4_出会う
「え!転入生って!」
先生に促され一歩踏み出そうとした時に聞き覚えのある声が聞こえた。あの元気さはもしかしなくても。
「・・・あ」
一歩踏み入れ目線をあげるとぶんぶんと手を振る山下さんと目が合った。無視は今後の友情関係にひびを入れてしまいそうなので軽く片手をあげると、更に元気に手を振り返される。
最初に彼女と会ってしまうとは予想外。最初は浦坂さんだとなぜか決めつけていた。
「なんだ、知り合いか?」
あまりにも目立ちすぎる山下さんの行動にコタさんが気付いた。
「昨日制服取りに行ってるときに会ったんですよ~」
「先にあいつと合ったのは不幸だな」
「何それ!」
山下さんに容赦のないコタさんを見て、このクラスは先生と生徒の仲が良好らしいと感じた。険悪な雰囲気よりは全然いい。
しばらく二人の喧嘩にも思える言い合いが続き、自己紹介をし損ねる私はぼーっと立っている羽目になった。
「唯うるさい。先生、相田さんが困ってます」
山下さんを諫めて先生に進行を促したのは、神とも言える存在である浦坂さんだった。女子二人は同じクラスだったか。
コタさんは我に返って私のほうを見る。怒られるんじゃないかという様子で私を見るのは冬子さんへのトラウマからなのだろうか。さすがに初対面の人を罵るほど常識知らずではないつもりだ。
「
とりあえず挨拶をする。これを言わないと転入生は始まらない。
私の挨拶に何故かファンのように拍手をする山下さん。恥ずかしすぎる。
「じゃあ、あれだな。席は名前順になってるから・・・そしたら1番だな、相田って」
今気付いた、とでも言うように手を打つコタさん。転入生の席ははやめに決めておいてほしい。一番と言われても今から間に席を空けてもらうのは迷惑すぎる。
「よし、一個ずらすか」
「え・・・」
「プチ席替えじゃーん!」
私が引き気味なのは無視して進行するようで、山下さんは何故かテンションが上がっている。
一個ずつずれるからってそんなに周りの環境に変わりがあるだろうか。単純に席替えと言う言葉に胸が躍っているだけかな。
大移動が終わって空席になった一番前の席に座る。一番後ろが良かった。そんなことはないのだろうけど見られている気がして落ち着かない。なんというか異物感。新しいものにはみんな様々な興味を持つものだ。
「じゃあ、授業の用意しておけよ」
コタさんが教室から出て行った。
ダダダダッと音がして、嫌な予感がしてばっと音のほうを向く。
「やったねーーーー!!」
山下さんが飛びついてくる。勢いに負けてガタガタっと椅子を下げる。
「こら、唯!」
その後からお母さん的な注意の仕方でこちらに来る浦坂さん。やっぱり女神感が強い。
転入直後でこれだけ友人がいれば、他の生徒とのコミュニケーションが取れなくてもなんとかなるんじゃないだろうか。
「同じクラスで良かったです。改めまして、浦坂奈央です」
「あ、相田日代です」
「唯亜だよーーん!」
山下さんのテンションは留まることを知らないようで、どんどん元気になっていっているように感じる。
浦坂さんはもう慣れているようであしらい方が上手い。
のそ、っと浦坂さんの後ろに背の高い男子が立った。高すぎないけど平均よりは高い。運動ができそうに見える。じーっと見ていると目が合った。
「・・・
「高田蓮。よろしく」
「うん」
ぶっきらぼうに名前を言ったその人はどうやらこの二人とよくつるんでいるらしかった。というか・・・昨日いた?
「昨日って、」
視線で探ろうとすると、浦坂さんが説明してくれた。
「この四人が良く一緒にいるかな・・・唯と高田と、真幌」
「真幌?」
「ああ、まだだったね。相田さんの後ろ」
聞き覚えのある名前に振り向くと、高田くんと話していた男子がこっちを向いた。その瞬間に分かった。彼が弟だと。懐かしく感じて瞬間的に涙が出そうになった。
「・・・青木真幌」
「よろしく」
なんとか涙を止める。私にとっては感動の再会でも、彼にとってはただの転入生でしかないのだ。伝えなくてもいいと自分で言ったのに、何故違和感を与えるような行動をしようと思ってしまったのか。緩んでいた気を改めて引き締めなおす。
「学校案内するよ!放課後とか、暇?」
山下さんが首を傾げる様は中々に似合っていて可愛い。
「私は大丈夫だけど・・・山下さんは?」
「唯って呼んでよ!問題ないよ!暇だから!」
「じゃあお願いします、唯・・・?」
「うん!」
全体的に元気で彼女は放課後に近付くにつれ元気がなくなっていくタイプかとも思ったけど、実際この間は放課後も元気だったのでその説はすぐに消えた。
話を聞いていると、放課後の学校案内には四人がかりで行われるらしい。作戦を立てるとまではいかないけど、浦坂さんが順序を決めてくれていた。しっかりしているな。学級委員長でもやっていそうなタイプだと思った。
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