サンタクロースのばか。
タッチャン
はじまり。
わざわざこんな所に来てくれてありがとう。
僕の話が聞きたいなんて、君も物好きだね。
これから君に話すのはなんて事ない、僕の思い出話なんだ。退屈だったら途中で帰ってもいいよ。
うん。僕は全然構わないよ。
長々とごめんね今から話すよ。時間も無い事だし。
彼女と出会ったのは僕が15才の時。
とても寒い冬だったよ。
その日も死ぬほど退屈な学校の授業を受けてたんだ。友達なんていない僕からしたら学校ほど退屈なとこなんて、世界中探したってないんだな。
不思議だよね。
下校時間のチャイムがなると僕はクラスの中で教室を出るのが1番早かったんだ。
ほんとにずっと1番だったんだよ。
寒い中僕は家に帰るために街を歩いていたんだ。
ものすごい高いビルが沢山ある街で僕は育って、学校もその都会の中にあってさ、そこに通っていたんだ。変だよね、都会って。沢山人がいるのにさ、
みんな他人なんだよ。中には顔見知りとすれ違う時だってあるんだけど、軽く挨拶するだけなんだ。
ほんとそれだけなんだよ。
皆自分の事で精一杯みたいな顔してさ、他人に構う時間なんてこれっぽっちも無いんだよね。
あぁ、それが当たり前なのかな。不思議だね。
ごめんね。すぐ話が横道に逸れちゃうね。僕の悪い癖なんだ。話を戻すよ。
その帰り道の途中で僕は彼女と出会ったんだ。
ビルとビルの隙間、人1人通れる位の狭さに彼女は座ってたんだ。
最初見たときはね、黒い物体がもぞもぞと動いていたんだ。それが僕の視界の角に入ってきてさ、僕は気になってそれを立ち止まって見てたんだ。
すぐにそれはホームレスの人なんだってわかったよ。
彼女は、いや、その時は女性なんて思ってもいなかったよ。ホームレスって男の人を想像するでしょ?
それでね、僕はさ、いつもならそんなの見て見ぬふりをするんだよ。皆と同じなんだよ。こんな所にいる僕もやっぱり皆と一緒なんだな。
ひどい事にそのホームレスは裸足だったんだ。
想像してみてよ。寒い中裸足で過ごさなきゃいけない状況を。恐ろしいよね。
僕はそれを見て余計に寒くなってさ、急いで近くの雑貨屋さんに入って、靴下と靴を買ったんだ。
靴下の色は赤色で、靴は黒を選んだ。僕が1番好きな色なんだ。
足のサイズが分からないから、サンダルみたいな、
ほら、皆が履くやつだよ。足の先に丸い穴がポツポツあるやつ。それを買ったんだよ。
まぁ実を言うと僕はお金に困ってないんだな。
僕の家はそこそこお金持ちなんだよ。
お父さんは医者だし、お母さんは政治家で何かしら活動してる人なんだよ。
今は何をやっててどこに住んでるか何て分からないけどね。
その両親のお陰で僕のお小遣いは子供が持つには不釣り合いな額なんだ。
だからさ、そういった買い物がすぐに出来るってわけ。でも僕はそれを自慢なんてしたこと無いんだよ。
僕自身が稼いだお金じゃないしね。
大きい家に住んでるのもどうでもいい事なんだ。
両親が勝手にやった事で、僕には関係無いんだな。
それでね、靴下と靴を持って、ビルとビルの隙間に入って、その人に言ったんだよ。
「よかったら使って下さい。」って。そしたら、その人は顔を上げてさ、いや、本当にびっくりしたんだよ、その時は。だってとっても綺麗な女性だったんだから。
黒い髪に、黒い目、黒い服、何もかもが真っ黒だけど、顔だけが白くて、何か不思議な感じだったよ。
僕が差し出した靴下と靴を見て彼女は小さい声で言ったんだ。
「結構です」って。
いや、僕の想像とは違ってたんだ。僕は、
「いいんですか?ありがとう。使わせて貰うよ。」
って言って、受け取って貰えるもんだと思ってたんだ。現実は違うね。
その後は何も喋らなかったよ。
ただ、赤い靴下と黒い靴を彼女の前に置いて、僕は走って帰ったんだ。
僕の顔は熱くて、赤かったと思う。
途中で後ろを振りかえって見たけど、沢山の人が彼女の横を通っていたのに誰も彼女を見ようとはしなかったんだ。都会って変だよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます