第11話 おおかみなんて、いるわけないじゃないか

   ◎GAMER'S FILE No.10

   『G・パズラー』

   アンチャー討伐のために制作されたパワードアーマー第五号。

   普段は四次元ブレスレットに格納されているが、

   腕に装備して『プレイ・VR』と叫ぶと自動で装着される。

   アーマーは白を基調としたボディに銀のストライプが入ったデザイン。


   討伐隊のリーダー用に設計開発された高機能な最新型アーマー。

   他のアーマーのノウハウを生かし、細身のボディに数々の特殊機能を秘める。

   中でも周囲の敵味方の状況を逐次掌握できる多機能レーダーが要の機能で、

   その情報を元に、他の隊員に指示、罠の設置等を行うことが想定されている。

   だが精密機器が詰め込まれているためか、格闘性能と耐久性にやや難があり、

   実戦投入はまだ早かったのではないかという声もちらほらと聞かれる。








G・パズラーこと田宮昌子は、今日という日に人生最大級のピンチを迎えていた。

またそれとは別に、ゲーマーズ達もアンチャーの大群に襲われて大ピンチであった。


「ちょ、あたし一人じゃ前線を支えきれな……うわっ!!」

「八重花っ、大丈夫か!?」

「畜生、いいんちょは何やっとんねん!」

「……このままじゃ……全滅……」


そんな壊滅寸前のゲーマーズの戦いを、ファミレスの中から呑気に眺める名門学校の生徒が4人。


「あれー? なんかゲーマーズ苦戦してない?」

「そういえばいつもは5人なのに、今日は4人だけですね」

「もう一人はどうしたんでしょう? 田宮さんはどう思います?」

「え、ええ……ホント、どうしたんですかねぇ!?」


話を振られた昌子は、全力で目を泳がせた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




話は一時間ほど前にさかのぼる。


真面目な優等生である昌子は、学校内での信用は高く、多くの学友に慕われていた。

その中でも特に彼女が親しくしているのが、千春というおっとりとしたお嬢様である。


「あの、田宮さん。もしよろしければこれから指導をしていただきたい科目があるのですけれど」

「申し訳ありません、ちょっと急いで家に帰らなければならない用事が……」

「あら、残念です。せめて昼食だけでも一緒にいかがですか?」

「それぐらいなら構いませんよ」

「よかった。日ごろの感謝の印として、お代は千春に出させてくださいね」

(た、助かった……っ! 今月の食費はもう底を付いていたんですのよ!)


今日もいつも通り、彼女と親しく語り合いながら下校する。

本当は某大作RPGの13作目を良いところで中断しているため、食うもの食ってとっとと帰宅したかったのだが、そんな様子はおくびにも出さない。

学校一おカタいキャラで通っている優等生の田宮昌子がズブズブのゲーマーであるはずが無い。そんなことはあってはならないのだ。

しかしその時……。


「おーい、昌子ー!」

「……!!!」



そのズボラな声の主は振り向かなくても分かった。

そう、ゲーマーズのG・ファイターこと、樋口佳奈美だ。

昌子は聞こえなかったフリをして、千春の腕を取って弾かれたように一目散に駈け去る。

背後から佳奈美が呼び止める声が微かに聞こえたが、下校時のラッシュアワーが盾となり、首尾よく逃げおおせることができたようだ。






「はぁっ、はぁっ……ど、どういうつもりですの、まさか学校までやってくるだなんて……」

「どうしたんですか田宮さん、そんなに慌てて?」


千春が不思議そうな顔で後をついてくる。


「す、すみません、少々お腹が……でももう治りましたので!」

「あのー、先ほど、どなたかが田宮さんのお名前を呼んでいた気がしたんですけどー」

「そ、それは気がつきませんでした! どなたか知りませんが申し訳ないことをしましたね!」


自分とゲーマーズの関係が学友に知られたら一巻の終わりである。何としても隠し通さねばならない。

だがこの辺りはろくな店も遊び場も無い郊外だ、ここまでくればもう安心……。


「あれ、いいんちょ? 奇遇やな!」

「!!!」


ヘルメットを被ったバイカーが脇に現れる。

そう、ゲーマーズのG・ドライバーこと、五十嵐千里だ。

この辺りは千里のドライブコースの一つなのだ。


「……あっ、なんでいきなり逃げるんっ!?」

「おまわりさんっ、あのバイク無免許ですっ!!」

「げぇっ!!?」


逃げる昌子を追いかけようとした千里だったが、警官を召還されて慌ててUターンして走り去る。


「なんですか、あの下品な人?」

「し、知りませんっ!」

「……あの、さっきからずっと気になってたのですけど……」


物憂げに昌子の瞳を覗きこむ千春。

流石に怪しまれたかと内心ヒヤヒヤだった昌子だが……。


「お食事は駅前のレストランでよろしいでしょうか?」

「え……ええ、もちろん! ご馳走して頂けるのに場所に文句は言いませんわ!」

「……田宮さん、以前に比べてなんだか明るくなりましたよね」

「そ、そうですか? きっと気のせいですよ、さぁ行きましょう!」


走ったせいか、お腹が空いてきた。

昌子は千春の手を取って、駅前に急いだ。







「はぁっ!? ふざけんじゃないわよ達彦、こっちはアンタの財布に期待して一銭も持たずに出てきたのよ!?」


どうして今日という日はこうも間が悪いのだろう。

場所は駅前の公道、ど真ん中。

そこで携帯片手に声を張り上げる人物を認め、昌子は頭を抱えた。

そう、ゲーマーズのウザカ……G・アクションこと宇崎八重花である。


「途中でたまたま彼女と会った? デートの邪魔だから先に帰ってろ? ……ふっざけんじゃないわよ!!」


そう言って地面に携帯をたたきつけようとする八重花から隠れようとする昌子だったが、その前に八重花と目が合ってしまう。


「昌子さぁーーーん!! 良かった、助かったぁーーー!!」


無駄に高い回避スキルと、チビを生かした身のこなしで人ごみをすり抜けた八重花は、あっという間に逃げ遅れた昌子の両手を握っていた。


「兄貴が昼飯奢ってくれるって言ってたのにさぁ、今更になって反故にしてくれてんの! ひっどいでしょー、昌子さん腹ペコな子羊を助けて、お願い!」

「田宮さん、お知り合いですか?」


八重花は手をがっちり握って離さない。千春が不思議そうな目で昌子と八重花を見比べる。


(……終わったわ……もう学校中にゲームオタクだと知られて、最下層のカーストを生きるしか無いのね……)


物言わず、がっくりをうなだれる昌子。


(えっ、何この空気? ……あっ、そういうこと!)


それを見てピンと勘付いた八重花は、こんなことを言い出す。


「あはは、ごめんね昌子さん! 昌子さんはエリート高校行ったって言ってたもんね、今更あたしみたいなバカに言い寄られても迷惑だよねぇ!」


おどけて昌子から手を離す八重花。

意味が分からない昌子はクエスチョンマークを頭に浮かべている。

そんな昌子を他所に、物怖じしない千春は八重花に話しかけてくる。


「あの、お二人はどういうお知り合いなんですか?」

「小学校が一緒だっただけだよー、特に仲が良かったわけでもないし、奢ってもらおうなんてちょっと厚かましかったかな?」

「そうだったんですか、小学校が一緒だった人と会うとなんだか嬉しくなりますよね」

「うんうん!」


八重花はデタラメを並べ立てて千春と談笑しながら、そっと昌子に耳打ちする。


『ゲーマーズのことは黙っててあげる。その代わり……ね?』

「……………………」


震える拳を握り締める昌子。

しかし背に腹は代えられない。


「あの……宇崎さん、お昼ご一緒にいかがですか?」

「えぇ~? あたしなんかが一緒しちゃっていいのぉ~?(チラッチラッ)」

(白々しすぎますよ……)


八重花が何度も目配せするので、昌子は仕方なく自分から切り出す。


「ごめんなさい千春さん、この子も同席して構いませんか? ……あ、嫌ならいいんですよ!」

「うーん、まぁ折角ですから千春がご馳走しますよ。大した額でもないですし」

「あんがとチナツさん、ゴチになりまぁ~す♪」

「はぁ……」


ため息をつく昌子だが、ゲーマーズのことをバラされなかっただけマシなのだろうと思い直す。

しかし、今日の昌子の間の悪さはこれで終わらなかった。


「あれー? 田宮さんに千春ー?」

「あら、冬美さんに夏木さんじゃありませんか。奇遇ですね」


なんと、入ったファミレスで、別の学友二人がスイーツを頂いていたのだ。


「そっちの子、どなたでしょう?」



夏木と呼ばれた子が、昌子達に纏わりつくチビの存在を目ざとく見つけて疑問を呈す。

一方の八重花も、幼く見られたことにカチンと来る。


「子!? おそらくあんたらと同い年なんだけど!?」

「この子、いえこちらの方は―――」




ドガァーーーン!!




「な、なんの音ですの!?」

「あっ、アンチャーだよ!!」


八重花の言葉通り、アンチャーの群れが飛来し、往来の建物を破壊したのだ。


『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』

「!!!」


昌子は慌ててブレスレットを千春達から隠す。

幸い、八重花のブレスレットも同時に鳴ったために、千春達は八重花のブレスレットにしか気付かなかったようだ。


「八重花さん、それは一体……?」

「ふふっ、内緒! それじゃ―――」


行こう昌子さん、と言い掛けて八重花は慌てて口をつぐむ。

八重花は思わず昌子と千春達を見比べていたが……意を決して一人で走り出す。



『プレイ・VR!!』



光に包まれ、八重花はG・アクションに変身した八重花は、アンチャーの群れに突っ込んでいった。




「ゲ、ゲーマーズVR!?」

「ええっ、あの真面目に町を守らないゲームオタクの集団!?」

「八重花さんがゲーマーズだったなんて……田宮さん、知ってました?」

「い、いえいえいえ! 全く存じませんでした!」


手をぶんぶん振って、八重花との関係性を全力で否定する昌子。

こうやってどんどん自分から後戻りできない状況に追い込まれていくのだ。


「さて、珍しくこんなところでみんなと会ったことだし、ゆっくりお茶しよ?」

「さんせ~い!」

「私は構いませんけど、昌子さんは忙しいのでは?」

「そ、そうでもありませんわ! お茶ぐらいならお付き合いしますよ!」


言いながら横目でチラチラ外の様子をうかがう昌子だが、

いつの間にかアンチャーとの戦いに佳奈美ほか3人も参戦している。


(……ま、今日ぐらいは私が参戦しなくても大丈夫ですわよね)


「そういえば、今日はなんだかヤケに店が空いていません?」

「言われて見ればそんな気がしますね」


世間ずれしたお嬢様は呑気なことを言っているが……。

間近で戦闘が起こっているのだ、まともな神経の人間はとっくに逃げ出している。


「あ、店員さん、チョコパフェ一つ追加ね!」

「は、はいぃ……」


店員は顔面蒼白だったが、こんな状況でも居座って注文する客が居るからには応対しないわけにはいかなかった。



「あれー? なんかゲーマーズ苦戦してない?」


外を眺めていた冬美が、ゲーマーズのピンチに気付く。


「そういえばいつもは5人なのに、今日は4人だけですね」

「もう一人はどうしたんでしょう? 田宮さんはどう思います?」

「え、ええ……ホント、どうしたんですかねぇ!?」


話を振られた昌子は、全力で目を泳がせた。


「まぁ、やられたとしても自業自得じゃないんですか?」

「確かにいつも悪ふざけしてますもんね」

「あははー、ゲームオタクなんてそんなもんだって!」

「ゲームに夢中で許されるのは小学生まで―――」



バァン!!



昌子が、テーブルを叩いた。

いきなりのことに、千春達は呆気に取られる。


「ゲームオタクで……何が悪いんでございますかぁっ!!?」

「え、えぇっ!? どうしたんですか昌子さ」


千春が言い終わらないうちに、昌子は席を立って店を飛び出していた。



『プレイ・VR!!』



昌子の身体が光に包まれ、G・パズラーに変身する。


「……!! た、田宮さんが変身した……?」

「えええええっ!? 田宮さんがゲーマーズってこと!?」

「嘘でしょう、あの勉強以外に何の興味も無い田宮さんが!?」


窓から見ていた千春達が仰天しているが、昌子は構わず仲間の下へ駆けつける。


「あっ、いいんちょ!? 何しとったんや!?」

「……昌子がこんなに遅れるなんて……珍しい……」

「へへっ、ホントどうしてだろうね?」


ニヤニヤ目線で今度何か奢れとジェスチャーする八重花を無視し、昌子は一喝する。


「みなさん、何してらっしゃるんですか!! ペンタゴン・アタックで一気に決めますわよ!!」

「はぁ? なんやそれ?」

「ファイターエンプレスの伝統技でしょう!? 五角形で敵を囲んで一気に攻撃するんです!」

「だからファイエンは知らないって言ってるだろう」


そうボヤきつつも、素直に昌子の指示に従って陣形を取るゲーマーズ。

アンチャーの群れがすっぽりと彼女達の間に納まる。


「で、どんな攻撃すればいいのよ?」

「なんでもいいから適当に全力で攻撃しなさいっ!!」

「……適当なのか全力なのか……はっきりしてほしい……」

「全力で適当にやればええんやろ?」

「それは流石に逆じゃないか? まぁそれはともかく―――」



『『『『『ペンタゴン・アタック!!!』』』』』



共鳴した5人のエネルギーが巨大な光の矢となって5方向から中央に集中し、大爆発を起こす!

しかし爆風はゲーマーズ達から放たれるエネルギーが盾となって外には漏れず、囲まれたアンチャーにだけ多大なダメージを与え続ける。

そうして生み出されたエネルギーの軌跡は、空から見れば綺麗な五芒星を描いていたという。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「さっ、みんな早く帰ろっ!」

「なんだよ八重花、いきなり?」

「いいからいいから!」

「ま、なんか従ったほうがええような空気やな」


千里はチラッと昌子を見、目が合うとニカッと笑った。

昌子のほうも、少し申し訳無さそうに微笑みを返した。


「んじゃ、帰るとするか」

「……しょうがないね……」

「ほらほら、急いで急いで!」


八重花に押し出されるように、昌子を除くゲーマーズはその場を後にした。


そこにおずおずとやってきたのは、千春ら昌子の学友達だった。


「た、田宮さん、あのう……」

「み、みなさん……」


気まずそうに口篭る昌子。

しかし、次に千春達から出た言葉は昌子の予想と違っていた。


「あたし……実はゲーム好きなんです!」

「私も!」「私だって!」

「え……えええええっ!?」

「でも田宮さん、ゲームとか興味ないと思ってたからこういう話できなくて」

「そ……そうだったんですか……。いえ、こちらこそ黙っていてごめんなさい」


落ち着きを取り戻し、眼鏡のズレを直しながら学友に微笑みかける昌子。


「それにしても、まさか同じファイターエンプレスのファンだなんて!」

「うん、私もファイエン好きだよ!」


それを聞いて、昌子はキュピーンと目を輝かせた。


「ファイエンの魅力を分かってくださる方が居ましたか!!

 ファイエンの魅力と言えば、やはり魅力的なキャラクターと奥深い戦略性の融合にありますよね!

 記号に過ぎないはずのキャラクター達が、プレイヤーの趣向とランダム性の織り成すハーモニーにより命が吹き込まれていくミラクル!

 わたくしはマイナーな部類に入るキャラなのですが傭兵ロムディが一押しでして、

 全体的に低い成長率ながらも、素早さが面白いぐらい伸びてくれるので、敵の攻撃をスルスルと避けてくれるようになります!

 終盤では一撃食らってしまうとほぼ即死なのですが、そのスリルが逆にたまりません!

 カップリングは世間では余り者同士で天馬騎士ティファニーと合わせるのが一般的なようですが、わたくしは絶対にそれは認められません!

 ロムディとふさわしいのはやはり少女剣士のランしかありえないとわたくしは思うのです!

 わたくしはリセットプレイが大嫌いなので、決してリセットなどは行わない主義なのですが、その分、悲しい思いをすることも多く、

 最終章でロムディがランをかばって―――と言ってもわたくしの操作ですけど―――大炎竜の攻撃を受けて死んでしまったときは、三日三晩は涙が止まりませんでしたわ!!

 結局、ロムディを最後まで生き延びさせることに成功したことは一度も無いのですが、

 戦後のランも、ロムディの死を背負って強く生きていってくれたとわたくしは信じているのです!

 話は変わりますけど、わたくしはどうしてもハードモードで総ターン数100を切ることが出来ないのです。

 おそらく7章の6ターンと最終章の9ターンがもっと削れるのだと思うのですが、どなたか成功した方がいらっしゃったら教えてくださいな!」


と、ここまで一息で言い終えた後、昌子は学友達がドン引きしていることに気付く。

やってしまったと慌てて口をふさぐ昌子だが、時既に遅し。



これ以降、学校での昌子に対する扱いは確実に変わった。

それが良い意味でか悪い意味でなのかは、読者の想像にお任せする。











   チャチャチャチャラララン♪



  『…………河合亜理紗…………。

   ………………………………。

   ……どうしよう……どうしよう……。

   ずっとこのまま……五人でやっていけると思ってたのに……。

   ………………………………。

   ……いやだ……絶対やだよ……っ』



  次回、闘え!!ゲーマーズVR


Round12「ゲーマーズをやめる!? 彼女のもう一つの夢!」



   ジャジャーン!!



  『……やだ……やめちゃやだッ……!!』

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