第8話 Gnade

色々、実に『色々』あったのだが

二人はどうにか、夕食を終え

後は入浴・就寝するだけとなった


「Bad……風呂のVorbereitung……支度は、出来ている」

「へ?何か悪い事があったのか?」

「……?Kein problem……問題、ない」

「……そうかよ」

いまいち、釈然とせぬ気持ちのまま

晴樹は首を捻りつつ、浴室へと向かった


(うーん……「バッド」ってのは、ドイツ語では別の意味なのか?)


そんな事をぼんやり考えつつ、脱衣籠に脱いだ物を入れてふと気付く

(お、洗濯物全部洗ったのか)

脱衣場に置いているドラム式の中には確か、洗濯物が溜まっていた筈であるが

一枚も無くなっている


そして、オートバスの浴槽には暖かい湯が既に張ってある

その浴槽も床も壁も、随分綺麗に見える

(あいつ、飯の支度以外はちゃんとしてんだな)


ゆったりと湯につかり一息、晴樹はじっくりと風呂を満喫した



「……」

湯から上がると、ウィンクライドが例の如く鎮座している

もう驚きはしない、いい加減慣れてきた

「……せめて他の座り方にしろよ」

「Ja」

「あと、お前も風呂に入って来いよ」

「Ja」

「俺は寢るからな」

「Gute nacht」

「おう、おやすみ」


そう言い、晴樹は自室へと戻る


(今のは流石に、俺でも何言ってるか分かった)


自室に入ると、パソコンの電源を入れてネットを繋ぎ、動画やらSNSを見て、短い髪が乾いた頃合い、ベッドに横になった


(……眠くは、ねえなあ)


まだまだ、眠気は無い。

今日も、割合朝の遅くまで眠っていたのだから


(あいつ、もう寝たか……?)

ちらと時計を見ると、就寝の挨拶を交わしてから随分と時間が経っている

流石に入浴も済ませて、就寝などしているのではないだろうか


(……っていうか、あいつ、何処で寝てるんだ?いくら何でも、台所で寝ちゃねえよな……)


昼間『台所にでも寝てろ』と言った訳ではあるが

多分おそらく、リビングのソファに横になっているのではないか


「…………」

ベッドから起き上がり、足音を殺してそうっとリビングへと向かう

暗がりに目を凝らして、ソファを見遣るも、ウィンクライドは居なかった


(あいつ、もしかして)


そろり、そろりと台所へと向かうと

片隅に、黒い塊が見えた


(おい……)


それは、ウィンクライドだった

何故か、体育座りの様な姿勢で眠っている


「……」

晴樹は苦い顔をすると、そっと自室へと戻り

自分のベッドに掛けてあった毛布を掴んで再び台所へと戻り

それをウィンクライドの身体にそっと掛けた


「……」

ウィンクライドは動かない

体育座りのまま、熟睡しているのだろうか


晴樹は来た時同様にそうっと、出来得る限りに足音を殺して

自室へと戻って行った


「…………Pflege……気遣い、Danke……感謝、する」

後ろで微かに、そんな声が聞こえた様な気がするが

晴樹はふん、と鼻息を吐いてそのまま自室のドアを閉めて、再びごろりとベッドに横になり、目を閉じた


------


いつの間にか、眠っていたらしく

晴樹が目を開けたら窓の外は明るく、時計を見ると午前の丁度良い時間-例えば一般的な、通学の皆々が起床する時刻であった。


(……なんか、こんな時間に起きたのは久しぶりな気がする)

ベッドから降り立ち、着替えて

顔を洗う為に晴樹が部屋を出ると、ふんわりとコーヒーの匂いがした


「Guten Morgen、ハルキ」

ウィンクライドが、台所で何やらと動き回っていた

晴樹よりも随分と前から起きていたらしい


「……ああ」

呆けた挨拶を返して、洗面所に行き、顔をきっちり洗ってからリビングのソファにどっかりと腰を下ろすと


センターテーブルの、丁度晴樹の目の前にコーヒーのカップが置かれた

「……」

これまでの経験から、恐る恐る晴樹はそれを手に取り

警戒しながらそっと口を付ける


「お」

それは普通の、丁度良い濃さの

暖かなコーヒーであった


(……まあ、インスタントだから、当たり前といや当り前なんだが)


危険は無いと確認してから、晴樹はぐっとカップを傾けた




「ハルキ」

「ん?」

「Ei……卵を電子レンジに入れたらExplosion……爆発した」

「あーお前は朝っぱらからもー!!」

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