とある旅人は語った。




 何かに迷った時や困った時に探せ。

 目印は、【棺】だ。


 だが、頼り過ぎると逃げるから気を付けろ。

【棺】は何処にでも現れるし、大体何処にでも居る。

 だけど、何処にも居ない。

 まぁ、その内にわかるさ。


 俺の推測じゃあ、小規模な組織だと思ってる。

【棺】は姿も形も違う。

 それに目的も分からねぇ。

 だが、俺が見つける【棺】は不思議と近くに居るらしくてな。

 毎回、無邪気な声で嬉しそうに聞くんだ。


『やぁ、何か困り事かい』


 ってな。

【棺】と初めて会った日なんかは死ぬんじゃねぇかと思ったな。

 なんせ俺自身は死にかけてるし、一人の人間は軽々と入りそうな棺背負った怪しげな奴が目の前に現れるし、な。

 あぁ、今でも俺はあの日【棺】に会ってなきゃ死んでただろう。

 だけど、【棺】は何でか俺を助けた。

 不思議な力を使って、な。

【棺】は俺の命の恩人なんだ。

 それ以降、【棺】はいつも変なタイミングで現れる様になってなぁ。

 ははっ、呆れちまうぜ。

 なぁ坊主、俺の頼みを聞いてくれないか。

 いつかで良い。

 俺を助けてくれた【棺】に伝えて欲しいんだ。


『約束を守れなくて悪ぃな、棺』




 旅人は伝言を頼んだ相手の手首を掴み、苦笑した。

 そこには、旅人にとっては見慣れた、小さな棺をぶら下げたアンティーク調のブレスレットがあった。


「必ず、伝えます」


おやすみなさい、旅人さん







 旅人は伝言を頼んだ青年の背後に立つ人影を見付けて苦笑した。

 チラリ、と目が合った気がしたのだ。

 人影の胸元には丁度、棺のブローチが付けられていた。

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