君の笑顔がただ見たかった
あの子が泣いていた。
惨めったらしく、泣き叫んでいた。
私はただ、愛されたかっただけなのに。
そう、叫んでいた気がした。
本当は違うのかもしれない。
単なる僕の思い込みかもしれない。
それでも僕にはそう聞こえてしまった。
僕はその光景をただ見つめていた。
何も出来ず、何もせず。
ただひたすら。
そして、この光景が
あの子の泣き顔が今でも忘れられない。
何度でも、思い出してしまう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
後悔するのならば、何もしないで後悔するより、行動してから後悔したい。
けど、失敗すると分かりきっていた事をしてまで後悔したいなんて無謀な事は一度も思わない。
あの子はそう言ってたんだ。
僕の目の前で。
僕に対して。
確かにそう言ってたのに。
「失敗するって分かっていただろ」
「…………」
「お前は自分から失敗に向かったんだ」
「違っ「違わない、お前は何も考えずに行動していた
案の定「違うっ!!」
あの子の涙を、久しぶりに見た。
僕があの子を泣かせてしまっていた。
泣いて欲しかった訳じゃ無いのに。
僕はあの子を笑わせるはずだったのに。
あの子の笑顔を守りたかったのに。
「じゃあ何でっ!」
――――――自分から傷付きに行ったんだ!
言葉には、ならなかった。
出来なかった。
ぱぁんっ!
「分らず屋!」
泣き腫らして目元を真っ赤にしたあの子が激情に任せて僕の頬を叩いたから。
僕もあの子と変わらない思いを抱いていた。
それでも手を出す訳にはいかなかった。
あの子を泣かせてしまったのは僕で。
手を出させてしまったのも僕だったから。
これ以上、言葉を発する事も出来ずに気まずい雰囲気だけが僕とあの子を包んだ。
あの子が僕に手を出した事に驚いて、傷付いた顔をしていたから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「話を聞いてくれて、ありがとう」
ずっと笑わなかった君がほんの少し唇を緩めて笑った気がした。
何も出来なかった。
私に出来たのは、ただ君の傍に居た事だけだ。
私は人を慰めるのが得意では無いし、会話だってどうしても続かない。
いつもだったら、私が君の話を聞くなんて事は無い。
だって、君はぶっきらぼうで口調はどこからどう見ても喧嘩を売っている様。
君は普段からそんな感じなのに、私は初めて見た君の弱々しい姿に放っておけなかった。
君が本当は優しい人だった事を、話を聞くまで分かりもしなかった。
それぐらい私は君を知ろうとしてこなかったのに。
私が君の話を聞いていた。
ただそれだけの事に君は笑顔を見せて感謝していた。
「僕も、肯定して頷いてあの子の話を聞いて慰めていれば、気まずくはならなかったのかなぁ」
君が弱々しく呟いたそんな言葉には頷けなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます