第14話 アレとかソレとかを使わざるを得ない

  ◎GAMER'S FILE No.13

  『宇崎八重花(うざきやえか)の経歴』

  至って平凡な家庭に生まれる。兄と妹がそれぞれ一人いる。

  幼い頃に父が買って来たTVゲームの虜となり、

  プレイしてない時でもノートに攻略法の考察を書き込むなど、

  真性のゲーム中毒として着々と成長する。

  一方でケチな性分で、使いきりのアーケードはあまりプレイしたがらないため、

  家庭用ゲームに比べてアーケードゲームの経験値は著しく低い。

  悪気は無いのだが、思ったことを何でも言ってしまう性格で、

  高校の時にそれが仇となって同級生から村八分となり、不登校となる。

  自分のプレイ動画をネットに上げるのが趣味になったのはその頃から。

  余談だが、ゲーマーズになった今は動画を上げなくなったため、

  ネット上では死亡説が流れているという。










今、人類は危機に瀕していた。

アンチャーが総攻撃をしかけてきたのだ。


空を覆うほどの大量の巨大戦艦。

地を埋め尽くすアンチャー兵士達。


対して、人類にはほとんど対抗する手段は無かった。


―――彼女たちを除いて。





ドッガァァァァーーーーーーーン!!!!



空を飛ぶ巨大戦艦の一つが、爆発して四散する。

そして時間差で、次々と他の戦艦も爆発していく。


そしてそこから地上に飛来する一つ、いや二つの影が。


「もーやだ、もー無理!! 今度ばかりはあたし抗議する!!

 何であんな大量の戦艦をあたし一人で落とさなきゃいけないの!!」

「ええやんええやん、みんなヤエちゃんの腕を頼りにしてるってことやで」


飛行形態のマシンを操縦する千里と、それに乗った八重花だった。

千里が八重花を戦艦まで送り届け、

八重花が内部から破壊するという無茶な作戦を任されていたのだ。


とはいえ地上を埋め尽くすアンチャー軍団を残り3人で相手しているのだ。

どちらの負担が大きいかは何とも言えない所であろう。


「おーし、こっち側の群れは一旦押しとどめたぞ! 次はどっちだ!?」

「……反対側もひとまず完了……」

「ご苦労様です、補給するから一旦こっちに来てください!」


死力を出し尽くし、単騎で北側と南側のアンチャーを追い返した佳奈美と亜理紗。

その間で指示を出しつつ、MAP兵器で援護する昌子。

消費したアーマーのエネルギーを、Gパズラーの機能で回復する。

予備エネルギーは本部から大量にガメて来たのでまだまだ保つ。


「おーす、みんな。戦艦はあらかた落としてきたでー」

「お疲れ様です!」

「こっちも酷い有様ね……文句言う気失せちゃった」


戻ってきた千里と八重花が合流する。




「…………なぁ、何か変じゃないか?」

「えっ?」

「…………敵が、来ない…………」

「ホンマや、もう全部倒しちゃったんか?」

「いや、そんな訳ないでしょ」


いつもなら、ほんの少しの間を置いてすぐ次の部隊が来る。

だが何故か今は見渡してもまるで気配がしない。


…………と、何か強烈な気配が現れる。


両手に剣を持った人型のアンチャーが、

殺気を滾らせ、ずしりずしりとこっちに向かってくる。

ゲーマーズはすかさず陣形を組んで迎撃態勢を取る。


「ついにラスボスか!?」

「ゲーマーズゥゥゥーーー!!!!

 貴様らと対峙する時を待っていたぜぇぇぇーーーー!!!!」

「あ、ちゃうわ。これ前座の中ボスや」


言葉よりも先に亜理紗の銃弾が飛ぶが、真っ二つに斬られてしまう。

佳奈美と八重花が同時に突っ込むが、高速の斬撃によって弾き返される。


「つっても流石に強いよ!」

「ちっ、斬撃が鋭すぎて素手じゃ受けられない!」

「佳奈美さん、これを使ってください!!」


昌子が投げ渡したレイピアを受け取ると、佳奈美の手の中で肥大化し、長剣となる。


「お、イイ感じだな! サンキュー昌子!」


そのまましばらく打ち合う佳奈美とアンチャー幹部。


「このっ、程度かぁぁぁぁ!!!!」


アンチャーが雄叫びをあげると、その身体は更に肥大化して筋肉質になっていく。


「貴様らの腕力が100だとすればァ!!!

 俺は100兆万だァ!!! 桁が違うんだよ!!!」


そう言いながらブンブン振り回すその力は、

100兆万は大げさにしても佳奈美達とは比較にならない力だ。


「くそっ、何て硬い身体してんのコイツ!!」


佳奈美と打ち合う隙を突いて八重花がアンチャーの背中を斬るが、

異様に硬質化したその肉体はウィップソードを通さない。


「……銃撃も……効いてない……?」


同じく亜理紗の銃弾も命中しているが、体表の硬度だけで弾き返されている。


「俺は何億発食らおうが、致命傷にはならねぇ!!

 一方、お前らは俺の攻撃がカスったらどうなる!?」


言いながら振り上げる斬撃が地面をえぐって吹き飛ばす。

佳奈美は距離を取ってかわしたが、直撃したらお陀仏だっただろう。


「平等じゃねーんだよ、俺とおまえらは!!!

 俺はおまえらを踏みにじるために生まれ!!!

 おまえらは俺に踏みにじられるために生まれたんだよ!!!」

「なるほどな、言いたいことは分かった」


佳奈美はやれやれと言った感じで、ふぅーと息を突く。


「そんなに体力差のある奴が相手なら、アレを使わざるを得ない」

「おぉん?」


佳奈美が妙な構えを取ったので、アンチャーは怪訝な顔をする。


「なんだぁ? 隙だらけに見えるがぁ?」

「何だか知りたきゃかかって来いよ。ビビってんのか?」

「……!! 上等だコラァ!!!」


勢いよく振りかぶって飛び掛かったアンチャーを……。



ジャキィィィーーーーン!!!



佳奈美の斬撃が、袈裟懸けに襲う。

だが、鋼鉄の肉体を持つアンチャーにはその刃は通っていないようだ……。


「は、これが奥の手か? 残念だった―――」


そう言って勝ち誇ろうとしたアンチャーの身体が……ズレた。

佳奈美が描いた斬撃の軌跡に沿って、滑り落ちる。


「な、なんだこりゃあああああああああああ!!!?」


アンチャーは慌てて身体を抑えるが、滑り落ちるのは止まらない。


「絶滅奥義だよ」


佳奈美は剣に付いた返り血(?)を振り払い、アンチャーに振り返る。


「体力差も、スーパーアーマーも関係ない。当たったら死ぬ、それが絶滅奥義だ」

「な、なんだそりゃああああああ!? そんなバカなものがあるはず……!!」

「あんた、100と100兆の勝負だって言ってたけど、それ違うから」

「あぁ、何言ってやがる!? 勝負はまだついて―――」


アンチャーの上半身が地面に滑り落ちると同時に、全身が消滅する。


「ゲーマーは、いつだって0と1の勝負なんだよ」


佳奈美は、昌子に剣を投げ返した。






「人類の諸君、我々は感動している!」


突然、初老の男風の声が辺り一面に響き渡った。


「な、なんですのこの声!?」

「いいんちょ、上や!」


見ると、上空にスクリーンのように誰かの顔が浮かんでいる。

それは才槌頭の男性の顔をしていたが、体表はどす黒く、

アンチャーの一人であることは明白だった。


「我こそはアンチャーの首領である。

 諸君を称えるため、ここで挨拶をさせてもらうことにした」


首領と名乗った男は、大仰に手を広げて見せる。


「まさか無力で愚かな人類が、

 ここまで我々アンチャーに抵抗することが出来るとは!

 敬意を表して、千載一遇のチャンスを諸君に与えようと思う」


首領が指を弾くと、映像のすぐ下に渦巻くブラックホールのようなものが現れる。


「このワープホールを潜れば、我々の本拠地に辿り着くことができる。

 そこでアンチャー首領のこの私を倒すことができれば、

 我々は侵略を諦めて撤退することを約束しよう」


そう言って、首領は邪悪にニヤリと笑う。


「ただし、制限時間は1時間だけだ!

 それを過ぎれば地球破壊爆弾を投下させてもらう。

 そしてもちろん、本拠では無数の精鋭達が全力を持ってお相手する。

 当然ながら命の保証はしかねる。覚悟のある者だけ挑んでくれたまえ」


あざけるような笑い声を飛ばしながら、上空に浮かぶ首領の顔は消え去った。



「……行くの、アレ?」

「行くだろそりゃ」

「売られたケンカは買わんとなぁ!」

「……ケリつける……」

「よーし、これが最後の決戦ですわ!」


ゲーマーズは飛行形態になった千里のマシンに乗り、

迷うことなくワープホールへ突入していった。







「おうおーう、いかにもラスダンって感じの場所やな!」


ゲーマーズが辿り着いたのは、いかにも異空間って感じの宮殿だった。

実物は各自想像したまえ。


「首領が居るのってやっぱここの中枢かな?」

「じゃああっちの方か?」

「……迷いそう……」

「心配いらん、親切に道標してくれとるやんけ」


千里の言う通り、一方の道が露骨にアンチャーたちに塞がれる。


「……ん、あいつら何か見たことありません?」


昌子の言う通り、見知った顔がちらほら群れに混ざっている。


「在楼だ。この時を待っていたぞ」

「苦椴よ。あの時の恨みを晴らしてあげる」

「蘭須だ。いざ雪辱を果たさん」


今まで倒した幹部級のアンチャーたちだ。


「ほほう、再生怪人って奴かい」

「それを言うならボスラッシュではございませんか?」

「前から思ってたんだけど、千里って特撮オタなの?」

「バイク乗れるようになるまではテレビっ子やったもんでなぁ」

「けど、マズくないか。一体だけでも苦労したのに、いっぺんにかかられたら……」

「…………私に考えがある…………」


珍しく何かを言い出した亜理紗に視線が集まる。


「亜理紗、考えって?」

「……さっきの佳奈美見て、閃いたことがある……」

「閃いたこと?」

「……ゲームのシステムに則った大技……」

「おおっ、どんな超必殺技が……!?」

「……↑↑↓↓―――」

「あっ、皆まで言うな。大体わかったわ」


ピロリロリーン♪


「……MAXバーストモード……!!」


バーニアを展開し、赤熱化して縦横無尽に飛び回る亜理紗。


「ヴォ、ヴォノレェ……!!!」

「こんな、嫌よぉぉぉ!!!」

「無念……っ!!!」


フルパワーアップした亜理紗は、再生怪人どもをまとめてひき肉にしていく。


「まぁ再生怪人ならこんなもんやろ」

「これであらかた片付い……あっ!!」


綺麗に掃除されたと思ったアンチャーたちが、あっという間に再生していく。


「グギギギギギ……ヴォレタチハフジミダ……」

「イヤヨヨヨヨヨヨヨヨヨシンデデデデデデデデデ」


再生力の代わりに知能を犠牲にしたかのようなアンチャー幹部たち。

佳奈美に飛び掛かろうとしたところを、横から昌子のレイピアが脳天を貫く。


「佳奈美さん、もう時間がありません!!

 ここは私に任せて、みなさんは先に行ってください!!」

「無茶だ、昌子一人で―――」


言いかけたところで昌子の背中をアンチャーが襲う。

……が、駆け付けた八重花がアンチャーを蹴り飛ばす。


「ここはあたしと昌子さんに任せなさい!

 佳奈美、あたしの代わりに必ずラスボスを必ずKOしてくんのよ!!」

「……分かった、すまない八重花、昌子!」

「はよ乗りぃ、佳奈美!」

「…………ダッシュ…………」


佳奈美たちは八重花と昌子を残し、千里のホバークラフトで宮殿の奥地へ向かった。





「ちっ、もうちょっとなのに……!!」


宮殿の奥底で、再びアンチャーの群れに囲まれる佳奈美達。


「……佳奈美、降りな」

「千里?」


千里はマシンから佳奈美を排出する。


「ウチらが道を作る。その隙に佳奈美は突破するんや」

「…………しんがり…………」

「……わかった」


佳奈美が離れると、千里はマシンのエンジンを全力で吹かしていく。


「なぁ亜理紗。ウチがいっちゃん好きなレースゲー、何か知っとるよな?」

「……G-ZERO……」

「せや。じゃあ何で好きかは分かるか?」

「…………一番速い……から……?」

「ま、それもあるな。でもウチが言いたかったのは違うんや」


千里はニィと笑ってハンドルを握って前傾姿勢になる。


「要は、頭がおかしければおかしいほど速い。

 脳みそプッツンした命知らずが、この世界では最速なんや」

「…………千里らしいね…………」

「……亜理紗、この最終コースにはウチの命だけじゃ間に合わん。

 悪いがおまえの命もウチに投げ捨てさせたってくれや」


その重い内容とは裏腹に、まるで100円玉を貸りるかのような、いつもの軽い調子だ。


「ほいたら、ウチは必ずぶっちぎってみせる。

 アンチャーを……いや、佳奈美をさえぎるもの全てをや!!!」

「…………いいよ……でも約束、絶対守ってよね…………」


亜理紗も長銃を構える。


「おっし……いくでええええええええええっ!!!!」


瞬間、弾丸のように千里のマシンは発射され、

亜理紗のレーザーと合わせたドリフトで道を塞ぐアンチャーは焼き尽くされる。


「今や、佳奈美っ!!!」

「おう!!」


佳奈美は奥の扉に駆け込み、姿が見えなくなる。

そして千里たちの周囲は再生したアンチャーに取り囲まれる。


「佳奈美……行ったか……」

「……大丈夫……」

「ん?」

「……佳奈美は……決勝戦でこそ奇跡を起こす……。

 ……それが……佳奈美というゲーマーだから……」


言いながら銃を構え直す亜理紗たちを、アンチャーの群れが埋め尽くす……。









「来たか、G・ファイター。

 キミ一人だったのが少々残念だよ」


佳奈美が辿り着いた玉座に鎮座していたのは、

空に浮かぶスクリーンで宣戦布告したあの『首領』だった。


「試合前演出はいい。さっさと降りて来いよ」

「クックック、良いだろう」


佳奈美が手招きすると、首領は瞬間移動して佳奈美の前へ降りて来る。


『Round Fight!!』


開戦を告げる声が脳内で鳴り響くと同時に、佳奈美は首領に飛び掛かる。

だが首領は全身から馬上槍を生やして迎撃する。


「ぐっ、この槍は……!!」

「そうとも、蘭須の物だ」


言いながら首領は腕を伸ばして変形させると、そこからミサイルを放つ。


「ちっ!!」


佳奈美は何とか弾き飛ばし、後方で爆発させる。

更に続く矢の一撃をスウェーでかわす。


「面ボスの出来ることは全部できる……流石はラスボスって訳か」

「そういうことだ」


ギラリと無数の腕で剣を持つ首領。


「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」


流石に剣撃を捌き切れず、吹き飛ばされる佳奈美。

そこを容赦なくミサイルが追撃し、爆風に塗れる。

佳奈美は倒れ伏したまま、動かなくなる。


「さて、これで終わりかな?」

「…………悪いな、次のラウンドも付き合ってくれ」


何とか立ち上がったものの、佳奈美はもうボロボロであった。


「力の差は見せたはずだ。諦めたらどうだ?」

「これは……ラスボス戦だろ……。

 何回KOされようと……おまえを一度でも倒せば、あたしたちの勝ちだッ!!!」


殴りかかる佳奈美を、首領はワープでスカして背後に回る。


「そう、キミは決して諦めることは無い」


振り返って追撃する佳奈美の攻撃を軽くかわし、

あざ笑いながら首領は言葉を続ける。


「なぜなら、そういう風に『設定』されたから」

「なに……?」

「それがキミたち、『ゲーマーズ』という『キャラクター』だから」

「………………………………」


本来なら聞き流せばいい、敵の挑発めいた意味不明な言葉。

だが佳奈美は何故か聞き流せず、足を止めてしまった。


「なんの話……してるんだ?」

「ふふ、なんの話と来たか」


首領はゆっくりと……地面に向かって人差し指を指し示す。


「決まっている、この世界の話……。……いや、違うな」


真っ暗だった床の向こうに、突如として無数のTV画面が映し出される。


「なんだ……? あたし達が戦ってる姿……?」


在楼の矢に苦戦する八重花。

苦椴のミサイルを撃ち落とす亜理紗。

蘭須と壮絶なデッドヒートを繰り広げる千里。

アンチャーの群れに対して味方へ指示を繰り出す昌子。

二刀流のアンチャーと斬り合いを演じる佳奈美。


それはあらゆる角度から映される、ゲーマーズ達の闘いの記録……。

だがそれだけではなく、画面には見覚えのある表示がいくつもあった。


佳奈美の画面には、中央の『KO』表記から左右に伸びた2本の体力バー。

亜理紗の画面には、スコア表示と下部のパワーアップゲージ。

八重花の画面には、体力ゲージとサブウェポンゲージ。

千里の画面には、時速メーターとコースMAP。

昌子の画面には、ヘックスで区切られたMAPやステータス。


(お、おい…………これじゃ、まるであたしたちが…………)


「さて、『何の話をしているか』という質問だったな……」


ラスボスは改めて、ゆっくりと地面を指し示した。


「そう、この世界―――

 いいや、“このゲーム”の話をしているのだよ」






 ~Final Roundへ続く~














  『この世界がゲーム? そ、そんなはずはありません!』


  『ウチらが悩み苦しみ、戦い抜いてきた軌跡が、全部ゲームだっちゅーのか?』


  『でも、確かにそれなら納得できる。色々と。でも、そんなのって……!』


  『……本当かもしれない……でも、信じたくない……』


  『もしも奴の言葉が真実だとすれば、あたし達は――』






  次回、闘え!!ゲーマーズVR






  Final Round「ゲームオーバー」

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