第十二話 専任騎士と勇者達

 リヒト王子だ。彼の専任騎士と思しき金髪の騎士と二人の女性も後ろに控えている。


「リヒトお兄さまぁ」


 第三王女はリヒト王子に泣きつくかの様に縋る。


「アカーツィエ、何があったんだい?」


 第三王女は成り行きを王子に話した。王子は話を聞き終えると何度か頷いて後ろを振り返る。そこには金髪の騎士が居り、何か話し始める。


「アカーツィエは嘘を吐いている様には見えない。ノイト、君はどう思う?」


 ノイトと呼ばれた碧眼の騎士はガラの悪い騎士達と俺達を見比べてから一つ頷きを作る。


「正直な所、見た目の怪しい者とガラの悪い騎士、どちらを信用するかと聞かれれば前者ですね。ですが、王直属の騎士団となれば双方信用は出来ませんね。ですが、今回に限ってはアカーツィエ様の言を全面的に信用して良いかと」


 その言葉を聞いて第三王女の表情が曇から晴に変わる。


「お兄さま」


 流石に第一王子であるリヒト王子に言われれば引き下がるを得ないのか、ガラの悪い騎士達は去って行く。


「リヒト王子、ありがとうございました」


 フィーリアがリヒト王子の元に駆け寄ると一礼した。俺もそれに倣う様に軽く頭を下げる。専任騎士のノイトは王子とフィーリアの間に立ち護衛としての任務を果たす。


「やや、これは可愛らしいお嬢さんだ」


 王子の後ろに控えていた緑髪の女性がフィーリアの前に立つと腕を広げた。


「ちょ、ちょっと。何なのですか?」


 困惑した様にフィーリアが戸惑いを見せる。しかし、緑髪の女性には好意の様なものしか感じられない。それに王子と専任騎士は頭を抱えているが、止める様子もない。


「プレクシモ姉様、流石に節操なさ過ぎです」


 まるで人形の様な女性が、緑髪の女性を嗜める。しかし、それを意に介する様子はなく、


「私の名前はプレクシモ。リヒト王子の求めに応じて参上した勇者です」


 プレクシモと名乗った女性が手を一つ叩くと編み針を巨大化した物が現れた。


「抱擁は私の育った所では挨拶です。こんなに可愛らしい女性を見たならば挨拶はしないとね」


 再度手を叩くと編み針は消える。フィーリアは挨拶と言われてどうしていいか分からずにおろおろとしている。そんな様子を見て、直ぐにフィーリアとプレクシモの間に割って入る。


「すまないね。フィーリアは知らない人に触れられるのが苦手なのでね」


 プレクシモは少し残念がるが、直ぐに表情を柔らかくする。


「そうなのかい? 私はよくマリィに相手の気持ちを考えるようにと言われているのだけど。本当にごめん。でも、名前くらいは聞いてもいいかい? 君のも」


 プレクシモはフィーリアに直接謝るとフィーリアもそれに応えた。


「いえ、私の名前はフィーリアです。そして、こちらがアマルティアさんです」

「改めて挨拶させてもらうよ、フィーリアにアマルティアさん。私が勇者のプレクシモ、こちらがパートナーのマリィ」


 マリィと呼ばれた女性がぺこりとするとこちらも同じように頭を下げる。


「末の妹、アカーツィエが世話になった。礼を言わせてもらうよ。しかし、あの場所で会った君達とまた会えるとは何かあるような気がするな。それに私が渡した仮面を着けてくれている様で何だか嬉しいよ」


 王子は第三王女を近くに来るように呼ぶと、

「アカーツィエ、君も礼を言うんだ」


 第三王女は少し照れた様に顔を赤くしながら頭を下げる。


「もういいですよ。それに俺の役目もここで終わりだな」

「王城には来ないのかな? 是非とも王城で持て成したいと思っていたのだが」


 王子の誘いを、首を振って応えると群衆に紛れ込むために足を進めた。


「アマルティアさん、また近い内に。それから、愛しのフィーリア、またね」


 去り際、プレクシモから声を投げかけられた。しかし、その言葉の意味を理解しかねた。


 何度か首を傾げていると横を歩いていたフィーリアが軽やかな足取りで横に並んで俺の腕を取った。


「少しでも妬いてくれました? それにあの時、間に入ってくれて嬉しかった。それに私、実体がある様に見えるけど、不確定的と言いますか。曖昧な存在だから」


 掴まれた腕が震えている。それは本物で、ちゃんと触れられている。けど、一つだけ心当たりがあった。それは俺とフィーリアがアンデット系と言う事。


「そこまでは考えていないよ。だって、俺にはフィーリアがちゃんと存在しているからさ。ただ、あの時のフィーリアは怯えていた様に見えたから、かな」


「ありがと」


 見下ろすと瞳を潤ませたフィーリアの顔があった。思わず目を逸らしてしまう。


「ん……」


 顔は正面を向けたまま、言葉を返した。本当に涙は苦手だな。

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