ガベージ・ロケット

 あけましておめでとうございます!


 ごぉん、ごぉんと除夜の鐘が響く夜空を見上げれば、幾筋もの星が流れた。それはクリスマスケーキやローストチキン。2ヶ月後には恵方巻きが冬の大三角を貫き、夏には鰻が天の川を渡るだろう。


 ロケットの打ち上げコスト削減に成功した現代、それを利用した様々なイベントが立ち上げられていた。食品ロス撲滅委員会とかいうNPOが5年前から始めた、食品ごみ流星化計画もそのひとつだ。


 イベントで廃棄された大量の食品ごみをロケットで打ち上げ、人工の流れ星にすることで、如何に人々が食べ物を粗末にしているかを訴えたい。


 そんな動機モチベーションで始められたその企画は、皮肉にも年々その規模を増していた。特に今日、元旦はその最たるものだ。例年クリスマスの影に隠れていたニューイヤー・イベントは、クリスマスの残飯が齎す最後の輝きにより息を吹き返すこととなった。


 初詣の行列に並ぶ着物の女性たち。ニック・ーター、略してパリピと呼ばれる彼女らは、屋台で購入したしめ縄を模した巨大な串焼き肉をその手に持ち、流星を背景にスマートフォンで記念撮影をする。一口ずつ肉を齧ると、そろってしかめっ面で「うっへぇ、パッサパサじゃん」と吐き捨て、ゴミ箱へと投函した。彼女たちにとってはSNSで評価を獲得することが目的であり、肉を味わうことは二の次なのだ。


 とは言え彼女たちが肉を完食したところで、誰がそれを褒めるわけでもない。脂肪細胞に変換され、一部は運良く胸部へたどり着き、大半は脇腹に定住するだけだ。そしてダイエットと称して無駄な運動をし、大量の二酸化炭素を排気する。


 彼女たちが肉を買わなかったところで、その肉がアフリカの飢えた子供達に届けられるわけではない。輸送にだってコストがかかる。何の利益もなくそんなことをするのは余程の変人だろう。ロケットに詰め込まれ、次のイベントたる成人式の夜空に彩りを添えるだけだ。ゴミ箱へ捨てるのとなんら変わりない。


 が出てくる、なんてこともない。


 彼女たちの行為は無駄ではあるが、実際のところたいした問題ではないのだ。それは頭では理解しているが、どうにも納得がいかない。高度に洗練ソフィスティケイトされた消費の果てに、私たち人間はいかなる幸福を得ることができたのだろうか。


 私はそんなことを考えながら、ワンカップ片手にゴミ箱から肉の残りを拾い上げた。


 ハッピー・ニューイヤー。今年も世界が平和でありますように。

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