機関砲が艦尾に積まれていた筈だ。

つまりは、に後ろに積んでいる機関砲を発砲されたら我々に勝目は無いということだ。

時間的猶予はあまりない。


「それでロンメルさん、どうするの~?あの赤い玉も触れたら危ないものなんだよね~?」

フェネックにそう声を掛けられる。


どうやら機銃弾を危険なものだと感じ取ったようだ。


「あぁ、そうだ。あの赤い玉に触れたら、最悪死ぬことになる。」


『死』。

それは全ての生き物が恐れるもの。

その言葉を聞いたとたん、3人の表情が一変して怯えた顔になる。

私も、一度死を経験しているが、迫り来る『

死』というものは、やはり怖いものだ。


「そんな怯えた顔はしなくても大丈夫だ。この中にいる限りは安全だ。」


その言葉を言うと、少しだけ3人の表情が和らぐ。

すぐに命の危険があるわけでは無いと知り、ほっとしたようだ。


「だが。それも今のうちだ。早めに倒さないと危険だ。別に勝算が無いわけではない。ある意味、賭けではあるが……


出来るだけ早口で作戦を説明する。

内容は分かりやすく、そして単純に。

複雑なものは必要ない。

一分ほどで、説明を終わらせる。

あとは、実行するだけだ。

─────────────────────────

一方その頃。

船型の黒いセンリアンは、水飛沫を上げてロンメル達のいる橋を目指していた。


有効射程に入ったことを確認してからは、艦艇前部に付けられた機銃を撃ちながら進む。


黒いセルリアンには特に複雑な考えはない。

ただ単に、目の前にあるな輝きを奪うことだけを考えている。


セルリアンの目には、その輝きはたいそう不思議なものとして見えていた。


どす黒いオーラをまとう輝き。

目覚めてから数時間程度のセルリアンだが、その黒い輝きは滅多に見れるものではないと直感していた。


だからこそ、その黒い輝きを奪ってみたいと思ったのだった……


目標は、一向に動かない。

魚雷の牽制が効いたのだろうか……


桟橋の手前にある小島の真横を通過する。

目的の輝きまであと少し(数十メートル)


その時、セルリアンの船体に何かがぶつかったような鈍い重みのある音が、セルリアンの耳にまで響いた。


「えーと、これでいいんだよね?」


さらに通過した小島の方から声が聴こえてくる。

が、そちらに意識を向ける間もなく、セルリアンの船体中央部から炸裂音と閃光がほとばしった……


────────────────────────

ロンメルは、車両の外に居た。

セルリアンからの射線を切るために丁度セルリアンとは反対の位置で構えている。

ロンメルのすぐそばには、木箱が1つだけ置かれていた。


「水上戦は嫌な記憶しかないが……」

そうポツリと言葉を漏らす。

フェネックや、アライグマは車内に待機しているため、誰一人その言葉を聞くことなく、風に消えていった。


「そろそろだな」

時計を見ながら、ロンメルはそう言った。


丁度その時、パンッという乾いた音が辺りに響きわたり、車両の反対側から白い煙が舞い上がる。

同時に金属音が止む。

ケープペンギンの攻撃が成功したようだ。


「今だ、後退させろ!」

手に握った無線機で、装甲車にいるフェネックに合図を送る


同時に、木箱の中から先端に膨らみが付いた棒を取り出した。


それは、かつてドイツ軍が歩兵用の携帯用対戦車兵器として大量に生産したパンツァーファウストであった。


これは、ライカと同じく装甲車の整理した際に、隅に置かれていたのをロンメルか引っ張り出したという経緯があった。


パンツァーファウストを拾いあげると、直ぐに安全ピンを外し、板状の照準器を引き起こす。

撃発装置のボルトを前方に押してスプリングを圧縮、これを90度回転させて固定する。それから筒の部分を脇に挟んで、射撃体制に入る。

背後には湖があるのみ。

後方噴硫の被害を気にする必要はない。


準備時間は合図を送ってから僅かに十数秒。

アライグマの運転により、装甲車がゆっくりと下がっていく。


セルリアンが体制を立て直したのか、再び装甲車を機銃が襲う。


しかし、ロンメルは装甲車にはいない。


装甲車がゆっくりとバックしていく。

眼下には、煙を艦中央から立ち上らせながら、装甲車に機銃を打ち続けているセルリアンがよく映っていた

機関部をやられているのか、完全にとまではいかないが、ほぼその場で静止しているようだった。



こちらを認識したセルリアンの目が驚いたように大きく見開いた……ように見えた。

セルリアンが機銃の銃口をこちらに向けようとする。


しかし、その努力は叶わずに終わる。

銃口がこちらを向く前に、ロンメルの放ったパンツァーファウストがセルリアンの顔(艦橋?)に命中したためだ。パンツァーファウストから発射された弾は、セルリアンの機銃を根本から消し去り、艦橋を思い切り貫いた。

それは偶然にも、セルリアンの体内にあった石を破壊してしまう。


直後、セルリアンの船体が白熱する。

文字通り白くなって眩い光がセルリアンを包み込む。


次に目を開いたときには、セルリアンは跡形もなく消えさっていた。


小島で、ケープペンギンが手をこちらに向けて振っているのが見える。


高く白い煙が舞い上がる。

それからやや少し遅れて、空からキラキラしたセルリアンだったものも舞い上がってくる。


確か、サンドスターと言うんだったか。

キラキラと降るサンドスターは、まるで雪のようだった。


「綺麗だな……」

無意識でそう言葉を漏らした

…………

……

アライグマ達を呼び戻して、ケープペンギンを湖から橋へと引き揚げる。


3人とも、あの船型セルリアンを倒したということで、いささか興奮気味だ。

皆頬を紅潮させ、はしゃいでいる。


ケープペンギンにハイタッチをしようとせがまれる。

とくに、断る必要がないため、快く承諾する。

ケープペンギンの身長に合わせて屈んで手を出すと、彼女は手を伸ばしてジャンプした。

小さなケープペンギンの手が、彼女のジャージ越しではあるが、掌に伝わってくる。

とても彼女はハイタッチが成功して嬉しそうだ。

当然、それを見ていたアライグマからもハイタッチを催促される。

フェネックは、「私はいいよ~」と遠慮していたものの、チラチラとやりたそうにしていたため、此方から誘う。

「しょ、しょうがないな~」と言いながらも、顔がニヤケている。

やはり、やりたかったのだろう。

全員が笑っている。

全員が、黒セルリアンを倒せたことを喜んでいる

まるで、子供のように……


皆のこういう所をみると、3人とも見た目相応の女の子なのだと、実感させられる。

フェネックも可愛らしい笑顔を浮かべている。

昨日の夜の面影は一切ない。


「よし、それじゃあみんな。黒セルリアンの邪魔が入ったが、予定通り、ライブステージへ向かおう。目的地まであと少しだ。」


そう言って、装甲車に皆を乗り込ませる。

魚雷によって破壊された桟橋は、多少抉れはしたものの、装甲車一両程度なら問題なく渡れそうだった。


念のため、慎重に渡ることにした。


桟橋はギシギシと音をならすものの、びくともしなかった。余程頑丈な造りのようだ。


問題なく渡り切り、ライブステージへと向かう。

こんどこそ本当に、たどり着くだろう。


損傷した橋については、今夜も交信する予定であるラッキービーストにでも伝えれば大丈夫だろう。

彼らはこのパークの管理者でもあり、必要最低限の設備や道路の整備は出来るそうだ。

恐らく、橋も直せるだろう。


一同を載せた装甲車がライブステージへと入っていく。

ロンメルは、そこでペパプと出会うことになるのだった……


───────────

おまけ、どちらかというと解説?


『ロンメルの手記』


──作戦の内容は単純だ。

時間がなかった。

それは言い訳に過ぎない。


ケープペンギンが手榴弾を投げ、セルリアンを足止め

それを合図に、アライグマの操縦で装甲車を後退させ、セルリアンの気をひく。それから、パンツァーファウストをもって待機していた私がセルリアンに撃ち込んで、ドーンというわけだ。

実に簡単な作戦だ。


だが、同時にこれは、複数の危険も孕んでいた。

ケープペンギンが手榴弾の投擲に失敗すれば、セルリアンの気を惹けなかっただろう。

下手したら彼女が手榴弾の爆発に巻き込まれていた可能性もあった。

アライグマに任せた操縦にしても、装甲車が桟橋から落ちる可能性もあった。

もしそうなったら、彼女達は、湖の奥底へドボンだ。

もちろん、私にも危険はあった。

パンツァーファウストは暴発の危険性が非常に大きい。それは発射準備のややこしさにあるのだが、幸い、私はパンツァーファウストの扱いを覚えていた。だが、パンツァーファウストの難点は射程が30mと短い。なるべく至近距離で撃たなければいけなかった。

多少、セルリアンより高い場所にいたが、それども40mそこらだろう。

パンツァーファウストは命中率が非常に悪い。

理由は簡単で、弾が山なりに弧を描いて翔ぶからだ。

ほとんど運だった。


だから、私は彼女たちを信じることにした。

そして、作戦は成功した。

だか、私は彼女たちに危険な役目を与えたことを申し訳なく思う。次、同じことがあれば、迷わずわたしが引き受けよう。たとえ命と引き換えようとも。

それが、わたしという老いたキツネに出来ることなのだから……

────────────────────────

『Schnellboot(高速船)』end


お久しぶりです。

いや本当に……

もう、言い訳しません。

やる気がありませんでした。はい。

小説に限らず、勉強も遊びもなにもかもやる気が一切でなくて……

本当に、無気力といった状態です。

更にそこへ来てコロナ騒ぎの追い討ちで、更になにもやらない堕落した生活になってやる気が更に激減。

ダメ人間まっしぐらの道をすすんでおります()


最後の方も深夜テンションと惰性で進めております。


次回もいつあげられるか……

一応、上げたお話は修正とかは、調整とかちょくちょくやっていきます。


では、またお会いしましょう


※パンツァーファウスト

 ここではパンツァーファウスト30を指す。

1943年採用。射程30m貫徹200mmを誇り、当時の連合国のすべての戦車を撃破可能だった。

初期量産型であるパンツァーファウスト30は、発射準備までがやや大変で、下手すると暴発の可能性もあった。後継からはその問題点を解決。発射準備も簡単になっているそうです。

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