ほん。

僕は彼女の隣に座って空を見てたんだ。

あの日は特別綺麗だったなぁ。

多分、君も似たような経験があると思うんだよ。

空を見てさ、心が洗われる様な感じだったり、

すっきりしたり、落ち着いたりさ。

あの不思議な感覚だよ。それってさ、何だかいいよね。僕はすごく好きなんだよ。


僕が作った弁当を食べ終えた彼女は、「ご馳走さまでした。」って言って、空になった弁当箱を僕に渡して、「有り難うございます。」って言ってくれたんだ。

それも笑顔で。

君が彼女の笑顔を見たら間違いなく好きになってたと思うよ。本当に綺麗な笑顔なんだよ。

その、整った綺麗な顔とかさ、そういう外見的な事じゃなくて、内面的な綺麗さのやつだよ。

僕の周りの人がするさ、顔は笑顔でも心の中は黒い感情があるやつだよ。伝わるかな。

すごい事に彼女にはそれが無いんだな。

心から笑顔なんだよ。僕にはそう感じるよ。

皆もその笑顔が出来ればいいのにね。


僕は弁当箱をしまう時に鞄の中を見て気づいたんだ。

図書室から勝手に持ち出した絵本が入ってた事に。

僕はその絵本を取り出して彼女にあげたんだ。

本当はね、ダメな事なんだよ。分かってると思うけど。

その本を受けとった彼女の目はね、凄いんだよ。

子供みたいにキラキラしてたんだ。

「有り難う。君は読んだ?」

「多分、読んでません。覚えてないんです。」

「そっか。それにしても面白いタイトルだね。」

「どんなタイトルですか?」

「サンタクロースのばか。」

「変なタイトルですね。面白くないと思う。」

「今から読んでいい?」

「はい、どうぞ。僕の事は気にしないで下さい。

 ずっと空を見てますから。」

「……ねえ、一緒に見よう?」

困ったよ。だってさ、一緒に見る為には彼女に近づかなきゃいけないんだ。

僕は彼女の隣に座ってたんだけど、人が1人座れる空間を開けて座ってたんだ。

緊張したな。彼女と肩が触れる所まで近づくとさ、

僕の心臓はうるさくなるんだな。

その音が聞こえません様に、って誰にお願いしてるのか分からないけどさ、本当にそう思ってたんだ。

それはそうとして、嬉しい事にさ、彼女はゆっくりとページをめくるんだな。分かるかな、僕の事を思ってわざとゆっくりしてるんだな。

嬉しいよね。

君にも似たような経験があると思うけどさ。

分かってくれると嬉しいな。


それでね、その絵本を読み終えて僕が思ったことはね、素晴らしいの一言だよ。

内容はたしか、幼い主人公の性格はひねくれていて、

サンタクロースの事を信じてなかったんだよ。

主人公は親に、サンタクロースに何をお願いする?って聞かれるんだけど、主人公は、そんな変態にお願いする事なんてないよ。って言うんだな。

その通りだよね。考えてみてよ。だってさ、変態だもん。サンタクロースって。

赤い服を着てさ、見ず知らずの子供にオモチャだとか、本とか服とかさ、勝手にあげちゃうわけだよ。

僕らは両親から、へんな人に話かけられても返事しちゃダメとか、物を貰ってはダメとかって言われてるのにさ、何でサンタクロースはいいの?ってなるよね。僕たちからしたらサンタクロースも知らない人なんだよ。

親の言った事を守ってたのに、僕らがそれを言うとさ、親は変な顔をするでしょ?訳が分からないよね。

それでね、その絵本を読み終えた頃には空が真っ暗になってたんだ。

「それじゃ、また明日、朝に来ます。」って言って僕は家へ帰るんだな。

急いで家に帰ったって誰もいないのにね。

僕はいつだって早く帰る様にしてたんだ。

さっきの話じゃないけどさ、昔っから両親に早く帰ってきなさい。って言われてたってのもあるんだ。

僕はいつだって両親の言う通りに生きてきたんだな。

今になってあの絵本の主人公が羨ましいって思うよ。

自分の気持ちを正直に伝えられる事がさ。

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