最終話 【GAME OVER】





「佳奈美ーーーっ!!!」


その時、残りのゲーマーズ達が4人揃ってなだれ込んできた。


「みんな、無事だったのか!?」

「突然、再生アンチャーが消え去ったんです。

 佳奈美さんが首領と戦闘を始めたせいでしょうか?」

「で、あいつがその首領だね」

「けったいなツラしてはるわー」

「…………倒す…………」


臨戦態勢に入るゲーマーズ達。


「ふふ、ちょうど良い。

 今、ちょうどお前たちの成り立ちについて語ろうとしていた所だ」

「しゃべくりに来たんとちゃうわ!!」

「……先手必勝……!」


不敵に笑う首領をよそに、

千里のマシンは突撃し、それに乗る亜理紗は銃撃を仕掛ける。


だが首領は動じず、全弾を指で止める。


「G・ファイターもそうだったが、せっかちな連中だな。

 前口上ぐらいは大人しく聞くのが―――」


回り込んでいた八重花が首領の首元に斬りかかる。

が―――


「―――大人しく聞くのが、礼儀と言うものだぞ」

「……っ!!?」


首領は瞬間移動したように八重花の後ろに回り込んでいた。


咄嗟にバイク形態に変形して突進された千里のマシンを片手で受け止め、

飛び降りて横から銃撃した亜理紗の弾丸は、増やした腕で切り落とされる。


―――瞬間、首領の頭上に閃光が閃き、首領の頭ははじけ飛んだ。

昌子が起動させていたサテライトビームだ。


だが、他の再生アンチャーのように、首領も簡単にその身体を再生させてしまう。


「私を倒そうとしても無駄だ。

 何故なら私には、まだ『死』が設定されていないからだ」

「設定!? さっきから何の話をしてるんです!?」

「ゆっくり聞く気が無いなら端的に言おう。この世界はゲームだ。作りかけのな」

「なんやて!?」


この世界はゲーム。

その言葉を聞いて、ゲーマーズの動きが止まる。

……先にそれを聞き、今まで動けなかった佳奈美と同様に。


「じゃあ私達も、ゲームのキャラクターだとでも言うの!?」

「その通り、お前たちはこのゲームを盛り立てるために作られたキャラクターだ」

「…………キャラクター…………」

「お前たちはみな、プレイヤーの共感を集めるような背景が設定されている」


首領は八重花を指す。


「他人を恐れ、ゲームに逃れし者。G・アクション」

「あ、あたし……!」


千里を指す。


「確立できぬ自我を、ゲームに求めし者。G・ドライバー」

「ちゃ、ちゃう……ウチは……!」


亜理紗を指す。


「孤独を恐れ、ゲームに繋がりを築きし者。G・シューター」

「……私……そんな……」


昌子を指す。


「不満や鬱憤を、ゲームに晴らさせし者。G・パズラー」

「わ、私は……!」


最後に、佳奈美を指す。


「そして己の道を、ゲームに見出しし者。G・ファイター」

「……………………」


無言で睨みつける佳奈美を、首領は滑稽そうに笑う。


「この世界は、おまえたち5人を中心にして創られたゲーム……。

 その名も、『ゲーマーズVR』……!!

 お前たちが今まで喜び笑い、時には悩み苦しみ、戦い抜いてきた軌跡。

 それらは全て、予定されたゲームの脚本通りだったということだ」

「ウ、ウチらの今までの闘いが、全部ゲームだったとでも言いたいんか!?」

「あぁそうだ。そして、最後にラスボスである私を倒すことで、この世界は終わる」

「………っ!!!」



なるほど、その通りだ。

本当にこの世界がゲームだとすれば……。

ラスボスを倒すことで、全ては終わってしまう。


愛する人も……大切な仲間も……熱狂した日々も……。

全て全て、夢幻と消えてしまう。



「待ってください!!

 あいつの言うことが真実だと決まった訳ではありません!!」

「……!!」


昌子が檄を飛ばす。

確かにそうだ、奴の話には何の証拠もない。


「くくっ、試してみるか?」


首領は無防備に腕を広げた。


「確かにお前たちを惑わすための虚言かもしれん。

 だがいざ倒した後、やっぱり本当だったと分かっても取り返しはつかんのだぞ?」

「くっ…………」


どうすればいいのか。

いきなりの話に混乱しているゲーマーズ達には冷静な判断ができない。


「まぁ信じようが信じまいが、どちらでも同じだ。

 先も言ったが、私にはまだ『死』が設定されていない。

 どう足掻いてもおまえたちに私は倒せないのだから」

「……っ!!!」


突然、首領が拳を降り下ろしてきたので、ゲーマーズたちは散開して避ける。

拳が命中した地面は、破裂し、えぐり切られたようになる。

……いや、それだけではない。

地中を放射状に衝撃波が広がり、轟音と共に辺り一面の地面が粉々になった。


「どうだ、この力!

 私には、まだパラメータの調整が入っていない。

 仮置きされたパラメータには、最大の数値が入力されている……

 よって、私はこの世界で無敵のパワーと無限の体力を得た……!!」


そう言って首領は力むと、どんどん身体が膨張していく。


「私はこの力を持って、おまえたちゲーマーズを倒し続ける……。

 これで、この世界は永遠に終わることなく回り続ける……!!」

「……なるほどね、よく分かったよ」


佳奈美がずいと身を乗り出した。


「そうか、この世界の仕組みをようやく理解したか、Gファイター」

「違う、そうじゃない」


佳奈美は後ろの仲間を振り返る。

千里、亜理紗、八重花、昌子……。

みな視線をかわし、頷きあった。


「つまりお前を倒せば、あたしが……いや―――」



「「「「「―――あたし達が、最強だ!!」」」」」



ゲーマーズ達は、再び各々の獲物を構え、首領に対峙する。


「ふっ、所詮はゲーマーとして設定された本能には逆らえんか。

 良かろう、仕様の限界まで引き上げたこの力、とくと味わうがいい!!!」


さらに力を解放し、首領は皮がむけるようにおぞましい本性を現す。




「……昌子、それにみんな。提案と頼みがある」

「なんでしょう?」


振り返った佳奈美は、ゲーマーズ達に何事かを伝える。


「……なるほど、私たちがゲームキャラだと仮定するとそれは必要な作戦ですし、

 Gパズラーの演算能力なら不可能ではありません。ですが……」

「ウチは平気やで、いつもやっとることやし!」

「……私も……得意分野……」

「あ、あたしだって!」

「決まりだな」


「むっ?」


突然、ゲーマーズ達が円になって手をつなぎ、瞑想するように目をつぶり始めた。

ゲーマーズ達の間を謎のエネルギーが循環していく。


「何の真似だか知らんが……それで私に勝てるというのなら、やってみるがいい」


余裕たっぷりにゲーマーズ達を見守る首領。

そして約1分後、ゲーマーズ達は同時に目を開く。


「どうした? やけに息が上がっているように見えるが?」


首領の言葉通り、再び首領に向き直ったゲーマーズ達の顔は疲労で紅潮し、

息もぜぇぜぇと苦しそうであった。


「心配するな……今からお前の敗北を見せてやる」

「…………パターン見切った…………」

「ラスボス討伐最速記録出すでぇ!!」

「みんな、ミスんないでよっ!!」

「これが私たちの最強の奥義です!!」



『『『『『“百万回の敗北”!!!』』』』』



そう叫ぶと同時に、佳奈美の乗った千里のマシンが首領に突撃してくる。

首領は迎撃しようとするも、急にUターンして進路を変える。


「ふん、臆した―――」


言い終わる前に首領の顔色は変わる。

千里のマシンの陰に隠れるように、

地を這うような軌道でロケット弾が発射されていたのだ。

そしてその上には八重花が乗っている。


「食らえっ、バカ首領!!」

「ぐおおおおっ!!!?」


八重花は寸前でロケット弾を蹴り飛ばし、首領の顔面に直撃させる。


「ぐっ、ちょこざいな……!!」


そのままチクチクとウィップソードで首領を攻撃し続ける八重花に対し、

首領は思い切り腕を降り下ろす。


「……ぬぐおぉっ!!!?」


突然、首領は背後から蹴り飛ばされる。佳奈美だ。

八重花は吹き飛んだ首領の下をくぐりつつ、さらに追撃を加える。


「バカな、いつの間に背後に!?」

「ウチが運んだに決まっとるやろ!」


そういう千里は最初の走りだしからずっとグルグル回って加速しており、

既にバリアがかなりの強度まで強化されている。

それが、吹き飛ばされた首領の正面から向かって来ている。


「ぶぐわああああああああああああああああ!!!!」


とんでもない衝撃音と悲鳴が上がり、首領の身体が消し飛ぶ。

―――が、首領の身体はすぐ再生してしまう。


「ふっ、なるほど大したものだ。だが言ったように私ヴァッ!!?」


マシンをショベルカーに変形させていた千里が、

再生したばかりの首領の横っつらをひっ叩く。

そうして再び吹っ飛んだ先には、昌子がレイピアを構えて立っていた。

腹部に深々と突き刺さっていくレイピア。


「ぐぎゃあああああああああああああ!!!?」


反射的に後ろに飛びのいてレイピアを抜くが、

後ろから放たれた亜理紗の波動砲に吹き飛ばされ、

再び腹部にレイピアが突き刺さる。

なお当の昌子は上手く首領の影に入り、波動砲に巻き込まれずに済んでいる。


「ど、どうしてここに弱点のコアがあることがわかっ―――ぎゃっ!!?」


レイピアを抜き取り、今度は別の方向に逃げた首領だが、

そこに待ち構えていた佳奈美の佳道拳で吹き飛ばされ、

角度を変えて待ち構えていた昌子のレイピアに再び突き刺さる。


また逃げようとする首領だが、

地中に逃げては千里の削岩機に押し戻され、

空中に逃げては八重花に蹴り落とされた。

その度に首領の腹には穴が増えていく。


「ぐぐぐぐっ……!!!

 無駄なことをしおって、私には『死』が存在しないとまだ分からんか!!?」

「それは嘘ですね」

「な、なに?」


昌子はメガネをくいっとしながら、冷静な目で首領を見つめる。


「あなたは確かに凄まじいパラメータを持っているし、

 どんなに傷ついても無限に再生することが出来る。

 ……けど、それでも『死』が存在してないわけじゃない」

「バカな、そんなはずはない!!」

「負けイベントとかでよくあることや。

 『死なない』という例外処理を作るのは実は意外と面倒なんや。

 せやから、本当は『死ぬ』けど、ほぼ不可能な条件設定をしてお茶を濁す」

「あんたは仕様上最大の体力で、一発食らうごとに体力が全快しているだけ。

 HPがゼロになったら、あんたでも結局死ぬんだよ」

「そ、そうだったのか?

 だ、だとしてもお前たちに私のHPがゼロにできないなら同じことだ!!!」

「できる」

「な、なにっ?」

「…………そろそろ、だね…………」


ゲーマーズ達は散開し、首領を取り囲む。

ペンタゴン・アタックの陣形だ。


「さっきな、お前やこの戦闘のことを昌子に解析して貰ったんだ」

「なに……?」

「お前の体力は65535。

 ただしお前は一撃食らうごと必ず全回復する。

 つまり、65535以上のダメージを一撃で与えれば勝てる」

「はっ、ではなおさら無理では無いか!

 お前たちの全力の合体技でも、100少々のダメージしか出ないはずだ!」

「この戦闘にはな、コンボによるプラス補正がかかってるんだよ。

 10HITで1%程度の軽い補正だけどな」

「コ、コンボ補正だと!?」

「つまり、まとめるとこうなる。

 お前に勝つには、一撃も貰わずにコンボ数をひたすら稼ぎ続け、

 補正で上昇させた火力で一撃で仕留めればいい」

「バカな……複雑な私の戦闘パターンで、

 初見でそんなことが可能なはずが無い!!」

「初見じゃない」


ゲーマーズ達の血走った目が、首領に集まる。


「私たちはもう、おまえに100万回負けてる」

「ど、どういうことだ!?」

「昌子には解析と共に、実戦のシミュレートもしてもらったんだ。

 仮想空間の中で、おまえのパターンに完全に慣れるまで、

 何度も何度もおまえとひたすら闘い続けた。

 みんなおまえのパターンは親の顔より見たと思うよ」

「だ、だから私の行動が全て読まれていたというのか……!?」

「そして必要なコンボ数は、もう溜まった。

 味わって貰おうか……100万1回目の敗北をっ!!!!」



『『『『『ペンタゴン・アタック!!!!!』』』』』』



5方向から撃ち放たれる闘気が、首領を押しつぶす。

コンボ補正のかかった全力の合体技により、

ダメージカウンターの桁が見る見るうちに上がっていく。


「い、いいのか貴様らぁっ!!?

 私を倒せばゲームは終わり、この世界は消えてなくなるんだぞぉ!!?」

「それがどうしたぁッ!!」


ゲーマーズは誰一人として怯まず、一切力を緩めることは無い。


「ゲームの定義……それは、プレイヤーの介入によって結果が変わる創作物……」

「私達の行動、生き様……魂!

 それがダイレクトに反映される、それこそがゲーム!!」

「ウチらの魂、それをぶつけることで、何かを変えることができるんやったら……」

「例えこの世界がゲームだったとしても……かまいやしないッッッ!!」

「……おまえに勝つ……私達の全てを懸けて……!!」



5155COMBO!!!

CRITICAL BONUS +515%!!!


DAMAGE 66783!!!



「ふんぎゃああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」


首領の身体は粉々となり、塵となって消えた。

もちろん、二度と再生してくることは無かった。



―――その時、轟音と共に地面が揺れ始める。


「アカン、ここはもう持たん! みんな乗りぃ!!」

「……お約束……」


ゲーマーズ達は航空形態に変化した千里のマシンに乗り込み、

崩れ去るアンチャーの本拠地を後にした。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「……世界、終わんないな」

「今まだエンディングなんとちゃう?」

「ありうるね。いかにもそんなシチュエーションだもん」

「でも、綺麗な空ですよねぇ」

「……快晴……」


からくも地球に戻ったゲーマーズ達はその場に倒れ込み、変身解除。

そのまま5人で寝転んで、戦艦の居ない青い空を眺めている。


「……んんっ?」

「なんだ、空が割れて……?」


急に空に異変が起こる。

空が縦に引き裂かれたかのようにひずみができ、

その間から奇妙なフォルムの戦闘機が無数に現れる。



「ワレラノハ 『バッガー』!

 コノジゲンヲ シハイスルタメニ ヤッテキタ!」



どうやら、別の次元からこちらの次元を支配するためにやって来たらしい。


「へっ、1作目のボスを倒したから次は続編ってワケかい!」

「うーん、そもそも私達の世界がゲームというの、本当に本当なんでしょうか?」

「そんなのどっちでもいいよ、やらなきゃやられるだけっ!」


再度変身して、バッガー討伐に向かおうとするゲーマーズ達。

その時、長官から通信が入る。




「待ちたまえ、ゲーマーズ諸君……」

「ん、どないしたん長官?」

「もしも本当に、アンチャー首領の言う通りにこの世界がゲームだったら……

 ……その……キミ達は、どうするつもりだね?」

「長官さん、何でそんな分かりきったこと聞くの?」

「そんなの決まってるだろう?」

「ええ、決まってますわ」

「……愚問……」

「わざわざ聞くようなことかいな」




『『『『『ゲームなら……クリアするだけだ!!!』』』』』





 ☆THANK YOU FOR YOUR PLAYING!!☆


                   《Congratulations!》


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闘え!! ゲーマーズVR いぬマッサン @inumassan64

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