2_日常




 次の日から、私は四人と行動することになって、昨日浦坂さんが言っていた通り、場所を憶えなくても大丈夫だった。

「この学校移動教室多いんだよね~」

 移動中鼻歌が止んだと思ったら、唯がうんざりした様子でそう言った。

「むしろ移動教室楽しんでるくせに」

 浦坂さんのツッコミに負けた唯は、また鼻歌を歌いだした。図星だったらしい。確かに唯は移動中大体がスキップだし、教室にいるよりも生き生きしている。つまり、そういうことだ。

「元気だね・・・」

「あたし、多分唯は太陽光で動いてると思うのよ」

 真面目な顔でそう言う浦坂さんに、真剣さを感じて、彼女にここまで思わせてしまう唯が、実はすごい人なんじゃないかとも思えた。

「こいつは雨でもこれだぞ」

 そこに高田くんがツッコミを入れた。なるほど。雨でも元気だから太陽光ではないと。その話は確かに、と納得できるものだった。浦坂さんも納得したようで、では何だろう、と考えに耽っていた。

「あほらし」

 真面目に考える二人を横目に、溜め息を吐いて外を見る真幌。なんて熱のない子なんだろうか。

「会話に入ってみようとは思わないの」

「・・・めんどくさい」

「それ、悪い癖じゃない?」

 もうちょっと熱意のある子に育ってほしかった。「燃えるぜ!」的な熱さじゃなく丁度いい熱さと言うか。難しいけどとりあえず、活発な子には育っていないようだ。

 反論される前に唯の元へと走る。

 真幌をいい方向に動かしたい。でも近づきすぎは良くない。距離感が大事だけれど私は距離感を間違えてしまうことがあるから自分でも不安だ。全てが手探り過ぎて怖い。

「ひよりんはまほまほが苦手?」

 慣れない言葉ばかりで返事を返すのに時間がかかった。全員の名前をあだ名にしていくタイプだったか。

「苦手じゃないよ」

 私の真幌に対する態度が周りに不信感を抱かせているのかもしれないと感じた。わざとらしかっただろうか、真幌への接し方は。

「勝手に私たちといるようにしちゃったけど・・・嫌だったらいつでも言ってね」

「嫌じゃない。むしろ唯たちが邪魔って思ったらいつでも言って」

 お互いに自己申告制を求めていることに笑いが込み上げた。唯は思い切りがいいようで人の気持ちを考えられる人だ。明るく振舞っているのは自分の不安を悟られたくないからなのかもしれない。

「そんなことあるうわけないでしょ!まだ少ししか一緒にいないけど、ひよりんとの出会いは運命だと思ってるから」

 恥ずかしいのか私から顔を背けたままそう言った唯。確かに言われてる側も恥ずかしくなるような言葉だった。真っ直ぐだな、眩しいくらいに。

「ありがとう」

 唯は元気に頷いて、教室まで走って行った。

「本当、元気だな」

「そうだね」

 浦坂さんが呆れて笑っていた。この場所にいることができるのは本当に運命なのかもしれない。お父さんとお母さんが一人になった私が真幌と会えるように願ってくれたのかもしれない。

 このままみんなと笑っていられるのなら、兄弟にならなくたっていい。この関係を壊してしまうのなら、繋がりなんていらない。

 もし私が本当に1人だったらこんなこと思えていなかった。冬子さんがいて、真幌にも友達ができて、その友達は私のことを受け入れてくれて。

 幸せなんだ、今が。





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