1_日常
「ここが図書室でー、ここが保健室!」
張り切って案内する唯の後ろを四人でついていく。案内順はやはり浦坂さんの計画通りになっているらしい。
校内は改修工事なども行われているらしく、綺麗になっている箇所も見受けられた。
放課後は生徒が殆ど校内を歩いていないので、悠々と見て回ることができて、唯がフラフラと歩いても誰にもぶつからなかった。そこに関しては放課後にしておいて正解だったと言える。
「まあ、一気に説明してもわからないと思うけど、そこはその内慣れると思うから」
「うん」
ただ歩いているだけのような状態に不安を感じたのか、浦坂さんがフォローしてくれた。確かに覚えられそうにない。前にいた学校より広いんじゃないだろうか。
「っていうか、移動するとき一緒だし、覚えてなくても大丈夫なんだけど」
浦坂さんの言葉には、私がこの四人の仲間に入っている、というニュアンスが含まれていたように思えて、だとすると私は弟と接触する機会が増えるのか・・・と不安要素が増えてしまったような気がした。
一緒にいることが嫌なわけじゃない。むしろありがたい。転入生が馴染めなくて一人になるなんてよくあるシチュエーションだ。
「みんな優しいね」
「友達だし、当たり前でしょ」
浦坂さんのふとした言葉がじーんと響いた。なんて素敵な言葉だろうか。
後ろを歩く男子二人は今の状況に不満はないのだろうか。他に予定があったかもしれない。このグループでは女子の権力が強い?我が弟、まさか尻に敷かれるタイプだったとは。
「どうかした?」
真幌の顔を見てぼーっとする私に浦坂さんが声をかける。危ない危ない、本人に気付かれていなくてよかった・・・。
「なんでもない!ぼーっとしちゃって」
「そっか。疲れるよね、一日目は」
私の都合のいいように解釈してくれる浦坂さんに心の中で手を合わせる。ありがたや・・・。
「ここが最後!私たちのお気に入りの場所だよ!」
ぼーっと階段を上っていたら、唯が振り返った。そこにはドアがあって、左右は行き止まりだった。この先に何があるのだろう。横にいた三人も当たり前のようにそのまま進んでいく。戸惑って立ち止まっていると、真幌が振り向いた。
「行くぞ。何してんだ」
「あ、うん」
初めてまともに話した気がする。小走りで背中を追いかける。届きそうで届かない背中が眩しく見えた。
「うわあ・・・」
扉の先は屋上だった。ここは入っていいところなんだろうか。
私の反応に、唯がくすくすと笑う。彼女たちは慣れているようで、各々持ち場・・・というとおかしいけど、自分の居場所についた。何故か椅子が置かれているし、他の生徒の間でも使われているのだろうか。
「ここは私たちの秘密基地みたいなものだから、是非ともひよりんに教えたかったのですよ~!」
「ひよりん・・・そうなんだ、ありがとう」
名前の呼びかたに違和感を感じたものの、四人のとっておきを共有してもらえたことを嬉しく感じた。というか、屋上を秘密基地にするってこの四人何者なんだろう・・・。
真幌は普通の人として、誰か校長の孫だったりするのだろうか・・・。まあ気にしない方がいいかもしれない。知らない方がいいこともある。早とちりだったら恥ずかしいし。
ガタンガタンと音がして、高田くんが私の前に聳え立った。いや、立った。
「好きなの選んで」
「え?」
手元を見ると、缶ジュースがあった。その中からコーンポタージュを選んで「ありがとう」と受け取りお金を出そうとすると、「歓迎だから」と言ってさっき座っていた場所に戻っていった。
さっきの音は自販機で購入したときのものだったらしい。普通屋上に自販機なんてあるだろうか。本当に不思議だ。
「えー!私には!?」
「自分で買え」
確かに彼が持っていたのは今私が持っているものも含めて三個だった。真幌が持っているから、女子二人の分がない。財布を出しながら「何がいい?」と聞くと「あー違う違う!」と焦りながら唯が走ってきた。
「いつもこんな感じだから。男子の分は男子で買って、女子の分は女子!」
「そーなんだ・・・」
唯はそのまま自販機まで走って行って、浦坂さんの分と自分の分を買った。
この四人は元から四人なのではなく元はそれぞれ男子二人女子二人だったのかもしれないと、その距離の取り方で推測した。近いようで遠い距離感は、今まで感じていた四人のイメージとはまた違う一面を私に見せた。
「きれー」
あくまでも自然に、柵に寄り掛かる真幌の隣に立つ。同じ景色を見ていることに感動する。さっきから感動してばかりな気がする。
隣にいる真幌の存在が何よりも尊く思えた。
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