3_きっかけ
写真を見て考える。
「この子は・・・弟は、幸せなの?」
何よりもそのことが気がかりだった。きっとお母さんに未練があるとしたらそのことだ。
友人とは言え、自分のもとを離れてしまった子ども。自分の目の届く範囲にいないのは不安だと思う。
「春子に似たな、日代は」
嬉しくて、笑顔になる。
「わからないんだ、私も会ってない。でも、少なくともあの頃は幸せだったと思う。いい夫婦だったよ、あの人たちは」
冬子さんがそう言うならそうなんだろう。
そんなに仲が良くてもズバズバと言ってしまう人だからこそ、認めているのなら弟は幸せだ、そう確信を持てる。
「それならよかった。私ばっかり幸せだったら、って・・・そう考えてたの」
本当の両親のもとで育った私を恨んでいるかもしれない。こんなにも早く両親を失った私も嘲笑っていてもおかしくない。
私をどんな風に思っていたとしても、彼が幸せならそれでいいと思えた。
「じゃあ、私寝るね」
寝室へと向かう日代の背中を見送る。頼りないはずなのに、彼女は笑顔だ。
「おやすみ」
「うん」
私は幸せだと笑顔で言った日代。
一人になって、真実を聞かされて、錯乱したっておかしくないはずだ。
ただでさえ不安定な年頃だ。両親がなくなってばたばたと動き回っていた彼女は、じっとしていられない様子で。あそこで止まらせていたら、彼女は涙を流していたかもしれない。
「それでも、あんたは泣かないんだね」
頼ってもらいたいのに、きっと頼ってくれない。自分で頑張ってしまうだろう。昔からそうだったように思う。
今、私にできることは__。
今まで知らなかった情報をいっぱいに詰め込み過ぎたのか疲れを感じる。
知らなくていいんじゃなく、必要だから知った。それでも、驚きは大きくて、納得しているように振舞ったものの、戸惑っているところもある。
気付いてしまった、隣にあの子がいないことの寂しさ。知らなかったらきっとこんな気持ちにはなっていなかった。
幸せだと聞いてホッとしたけれど、安心したわけじゃなかった。もし彼が何か不安を抱えているなら力になってあげたいし、迷っているなら道を示してあげたい。関わりたいとそう思ってしまうのはいけないことだろうか。
会わせないように、と冬子さんは言っていた。姉だと名乗ることはできなくても、顔を見たい。記憶にいない彼を一度でも見てみたい。陰からでもいい。会う必要はない、見たいんだ。
今一番大事なのは冬子さんで、だから駄目だと言われれば無理にとは言わない。冬子さんが言える範囲で教えてくれるだけでも大丈夫。
でももし、会えるなら。会えるなら・・・。
写真に写る彼と私を見比べて、本当に似ているな、と改めて感じる。
私は笑顔で、弟は泣いている。泣き虫なんだろうか。私より、弱いのかもしれない。笑っているだろうか。笑えているだろうか。
一度気になるとそれだけでいっぱいになってしまう。
私の弟・・・か。
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