たべもの。
それまでの僕はいつも朝の8時に起きて、朝ごはんを食べてから学校に向かうんだ。
近くに住んでたから、遅い時間に出ても遅刻しなかったんだ。
でも、彼女と初めて会った日の次の日は早く起きて、サンドイッチを作って、家を出たんだ。
僕がこんな事をしても両親はほとんど家にいないし、一人っ子だしで誰も気にしないから気楽なもんだよ。
まぁ少しは寂しいと思うけど、それもほんの少しだよ。僕は昔っから1人が好きなんだ。
それでね、サンドイッチを持って朝早く彼女に会いに行ったんだ。
誰が捨てたのか分からないゴミが散らばっている、ビルとビルの間に彼女はまた真っ黒な格好で座ってたんだ。昨日と違う所は、僕があげた赤い靴下と黒い靴を履いてくれてた事だね。
僕はね、嬉しかったんだよ。ものすごく。うん。
すごく嬉しかったな。
でもそれと同じくらい恥ずかしかったよ。
彼女に近づくとビクッて体が震えてね、恐る恐る僕を見るんだ。にしても綺麗だったな。君にも見て欲しいくらい彼女の目は綺麗なんだよ。
勿論、目だけじゃないよ。汚れた格好だけどね、全体的に綺麗なんだよ。
何でこんなに綺麗な人がホームレス何だろうっていつも寝る前に考えるけどさ、まぁ分からないよね。
僕自身、彼女からそれだけは聞かなかったからさ。
それから、彼女は小さな声で僕に言ったんだ。
「あ…あの有り難うございます。…靴下と靴。その…
とっても、あ…暖かいです…」
声も綺麗なんだな。
「そうですか。良かったです。」
僕って人見知りが酷かったんだよ。昔はね。
今はなんて事ないけど。
「今日はサンドイッチを持ってきました。
よかったら食べて下さい。」
もうちょっと愛想よくすればよかったな。
まぁ最初はこんな感じだったけど、少したった位から仲良くなってさ、僕も彼女も笑顔で話せる様になるんだな。
サンドイッチを差し出すと、彼女は驚いてたよ。
「あの…何で私にそんなに良くしてくれるの?」
困ったな。理由なんて無いんだもん。
本当に無いんだよ。ここの硬いベッドの上で寝転びながらそれを考えるけど、理由が思い浮かばないんだよ。
それとね、僕って根っからの嘘つきなんだよ。
「学校でやってるボランティア活動の一環です。」
ほらね、嘘つきでしょ?僕はそんなのこれっぽっちも感心を持った事なんてないし、どうでもいいとさえ思ってる人間なんだよ。
悲しい事にさ、こんな所にいる僕もやっぱり他の皆と変わらないんだな。
自分の事で精一杯。ほんと悲しいよね。
彼女は僕の嘘を信じちゃって、サンドイッチを受けとると、有り難うございます。って小さい声で言ったんだ。横を通る車の音が大きいと彼女の声は聞こえないくらい小さいんだな。
でもさ、それくらいがいいよね。女性って。
クラスの連中みたいに喚いたりしない方がさ、女性の魅力を感じると思うんだ。
君はどうか知らないけど、僕はそう思ってるよ。
彼女、ものすごくお腹が空いてたみたいでさ、あっという間に食べ終えちゃったんだよ。
「ご馳走さまでした。本当に有り難うございます。」
「気にしないでください。」
僕はそう言って腕時計を見ると授業が始まる5分前って事に気づいたんだ。
走ったよ。多分、僕の人生の中であの時が1番全力で走ったと思うよ。
結局、遅刻したけどね。
学校が終わるといつもの様に1番に教室を出て、彼女に会いに行ったんだ。
彼女はどこからか拾ってきた段ボールを地面に敷いて座ってたんだ。
何だろう、絵になるだよ。分かるかな、その時の彼女の姿はさ、段ボールの上に膝を抱えて座っててね、
薄暗い空を見てたんだよ。もしかしたら色んな形の雲を見てたかもしれない。それは分からないけどね。もし僕が絵を書ける人間だったらその時の彼女を書いて一生宝物にするだろうね。
ひどい事に僕って絵の才能が全然ないんだな。
自分では犬を書いたつもりなのに、他の人からは像を書たの?って言われるくらいひどいんだよ。
不思議だよね。
僕はお昼で食べるつもりだった弁当を彼女に渡したんだ。
お腹が空いてなくてね。いや、ごめん。いつもの癖で嘘ついちゃった。
本当は今朝弁当を作ってる時から決めてたんだ。
彼女に渡そうって。
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