赤色



 目を開いて真っ先に広がるのは赤、赤、赤、そして赤。

 赤い肉壁、赤い鳥居、咲き乱れる真っ赤な彼岸花。

 …………不気味に微笑む赤い女。



「待ってたわ」


 声はと同じ声をしていた。

 そこもまた、不気味さを助長させていた。

 よく見てみると、女性の両腕は肉壁の生々しい赤さに紛れる様に固定されていた。

 そして、下半身胸から下は……千切れてしまったのか、を滴らせて無くなっていた。

 それを知った自分が何故、気絶しなかったのか不思議でならない。


 それに今赤い彼女は自分に「待ってたわ」と言った。

 自分は赤い彼女に呼ばれたか、自分が自ら迷い込んだのだろう。


「さぁ、かつての続きをしましょう」


 かつて?

 自分は以前にもここに来た事があると言う事だろうか。

 それでもわかった事はあった。

 彼女の笑みは不愉快だ。

 自然と手が彼女の唇に伸びる。

 その手は何故か青かった。

 だが、彼女はただ一言言った。


「あら、それは無理よ」


 そしてそう言ったそばから唇に触れそうになった手に激痛が走った。

 反射的に手を押さえる。

 痛むその手は赤く染まっていた。

 悔しい。

 その口を無くしてしまいたい。

 まだ自分の侵食は終わってない。

 確かに徐々に赤い彼女を蝕んでいた。

 それでも、赤い彼女は自分が侵食出来ない場所を知っていた。

 

「残念ね、またいらっしゃい」


 赤い彼女の唇が歪む。

 にいぃと、不気味な笑みだった。

 それは挑発だった。

 赤い者特有の蔑みだろう。

 一番痛いのは自分じゃない。

 一番痛いのは、赤い彼女だ。

 自分は赤い彼女を侵食する側なのだと知ったのだから。

 それでも赤い彼女はしぶとい。

 赤い彼女は知っている。

 自分が無くした物を拾っているから。

 自分が知らない事も。

 自分が本当はどう思ってるかも。

 だから自分は赤い彼女を侵食する喰うのだ。

 忘れてしまっている事の殆どを赤い彼女は持っているからだ。

 赤い彼女は自分が侵食する理由も侵食出来ない箇所も全て知っている。

 だから痛みの中でも笑っていた。

 自分はこのままだと偽物のままだと言うのに。

 空っぽなままだと言うのに。






「一度手放してしまったのでしょう」


 赤い彼女はそう言って拾う。

 


















「臆病になったものね、私……」


赤い彼女は青い彼女が落としたを大切そうに抱きしめた。



――― Fin

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