第26話◆アガレスの魔宝珠


「……えっ?」メリッサ教官はキョトンとした。しばらく口を開けたままにしていた彼女はそのまま続けた。

「ソータお前……一番得意な武器は何だ?」


「全部使い慣れてるし得意ですが……やっぱり篭手と槍ですかね……」


「まさか……お前、マスタリースキルのレベルはいくつだ?」


「全部Lv7です」と言うと、全員がかなり驚いていた。


「たった六年間在籍しているだけでマスタリースキルを全部Lv7にしたっていうのか!?」と驚くエルディア。


「そうだけど……逆にお前はいくつなんだよ?」とエルディアに聞くと「刀剣がLv6で、拳術がLv7、そして他は基本Lv2か3だ」と言っていた。

 エルディアのマスタリースキルは、これでもソータを除けば一番高いらしい。クレリアの一番得意な刀剣術マスタリーはLv6で、ロッサの鎚術ついじゅつマスタリーもLv6らしい。

 何でも、マスタリースキルを上げやすい練習法の講義があり、それを卒業後も行って、ようやく20代のうちにLv7に到達するのだそうだ。

 そのマスタリースキルを上げやすい練習法は、錬成学院で門外不出となっている特別な方法だ。


 因みに、この世界では20代でマスタリースキルを一つでもLv7に出来た時点で、超エリート扱いだそうだ。だからソータの全マスタリースキルをLv7にしたという実績は有り得ないことなのだ。

 エルディアの場合は、拳術マスタリーのレベル上げを先に終わらせたが、刀剣術マスタリーに関してはそれほど練習しておらず、撃滅凋落刃げきめつちょうらくじんの発動短縮に時間を割いていただけらしい。

 そうしていると、刀剣術マスタリーと撃滅凋落刃両方のレベルが同時に上がっていったらしい。

 エルディアのマスタリーレベルも歴代の卒業生の中でも、かなりの高レベルだが、彼は家族の中で一番弱い為、家族の誰かに認めてもらう為に寝る間も惜しんで鍛錬に励んだ結果だ。


「ソータ・マキシ、お前は全てのマスタリースキルを最高レベルに持って行った世界初の人間だ……お前が望めばどんな就職先も選べる……それどころか、王国軍の配属先すらも自由に選べるだろう。七大隊長と戦って勝てればすぐにその席次を奪える……父親であるゾルダーの第三大隊長を狙ってみても良いんじゃないか?」そうメリッサ教官は言っていたが、それを断ることにした。


「先に言った通り、俺はハンターになるんです。大隊長も近衛兵も興味ありません」そう言い切ったソータ。


「お前の気持ちがそれほど固まっているのなら……仕方あるまい。自分が何になるかは本人の自由だ。立派なハンターになるがいい」そう言って認めてくれるメリッサ教官。……長い間応援してくれていた教官には感謝しないとな。


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 エルドラド王宮――玉座の間。


「陛下、こちらが第93期の卒業生の就職先でございます。お目通しをお願いいたします」

 国王の側近の若い男性は、錬成学院の学生の就職先の報告書を渡す。


  ◇◆錬成学院・第93期卒業生就職先(成績順)◆◇

 名前:ソータ・マキシ   職業名称:ネオグラディエーター 就職先:ハンター

 名前:エルディア・トトラーシュ   職業名称:グラディエーター・パラディン 就職先:エルドラド王国軍第一大隊

 名前:ロッサ・パルセノス   職業名称:グラディエーター・アークウィザード 就職先:エルドラド王国軍魔法師団

 名前:クレリア・ラピス  職業名称:グラディエーター・フェンサー 就職先:ハンター

 名前:ライトラ・グレンドル   職業名称:グラディエーター・パラディン 就職先:エルドラド王国軍第二大隊

 

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 一通りの名前を読むとエルドラド国王は、側近へ一言。


「ネオグラディエーターのソータ・マキシをここへ」


「はっ、承知致しました!」側近はそう言うと、玉座の間にいる近衛兵の一人に指示を出した。

 近衛兵は敬礼をして玉座の間を出て、一般兵へ指示をしに行った。



 ――錬成学院―廊下。


 ソータ、エルディア、クレリア、ロッサ、ライトラの五人が並んで歩いている。

 みんなで帰る事になった。発案はやっぱりクレリアだ。ライトラは元々一人ぼっちで、ナティーレにたまに構ってもらっていた程度だったのだが、グラディエーター認定試験の時から、ソータたちのトップ成績者のグループの一員になれた。

 ナティーレはそれを優しく見送ると、元々仲良くしていた女子たちと継続して絡むようになった。


「ねぇ、ソータ!」


「どうした?」


「アタシもハンターになることにしたんだよ!」と言って笑顔を向けてくるポニ子。相変わらずの八重歯とポニーテールだ。


「お前もハンターやるのか!?」と言うと「あったりまえじゃん! ソータ、パーティ組もうよ!」と提案してきた。


「……お前のゴッデススキルは有用だしな……いいぞ」


「ライトラの就職先はどこでございますの?」と次はロッサが聞いた。


「僕はエルドラド王国軍の第二大隊です」とライトラ。

 エルディアと共にエルドラド王国軍の第一大隊兵になる試験を受けたのだが、エルディアは合格、ライトラは失格だった。

 だが、エルドラド王国軍第一大隊長であり、エルディアの父親であるレイザック・トトラーシュが、ライトラに光るものを感じて、第二大隊へ推薦したのだ。

 レイザック曰く、これからも強い戦士に育っていくだろうが、第一大隊へ入るための必須条件のうちの一つが欠けていたから、第二大隊へ推薦したのだとか。因みにその必須条件というのは、上流階級以上であることだそうだ。


 軍へ入ってしまえば、誰もがエリートの仲間入りが出来る。しかし、こんな所にも階級による差別があったのだ。


「へぇ~! じゃあ、私たちはソータとクレリア意外は全員エルドラド王国軍ですわね!」と嬉しそうにしていた。友達みんなで軍へ入ることが出来たからだ。


 因みに、トップ成績者の一員ではないが、メガロス王国出身のエゼルト・ケレスは、メガロス王国四天王の二番手の側近になった。

 彼は帰国すると、あの世界一の学院である錬成学院の卒業生として国を挙げてお祝いされたそうだ。


 馬車に乗り込むと、各々が帰って行った。


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「ただいま」家の玄関を開けると、父ゾルダー、母リエナ、そして長女のアルマが笑顔でクラッカーを鳴らした。

 次女のソエラは、錬成学院出身ではないが、他の学院を卒業後すぐに実家を出た。今どこで何をしているのか全くの謎である。


「「「ソータ、錬成学院卒業おめでとう!!」」」


「あ……あぁ、ありがとう」驚くソータだったが、家族のこういった記念をみんなで祝う姿はソータの好きなものだった。改めてこの世界に転生して良かったと思った。



「折角の機会なんだから、ソエラも家に帰ってくれば良かったのにねぇ……」とリエナが言った。


「そう言うな、アイツもアイツで忙しいんだろう。ソータ、今日は本当におめでとう。立派なグラディエーターになったな!」と笑顔のゾルダー。


「錬成学院を卒業すると、グラディエーターって職業名の後に名称が付くんでしょ? なんていう職業名なの?」と聞いてくるアルマ。


「基本的にそうなんだけど……俺の場合は違って、ネオグラディエーターって名前だった」と話した。


 詳しく色々話していると、ゾルダーが目を丸くしていた。

 ゾルダーのマスタリースキルは、槍術マスタリーLv7、刀剣術マスタリーLv7、斧術ふじゅつマスタリーLv7で、他は1や2、弓術マスタリーに関しては修得すらしていなかった。

 リエナの場合は、刀剣術マスタリーLv3、拳術マスタリーLv2程度で、他は覚えていない。アルマは鎚術ついじゅつマスタリーLv3を持っているだけだった。

 因みに鎚術マスタリーは、戦鎚に限らず、杖などでも修得出来るため、魔法が得意なアルマは勝手に修得してレベルが上がっていったと言っていた。


「つまり……槍、刀剣、斧を使えば俺と互角で、他の武器で戦えば俺に勝ち目はない……ということか……」と少し悔しそうにしながらも、自分の息子であり、力のある若者が台頭してきて嬉しそうなゾルダーは続けた。

「それで、就職先はどこにしたんだ?」


「俺はハンターになる」


「「「えっ……?」」」家族全員の顔色が一気に変わった。全員王国軍に入ると思い込んでいたからだ。


「聞こえなかったのか? ……俺はハンターになる」


「な……! お前は何て低俗な仕事を……! 今からでも遅くはない! 王国軍へ入るんだ!」と言うゾルダー。

 そのゾルダーの発言が頭に来たソータ。ハンターを低俗だと言われたのだ。


「……ハンターは低俗な仕事じゃない! 親父、今すぐその言葉を取り消せ!」今まで見たこともない表情に変わり怒り出すソータ。


「でも、何でハンターになりたいなんて思ったの!?」今度はリエナが聞いてきた。


「12歳の時に親父にエルドラド王宮へ連れて行ってもらった時からの夢だ。世界中を旅して、エルドラド王宮みたいな荘厳で綺麗な場所を自分の目で見て回りたいんだ」


 一方、クレリアの家では――


「ダメだダメだ!!」クレリアの父アルベルトが怒鳴る。


「パパには分かんないんだよ! ハンターの良さが! 私はソータと世界中を回って最強のハンターになるの!!」


「ソータって言うのはマキシ家のご子息か……彼と男女のお付き合いをするのは構わん。立派な家系の出だしな……。だが、ハンターは階級の低い者が成り上がる為にあるような仕事でもある。態々グラディエーターになったエリートであるお前がやる仕事ではない!」


「そ、ソータとはそんなんじゃないから!! パパなんてもう大ッ嫌い!!」そう言ってリビングを飛び出して、自室に篭り、旅支度を始めるクレリア。



 ソータとクレリアの家族は二人の思いを理解してもらえずに、親の反対を押し切ってハンターになることを決意した。

 そして、その日の夜……。


 中流階級街の中心には噴水広場があり、そこは白い石で造られた壁にエン・マーディオーが持っている杖の絵が描かれており、噴水はアガレスという名の神の像が建っていた。

 アガレスの持つ槍から水が出る仕組みだ。今現在は夜なので、噴水の水は止められている。噴水の下には白い石の看板に黒い文字で、エルドラド国王が使役する聖神・アガレス像と書かれていた。


 ――夜。――噴水広場。


「…………」無言でその像を見つめクレリアが来るのを待つソータ。


「……ん?」アガレスの像の槍が一瞬光った気がした。……アレは何だ……? そう思っていると、槍に付いていた宝石が外れてソータの足元に落ちてきた。それを拾うソータ。


「お待たせ、ソータ! ……ソレ何?」中々の大荷物のポニ子がやって来て、ソータの手を指差した。


「いや……この聖神アガレス像の槍に付いてた宝石みたいなんだけどさ……たった今外れて落ちてきたんだ。大きいから手が届かないし」


「……この黒い宝石って講義で出てきた宝珠じゃない……? 能力透視で見てみるね」そう言ってソータからアガレスの槍から落ちてきた宝石を受け取る。

 能力透視は、武器や道具の能力も見る事が出来るのだ。



 名前:アガレスの魔宝珠 レア度:S

 説明:聖神アガレスの槍に付いていた魔宝珠。闇属性の武器が強化出来る。


「……だってさ」能力透視で書かれていた事を音読するクレリア。


「もらっておこうかな――」ボルグローブに装着出来るし……と言ってソータがボルグローブにアガレスの魔法珠を装着したその時だった。



 遠くから巨大な爆発音が響き渡った!




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