第3話 トリックの残香
「……だから言ったのに」
地図を持参していたものの、事故については調査も全くしていなかったため、荒垣山に来たはいいものの流香はどこに行けばいいのか分かってはいなかったのだ。
ロッククライミングができる場所を地図で確認できたので、二人が落下したという場所はすぐに見つかった。
供養のためなのか、花も置かれており、ここで事故が起きたのは確かなようだった。
「姉さん。つまらない結論だったでしょう?」
流香は落胆と自嘲とが交錯した目で事故が起こったであろう現場をじっと見上げていた。
事故現場を目視で確認すると、なんてことはなかった。
現代の科学知識では解明できないトリックを仕掛けたのが一目瞭然であったからだ。
魔法を使用してロープが切れるよう仕掛けを施したのだろうが、トリックを仕掛けた人間が事故に巻き込まれてしまったため、そのトリックを回収する事ができなかったようだ。
事故を装うための時限式の爆弾のようなものを仕掛けたのだろう。
魔法の仕掛けそのものが岩盤に残されていた。
「……くだらなかったでしょう? 姉さんもそう思っていますよね? 本当にくだらないって」
流香はため息と共に呟いた。
「だから、関わりたくはなかったのに……」
事故現場から目を逸らして、山からの景観に目を向ける。
「……姉さん。この景色を見に来たと思えばいいわよね?」
流香は左目の眼帯に目を添えて、そっとめくり上げた。
本来ならばあるはずの左目の代わりに、揺らめく闇がそこにはあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます