結婚の話

「ねぇ、私が結婚するって言ったらどう思う?」


 呆然とした。

 何だその元カノみたいな発言は。

 ってか、結婚?

 何言ってんだ?

 諸々を引っ括めても出てきたのは数テンポ遅れの…………


「は?」


 これだけだった。

 その日はそこで結婚話ってやつは流れた。

 だけどまさか、本気だったとは。

 どう思うかなんて、そんなの決まってる。

 そんなの――――――……






 僕からしたら唐突だった。

 夏のある日。

 友人から結婚報告が来た。

 今の時代、電話なんて滅多に使わない事もあって、通信アプリのメッセージとして急に来た通知だった。

 友人から聞いた話としては


「今月末頃に結婚をする」


 だそうだ。

 僕はつい、式はあげるのかと聞いた。

 返ってきたのは


「しない」


 との事。

 理由を聞いた。


「結婚式を挙げるお金が無いから仕方なく」


 文脈から察する事しか出来ないが、おそらく残念なのだろう。

 きっと、結婚衣装を着たかったに違いない。

 前、友人が結婚するとしたら、と語っていた事もあって余計にそう思う。

 正直もったいないと思った。

 実際に見た訳では無いので想像する他無いが、教会で純白の衣装に身を包んだ友人は美しいのだろうと思ったからだ。


 そこで、ふと違う可能性にも思い至る。


「そっか

 式をあげるとしても教会とは限らないのか」


 神社での結婚式衣装。

 やはりこれも想像しか出来ないが美しいのだろうと、そう思った。

 友人の晴れ姿を親友として見たかった。


 そうすれば―――…………


 胸の辺りに違和感をおぼえた。

 僕はその違和感の正体を察した。


 これは叶わない。


 僕は苦笑いを零しながらそっとこの違和感を忘れた。

 僕は友人にメッセージを送った。


「おめでとう」


 素直な気持ちで。






 夢だった。




 夏のある日。

 友人から結婚報告が来た。

 今の時代、電話なんて滅多に使わない事もあって、通信アプリのメッセージとして急に来た通知だった。

 友人から聞いた話としては


「今月末頃に結婚をする」


 何処かで聞いた事のある話だ。

 いつ、何処でだったかな。

 そう思いながら、式はあげるのかと聞いた。


「式はあげない」


 だった。

 なんともったいない、とは思わなかった。

 だって、僕は友人とは親友だと思っていたから。


 友人に恋人が居るのは知っていた。

 一度挨拶をして、何度か顔も合わせている。

 だけど、納得が出来ない。

 僕に恋人の話をする時、友人は笑いながらどこか諦めている様な表情をしていた。

 泣きそうでは無いけれど、幸せそうでも無かった。

 僕が真っ先に考えたのは、友人が本当にそれで幸せなのだろうか、と言う事だった。

 それでも、結局は僕では無く友人が自分で出さなきゃならない結論なのだから詮無い事かもしれないけれど。

 そうして僕は何も出来ないまま、友人の話を最後まで聞いていく。

 友人は自分の苗字に愛着がある事や、もうお互いの親に挨拶をしていたらしい事が知れた。

 僕はその時悟った気分だった。

 僕と友人は何処までも友人であって他人なのだと。

 もう他人事なのだと。

 まぁそれでも、友人の話を聞く事ぐらいは出来るのだし、僕はそれで満足する事にした。

 僕はきっとこれからも友人の愚痴に喜んで付き合う事だろう。






 現実の僕は「おめでとう」は言えなかった。

 それはそれは素直じゃないのかもしれない。


 「友人の幸せを認められないのか」


 最初とその質問に答えるなら


「複雑な気分なんだ」


 僕にあの夢の様な「おめでとう」は難しい。

 どうやら僕は素直じゃない上にヘタレらしい。

 あぁ、めてくれ。

 今更なんて言わないでくれ読者様よ。

 これじゃあ、きっと本人にも笑われてしまう。

 はぁ、全く。

 自分が恥ずかしいよ。

 仕方ない。

 この場を借りよう。


 ん"ん"っ、月並みな事しか言えないが…………(こら、顔が赤いとか言うんじゃない。)




「僕と友人の付き合いは結構、長いと思う

 小学生の頃からだから、幼馴染みってやつだね

 違う高校に行ってたのに君が転校して来た時、再会した時は驚いたなぁ

 実は僕、あの時ものすごく緊張してたんだけど多分君は気付かなかったよね

 僕ね、正直君が僕とこんなに長い間友人で居てくれるなんて思ってなかったよ

 ありがとう、これからもよろしくね

 結婚おめでとう」





 あれ、何か予想以上に恥ずかしいなぁ。

「結婚おめでとう」だけで良かったかなぁ。



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