第五話 誰?
『クソッ。あの野郎ども絶対許さねぇ』
孤児院の焼け跡に足を踏み入れた時、直近で良く聞く声から聞き慣れない言葉がフィーリアの口から漏れた。
「フィー、リア?」
正面、真っ先に灰が風に流れる崩壊した建物に入って行ったフィーリアは、何度も床にか細くマルマロの彫刻のような美しい手を打ち付けている。
しかし、何度も叩き付けようともリッチの手には傷一つ出来てはいない。
「止めるんだ、フィーリア」
俺は振り上げられた彼女の右手首を掴むと引き揚げた。彼女は突然の出来事に目を丸くしたが、俺はそこにフィーリア以外の誰かを感じた。
『何、掴んでんだよ。お前もここで俺達を殺しに来た奴らの仲間かッ!』
明らかに口調、それから瞳に込められた憤り、それら全ては彼女から発されたモノとは思えないほどにやり場のない怒りを俺に向けていた。
「お前は誰なんだ? フィーリアでは無いのだろう?」
何者か左腕を後ろに引くと俺の右頬に向けて撃ち出した。
その動きを読んでいたので、難なくその左拳を鼻先で躱すと左手で掴む。すると、互いの両腕はクロスした形になる。
『ちょっと、離してよ。何よ。この不気味なおじさん』
目の前のフィーリアと思われる人物は口調、それから雰囲気が変わった。
「ま、待て。誰が、おじさんだ。おにーさんと呼びなさい」
掴んでいた両手首を離してやると手首を擦っている。
このやり取り。どこかであったような。
『仮面付けているから分からなかったけど、おじさんなのね?』
「だから、おにーさんと呼びなさい」
そうか。夢で見たのはここに居た孤児達だったのか。
だとしたら、あの女性はフィーリアなのだろうか? いや、何処か雰囲気が違う。それにあの時に一人一人の顔にはマスクがかかったままなのだ。
「アマルティアさん、あの子達が悪さ、しませんでした?」
やっと目の前のフィーリアが返って来た。フィーリアはぺこぺこと何度も頭を下げながら、目をきょろきょろと走らせる。
「いや、別に。と、言うよりもあれは何なんだ?」
「そ、そうですねぇ。あれ、全部私なんですよ。そうでもしないと辛い時ってあるじゃないですか」
フィーリアはじっと俺の目を見つめて言い切った。そう言われれば、そうだとしか答えられず、もやもやとした物だけが残った。
崩れ落ちた建物の中を一部屋一部屋、丁寧に回っていく。その間中、フィーリアは情緒不安定になりながらも回り切って、最後外に出た時に涙を溢れさせた。
「花壇が……」
フィーリアが膝から崩れたのは花壇の前だった。レンガや石で囲いを作って、その中に花が植えてあったのだろう。しかし、無惨にも花壇は踏み荒らされ、花は灰と化していたのだ。
「うっ、うぅぅっ」
遠間からフィーリアを眺める事にした。と言うのも俺は泣いている人間を見るととりあえず手品を見せるのだが、今回ばかりはどうして良いのか分からなかった。
それから、雲が流れて太陽も進んでいった。
「すいません」
ヘリオスの様に明るかった笑顔の影も無い、泣き腫らした顔で謝られてはちょっと困る。元々、怒る気は無かったし、掛ける言葉に迷い続けていた所にこれだ。
「気にするな。ここはフィーリアにとって特別、だったのだろう?」
「うん」
元気なく頷く姿はこちらも辛い。
「じゃあ、王都に行きましょう。アマルティアさんの記憶を取り戻すのを第一としましょう。それからの事は取り戻してから考えましょう。私は何があってもアマルティアさんの味方ですから」
「俺もフィーリアの事を大切だと思っているし、何か嫌な事があったら言ってくれ」
ここに来て、初めてフィーリアの手を握る。握手だ。
「よろしくな、フィーリア」
「はい。こちらこそよろしくお願いしますね。アマルティアさん」
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