第3話 Berlin
そのとき僕のイヤホンからはルーリードの「ベルリン」が聴こえていた。
余りにも有名すぎる「ベルリン」という作品は、僕には非芸術家の慰めに聴こえる。単調でトリップしない生活のなかで、時々、頭のなかを支配する、カオスな妄想に意味を持たせてくれる、僕にとってはそんなさ作品なのだ。
勿論、ルーリードは真の芸術家であったし、恐らく「ベルリン」を製作した時は薬物が彼の血管を流れていたはずだ。
そして、恐らく素面でも変わり者だったと思う。
しかし、彼の歌声はコンクリートな僕に優しく寄り添ってくれる。決して、戒めてはこない。
別に濡れたって構わない、正直、見てくれに関心は無いのだ。しかし、まぁ 下ろし立てのトレンチコートが濡れてしまうのが忍びなく思えてしまって、僕は煉瓦造りの吹き抜けの休憩所に逃げ込んだ。
ここは、恐らくはライブ ステージに成るように、作られたのだろう。半月形に抉れていて、正面には石堀の長椅子が四列並んでいる。
しかし、此処でライブが行われている場面には、出くわしたことがない。
一度、深夜、飲みすぎで、家路に付く途中で、酔いざましにこの公園に寄ったとき、演劇の練習を若者がしていた。
5~6人の男女だったと思うが、僕が気にせず、通りすぎようとしたとき。
「すいません、お時間あったら見ていってくれませんか?15分位の場面ですので」
僕には断る理由もなかったし、深夜であるから、顔は見えないまでも、僕に声をかけてきたのが若い女性であったから好意的に受け取ったのかもしれない。
「ええ、構わないけれど、感想とか求められると困るかな、素面じゃないし、それに僕は評論家でもないからね」
「はい、評論家なんてクソ喰らえですから、面白いか面白くないかだけ教えて頂けるなら」
「じゃ、僕も御世辞は言わないようにします」
彼女は”ニコッ”と笑ったようだった。
「有難う御座います、皆
用意してください!!」
懐中電灯が舞台を照らした。
そしてオペラが始まる。
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