第3話 ニート脱出
「んじゃあ採用です」
「へ?」
言葉の意味と喜びを理解するのに、俺は幾らかの時間が必要だった。
廃れた商店街の裏道に建つ、これまた廃れた雑居ビル。
駐車場になってる一階部分の端にある入り口用の階段を上って二階の部屋で俺はこの会社の採用試験を受けていた。
自ら望んでここに来て、望んだ返事を貰ったのに間の抜けた言葉を発したのは、俺に2年というニートの生活の引け目があるからかもしれない。
そう思ったが、それにしてもここに来て5分位で採用と言われたら例えニートでなくても驚きの返事をしてしまうのではないか。
ただ、普通の就活生や転職組なら驚いても間の抜けた言葉は発してないかもしれない。
2年間のニート生活で社会から遠ざかっていた甘さゆえに無意識に出たのだろう。
「とりあえず採用だからリラックスしてよ。コーヒーか紅茶どっちがいい?」
どちらも好きでどちらでも良かったのだが、選択を求められたら決断をするのが俺のマイルール。なので俺は紅茶を選択した。
「紅茶切れてるからコーヒーでいい?」
聞いといて無いって?なんだか損した気分になるのは俺の心が貧しい証拠なのか?まぁさておき俺はコーヒーならブラックを頼んだ。頼んだコーヒーはブラックでも就職する会社はブラックでないでおくれよと、今は神頼みするしかないのだが。
「OK。
「わかりました」
紅茶が無いのなら最初から選択肢に入れなければよいのに。この人なりの気遣いなのか、冗談なのか。ニコニコしながら聞いてくれたおかげで、初対面という緊張感はかなり和らいだ。この所長、悪い人ではない印象を受けた。
受付をしてくれたあの女性の名はおそらくあずさというのだろう。梓ちゃんと言われて表情一つ変えずに給湯室に向かったのは、普段から言われ慣れてるのだろう。それだけ信頼関係が築かれているということか。俺がここに来た時に受け付けてくれたがその時から無表情なのは気のせいなのかもしれない。
しかしこの女性、小柄なのに胸ははち切れそうで、お尻はスタンディングオベーションをしたいくらい絶妙だ。黒縁のメガネに幼げな顔だが、タイトなスーツを着ているだけで社会人に見える。
そういえば先日、ここの求人広告を手渡してくれたのも梓さんだった気がする。何故昨日のことなのに来た瞬間に気付かなかったかと言うと、昨日の梓さんはツインテールでメイドの服を着ていたからだ。だからあの時は、ビラ配りのバイトの女の子としか思っていなかった。
その割にはなんて無表情なバイトなのだろうとも思っていたからだ。
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