ともだち。

それから毎日彼女に会いに行ってたんだ。

朝早くから、それと退屈な学校が終わった後にね。

サンドイッチと弁当を渡す為に。

それからの彼女はね、僕の姿を見るたびに嬉しそうな表情をするんだな。

不思議な感覚になるんだよ。嬉しいのか、恥ずかしいのか。今でもその感覚は分かんないんだな。

あぁ、また嘘ついたね。ごめんね。

本当はね、嬉しいんだな。うん。嬉しかった。

君には分かんないと思うけどさ。


悲しい事にたまにビルとビルの隙間に彼女がいない時があるんだ。

どこで何をしてるのか分かんないけどね、その時の僕はさ、ひどく落ち込んでいたと思うよ。

学校では友達なんていないし、家に帰ったって両親

はいないしで、そんな僕にとって彼女とあの狭い空間で過ごす時が1番楽しいんだな。

彼女は僕のたった1人の友達なんだよ。

結局、彼女の方はどう思ってたかは知らないけどさ。

でも今でも僕はそう思ってるよ。


色々な話をしたよ。彼女と話して分かった事はね、

猫が好きで、彼女になついてる猫が3匹もいるんだよ。動物に好かれる人ってさ、心が優しい証拠だよね。中には手なずけるのが上手いだけで心は汚い色をしている人もいるけど。

犬は苦手だったな。犬が吠えるとビクッてする姿は可愛く思えたよ。

綺麗に晴れた日の夜は星が沢山見えるから好きで、

雨が降ると拾ってきた傘でずっと過ごさなきゃいけないから嫌いだって事。

シチューは好きだけど、カレーは辛いから苦手で、

お米よりもパンが好き。

ハッピーエンドの物語が好きで、暗い話はとことん落ち込むから読まないって言ってたな。

それでね、1番楽しかった事はね、感想を言い合う事なんだよ。僕って小説が好きでね、良く読むんだよ。

彼女にも読んでもらってさ、お互いにここの部分が良かったとかさ、ここは面白くないよねって言いながらさ。

不思議なんだ。笑顔なんだよね。ずっと。

勿論、僕も彼女といると笑顔になるけどさ、彼女も笑顔なんだな。

嬉しい気持ちになるんだな。これが。


彼女と話す様になってから、突然彼女は言ったよ。

「いつも有り難う。私にとって君がサンタクロースだ

 よ。」って。12月はとっくに過ぎてたのにね。

困るよね。

そんな事言われたらさ、僕は赤い服を着なきゃいけないし、白い髭を鼻の下とかに付けなきゃいけな

いしで大変なんだな。

僕自身、サンタクロースなんて信じちゃいないし。

でも何でだろう。彼女に言われると、やらなきゃ。って思うのは。

まぁ結局、そんな格好はしなかったけどね。


ごめんね。この話はこれで終わりなんだな。


暖かい季節が来る前に彼女は死んだんだ。

朝早くおきて、いつものビルとビルの間に行くと、

救急車とパトカーが止まってたんだ。

野次馬もちらほらいたね。僕は気になって野次馬の1人になってさ、見てみたんだよ。

そしたらさ、担架の上に寝てる人がいて、白い布がその人の上に被さってたんだ。

顔は見えなかったけど、片方だけ赤い靴下を履いてる足が出てたんだ。

その時に気づいたんだ。運ばれてるのは彼女だって。

僕はそのまま回れ右してさ、家に帰ったんだ。

学校は無断欠席したよ。

どれくらいの時間をリビングで座って過ごしたのか覚えてないんだな。

ぼぉーとしてさ、何もやる気になれないんだな。

水を飲むためにキッチンに行ったついでにテレビを点けたんだ。ニュースでその事が取り上げられてたよ。

意識不明のホームレスは病院に着いた時に亡くなった事。

そのホームレスに乱暴した二人組の男はすぐに逮捕された事。

女性の身元は分からない事。


不思議なんだな。僕って泣いてないんだよ。

その時もだし、今も。

何でだろうね。

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