第12話 公園

「お疲れさん。ウタル良くやったぞ」


「所長ー!所長から出た“W”と全然違うじゃないですか。危うく死ぬところだったんですよ」


「初っ端から強烈な“W”だったな。けどお前ならなんとかすると思っていたよ。梓ちゃんは死んだ方に賭けてたみたいだけど」


 所長は笑っていた。さっきまでの死闘がなかったかのように笑っている。


「悪運の強いやつめ」


「いや梓さん、シャレになってないですよ。ホント死ぬかと思ったんですから」


「所長がいるのに死なすわけないでしょ」


「え?所長ピンチなったら助けてくれてたんですか?」


「当たり前じゃん。有望な新入社員を簡単に見捨てはしないよ」


「じゃあもっと早くに助けてくださいよ。もっと小さな“W”退治かと思ってたのにあんなオトナコモドドラゴンみたいな“W”聞いてないですよ」


「大丈夫、俺の初めての時はもっと巨大で狂暴だったから」


「そうなんですか?じゃあ所長も初めてで強大な“W”を倒したんだ?」


「いや、速攻逃げたよ」


 恥ずかしむこともなくあっけらかんと笑いながら言う所が所長の良さなんだろう。


「あの……」


 曜子のことを忘れていた俺は所長と梓さんを曜子に紹介した。


 所長はからし屋マタジの名刺を曜子に渡した。こんな時はからし屋という表向きの職業が役に立つ気がした。


 しかし曜子にはあの“W”の姿が見えていたからからし屋の誤魔化しは通用しないだろ。


「宿敵わさび屋の手先だったんですね、ホント酷い!」


 所長の言い訳に共感している?曜子、冗談だろ?そもそも所長の言い訳が子供レベルすぎる。小学生でも信じない言い訳ですよ。


「じゃあそういうわけで曜子ちゃんを怖い思いさせたお礼に、ウタル君が美味しいものを何でもご馳走してくれるから。遠慮しないでなんでも言って頂戴」


 結局俺に丸投げですね、所長。領収書切ったら経費で出るのだろうか不安だ。


「じゃあ私、〇〇駅ビルの最上階にある創作料理のコースに出てくるシフォンケーキが食べたい!」


「いーよーいーよー。サフォンでもゴフォンケーキでもなんでも注文しちゃってください」


 所長は陽気である。


「いーなー。私も連れてけ」


 梓さんは仕事そっちのけである。


「ところであそこに寝てる犯人はどうなるのですか?」


「大丈夫。後はおじさん達が処理しとくから曜子ちゃんは気にしないでウタル君に思いっきり奢ってもらうと良いから」


 所長は俺たちの背中を軽く押しながらこの場を離れるように促す。


 足りないといけないからと言いながら所長は小声で俺に


「彼女と仲良くなっておけ」


 とだけ言って胸のポケットにお金を忍ばせてくれた。


 


 


 千円だった。


「少なっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る