第六話 ディアマンテの民
夜が明けた。
俺とフィーリアは所謂アンデット系と呼ばれる種族になるので、睡眠は必要とはしない。それに日光に当たれば弱くなるかと思えばそんな事は無かった。
「おはようございます。アマルティアさん」
夜の内に王都エルツに入ろうと提案したのだが、フィーリアの「夜に行くのは色んな意味で危険があります。要らぬいざこざを避ける方が良いと思います」という言葉で行くのを止めた。
「おはよう、フィーリア」
フィーリアの髪には昨日あげた黄色のナルキソスが髪飾りの様に差さっていた。似合うのは勿論なのだが、昨日の状態のまま綺麗なのには俺自身驚いていた。
「ベルンシュタイン王国の王都はどんな感じなんだ?」
恐らく生きているのなら焚火をして、その火を囲んでいるのだろうが今の俺には火は苦手どころか、弱点となっていた。
「王都は昨日も話した通りエルツと言います。前線の都市とは違い、高い塀に囲まれているわけではありませんが、町中を騎士が巡回しております。それと、最近になってディアマンテの風とか言う組織が王都にて事件を起こしておりますので、怪しい人物は片っ端から掴まっております」
ディアマンテの風? 確か、ディアマンテは亜人国だったか。
「ベルンシュタイン王国だけではありませんが、基本的に奴隷を持つことは禁止されています。ですが、亜人や魔人等は人では無いので家畜という意味で所持することは許されているのです。彼らは亜人の奴隷を解放するという名目で三人国全てで暴れまわっているのです」
「王都でも出没しているのか? だとしたら、俺の仮面なんかも怪しく見えるのかもしれないな」
「彼らは別に人間を無差別に襲っているというわけではないのでしょうけど」
俯いたフィーリアの声色はどこか物悲しそうな雰囲気が漂う。
「亜人何とかは襲われた時に考えるとして、まずはエルツに入ろうか」
「はい」
王都はそこまで厳しい検問などは無かった。だが、一歩足を踏み入れると異様な感じがする。
「エルツ広場は避けましょう。あそこには処刑台がありますから」
処刑という言葉を聞くと首にある傷痕が疼く。
「首、痛みます?」
フィーリアの言葉に俺の手が襟巻の中に突っ込まれていたことに気が付く。そして、フィーリアは申し訳なさそうに視線を宙に浮かせている。
「別に傷が痛むとかは無いんだが、何かが蠢いている。そんな気がするんだよ」
商業区に入ると王都だけあって人が盛んに行き交う。気になるはやはり、亜人が幌荷車を引いている事だ。別に俺自身、こういう扱いの亜人を見てもどうも思わない。
しかし、フィーリアは俺と違う。思わず目を逸らし、その先で別の亜人の家畜を見て顔を手で覆うのだ。
「見るのが辛いなら俺の腕にしがみついて顔を伏せると良い。だが、俺は仕方のないことだとは思うがな」
「なっ⁈ アマルティアさん、今のは聞き捨てなりません」
やや見下ろす位置にフィーリアの顔があり、その顔は赤く目を吊り上げている。
「俺の記憶が確かなら、亜人共も同じことをしている。人間も亜人も生きるための手段としてそれを用いているのだからな」
「それとこれとは話は別です。誰もが自由に生きる権利があるのです」
「あのな。人間は生きるために生き物の命を奪う。奪われるのは自由程度ならマシだがな。それにリヒトと言う王子が言っていた三人国会談と言うのは恐らく、アニファスとディアマンテに対抗すための軍事同盟だろうな。それにアニファスの狼部隊はヤバい奴らだ」
あれ? この記憶は俺のだろうか。しかし、断片的な記憶の欠片が脳内でチラチラと輝く。
「生前の貴方は騎士でしたね。もしかしたら、前線で戦っていたのでしょうね」
一気にフィーリアの機嫌が悪くなる。
「お、おい。貴様、何をするだッ⁉」
朝市の中で怒声が響く。それは良い場所を取り合うとかの喧嘩の類では無い事を逃げ惑う群衆が証明している。
「何とかの風か?」
群衆の流れに逆らう様に進んでいくと紐の様な鎖の様な戒めを壊していく耳の長い亜人に、尾の丸い短耳の亜人らが家畜の主人だっただろう小太りの男に刃を向けていた。
「お前ら何をしているのか分かっていてやっているのか?」
小太りの商人を背後に押しやりつつ、全体の動きを把握できるように体の向きを調節していく。パッと見た感じでは弓持ちの奴らが面倒に見えるが、その照準はぶれている。
「見れば分かるだろッ! 俺達は理不尽な仕打ちを受けている仲間を解放しているのだ」
奴らの抜いた剣を見ても戦い慣れした連中では無さそうだ。ただの義侠心に駆られた行動だろう。
しかし、疑問は尽きない。普通にこんな連中が王都までのこのことやって来られたとは思えない。
「その家畜をこっちに引き渡せ。そうすれば、ここから逃がしてやってもいい」
騒ぎから時間が経っている上に亜人共に王都を荒らされては騎士団としても面目が立たない。だから、直ぐに来るだろう。
「なっ⁈ 同士を見捨てよと言うのか?」
「そうだ。エルツ広場、分かるだろう?」
エルツ広場と言う言葉に敵の士気はがた落ちだ。それでも、一部の奴らはギラギラとした視線を俺に向けている。その中に一つ、違和感のある念を感じた。
「脅しか? 我々、ディアマンテの民はチロベークの言葉は信用しない。行くぞ」
視界の中で陽光を浴びた矢じりが光る。矢が放たれた。
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