第13話 すれ違う親子のクロスゲーム

  ◎GAMER'S FILE No.12

  『河井亜理紗(かわいありさ)の経歴』

  至って平凡な家庭に生まれる。姉が二人いる。

  下の姉がミリタリーマニアだったため、幼少時からモデルガン等に触れて育つ。

  両親の用事に一緒に連れて行かれ、出先で暇を持て余すことが多かったため、

  幼い頃からゲーセンっ子で、特にシューティングが大のお気に入りだった。

  既に伝説的な腕前となっていた10歳の頃、佳奈美とゲーセンで出会う。

  以来、亜理紗にとってはゲーセンは大切な思い出の場所ともなった。

  ジャンルとしてのシューティングが下火になった現在でも、

  17連射を始めとしたシュータースキルは今も衰えてはいない。

  シューティングと名の付くジャンルは大抵得意だが、実はFPSだけは苦手。













一組の夫婦が、車や重機のおもちゃで遊ぶ子供を眺めている。


『千里は本当に乗り物に目が無いなぁ』

『そない、あなたの娘ですねん。よう似てはりますわぁ』


妻の方は関西訛りだったが、その喋りはとても上品に聞こえる。


『ははっ、血は争えないか』

『今度、本物に乗せてあげはったらいかがどす?』

『うーん、流石にまだ実車に乗せるわけには行かないよ。

 でもそうだな、倉庫の方にシミュレーターがあったはずだ。あれなら……』

『ふふ、あの子の喜ぶ顔が目に浮かびよりますなぁ』






「……なんや、ガキん頃の夢ぇ?」


そう呟いた自分の言葉使いが、いたく下品だったことに今更ながら失望する。

夢の中の母親とは大違いだ。


「今更思い出してもしゃーないのに……朝からけったくそ悪いわぁ……」


千里は頭をボリボリとかく。


「……ま、こんな時は景気付けにひとっ走りゲーセンでも行ってくるに限るわ」


いつものバイクスーツに着替え、千里はゲーセンに向かった。






『千里くん、居るかね?』

「おわっ、長官はん!?」


ゲーマーズが5人揃って対戦中、

いきなり不意を突いて現れる立体映像の長官。


「長官はん、対戦中は通信入れるなっていつも言ってるやろ!!」

『す、すまん。だが少し大事な用事なのだ』

「なんだなんだ、改まって?」

「……ハッ!? さては、ついに最終決戦ですの!?」


他のゲーマーズ達もゲームを止め、ぞろぞろとやってくる。


『いや実はな、スポンサーの方からお話があってな』

「スポンサー? そんなの居たんだ」

『我が地球防衛軍は、様々な企業の協力で成り立っているのだよ。

 君達のパワードアーマーも彼らのテクノロジーがふんだんに施されている』

「……知らなかった……」

「それでな、スポンサーの一人である某社の方が、G・レーサーに一目会ってみたいとおっしゃってな」

「ほっほーう、つまり……」


千里の口元がニィっと緩む。


「ウチにもとうとうファンが出来よったか!

 ええでええで、ウチなんかのサインで良けりゃ何枚でも書いたるわ!」

「えー、何で千里に!? Gアクションの方が絶対カッコイイでしょ!!」

「ふっ、玄人にはウチの良さが分かるんやなぁ」

「ん、そういやあたしらも一緒に行った方がいいのか?」

「全員がお世話になってる会社の方なのですから、

 わたくし達も一緒にご挨拶に参った方が良いのでは?」

『うむ……まぁ、そうだな。ではそうしてくれ』

「……ゴマ擦り……」

「はっはっはー、まぁウチがファンと触れ合うのを指咥えて見ときー」


そうして意気揚々と待ち合わせの秘密基地に出向く千里たち。

そこに待ち構えていたのは―――


「……来たか、千里っ……」

「オ、オトン!? 何でここに!?」


がっしりした体躯の中年男性……すなわち、千里の実父であった。






「………………………………」

「……………………ふんっ」


距離を開けて座りながら、互いに顔を合わそうとしない千里とその父。

事情は分からないが、親子仲が芳しくないのは傍目でも分かる。

流石のゲーマーズ達も、オロオロしながら成り行きを見守るのみだ。


『その、五十嵐さんはイガラシ重工の代表を務められていてな……。

 防衛軍のパワードアーマーの設計・開発は、大半をお任せしているのだよ』

「そんで、ウチが居ると知って、いっちょ噛みしにきたワケかい」

『そ、そういうワケでは―――』

「いえ、そういうワケですよ」


ずっと黙っていた千里の父は、急に口を開いて立ち上がった。


「千里、もう放蕩にも飽きただろう。いい加減、家に帰って来い」

「あぁん!? 放蕩娘で悪ぅございましたね!!

 いつどこをウロウロしてようが、ウチの勝手やろ!!」

「……百歩譲って放蕩はお前の勝手としよう。

 が、防衛軍の仕事まではそうはいかんはずだ」

「だからオトンに口出しされる筋合い無いっちゅーねん!!」

「聞いたぞ。前に命令無視して暴走した挙句、

 危うくお仲間ごと全滅しかけたそうじゃないか」

「…………っ…………」

「お前に防衛軍の仕事は務まらん。大人しく帰って来い。

 そしていずれはうちの会社を継いでくれ」

「だーかーらー、絶対にお断りやって―――」

「あ、あのー……」


一触即発の親子の中におずおずと割り入った勇者は、カツラを被った昌子だった。


「その、初めまして千里さんのお父様……。

 わ、私、ゲーマーズのリーダーをやらせて頂いている田宮昌子と申します」

「これはどうもご丁寧に。田宮さんの活躍も聞き及んでいますよ」


千里の父も営業スマイルを返す。

先程とは別人のようだ。


「あ、あのですね、親子間で色々あるとは思われますが……。

 千里さんは我らゲーマーズの中核をなす重要メンバーでして!

 その、辞められてしまうととても困ってしまうのです!」

「なるほど、それは大変申し訳ありません。

 ですが親子の問題は会社の前の話ですから、ご理解いただけると幸いです」

「そ、そうは言われましても……」


笑顔で応対する千里の父だが、その内側に籠る圧力は昌子をも怯ませる。


「カツラ昌子がRPする余裕もなく押されてるぞ……」

「まぁ一介のゲヲタが社長さん相手にしてるんだから善戦してる方だよ……」

「…………努力は評価する…………」


それからも昌子は必死に抗弁したが、千里の父が引き下がることはなく、

結局何も話は進まないまま、千里の父は時間切れで一旦帰って行った。






「……も、燃え尽きましたわ……」

「いやー、マジお疲れ」

「流石リーダー! 大統領!」

「…………200HITの勲章あげる…………」


すっかり力尽きて倒れ込んだ昌子を労う一同。

が、問題は何も解決した訳ではない。

一同は改めて、部屋の隅で不機嫌そうに座っている千里を振り返る。

視線に気づいたのか、千里は申し訳なさそうに皆に向き直った。


「はー、みんな迷惑かけてホンマすまんな。

 聞いての通り、ウチはガキの頃は社長令嬢やっとったんや」

「ガキの頃って……じゃあ今は?」

「ははっ、そりゃ今はただの一介のゲーマーやろ。既に家とは縁切ったからな」

「でも、お父さんは千里を迎えに来てくれたじゃん」

「……せやな。ウチが勝手に縁切ったつもりになっとっただけなのかもしれん」

「…………詳しい話、聞かせて…………」

「ふー、せやな……」


千里は深く息を吐いて、背もたれに首を投げ出す。


「別になんてことはない、ありがちな話やよ。

 エラ~い社長の大事な大事な跡取りは、遊び呆けてばかりの放蕩娘。

 挙句の果てに周囲のプレッシャーに耐え切れず逃げ出した。……そんだけの話や」

「はしょりすぎだろ」

「そんなお嬢なのに何であんなケチくさいの?」

「あー、ウチ、子供の頃は家庭の事情で母方の婆ちゃんとこで育ったからなぁ。

 いやー、婆ちゃん家はマジで貧乏くさかったわー。いい思い出やけどなー」


話している内に落ち着いたのか、顔を起こして伸びをする千里。


「そんでオトンの所に来たのは中学上がる頃でなー。

 『実はおまえは偉い社長さんの娘ですー』って。

 いやー、あん時は小公女ってホンマにあるんやなーって。

 最初の頃はホンマずっとウキウキしてたわー」

「…………その後、は…………?」

「家庭の方はな、まぁ不満なかったんやけど……。

 学校とかでな、周りの扱いが、すっかり変わってもうて……」

「い、いじめられたの……?」

「逆や。みんなめっちゃチヤホヤして甘やかしよる」


千里は軽く首を振る。


「ウチが何をしても褒め称え、失敗しても見ないふり。

 金。家柄。みんなそういうもん一つでウチを見る目が変わるんや。

 そもそも高校だってオトンの力で捻じ込まれたようなもんや。

 名門過ぎてウチの学力には全然つりあっとらんかった。

 だから…………ある日、全部投げ出して…………辞めた」

「………………………………」


ゲーマーズ達は言葉が見つからなかったが、千里は気にせず話し続ける。


「それからしばらくはバイクで適当なとこ走ってって、

 ゲーセン見つけたら入っての繰り返しやった。

 佳奈美と亜理紗に会ったのもそんな頃やなー」

「…………そうだったんだ…………」

「ウチの趣味って言ったらバイクとゲームしか無いからなー。

 ある意味、めっちゃ幸せな時間やったわ」


一息置いて、少し遠い目をする千里。


「ゲームは……ゲームの世界だけは、いつも平等やった。

 ウチの出自、経歴、なーんも関係あらへん。

 ただ、上手い者、強い者、速い者……。自分の腕だけが全てや」

「千里……」

「だーかーらー!

 ウチがゲーマーズ辞めるなんてこと、絶対ないから安心しぃ!」


いつもの調子に戻って拳を突き出す千里。


「オッケー、これからも頼むよ千里」

「事情は分かったけど、お父さんと仲直りはしたら?」

「…………家庭円満…………」


色々言いつつ、佳奈美、八重花、亜理紗も拳を合わせる。


「わ、わたくしもぉ……!!」


ゾンビのように這いずり、昌子も下から何とか拳を合わせた。







~ 数日後 ~





『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』

『首都高に人馬型のアンチャー出現!

 幹部級と見られ、道路の中央に鎮座しています!』


「おっ、来たな!」

「久々の大仕事の予感!」


暇を持て余し秘密基地でたむろしていたゲーマーズ達は、

アンチャー出現の報に待ってましたと色めき立つ。




『『『『『プレイ・VR!!!』』』』』




「欲するは強敵、そして勝利のみ。

 道を追い求め続ける孤高の戦士……『G・ファイター』!!」


「千分の一秒を削るのに命を賭ける。

 音すら置き去りにする光速の戦士……『G・ドライバー』!!」


「狙った獲物は逃がさない。

 視界に映る全てを射抜く戦慄の戦士……『G・シューター』!!」


「あらゆる死地を活路に変える。

 フィールドを駆け巡る躍動の戦士……『G・アクション』!!」


「全ての謎は、ただ解き明かすのみ。

 真理を究明する英知の戦士……『G・パズラー』!!」




『『『『『五人揃って、ゲーマーズVR!!』』』』』






「よっしゃー、出動出動―――」


早速ドルフィンに跨ろうとした千里の前に現れたのは……

千里の父だった。

その手には何かの書類が握られている。


「……なんや、オトンなんか用か? ウチ急ぐんやけど」

「G・レーサーをお前向けに調整しなおした。この説明書を―――」


―――バッサァー……


父の渡そうとした書類は、千里の手によって払い落とされる。


「おい、なんのつもり―――」

「オトンはそうやって、なんでもかんでもウチのことに首突っ込んでばっかや!!

 そないに干渉ばっかりされたら…………

 どれが本当のウチの手柄か、実力か……分からなくなってまうやろ!!」

「………………………………」

「ウチは自分の力だけでやっていける……そう証明したいんや!!

 オトンの力は絶対に借りん!! だから、とっとと引っ込んどきぃ!!」


そう言い捨てて、千里はマシンに跨り、発信する。

後には、千里を複雑な目で見送る父と、散らばった説明書が残された。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





首都高の中央で鎮座していたアンチャー幹部。

ゲーマーズは取り囲むように接敵した。


「蘭須だ。いざ尋常に勝負願おう」


そう言って巨大な馬上槍を振りかざす、

まるでケンタウロスのような半人半馬のアンチャーだった。


音もなく斜め後ろから斬りかかった八重花の攻撃が戦端を切った。

が、察知したのか蘭須は高速で前進してそれをかわす。


「逃がすかっ!! ……うわっ!!?」


蘭須の進路には佳奈美が待ち構えてカウンターを取ろうとするも、

想像以上のパワーに佳奈美は跳ね飛ばされてしまう。

そのまま蘭須は駆け去っていく。


「みんな、乗りぃ!!」


千里が四輪に変形させたマシンに他のメンバーが乗り込む。

そうして蘭須に追いつくも、有効な攻撃が与えられない。

蘭須の動きは亜理紗の銃弾より、八重花の鞭より、遥かに速かった。


「……この程度か」

「なっ……!?」


不意に蘭須が方向転換したかと思うと、横殴りにマシンに追突してきた。

千里以外のメンバーは、振り落とされて、道路の外に落下してしまう。


「み、みんな!?」


千里は慌てて道路の下を覗き込む。


「くっ……重っ……!!」

「これ落ちたらアーマーあっても死ぬんじゃないか?」

「や、八重花さーん、何とかふんばってくださーい!」

「…………頑張って…………」


そこには、何とかウィップソードをガードレールに引っ掛けて

4人まとめてぶら下がっている姿があった。


ほっと息をつく千里だが、蘭須が八重花たちに追撃しようとしていることに気付く。

咄嗟にマシンを二輪に変形させ、蘭須の側面に叩きつける。


「させるか、ボケぇ!!」

「ほぉ、この私に一人で挑もうというのか」


蘭須はさも興味深そうに千里に向き直る。


「はん、お前スピードが自慢なんやろ。

 ならウチ一人の方が身軽でちょうどええわい」

「ふっ、面白い。では付いて来て見せろっ!!」


蘭須が疾走しだす。

千里もそれを追う。


蘭須は高速移動で翻弄するも、

千里は明快なライン取りでそれをかわし、抜き去っていく。


「ほぉ、やるではないか。では、パワーの方はどうかな!?」

「ちっ!!」


双方とも超高速を意地したまま、蘭須が槍を突き出して来る。

千里は何とかかわしているものの、反撃の手段が見つからない。

可能性があるとすれば……。


(……やっぱ玉砕するっきゃないんやな)


G・レーサーの持ち得る全速力で。

正面から蘭須にぶつかる。

流石の蘭須もひとたまりも無いはずだ。


(問題は、ウチの身もひとたまりも無さそうってところやな……)


だが、今こいつを逃がせば仲間達の追撃に向かうだろう。

今ここで仕留めない訳にはいかない。


この先は往路と復路が円状になっている変わったエリア。

そこでなら、最大速度を維持したまま蘭須と正面衝突できる。


「うおっしゃぁーーーっ!!!

 ウチの一世一代の覚悟、見せたろーやないけ!!!」


リミッターを外し、アクセルをふかしていく。

速度メーカーが振り切れていく。

そして……。


「……!? な、なんやこれ!?」


千里は、周囲に起こった異変に驚き、辺りを見回す。

それは千里を守るようにマシンを覆う、薄青いバリアだった。

そしてその色、強度はどんどん濃くなって行く。


「こ、これもしかして……

 マシンが加速するのに比例して、バリアの強度も高くなっていってる……?」


どうやらその推測は正しいようだ。

風も、音ですらバリアにさえぎられはじめている。


「こんな機能があったなんて……チャンスや!!」


このまま限界まで加速してぶつかるしかない。

少しでもパワー負けした方は、衝撃でバラバラに砕け散るだろう。

だが、一瞬でも怯んだら負ける。


蘭須も同じ考えだったようだ。

向こう側からさらに加速して向かってくるのが見える。


「さぁ、望み通りに串刺しにしてやろう!」

「ウチのが絶対速い!! ウチはコース上では負けへん!! そして……」


千里はマシンの『五十嵐重工』のロゴマークに目を落とす。


「そんなウチを守ってくれる……オトンの作ったマシンは、絶対に負けへん!!!」




ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッッ



ソニックブームを起こし、両者が接触する。

突き出された蘭須の槍が粉々に砕かれる。

そのまま貫通して、頭と足の一部を残して蘭須の身体が消し飛ばされる。



「バカな……あ、アリエナイッ!!」


断末魔をあげると、蘭須の残った身体も消滅した。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



蘭須打倒後、千里はマシンを道路脇に止め、立体映像で長官と話していた。


「五十嵐さんは、G・ドライバーの装着者が変わったことを知ると、

 根本から設計を見直されてだな……」

「……そっか、なるほどなぁ」


千里は大きくため息をつく。


「……オトン……ウチの身を案じて、いざって時のために仕込んどいたんやな……」

「私もきっとそうなのだろう……と思う」

「ウチはスピード狂いや。危険を顧みずに、なんぼでも加速してまう。

 長官はんも知ってる通り、これは性分や。やめられん」


千里はかぶりを振る。


「やけど、このバリアは加速すればするほど強くなる。

 ……つまり、加速すればするほど安全になる」


傍らのマシンを優しく撫でる千里。


「きっとウチが命知らずなのを見越した設計や。

 命知らずのウチを……命知らずが故に、守ってくれる。そんなバリアや」

「………………………………」

「オトンはいつもそうや……表面は厳しいのに……。

 見えないところで、いつもウチを守ってくれよる……」

「優しいお父様なんですね」


会話に割り込んだのは昌子だ。

もちろん他のゲーマーズ達もいる。


「おおっ、無事だったかおまえら!」

「千里こそタイマン挑んで無傷とかどういうことだよ」

「お父さんのおかげでしょ? 感謝しないとね」

「ははっ、せやな」


千里は頬をポリポリとかく。


「あーあ、ウチは結局いつまでもガキやな。

 型にハマりとう無いなんつってみても、

 結局は真っ当にやって結果を出す自信が無いだけ。

 突っ張ってりゃ何でもできると勘違いしとる、

 親の手のひらから飛び出せない孫悟空や」

「……自分が子供だって認めること……それが大人への第一歩……。

 …………そう……私のお姉ちゃんが言ってた……」

「ありがとな。亜理紗は心の優しいええ子やな」

「……子供扱い……しないで……」


頭をなでなでする千里を、不機嫌な顔で睨み返す亜理紗であった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「なー、みんな相談があるんやけど……」


後日、千里に相談があると呼びだされたゲーマーズ。

要は父に感謝の言葉を伝えるのに良い方法は無いかとのことだった。


「ゲーマーなら、ゲームで仲直りすればよろしいじゃございませんか!」

「提言はありがたいんやけど、生憎オトンはほとんどゲームやらんねん」

「ふっふっふ、世代を問わず強いゲームもありますわ! それがコレですの!!」


昌子が差し出したのは、ノラクエ9。

全国のプレイヤーが獲得した金額が一兆ゴールドを超えたという、全国的に大人気の超有名作だ。


「えー……ホンマにこんなんで釣れんのー……?」

「文句はやってみてから聞きますわ!」



~ やってみた ~



「千里、洞窟に向かうのはまだ早すぎるだろう。

 店で買える装備を全て揃えてからにするべきだ」

「オトン、何を悠長なこと言っとんのや!

 とっとと敵が強い所へ行った方が、金も経験値も稼げるんやで!」


呼びだした千里の父はあっさりハマってしまい、

口喧嘩しつつも千里と二人で仲良くPTプレイをしている。


「カジノで稼いでブルキャンディの鞭を手に入れるのが最も効率的ですわよ」

「効率厨は帰らんかいっ!!」

「なぁ、何で防御してるのにダメージ食らうんだ?

 それに反撃できずに一方的に攻撃され続けるんだけど」

「佳奈美はターン制って概念を理解するところから始めるべきなんじゃないかな」

「……先手で一撃で倒せば済む話なのに……」


ついでにRPGを普段やらない他のゲーマーズもプレイしているが、

やはりと言うべきか悪戦苦闘しているようだ。



一方の千里は、意を決したのか父親に話しかける。



「……なぁオトン……。ウチ、やっと気付いたんや」

「ん、何がだ?」

「ウチは一人で走っとるんやない。

 オトン、佳奈美、亜理紗、ヤエちゃん、いいんちょ……

 それに、防衛軍の無数の裏方はん達。

 そういうみんなの支えがあってこそ、ウチは思いっきり走れるんやってことに」

「………………………………」

「ウチ、走りたい。みんなの期待に応えたい。

 せやから……オトンの会社、継ぐ事は出来ん」

「そうか…………」


難しい顔をしているかと思った父が、にこやかに笑っていたことに千里は驚く。


「私が千里に会社を継がせたかったのは……

 千里には、他に居場所が無いのだと思っていたからだ。

 自分の力でそれを見つけたのなら……父親として、もう何も言うことは無い」


何を思ったか、父は借りていたゲーム機を千里に返す。


「PTプレイは彼女たちとやるといい。

 ……いい仲間を見つけたな、千里」


それだけ言うと、千里の父は手を振って立ち去って行く。


「……オトン、ありがとな」


小さくつぶやくと、千里は仲間の方へ振り返る。

そして大きく息を吸い、こう叫ぶ。





「おーう、おまえらー!! ウチもPTに入れんかーい!!」









  『あたし、宇崎八重花!

   幹部を三人も倒したせいか、アンチャーがとうとう本気になったみたい。

   空飛ぶ巨大な戦艦まで持ち出してきて、一気に日本を潰すつもりらしいわね。

   でも大丈夫、昌子さんには必勝の策があるみたいだから―――。

   ……ええっ!? アレにあたし一人で乗り込めっての!?

   無理無理無理、そんなの無理っ!! バカ言ってんじゃないわよ!!』



  次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ


  Round14「潜入先は最終ステージ!?」



   ジャジャーン!!



  『百万回やられたって、負けないから!!』

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