第25話◆ネオグラディエーター
「メリッサ教官、こちら昨日の定例会議の議事録です」そう言って書類を渡すセリーナ。
「ご苦労。……六学年の学生長はどうだ?」
「いやぁ……ダメですね……アリシエラ先輩は、毎日ソータを睨み付けてますわ」
「まぁ無理もないだろう……ソータが二学年に上がった時から、彼女は何かと突っかかっていたからな……」
「ソータ・マキシッ!!」六学年のアリシエラがツカツカと歩いて詰め寄ってくる。
「また、アンタか」
「貴様……先輩に向かってその口の利き方……!!」鬼のような形相に変わるが、その鬼のような形相も毎日見ていると慣れてきた……というより、飽きてきた。
「お前がマトモになれば、俺だってこんな言い方はしないよ。いい加減学習しろよ。弟と違ってお前は頭が悪いんだな」涼しい顔で煽りまくるソータ。
「剣を取れ、ソータ・マキシ……!」学内の廊下で剣の切っ先をソータに向けるアリシエラ。
「……生憎、俺の得意武器は槍と篭手だ。アンタの土俵に合わせて戦う気はない」
「六学年最強のグラディエーターである、このアリシエラ・トトラーシュ様が相手をしてやろうってのに、随分と落ち着いてられるわね?」
「…………はぁ」いい加減相手をするのも面倒だが……戦う度に俺のレベルは上がるし、経験値獲得が出来る相手として軽くあしらってやるか……。
そう思って、アリシエラを戦闘訓練の時に使う戦闘エリアへ呼び出して、戦うことになった。
こうして、ソータとアリシエラはしょっちゅう学内で戦うのだが、最初の頃は大きな噂になった。
二学年の学年トップの学生が、四学年の学年トップの学生に喧嘩を吹っ掛けて戦おうと言うのだから……。ただし、学内での殺し合いは禁じられている為、お互い殺さない程度で止める。
ただ、この喧嘩ももはや錬成学院の名物と呼べるようなものになってしまった。
――訓練場。
「今日こそ倒してやるわ!! ……先手必勝ッ!」ソータが篭手を構えたのを見ると、姿勢を低くし、剣を横に構え超スピードで接近し、一気に剣を振り抜くアリシエラ。
しかし、剣を振り抜いた目の前には誰もいなかった。その事に気付いた直後、後ろから声がした。
「……お前に必勝って言葉は似合わないぞ」
ハッとして振り返るアリシエラの
……一気に白目を剥いて気絶するアリシエラ。
「やれやれ……」そう一息ついてから、医務室へアリシエラを運んでおく。
こうしてレベル上げはアリシエラのお陰で捗っていたのだが、それはアリシエラも格上であるソータ・マキシと戦うことでレベルを上げることが出来ており、六学年の中では歴代最強クラスのグラディエーターに成長していた。
少なくとも、今のエルディアや、クレリア、ロッサの三人が束になっても敵わない相手である。ソータはそんな彼女を一撃で倒すほどの能力を手にしていた。
――翌朝。
「おはよう、みんな! ……実はお知らせがある。……今日から席移動の一騎打ちを週に一度行うことになった!」メリッサは定例会議で可決された内容を公表した。
ルールはこれまでと同じく、二学年以上であること、戦闘後すぐに連続しての挑戦は禁止であること、そして双方合意があれば審判を教官に頼んで決行する。純粋に席次を賭けた戦闘だ。今まで月に一度だったのが、週に一度学生のやりたい時に出来るようになったわけだ。
因みに上席の人間が相手をするメリットもある。高額な報奨金が出るのだ。この場で言う報奨というのは、上席という位置を維持し続けられる実力に対しての報奨だ。
ソータも毎月、エルディアに席移動の一騎打ちを挑もうかと思ったが、ソータは中々チャンスが得られなかった。毎回、ゼルゲルに席移動の一騎打ちを挑まれていたからだ。
席移動の一騎打ちが出来るのは、月に一度だった。つまり、毎回ソータのチャンスをゼルゲルが潰していたのだ。
だが、ゼルゲルはソータを倒してエルディアの隣の席を獲得しただけだったので、本人自身の心は成長したようだ。
「早速、席移動の一騎打ちをしたい! エルディア・トトラーシュを指名する!」ソータはメリッサ教官が詳しい説明を終えた瞬間、すぐにエルディアを指名した。
今回ばかりはゼルゲルの発言を待つつもりはない。
「おい待てクソ野郎! 貴様は俺と戦うんだ!!」後ろからゼルゲルの喚く声が聞こえるが、さすがにもう相手にするのは疲れた。
「お前、何回負ければ気が済むんだ? 俺が戦いたいのはエルディアだ。いい加減、俺の邪魔をするのはやめろ」
「ソータ・マキシ……お前、俺と戦いたかったのか!?」突然のことで驚くエルディア。そんな彼に対して顔を向けて続けるソータ。「今までチャンスが無かったんだ。受けてくれるな? エルディア」
「……突然だが、仕方ない。ソータ・マキシ、お前の挑戦を受けよう」教室内でオオォー! と、ちょっとした声が挙がった。対してゼルゲルは悔しそうな顔をしていた。
そしてその日の放課後……。
――訓練場。
指名する時にメリッサ教官が一緒の場にいたので、そのままメリッサ教官が審判を務めることになった。
「もちろん手加減は無用だ! 全力で掛かってこい、ソータ・マキシ!」
「あぁ……お前もな、あのスキルを使われたら、お前にも勝機はあるし、手は抜けないな」あのスキルというのは、霜の巨人を倒した時の、
命中した対象に斬撃ダメージを与えつつ、全能力値を半減させる効果がある。
「それでは……席移動の一騎打ち……エルディア・トトラーシュ対ソータ・マキシ……始めッ!!」メリッサ教官が手を挙げて、合図をする。
「早速行かせてもらうぞ……!」エルディアはミスリルソードを垂直に構え、意識を集中させた……
「隙だらけだッ!」そう言って一気に接近し、黒鉄の槍の一突きをお見舞いしようとすると、エルディアは目を開いて瞳は赤く光りだした――。
明らかに発動が早すぎる。……最近エルディアのレベルが上がってない事が気になっていたが、
「くらえぇッ!!」ソータの黒鉄の槍を受け流しながら、スキルを放つエルディア。
「!? ……魔力解放ッ!!」咄嗟にボルグローブから黒く淀みのある魔力球を放ち、エルディアを吹っ飛ばす!
そんな戦いの様子を見て、他の四学年の学生たちとメリッサ教官は驚いていた。
「これが四学年の戦いなのか……? ……ソータ・マキシとエルディア・トトラーシュ……彼らは本物の化け物だな……クレリア、二人のレベルは?」
「ソータがLv98で、エルディアはLv39です。でも、能力値に関して言えば、エルディアの能力値はソータの半分以上はあります」
「つまり……エルディアが編み出したレアスキルである
「いえ、どうなるかは分かりません。
「なるほど……」
他の学生も、二人の戦いに息を呑む……。
「その篭手……! お前、紅蓮の手甲よりも強い篭手を買ったんだな……!」エルディアがボルグローブを見て言う。
「買ったというか……貰ったんだ。誰からとは言わないが」というか、言えない……というのが正しいか。
「そんな事はどうでもいい! 本気で相手をするのに不足はないさ!」エルディアはスキルを発動させたまま、ソータに攻撃を続ける。
「チッ! ……ちょっと落ち着けって……!」ソータも自らの瞳を赤い光で灯し、ボルグローブから伸びた黒いオーラを、黒鉄の槍に纏わせた。
「食らえッ! ……
エルディアは剣で弾こうとするも、衝撃波は剣をすり抜けて彼の腹を抉るように命中した!
「ぐふっ……!」致命的なダメージを負って吐血するエルディア。だが、膝は付かず、彼は立ったままソータを睨み付けて言った。
「……やってくれたな、ソータ・マキシッ!!」そう言って、斬り掛かってきたエルディアの太刀筋は、先程よりも衰えていた。先程の衝撃波で残りのHPが少ないのだろう。
エルディアの斬撃を弾き、素早く後ろに周り込んで、首元に槍の刃を付けるソータ。
「…………!!」ゆっくりと手を挙げるエルディア。
「……そこまでッ! 席移動の一騎打ち、勝者はソータ・マキシ!!」メリッサ教官は手を挙げて合図をした。
「クソォォッ! ちくしょおぉぉぉぉぉッ!!」拳を地面に叩き付けるエルディア。
「エルディア、悪いが中心の席は俺がもらう」
「はぁ……素直に負けを認めるよ、ソータ・マキシ。お前は俺よりも強い……とうとう俺の席が奪われたわけだな」そう言ったエルディアに手を差し延べるソータ。
その手を握って、立ち上がるエルディア。
こうして、前列の中心の席がソータ、そしてその右隣がエルディアとなった。
・
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・
――それから数カ月後。
――エルドラド王宮。
「失礼いたします! 第一大隊長レイザック・トトラーシュでございます! 国王陛下との謁見を希望致します!」玉座の間の扉の前で声を飛ばすレイザック。
「……要件は?」若い男性の声が扉の向こうから聞こえてくる。
「例のサイダル森林にオーガが出現した件について、陛下へ重大な報せがございます!」
「……入れ」奥から国王の声が聞こえてきた。
「失礼致します!」そう言って玉座の間へと足を踏み入れるレイザック。
「それで……重大な報せというのは何だ?」国王は険しい顔をしている。
「サイダル森林へオーガを送り込んだのは……アウグスト法国によるものだということが明らかになりました!」
「……何だとッ!?」国王の発言と共に、周りの貴族のどよめきの声が聞こえる。
「詳しく申せ」
「はっ! ……我々はまず、オーガ出現の依頼を受けたハンターへの聞き込みから始めました――」レイザックは話し始める。
ハンター達から得られた情報は、オーガは木の実と生物の肉を好物としている魔物だということ……サイダル森林へ出現したのはそれが理由だということ。
だが、どこからオーガが現れたかは不明のままだった。……それが、オーガの足跡を調べたというハンターに同行してもらい、城の魔法師団の魔道士数名に、足跡があった場所を解析してもらうと新しいことが明らかになった。
その足跡は、サイダル森林からずっと南側の海から伸びてきていたのだが、そこの残存魔力を調べると、オーガのものと合致した。魔物は、自分が存在した場所に足跡と共に魔力を残すことが知られている。残存魔力濃度の濃さは魔物の強さによって比例する。
そしてその道を辿っていくと、海へ到着した。エルドラドの東にはエレニアンネ桜国というエルフの国があるのだが、海を渡ってエレニアンネ桜国を迂回して更に東へ行くと、魔族の国……アウグスト法国がある。
「――我々は、アウグスト法国の何らかの裏の組織が関わっていると考え出向き、オーガについて調べましたが……法国政府による策略だったことが明らかになりました!」
アウグスト法国といえば、そこに住む魔族が色んな魔物を魔法で作り出せないかと日夜研究している政府の関係者がいる。彼等の仕業だということが分かったのだ。
「……レイザック、長い間の調査ご苦労であった。お前を含む調査に向かった大隊兵には褒美として通貨と、数日の休暇を与える」
「至高の喜びでございます! 国王陛下!」レイザックが頭を垂れる。国王がその様子を見ると、一息ついてから外務大臣と近衛兵の一人に声を飛ばした。
「おい、まずは隣国、エレニアンネ桜国との国交会議の機会を設ける。アウグスト法国への進軍の足掛かりにせよ! ……それから、グラディエーター・アークウィザードのグレゴリオ・アレクスをここへ!」
「はっ!」近衛兵はグレゴリオを呼びに向かった。
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「ねぇ、ソータ! いよいよ明日だよ!」ポニ子がいつものように元気よく話し掛けてくる。
「あぁ、そうだな」俺はとりあえず無難な返事をしていた。正直明日の事などどうだっていい。
「何よ、その空返事! 明日はアタシ達がグラディエーターにさらに称号が得られる、正真正銘のグラディエーターになれる日なんだよ!?」うるさいポニ子は机をバンッ! と叩いてソータに詰め寄る。
「分かってるって。そんな興奮することないだろ」
「なぁ、ソータ・マキシ」隣りの席にいたエルディアが声を掛けてきた。
「俺は卒業したら王国軍に入る予定だ。お前はどうするんだ? 出来ることならお前と一緒に王国軍へ入って切磋琢磨していきたい」
「悪いな。俺は王国軍に興味はないから、ハンターになるつもりだ」
「「「ハンター!?」」」教室にいた全員が反応した。世界最強の戦士を育てる機関である錬成学院で歴代最強の男が卒業後、何になるのか他の皆も密かに聞き耳を立てていたようだ。
「ハンターってあれだよね? 全世界を旅しながら、ギルドへ行って依頼を買って、それをクリアして報酬をもらう……っていう職業だよね?」クレリアも驚きが隠せないようだった。
「あぁ」
「……でも何でハンターになりたいんだ?」エルディアは考える様子で腕を組む。
「実は……俺が錬成学院に入るキッカケになるのが、12歳の頃にエルドラド国王陛下に謁見した時だったんだ。その時に産まれて初めてエルドラド王宮を見た。その時に思ったんだ。全世界にこんなに荘厳で美しい場所があるなら、見て回ってみたいって」
「そうか……」
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――翌朝。―錬成学院教室内。
「おはようみんな!」
「「おはようございます」」メリッサ教官の挨拶にみんなで挨拶を返す。
「今日でお前達全員が卒業するが……ステータスを確認してみてくれ。進路が決まっている者はその進路に適した表示に変わっているはずだ」
(ステータス……)ソータは手を振ると視界にステータスが表示された。
名前:ソータ・マキシ 年齢:18
職業:ネオグラディエーター
Lv:101 HP:2734/2734 MP:1293/1293 SP:1196/1196
攻撃力:1602 防御力:1516
魔攻力:1577 魔防力:1579
敏捷力:1589 精神力:358
ゴッデススキル:経験値10倍/天賦の才
通常スキル:【槍術マスタリー:Lv7】【拳術マスタリー:Lv7】【
「……ん?」
ソータが呟くように言った言葉に、メリッサ教官は反応した。
「どうした? ソータ・マキシ」
「進路が決まってないと職業の欄って変わらないんですか?」
「いや、そんな事はないぞ? お前の職業欄、グラディエーターの後は何と続いている?」
「続いてる言葉がなくて……職業名が“ネオグラディエーター”ってなってますが……」
「……えっ?」メリッサ教官はキョトンとした。
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