第28話◆初依頼
そんなこんなで、ボムポンというペットを仲間に迎えた俺たちは、そのまま東の集落へ行くために移動した。
姿勢を低くしたまま、先を急ぐソータたち……。
「……見えた、出口よ!」クレリアは、ボムポンを抱っこしながら、出口を指差す。……器用な事をするな、コイツは。
森林を抜けると、もう目視出来る距離に村があった。あれが、エルドラド王国領のトローム村だろう。俺たちは行ったことが無かったが、外の村の人たちの話は親や学院でも教えてもらえる。
「あれがトローム村だ。あそこまで一気に行くぞ!」……ソータたちは走り出す……が、目視出来る程度とはいえ、距離は思っていたよりもずっとあった。
「ハァ……ハァ……あれ、遠すぎない? あの村、全然大きくならないじゃん……」
「それくらい離れてるってことだろ……。ここは平原だし、急がないと王宮の連中が来てしまう可能性がある」
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――エルドラド王宮。
「それはどういう事だ!!」玉座の肘置きを拳で叩き、怒鳴りつける国王。
「も、申し訳ございません、陛下!!」警備兵は額を床に擦り付けて謝罪する。
「ネオグラディエーターをみすみす逃してしまうとは……! それに……ゴッデススキル、エインヘリヤルを持った者がその場にいた……というのは誠か?」
「はい、あの悪魔召喚の魔女はネオグラディエーターのソータ・マキシに護られているようです」
「まさか、そんな事が……! おのれ……!! 直ちに王国軍第三大隊を編成! 部隊員数は30名! 部隊長は第三大隊長ゾルダー・マキシ! エインヘリヤルの召喚術士を殺害し、ネオグラディエーターを生け捕りにせよ! ……これは、王命である!!」
「はっ!!」警備兵にそのまま伝令を任せ、国王は自室へ向かった。
……廊下を歩きながら国王は呟く……。
「悪魔め……アレはワシの物だ……! 誰にも渡してなるものか……!!」
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――トローム村。
「やっと着いたな……」大きく深呼吸をする、ソータ。
「疲れたぁ~……! とりあえず宿取ろうよ」
「そうだな、そこで休んだら今度は南下するぞ」とカバンから取り出した地図を見ながら言うソータ。
その地図を横から覗き込むクレリア。
「ここって……エルフ族領?」人間族のエルドラド王国領から南東へ向かった先……そこには、エルフ族が住む、エレニアンネ
「あぁ、エルフ族は魔法の扱いに長けた奴らだ……。ローナを隠すならもってこいの場所だ」
「なるほどね」とクレリアは納得し、トロームの村の宿へ入る。
――宿屋。
カウンターの奥で本を読んで休んでいた恰幅の良いおばさんがこちらに気付いて声を掛けてきた。「いらっしゃい! お客さんかい?」
「あぁ、部屋を借りられるか? 部屋を二つか三つで」
「ちょうど、二人用の部屋が一部屋と、一人用の部屋が一部屋が空いてるよ! チェックインしとくかい?」
「じゃあ、それで頼む。……いくらだ?」
「一人用の部屋の150コインと、二人用の部屋の250コイン……そこに領地税3%を加算して……412コインだ」……とおばさんは言った。
……なんだ? やけに安いな……?
「ここもスラム扱いの領地税なんですね」とクレリアが聞くと、おばさんは言った。
「あぁ、そうさ! アタシも昔は中流階級街に住んでいたが、旦那と死別しちゃってねぇ……この村に引っ越したのさ。細々と続けていけてるし、いいさ。……あんな事が無ければ、もっと安心して暮らせたけどね」
「……あんな事?」
「あらやだ、ハンターでもない子たちに変な話をしちまったね! ……今の話は忘れておくれ」とおばさんが手を軽く振りながら言うと、ソータはそれを遮った。
「俺たちはハンターになる為に王国を出たんだ。……何かがあるなら手助けをさせてくれ」
「…………エレニアンネ桜国は分かるかい?」ちょうど次の行き先にしているエルフ族の国だ。
「あぁ」
「そのエレニアンネ桜国のエルフ族の女性に恋しちまって、アタシのバカ息子はその女性を追ってエレニアンネ桜国へ向かったんだ」
そこまで聞くと、親の反対を押し切って駆け落ちした男に見えなくもないが……
「そこでこの話が終わるなら別に構わんのさ。問題は……そのエルフ族の女性が、エレニアンネ桜国の王女様なんだ……」
「「「……えっ!?」」」
これには、ソータ、クレリアに加えて、ローナまでもが目を丸くして驚いていた。
「ウチの息子は、マスタリースキルを持っているほどの弓の使い手で、魔力もあって高位魔法も扱える……だから、エルフ族領でもモテることは間違いない……でも相手が王室となっちゃあ……」
「それは……止めるべきか、止めないべきか……」と、考え込むソータ。
「……王女様と結婚出来るのは貴族や同じ王族だと説得してほしいんだよ……ただの宿屋の息子が一国の王女様と結婚しようだなんて……」
決して叶わぬ恋をしている二人か……止めるべきなのだろうが、そんな無粋な真似をしていいものかどうか考えさせられる……。
「……成功の保証はない。それでも良ければ、その仕事、引き受けよう」とソータは言った。
「おぉ、やってくれるのかい?」と嬉しそうにするおばさん。
「ちょ、ちょっと、ソータ!? そんな安請け合いはマズイって!!」
「要は、解決すればいいんだろ?」
考えさせられはするものの、ソータの心の中では、もう既に答えは決まっていた。
――よし、二人をくっつけよう。
その後、おばさんの息子さんとエレニアンネ王女の情報を聞いてから、部屋にチェックインした。
クレリアとローナは、ソータの部屋へ集まった。
「お前らの部屋の方が広いじゃないか」と言うと「女の子がいる部屋は秘密なの!」と訳の分からない事を言うポニ子がいた。
「――それで、どうするつもり? 変な安請け合いしちゃったけど」
「言葉にすれば簡単な話だ。二人をくっつけちまえばいい」
「え? 諦めさせるんじゃないの?」
「くっつけちまった方が面白いじゃないか」とソータは言う。
「……あ、ソータが悪い顔してる」とクレリアが指を差してくる。
この世界の奴らって何かにつけて指を差すな……そういう風習なのか? そんな事を考えていると、クレリアが続けて言った。
「でも……具体的にどうやるの?」
「王女とその男が二人でいる時に、俺が悪い王女の暗殺を目論む者として登場する……俺はその男にわざと負ける……それで二人はハッピーエンドだ」
「いやいや、そんな都合良く事が運ぶわけないでしょ! ……それにアンタわざと負けたところで、トドメ刺されて結果確実に死ぬわよ」
「……それなら、彼に予め接触しておこう。そうすれば、問題はない」
「そんな上手くいくかなぁ……?」
一方、王命を与えられたゾルダーたちは……
――王都エルドラド――外。
「全軍に告ぐ! 今回の作戦は、エルドラドから逃亡したソータ・マキシの確保、及び悪魔召喚のエインヘリヤルの殺害だ! 簡単に済む仕事ではない! 総員、気を引き締めよ!」
ソータの父であり、エルドラド王国軍第三大隊のゾルダーは馬に乗り整列した大隊兵たちへ声を飛ばす。
「「「はっ!!」」」大隊兵たちは返事をする。
「……ゾルダー様、行き先は如何なさいますか?」隊列の先頭に近い場所にいた部下の一人、ルドールが質問をしてきた。
「うむ。悪魔召喚とは言っても平たく言えば魔法使いだ。そんな彼女を隠すつもりなら……」
そこまで言いかけるとゾルダーはフッと笑い、言葉を続ける。
「奴の事だ。東のエレニアンネ
「グレゴリオ様……ですか……」質問をしたルドールの顔に複雑な気持ちが滲み出ていた。
「そんな顔をするな。俺も奴はそれほど好きではないが、仕事に関しては確実な奴だ。……では、出陣!!」
――翌朝。
前日の夜にソータの、わざとやられてキューピット(命名・クレリア)作戦を試すことにした一行は、とりあえず一泊して、エレニアンネ桜国へ向かう。
トローム村から、エルドラド王国行きとエレニアンネ桜国行きの馬車があったので、エレニアンネ行きの方に乗車する。
――馬車内。
ガラガラとうるさく振動の多い音で眠りを阻害してくる……。
錬成学院の頃の馬車がソータにとっての普通だったのだが、あれは貴族の子供も乗ることから、かなり高級な馬車だったようで一般の馬車の最悪な乗り心地には嫌気がさしていた。
一緒に乗っていたポニ子も同じらしく、顔が青ざめてきている。
「……どうした?」
「あっ……あの……き、キモチワルイ……」そう言って口に手を当てるクレリア。
ハッキリ言ってポニ子のせいで馬車を一旦停めて、外で吐かせる。……全く、先を急がないといけないというのに……。
クレリアのペットになったボムポンは一緒に馬車を降りており、心配そうにクレリアを見上げる。
「はぁ…はぁ……何とか落ち着けたかも……かわいいボムポンちゃん! アタシを癒やしておくれ~!」と言って抱っこをする。
「もきゅぅっ」尻尾でクレリアの顔面を引っ叩く。
「ぎゃんっ!」
そうか、分かったぞ。ポニ子はバカなんだな。
「あ! ソータ、今アタシのことバカにしたでしょ!!」と馬車の外から指を差してくる。
「どうでもいいから、早く戻ってくれないかね、嬢ちゃん……」と呆れたように言う御者のおじさんを見て、ハッとして急いで馬車へ乗るクレリア。
――しばらく馬車を走らせていると、街道の脇から数人の男が現れた。
……身に纏っている格好からして、どう見ても山賊だ。
「ポニ子、アイツらは?」
「うん、山賊」
……やっぱりか。
その山賊のウチの一人が御者に話し掛けた。
「その馬車の積荷と乗客を置いて行きな。特に女だ。そうすれば命だけは助けてやるぜ?」と言ってきた。
「ひっ!?」と怯える御者。それを聞いて客車から降りるソータとクレリア。
「へぇ……中々かわいい嬢ちゃんじゃねえか……可哀想に、これから俺たちの慰み者になるってのによ」その言葉を聞いて、山賊の前に立ち塞がるソータ。
「あん? ……男にゃ興味はねーよ! 引っ込んでな!! 俺たちは、これからそこのかわいい嬢ちゃんと楽しむんだからな」
「……それが出来ると思ってるのか?」とソータが言う。それと同時にスキルの発動を念じる……すると、頭の中で音声が流れた。
“スキル闘争心の発動に成功しました”
闘争心が発動した瞬間、山賊たちの身が凍った。
闘争心は現在Lv7のスキルの為、闘争心というより威圧感を与えられているようだ。
そしてそのウチの一人が、ソータとクレリアの服に付いている勲章を見た。
「お、おい、ボス……コイツら辞めた方がいいぜ……! あの勲章を見ろよ!」と、ソータを指差す山賊。
「……ぐ、グラディエーターの勲章だと!? コイツら、まさか錬成学院の……!!」
「だったらどうする? お前らに逃げる選択肢なんてもうないぞ?」とソータは黒鉄の槍を向けた。
「こうなったら仕方ない!! やぶれかぶれだ! お前達、かかれー!!」と言って、親玉らしき男は攻撃態勢を取った!
親玉らしき男とソータの物理的な距離は目算3メートルほど。だが、男が攻撃の為の一歩を踏み出したその刹那、ソータは急速接近し親玉の両肩を高速で貫き、そこから離脱したかと思えば、親玉の背後に回って首元に黒鉄の槍の刃を付ける。
そして一言「……じゃあな」と言ってその刃を首へ沈ませ、親玉の首は宙を舞った。
他の山賊は明らかに驚いている……
「は、早すぎる……!!」
そうして山賊のうちの一人を生け捕りにし、他は全員やっつけてしまった。
生け捕りにした理由はもちろん、宝の隠し場所を喋らせる為だ。
宝の隠し場所まで案内してもらい、一通り宝を頂いたソータたちは、生き残った山賊に「二度と悪さをするな。次は無い」と若干の脅しを加えて、500コインだけ渡してその場を走り去った。宝の隠し場所はちょうど、先ほど山賊たちと遭遇した場所と、エレニアンネ桜国の間にあった。
「宝の細かい内容は後で確認しよう……」
「アンタってやっぱり、時々とんでもない事をするよね……」とポニ子は意外そうな声色で、言うが手元は山賊の宝を物色していた。
発言と行動が合っていない気がするのは俺だけだろうか……
そう言って馬車の馬、御者の人の命を救ったソータたちはエレニアンネ桜国を目指す……。
――エレニアンネ桜国入口付近。
「本当にありがとうございます! おかげで助かりました!」と御者のおじさんはそう言って頭を下げて続けた。
「――ただですね、お礼がしたくても積荷が少ないものでして……」と言ってきたので、ソータたちはお礼は要らないと伝えておいた。何しろ山賊の宝を頂いたのだ。これ以上の欲を出すのは良くない。
――その頃、エレニアンネ桜国の城。
「まだ見つからないの!?」エルフ族の王女が怒りの表情を滲ませている。
「も、申し訳ございません、姫様!! 今兵士を総動員し、探しております!! もうしばらくお待ちを!!」必死に額を床に擦り付けて頭を下げるエルフ族の兵士。
「…………」玉座で一人になった王女は、兵士たちが出て行った扉をしばし見つめる。
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