第30話◆ゾルダー・マキシ
一気にお金を稼ぐ事が出来た。しばらくはお金には困らなそうだ。
――冒険者ギルド。
「さて、パーティの決まりとしてローナにもお金を分けないといけなくなったから、財布を買ってから宿に戻ろう」とソータが言うとローナは言った。「私は大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「いや、お前が要らないって言っても、これはパーティの決まりだ。お前の自由に使えるお金を用意させてもらうぞ」と言ってソータは道具屋へ歩先を向けた。
「でも……」と渋りながら着いてくるローナだったが、そんな彼女の横にクレリアが並んでフォローを入れているのが聞こえてきた。
「ソータはああやって無理矢理ローナちゃんに世話焼いてるけど、学院で六年間一緒にいて、女の子にこんなに優しくするソータは初めて見たよ。ローナちゃんは大切にされてるんだよ」と。
「余計なこと言うなポニ子。ホラ、行くぞ」と言って、道具屋へ連れて行く。
――道具屋。
「ようこそ、いらっしゃいました」と手を揉みながらニヤニヤしながら挨拶してくる茶色い服を着たエルフ族の男性。着ている服装や清潔感はしっかりとしているものの、怪しさが凄まじかった。
「おい、ポニ子……」クレリアに耳打ちするソータ。「能力透視でここの商品の良い物を頼む」
「言われなくても分かってるわよ……!」クレリアのその言葉を聞いて商品を物色する各々……
「これは……いかがですか?」ローナが商品のうちの一つの財布を取った。革袋の財布だ。巾着のように閉じられて、カバンやベルトに付けられるようにしっかりと紐も付いていた。
それを能力透視で確認するクレリア。
「……これは、辞めた方がいいわ」
名前:革袋の財布 レア度:E
説明:商品名が革袋であり、革に見える塗料を塗ったただの布の袋。巾着の紐が切れやすい。
「店主さん、ちなみにコレいくら?」
「いやはや……B等級の魔物の革を使用しておりますゆえ、どれほど値切られても700コインほどは頂かなければ……」と手揉みをしながらだが、先ほどのニヤケ顔よりは少しばかり真剣な顔に見える。
このギャップで、客からの信用を少し得て儲けてきたわけか……
さらに言えば、仮に本当にB等級の魔物の革を使っていれば、700コインは赤字覚悟レベルのギリギリのラインをせめた価格設定だ。これで購入する人は続出したのだろう。
壊れて道具屋に持ち込んでも、どうせ紐の部分も魔物の革で作られているから、使用された魔物の革の部位によっては切れやすくなります。とでも言えば、クレームを入れても泣き寝入りするしかない。
「そうですか……」クレリアは財布コーナーにある財布を一通り見渡して、言った。
「これらよりも良い物はありますか? ……っていうか、ありますよね?」
「ぎくっ!!」声に出して言うエルフ族の男性。
そんな言葉本当に声に出す奴がいるのか……
「い、いやはや……お客様の勘は鋭いですね……」と額にかいた汗をハンカチで拭いながら案内してくれた。そこはカウンターの奥のスペースだ。
「こちらが当店の掘り出し物でございます」と言って、少し整頓して並べられた財布。
「そう。じゃあコレを1200コインで売ってちょうだいな」本当にB等級の魔物の革を使用している黒い革財布を手に取った。
「そ、それはS等級の魔物の革を100%使用しております! 1200コインはいくらなんでも……!!」とすがるように言ってくる男性。すぐさまクレリアはお返しの言葉をした。
「そう? じゃあこの財布の仕入れ値は?」
「1500コインです! ですから赤字なんですよ!!」と必死に言い訳をする男性。確かに1500コインの物を1200コインで売れと言われれば間違いなく赤字だが、そのタイミングでソータも「ん?」と言った。
「へぇ~……1500コインで間違いないのね?」「そ、その通りです!!」「じゃあ聞くけど、S等級の魔物の革財布をどうやって1500コインで仕入れたの?」
「う……それは……」とたじろぐ男性。
S等級の魔物の革はサイズ、汚れ具合や種類も関係してくるが、どれも数万コイン単位で取引される代物。それを100%使用されているとして、かなり少量の魔物の革を使って財布に加工された物だったとしても、1500コインで仕入れる事など不可能だ。
「その辺にしてやれよ、ポニ子」とソータが言うと、クレリアも頷いて続けた。「実は私、能力透視持ちなの。騙す相手を考えた方が良いわ。じゃあこのB等級の魔物の財布1200コインと領地税で良いわよね?」
「は……はぃ…………」そう言った店主に、領地税を含めた1380コインを支払って、ローナの服のベルトに付けてあげるクレリア。
「アンタの態度は気に食わないけど、商品自体は中々良い物が揃ってるみたいだから、用があったら、また来るわ。値切ろうとは考えてないけど、人を見る目をもう少し養いなさいよ」と言って出ていくクレリア。
さっきの交渉術……というより尋問は中々かっこよかったぞ、ポニ子。
購入した黒い革財布にローナのお金をいくらか入れると、次は防具屋へ向かう。万が一王国兵に見つかった時の為にローナの為に帽子を買うことにした。
魔女が被ってそうな、とんがり帽子の緑色の物を購入した。斧と杖が交差したマークが刺繍されている。防具屋の店主曰く、通常の魔法の消費MPを少し軽減出来るそうだ。先ほど道具屋で騙されかけたのでクレリアにも確認をしたが、それは真実らしく、ちゃんと購入させてもらった。
ポニ子のヤツ、結構便利な奴じゃないか。……いや、失礼な言い方か。
時刻は昼頃になりつつあった。どこかで軽食を摂って、ギルドへ撃退した山賊の依頼の報酬金を受け取りに行けば、次はいよいよトローム村で受けた依頼の遂行だ。
そう思って、適当な軽食屋を見付けて入ろうとしたタイミングで、ちょうど会計を済ませた客が出てきた。
「うおっと!? ……すいません」と言って見上げるソータ。
「……ん? ソータ……!?」
目の前にいたのはゾルダー・マキシ。ソータの父親であった。
「お、親父!? どうしてここに!!」驚くソータをよそに、ゾルダーはローナを睨み付けて言った。
「貴様……まだ我がエルドラド王国軍の英雄となるソータのそばにいたのか!!」
「おい! 何のことだよ親父!!」と言うと、ゾルダーは静かに言った。
「いいか、よく聞けソータ。……そこにいる青髪の少女は、ただの少女じゃない! ……世界に破滅を
「なっ!? ……いや、確かにそうだな……」霜の巨人をその眼で見た時は確かに思った。
「ちょっと、ソータ……?」クレリアが心配そうな顔で見つめてくる。
「……分かってくれたか、ソータ! では、早速――」「でもな、親父」ゾルダーの言葉を遮るとソータは続けた。
「ローナは今は安定している。無理に刺激する必要もないだろ……それに俺はエンさんから頼まれたんだよ」
「エン・マーディオー様は今は関係ないはずだ」
「いいや、エンさんからローナを護るように頼まれたんだよ! ……理由は知らんけどな」そこまで言ってやると、ゾルダーはふぅと深い溜め息を吐いた。
「悪魔召喚の魔女よ……貴様、人の心を操る魔法を使ったな?」
「おい親父、何を言って……」「ちょっとおじさま……?」ソータもクレリアも困惑していた。
「もはや問答無用だ……お前たち!!」ゾルダーがそう言うと、木々の間から王国兵達が駆け付けてきた!
「……ソータ、悪いがお前を力ずくで王国へ帰還させる。……これは王命だ!!」
「やっぱり、そういうことかよ……!」そう言って、バックステップで距離を取って右手にボルグローブ、左手に紅蓮の手甲、そして黒鉄の槍を構えるソータ。
クレリアは右手にミスリルレイピアを、左手にはミスリルダガーを構えた。そして、ローナは杖を構える。
「ポニ子、ローナを護れ。俺一人で全員相手にする。取りこぼした奴だけ頼む」
「人数差考えなさいよ! 絶対無理よ!!」そういうクレリアをよそに、ゾルダーを護るように立ち塞がってきた大隊兵三人を一気に蹴散らすソータ。
「見損なったぞソータ……操られているとはいえ、悪魔召喚の魔女に手を貸すとは……」
「見損なったのはこっちだ親父! 俺はローナを護る!!」
「そう断言するのは操られているからだけではないな!? エン・マーディオー様に頼まれたからか!」と聞いてくるゾルダーに首を横に振って答えるソータ。
「それもあるが、それだけじゃない……俺が護ると決めただけだ!」
「グラディエーターともあろう者が恋でもしたか! 目を覚ませソータ!!」
「グラディエーターが恋をして何が悪い! ……手加減無用で行くぞ!!」
「やむを得んか……!」そう言って、槍を構えるゾルダー。
「気を付けてソータ!! アンタのお父さんなだけはあって、アンタよりもレベル高いわよ!!」
「……知ってるさ!」
クレリアの目の前に映し出されていた二人のステータスはこうなっていた。
名前:ソータ・マキシ 年齢:18
職業:ネオグラディエーター
Lv:104 HP:2962/2962 MP:1415/1415 SP:1303/1303
攻撃力:1696 防御力:1499
魔攻力:1584 魔防力:1536
敏捷力:1622 精神力:358
ゴッデススキル:経験値10倍/天賦の才
通常スキル:【槍術マスタリー:Lv7】【拳術マスタリー:Lv7】【
名前:ゾルダー・マキシ 年齢:49
職業:エルドラド王国軍第三大隊長
Lv:121 HP:3834/3834 MP:1724/1724 SP:1988/1988
攻撃力:2032 防御力:1823
魔攻力:998 魔防力:1523
敏捷力:1611 精神力:1221
ゴッデススキル:槍術の才
通常スキル:【槍術マスタリー:Lv7】【刀剣術マスタリー:Lv7】【
全体的にゾルダーの方が能力値が高い。しかし彼は戦闘の天才というわけではなく、純粋に努力で強さを手に入れた人間だ。また、槍の攻撃スキルである
「俺のことはいい! とりあえず、お前は他の連中に集中しろ!」
「わ、分かった!」といって、ローナに手を出させない為にローナを後ろにして、武器を構える。
「行くぞ、親父!!」「かかってこい、ソータ!」
ソータとゾルダーはお互いの槍を交差させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます