第29話◆サモンシールダー

 ――その頃、エレニアンネ桜国の城。


「まだ見つからないの!?」エルフ族の王女が怒りの表情を滲ませている。


「も、申し訳ございません、姫様!! 今兵士を総動員し、探しております!! もうしばらくお待ちを!!」必死に額を床に擦り付けて頭を下げるエルフ族の兵士。


「……早く探しに行きなさい!」王女は兵士に指示し出て行かせると、しばらく曲座の間の扉をしばし見つめると立ち上がり、窓を見下ろす。……眼下にはエレニアンネの城下町が広がっている……。


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 ――エレニアンネ桜国おうこく城下町―入口。


「やっと着いた……」馬車の客車から眺めると、目算30メートルほどの巨大な壁に囲まれており、エルドラド王国と違って、壁の外にスラム街などはなかった。

 道中、馬を引いている御者の男性から曰く、エルフ族の国は一般階級と上流階級、そして王族に分かれていて、一般階級の領地税が15%、上流階級の領地税が10%らしい。

「エルドラド王国と違うんですね」と聞くと、むしろ世界的にもエルドラド王国の領地税が珍しいそうだ。下の階級の生まれの人間が税を多く納めるのが、この世界では一般的だそうだ。

 クレリアは呑気に「へぇ~!」と言っていたが、下の階級の生まれの人間は大変な生活をしていることが容易に想像出来た。


 街並みは美しいもので、巨大な壁自体は石を積み上げられ作られていたが、城下町にはたくさんの木が生えており、一般家庭はツリーハウスのようになっていたり、バンガローのようになっていたりと、色んな家の形があった。

 お店も、ツリーハウス型が多くを占め、宿屋や酒場、ギルドなどはバンガローのようになっていた。


 また、木々の間にはロープと木の板で作られた吊橋がたくさんあり、基本的に木の上で生活する人が多いようだ。


ソータたちは街へ入っていくと、バンガロー型の大きな宿屋で山賊の宝を確認しようと、広い部屋を借りることにした。そして受付をやっていたエルフ族の男性に部屋を取ろうとすると……


「今日は予約が沢山入ってて、4人部屋が一部屋しか空いてないが……1600コインに領地税の15%で、1840コインだ」と言われた。トローム村と違って相当な値段に驚くソータ。


「お金……足りる?」とクレリアが財布を覗いてきた。ソータが今持っている財布は、ソータとクレリアでお金を出し合って作った少し大きめな財布で、この財布はパーティの財源だ。

 今後、依頼で儲かったお金から、メンバーに均等に分配して、残りをパーティ用の財布に入れようと二人で決めていた。宿屋代などや、ローナのお金は、このパーティ用の財布から出す。


「俺のコインを足しても足らない……」とソータが呟くとエルフ族の男性は「じゃあ帰れ」と言われた。


 言ってることは真っ当なことだが、もうちょっと言い方があるだろ……


 宿屋を出て道を歩いていくソータたち。

「一旦街の外で、お宝の整理しようよ」とクレリアが提案してきた。確かに、お宝から売れる物を見付けてそれを売って資金を作るのが最優先だ。


 街の外――。


 山賊から頂いたたくさんのお宝を広げて、物色していくソータたち。

 クレリアの能力透視で鑑定してもらいつつ、売る物と残しておく物を袋に入れて分けていった。コインは一旦財布とは別の袋に入れておく。あとでこれも分配する。


 そんな中、綺麗なティアラを見つけた。青く光り、赤い宝石が埋め込まれている……。


 名前:アリスのティアラ レア度:A

 説明:アルクという男性が、エレニアンネ桜国の王女アリスへプレゼントしたミスリル銀で作られ、レッドクリスタルが埋め込まれたティアラ。


「これって……!」とクレリアのティアラの持つ手が震えている。

 何のティアラかクレリアに教えてもらうと、取っておく物に入れておくソータ。


「これは交渉材料になる……大切に保管しよう」と言うソータ。


「そうね……」そういうクレリアの顔には「アタシも欲しい」と書いてあるように見えた。


「……依頼を達成し続けてお金を貯めたら買うんだな」と言ってやると「何で欲しがってるって分かったの!?」と言っていた。


 あの顔は誰が見ても分かるよ……。

 そんなこんなで、お宝の仕分けは終わった。最終的には、お金はおよそ20000コインあった。

 ソータ、クレリアで4000コインずつ分け、残りの12000コインとちょっとは全てパーティ用の財布へ入れた。仕分けをしているだけで数時間掛かり、辺りは夕方になっていた。


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 エレニアンネ桜国城下町―宿屋。


「あん? また来たのかお前ら……金が無い奴は泊めてやる義理は……おっ?」ソータが手に持っていたパーティ用の財布の中のコインの音を聞くと、エルフ族の男性は襟と姿勢を正して「領地税込みで1840コインだ。今度は足りるか?」と聞いてきた。


「あぁ、ちょうどだ」と言って、1840コイン支払うソータ。


「……確かに。部屋に案内するから付いて来てくれ」男性がそういうと、ソータたちを部屋へ連れて行った。



 ――四人部屋。


「さて、売れる物は売って、飯でも食って早めに休もうか」と提案するソータ。


「さんせーい!」とクレリア。


 三人と一匹で宿屋を出ると、市場でボムポン用のニンジンを数本買って、その場でボムポンに与えた。


「ボムポンちゃ~ん……ご飯ですよ~!」と言って餌を与えるクレリア。


「おい、ポニ子……ボムポンに名前を付けなくて良いのか?」と聞くと、クレリアがその手があったか! とでも言いたげな表情をしてきた。


「いや~……この子の可愛さにほだされて、忘れてた!」と言って、クレリアはふわふわ丸と名付けた。……何てネーミングセンスをしているんだ。


 当のふわふわ丸は、クレリアが「ふわふわ丸!」と呼ぶと「もきゅう!」と鳴いてピョンピョンと跳ねて嬉しそうにしていた。まぁ、コイツが良いならそれでいいか。

 そのままギルドへ向かった。目的はもちろんお宝を売るためだ。


 ギルドへ歩いていると、ふわふわ丸を抱っこしていたクレリアが、ふわふわ丸を頭の上に乗せて歩くスタイルに変わっていた。

 自分の顔よりも二周りほど大きな生物を頭の上に載せているので、何ともアンバランスに見えるが、そういう帽子に見えなくもなくて少しかわいらしかった。


「この方が両手が空いてて便利なの!」と話していた。



 ――冒険者ギルド。


 丸太を割って作り上げられたような、平な床に、大きなテーブル。それを囲むように切り株のような形のイスが並べられている。

 客席がないスペースには壁と掲示板一面におびただしい数の張り紙がされている。あれ全てが依頼なのだろう。


 ギルド内には、切り株のようなイスに座っている、エルフ族や人間族、その他色んな種族がおり、皆腕に覚えのあるハンターたちであることが分かる。

 本当に様々な人々がおり、背中に剣を背負っていたり、弓を背負っていたり、篭手を装着したままジョッキを持って酒を飲んでいるハンターがいたり、本当の意味での自由がそこにはあった。

 自由であるが故、自分の身は自分で護らなければならない。……自由は自分に対する規律を保っていなければすぐに崩壊する。

 彼らの様子を見ていると、それを理解しているであろう人が大半であった。仲間たちと大きな声で笑いながら酒を煽っているものの、攻撃を仕掛けられたら、すぐに反応できるような隙の少なさを身体から滲み出している。

 ……とはいえ、慢心してるわけでもなく、純粋な強さだけで言えば、ソータは全員を余裕で相手に出来るだろう。みんな鍛えてはいるが、とてもじゃないが強そうに見えない。


「さて……ここでハンター登録をして、宝を売るぞ」と言ってソータは二人を連れて、ギルドのカウンターで手続きを始めた。


「――では、皆さんのお名前をこちらへお願いします」とカウンターの女性に指示された。


 紙にソータ・マキシ、クレリア・ラピス、ローナ・マクスウェルと書いた。ゴッデススキルは個人情報なので書く必要はないのだが、母校は書く必要があった。


 名前:ソータ・マキシ 年齢:18 出身地:エルドラド王国 母校:錬成学院


 名前:クレリア・ラピス 年齢:18 出身地:エルドラド王国 母校:錬成学院


 名前:ローナ・マクスウェル 年齢:15 出身地:エルドラド王国 母校:魔法学術院



「……はい、ありがとうござ……えぇっ!? 錬成学院ッ!?」と大きな声で驚くカウンターの女性。

 おい……慣れてる仕事で個人情報をバラ撒くなよ……


 辺りを見渡すと、一斉にソータたちを見ているハンターたち……それと共にヒソヒソ話が聞こえた。


「錬成学院だってよ……」「どうせ見栄を張ってるだけだろ……」「何であんなガキが……」など、内容も様々だった。



「……も、申し訳ございません。少々驚き過ぎてしまいました……。こちらがハンター証明書です。身分証にもなりますので、大切にお持ちください。紛失してしまいますと再発行手数料で500コイン頂戴いたしますので、ご了承ください」女性はそう言って、三人分のハンター証明書を渡してくれた。


「どうも」


「以上で、ハンター手続きは終了でございます。三名様ともパーティは組みますか?」と聞いてきたので、組むことにした。


 話を聞くと、依頼で手に入れたお金や宝は、メンバー全員で均一に分配する決まりになっているんだとか……命懸けで戦っている人が多いし、ソータ達のように、学院の仲間ではなく、旅先で出会った仲間と組むことが多いハンター達同士では喧嘩になることが多い。それをギルドが仲介して公平に行ってくれるといったものだ。

 その場合の喧嘩も激しくなれば、殺し合いに発展する。

 もちろん、パーティ一つ一つにもルールを決める事が許されており、例えばリーダーは全体の儲けの四割が入る……といったことも、他のメンバーの同意があれば通すことが出来る。

 ソータたちは別にお金に困っていてハンターになったわけではないので、それは気にしないことにした。


「最後にこちらにパーティ名を書いてください」と言われて用紙の中にある太枠が指さされた。


 ソータはローナをしばらく見つめたあと、クレリアに声を掛けた。

「ポニ子、俺が決めていいか?」「いいよ!」といつも通りの元気な返答が返ってきたので、ソータはこう書いた。


 “サモンシールダー”


「……ソータ、どういう意味?」


「召喚術士を護る盾……みたいな意味かな」と返しておいた。


「へぇ~……ソータって時々変わった名前付けるよね」「お前もな」と返して、クレリアの頭の上にある白くて丸いを見上げて言ってやった。


「――以上で、パーティの手続きも完了です。お疲れさまでした」


 ギルドのカウンターの女性にお辞儀をされたので、次はカバンからお宝を取り出しながら言った。

「早速で悪いんだが、買取を頼みたい」

 宝石やネックレス等があったが、基本的には荷馬車を襲って手に入れた物が多くを占めており、まともに人の手に渡った物はアリスのティアラくらいしかなく、他の装飾品は売っても問題なさそうだった。


「あ、あの……失礼ですが、この大量の装飾品は一体どこで……?」というカウンターの女性に「道中に現れた山賊から頂いた」と返した。


「まさかあの街道の山賊たちを……!すごい……!!」と言っていた。


 奴らは時折、街道に現れる荷馬車を狙う強盗集団らしく、かなりの強さの為、手を焼いていたのだとか。


「依頼が出されていたはずですが……確認出来次第、依頼達成の報酬金をお支払いします」と言われた。意外な稼ぎも増えて幸運だった。


 一気にお金を稼ぐ事が出来た。しばらくはお金には困らなそうだ。


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