第10話 Es spielt keine Rolle

「よし、寝るか」

夕食を終え、入浴も済ませ

晴樹は一人呟いた


「Gute nacht、ハルキ」


否、住み込みの相手に聞かせるべく呟いたのかもしれない


「……お前も早く風呂入って来いよ」

「Ja」

了解とばかりにウィンクライドは頷く

しかし、浴室に向かう気配はない


「や、風呂行けよ……」

「später weiter……後で、Baden……行く」

「何でだよ」

「Nichts……意味、は、ない」

「……」

訝しげにウィンクライドを見るが

ウィンクライドは変わらぬ感情の読めない顔で、目で

晴樹をじっと見つめ返して来る

「……ま、好きにしろよ」

きっと自分が居室に戻らぬ限りはこのままなのだろう

そう思い、諦めの溜息を洩らすと、晴樹は部屋へと戻った


自室に戻るや晴樹は直ぐに、ゴロリとベッドに横になるが

直ぐに眠れる物ではない


(……あいつ、ちゃんと風呂入ってんだろうな?)

ベッドの上で転がりつつ、そんな事をぼんやりと考える


(……まさか、風呂嫌いとかそういう奴か?)

ベッドに横になったまま、首を捻りつつ、晴樹は考える


(いやいや、夕飯作る時、すぐ隣に居たけど、別に臭くはねえっつーか、どっちかというと良いにお……)

そこまで考えて、晴樹はハッとした


(何で、あんな奴の事考えてんだよ!?アホか俺は!)


そもそも、出て行けと。早く出て行く様にと仕向けていた相手で

しかしどう頑張っても『暖簾に腕押し』状態で、少しばかり追い出しを諦めつつある現状、というだけであり


(別に気に入ったとかそんなんじゃねえっつの!!)

他者に言う訳でない、自分自身に自覚をさせる様に心の中で叫び

晴樹は目を閉じ、眠れずともじっと……頑張って横になり続けた


「…………」


(…………)



それから

ハッ、と晴樹が目を開けた時

時間は随分と経っていた


何時の間にか、寝入っていたらしい


暖房を付けたまま、眠ってしまったからだろう

喉がカラカラに乾いている

(ちょっと、水でも飲みに行くか)


晴樹はベッドから跳ね起き、部屋を出た




台所へと向かう途中、ちらとリビングのソファを見るも、ウィンクライドは横になっていない。

(あいつ、また台所で寝てやがんな)


溜息をつきながら台所に行くが、そこにもウィンクライドはいない

(あれ?)

首を捻りつつ、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲んで、晴樹は一息入れて、周囲を見回した

(何だ?何処で寝てんだ?)


考えていると微かに、シャワーの音が聞こえる

(風呂かよ?こんな時間に)

風呂に入れ、そう言い晴樹が寝入ってから随分時間が経過をしているが

今まで何をしていたのだろうか


純粋な、あくまでも純粋な興味で

晴樹はそっと浴室へと向かった



浴室のすりガラスに、人の姿がぼんやりと見える

すらりとした白い身体、ウィンクライドに間違い無いだろう

(……まあ、人それぞれ、好きな時間に-)

「ハルキ、Da war ……何か、あったか」

「!?」

そっと部屋に戻ろうとした時、扉越しに声を掛けられ

晴樹は思わず固まった

(てか、よく気付いたなあいつ……シャワー真っ最中みてえなのによ)


「ハルキ?」

シャワーが止まり、浴室の扉が小さく開き、ウィンクライドがそっと顔を覗かせた

「うわっ!!」

反射的に身を退いてしまう晴樹


別に悪い事をしていた訳ではないのだが、何故だか慌ててしまう


「Ist es……大丈夫、か?」

そんな晴樹の反応が気になったか、ウィンクライドが浴室の扉を完全に開け放ち、晴樹の方へと身を乗り出す

「!!」

晴樹は思わず、ウィンクライドの肩をぐいと、浴室側へと押した

「……Was……どうした」

「……っ……別に、何でもねえよ……水飲みに来たたけだし、ホレ、さっさと風呂の続きしろ」

「……『フロノツヅキ』……?」

「……」

晴樹は黙ってビッと浴室を指差し、頭を洗う仕草をし、身体を洗う仕草をして見せた

「Ja……了解した」

未だ、心配する様な視線を晴樹に向け-何やら、晴樹の全身を確かめる様な視線を送りつつも、ウィンクライドは指示に従い、乗り出した身を退く

「……ウィン、お前……」

「Was?」

「……や、何でもねえ……何でもない」

そう言い、しっと追い払う様な手をすると、ウィンクライドは頷き、静かに浴室の扉を閉めた

「……」

さっさっと浴室を立ち去る晴樹

背後からシャワーの音が再び、微かに聞こえ始める


「……」

晴樹は真っ直ぐに自室に戻り、ボスっとベッドに寝転がり

そして一人、呟いた

「何だ!?アレ!!」

そしてようやく、昨日ウィンクライドの裸を見た時に感じた違和感が何であるかを理解した

(何!?外人って、皆あんなに筋肉バッキバキなのか!?)

そう-

ウィンクライドは、衣服を身に着けている時は確かに、モデルか何かの様にすらりとした、華奢とも呼べる肢体に見える

しかし、その裸身は……

余すところ無く、引き締められているのが見た目にも分かる程の筋肉質な物であった

(マジで何よ、アレ)

晴樹は戦慄を覚えた

(-あいつ)

晴樹は無意識に枕やら掛布団を抱き寄せながら、心の中で呟いた



(あいつ、マジで、何者だよ?)

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