第九話 騎士の誓い
言われて腰元に目を遣る。すると、そこには二本の剣が帯剣されている。当然俺には覚えが無い。
「?」
首を振って応えると俺はその柄に手を触れる。
***
剣を鞘から引き抜くと刃に対し両手で添える様にディアデームを着けた王女に預ける。
目を伏せていると両手から重みが消え、少しの間を置いて左肩それから右肩に剣を当てられる。
『汝、ベルンシュタイン王国第三王女アカーツィエ・ベルンシュタインの剣・盾となり危害を与える全てから守り、害成す者を排除する事。汝、私を裏切らぬ事。汝、如何なる時も礼節を守り他の騎士や国民の規範となる事。汝、国民を守る事を誓う事』
誓いの言葉が終わると刃が目の前で鈍く輝く。俺は剣を両手で恭しく口先に寄せるとキスをした。これは言葉ではなく、態度で騎士の誓いを果たす事を約す事だ。
それでも、はっきりとは全容を思い出す事は出来ない。更に主の顔でさえだぶって見えるのだ。
***
「アマルティアさん?」
まただ。目を覚ますたびにフィーリアの膝枕で起きる。
「夢を見ていた様だ。まるで、俺が騎士だったかの様な」
「そう、ですか」
誰かに見られている。そんな感じがして、周囲を見回すと一人の良い誂えの服を着た女が俺の顔をジッと見ている。顔に手を触れると指先に無機物の感触を得る。仮面だ。
「た、助けて頂きありがとうございます。私、ベルンシュタイン王国の第三王女のアカーツィエ・ベルンシュタインと申しま、す。ヒッ……」
「ちょ、ちょっと。アマルティアさん!」
フィーリアの言葉で今の俺が抜身の剣を手にしていた事に気が付いた。抜いた事すら気が付いてはいない。頭の中では色々な物が混ぜ返され、考えが纏まらない。
「す、すいません。彼、記憶を失っていまして。時々、この様に発作を」
フィーリアが俺の行動を制限しようと背側から羽交い絞めにしている。多分だが、こうでもされていないとまたどんな行動を取るかすら俺でさえも分からない。
「そ、そうなのですか」
アカーツィエは半べそ状態で落ちた俺の剣を見ている。
「フィーリア。俺はもう大丈夫だから」
フィーリアは若干心配そうな顔をしたが、ゆっくりと俺から手を解いた。目の前のアカーツィエはまだ怯えるような視線で俺を見つめる。
「アカーツィエ王女で良かったかな?」
足元に落ちている剣には目もくれず腰横に手を突っ込んだ。
「ひぃぃっ」
後退る王女を見て足を止めると袋から銀貨を一枚取り出した。
アカーツィエ王女は黄色の瞳を揺らしながらも俺の手元を離れた距離から盗み見る。
「ここに銀貨が一枚ありますね?」
コクリ。
王女を見ていると行き場の無い怒りの様な感情が蠢いている。それでも、フィーリアが近くに居る内は抑えられそうな気がしている。それにその怒りの理由すらよく分からない。
「これを手の中に閉じ込めて」
拳の中で銀貨を揉み込むと熱を感じる。手の中で銀貨が何かに変わっていく。
視線を王女に移すと笑顔に変わっている。更にどこか、熱の籠っている様な視線。不快では無いが、心が冷えていく。
「手を開けば、ハイ」
手の中から出て来たのは、
「あ! アカーツィエ。それも黄色の」
王女の瞳と髪色と同じ黄色のミモザだ。
王女は警戒しながらもそっと近寄ってくる。だが、最後の一歩を踏み込む事に躊躇している。俺の方から近寄るのも躊躇われると間にフィーリアが立つ。フィーリアは王女よりも頭一つ分大きいが、同じ女性ということで、フィーリアを経由してミモザを受け取る。
「どうして、私の好きな花が分かったの? それに貴方、私の大切な人と同じ魔法がつかえるのですね」
王女は年頃の少女の様な笑みを見せ、ミモザの花を胸に抱き込んだ。
「どうなんだろうな? 俺は別にその花を出そうと思ってやったんじゃない。ただ、どうやったら泣き止むかなと、笑顔になるかなと思ってやっただけだ」
落ちていた剣を鞘に収めるとフィーリアを連れてその場を発とうとした。
「お、お待ちください。私、専任騎士も騎士団の方も居なくて困っております。もしよろしければ、お城まで私を護衛して下さいませんか?」
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