第3話 子供部屋おじさんと女子高生
先週、親父が倒れて救急車で運ばれた。
深刻な病ということもなく、大事はなかったが倒れた時に骨折をした。
それに伴い、母親が見舞いに通うようになった。
このことにより、親父が自衛隊を退職した後についた、駐車場管理の仕事も長期的に休むこととなるので休職となる。
今まで年金とその分の収入があった我が家も、今後は両親の年金だけで回すこととなる。
俺と言えば高校の時にいじめからの不登校となり、今では18年も引きこもりだ。
引きこもり……いや、数日前からはネット上で新しい呼び方が爆誕していた。
「子供部屋おじさん」
と、俺みたいなのを言うそうだ。
実家から一度も出ず、かといってインテリアに興味を持つこともなく、家具を買うお金もなく、部屋はずっとそのままだ。
特徴的なのが、学習机だと言われている。
6歳からずっと同じ机を使い続けて、そのうちPCモニターを置くようになるのが常だ。
身長170cmを超えると使いづらくなり、使用者を猫背にするという学習机だが、幸か不幸か、俺の身長ではいまもしっくり馴染んだままだ。
そんな話はどうでもいい。
つまり18年ぶりに俺はちゃんと外に出て、いくばくかの金を得る必要が生じた。
まずはハローワークに行くことをようやく決意した。
この18年間何度も行こうと思った。
しかし、母親が無理をしないでいいんだよと言うのでそのまま俺は易きに流れた。
いや行くよ! と飛び出すべきだったのに。
また、父親は自衛隊生活でほとんど家にいなかったので、そんな俺の惨状に口をはさめないままだった。
だが、俺は家から数分歩いたところにあるコンビニにしか行くことすら稀だ。
決意して家を出た某日、体力も著しく衰えており、太陽の光も黄色く、アスファルトの照り返しも突き刺すようだった。
過剰な緊張の中混みあった電車に乗り込む。
立っていると強烈な眩暈に見舞われて、脂汗が流れ始めた。
混んでいるにもかかわらず、すっと隣のOLは頑張って俺との距離を開けた。
そりゃそうだろうと思う、汗まみれの太った子供部屋おじさんが外に出てきたのはさぞや気持ちが悪いだろう。
しかしこのまま倒れると、もっと周りの人間に迷惑が……。
「あの、どうぞ」
耳から入ったその可愛らしい声が、脳に到達して理解に及ぶまでやけに時間がかかった。
顔を上げると女子高生が、立ち上がり俺に座るように促した。
躊躇していると、ワイシャツを小さくつまんで、座ってくださいともう一度声を発した。
「あ、ありがとう」
俺はどもりながら例をいうとありがたく座らせてもらい、どうにかハローワークへとたどり着くことができた。
さっき触らなくてよかった!
そう、俺は今、何故だかわからないがあの時の女子高生の姿になっているのだ。
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