第10話 Freeze!! Don't move!!
◎GAMER'S FILE No.9
『G・アクション』
アンチャー討伐のために制作されたパワードアーマー第四号。
普段は四次元ブレスレットに格納されているが、
腕に装備して『プレイ・VR』と叫ぶと自動で装着される。
アーマーは白を基調としたボディに緑のストライプが入ったデザイン。
機動性を第一に考えて開発されたアーマーで、随一の軽量ボディを持つ。
自身を可変重力フィールドで覆い、高速移動や空中ジャンプ等を可能とする。
剣にも鞭にも変形する万能武器『ウィップソード』が標準搭載されており、
近~中距離のあらゆる戦闘に対応できる汎用性の高いアーマーと言える。
反面、パワー不足は否めず、単独で重装甲の敵を撃破するのは困難である。
アンチャーの本拠地である異次元の暗黒空間。
その中央にある玉座の間で本を読んでいたアンチャー首領に向かって、まるで掴みかかりかねない勢いで迫ってきたのは、アンチャー幹部の一人である双弩だ。
首領が自分の出撃を許可してくれないことに業を煮やし、直接陳情にやってきたのだ。
「首領ォッ!! なんで俺を出してくれねェんだよ!!」
「双弩、癇癪はみっともないですわよ」
双弩よりも更に小柄な女口調のアンチャーが脇から現れ、双弩をからかうように言葉を投げかける。
「苦椴、テメェは引っ込んでろ!!」
「いいえ、引っ込むのは貴方の方です」
「なにィ!?」
「わたくし苦椴、この度ゲーマーズ討伐を首領様から一任されましたの」
自信に満ちた笑みで、手のひらで自分を指し示す苦椴。
「てめぇごときが奴らに勝てるか!! 在楼がやられた相手だぞ!!」
「在楼の敗因は、同時に一体の敵しか攻撃できなかったことですよ。更に付け加えれば……バカ正直すぎたところでしょうか?」
「テメェっ!!」
今度は本当に掴みかかる双弩だが、苦椴は襟首をつかまれても済まし顔だ。
「おまえ達、少し静かにしてくれないか? うるさくて本が読めないだろう」
やれやれと言った様子で、首領が本から顔を起こす。
「だって、首領!!」
「双弩、今は苦椴に任せておくのだ。おまえはいざという時のための切り札なのだから」
「そ、だから今は大人しくお留守番してなさい。き・り・ふ・だ・ちゃん♪」
「テメェーーーっっっ!!!」
再び苦椴に掴みかかろうとする双弩だが、床に突然開いた穴に落ちてしまう。
穴はすぐに塞がり、双弩の喚き声をシャットダウンする。
「ふう、これでようやく静かになったな。それでは苦椴、後は任せたぞ」
「はい首領様、吉報をお待ち下さい」
アンチャー首領にうやうやしく敬礼し、苦椴は玉座の間を後にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここは某公立高校。
ジャージ姿の樋口佳奈美は、体育の授業の真っ只中にあった。
行われているのは女子サッカーの学年対抗試合である。
「佳奈美ちゃーん、ボール行ったよー!」
「任せろ!」
そう言って宙に飛び上がった佳奈美には、華麗な体裁きで強烈にボールを打ち込む自分の姿が完璧にイメージできていた。
しかし……。
「うぇっ!?」
見事に空中でバランスを失い、頭から地面に落ちる佳奈美。
その間に味方からのパスは敵に奪われてしまう。
「もー、佳奈美ちゃんったら本当に運動音痴なんだから!」
「くっ……」
思わず腕の変身ブレスレットを見つめる佳奈美。
「先生、変身して試合しちゃダメか?」
「ははは、佳奈美は変身できるのか。でもズルは駄目だな、変身せずに頑張れ」
「……はーい」
一方、相手のチームにいる亜理紗は、自分に向かってくるボールをひょいひょいと避けていた。
「亜理紗ちゃーん、これドッジボールじゃないから! サッカーだから!」
「……痛いの……いや……」
そうしてそれぞれのチームが足を引っ張るお荷物を抱えたまま、gdgdになった試合は互いに無得点で引き分けとなった。
二人で下校中の佳奈美と亜理紗。今日は午前授業なのでまだ日も高い。
記録的な猛暑を誇らしげに照らし出す太陽が少し憎たらしい。
「キミ、スタイルいいね。雑誌モデルとかやってみる気はない?」
「いえ、あたし格ゲー一筋なんで」
スカウトを軽くかわし、今日もゲーセンに向かう二人。
「……佳奈美は黙ってれば美人なのにね……」
「ほら、あたしって実戦派だからさ。キャラ愛よりも面白い性能を重視すると言うか」
そうこう言ってる内にいつも通りにゲーセンに到着し、
八重花、千里、昌子、と合流する。
「ふっ、来たわね佳奈美! 今日こそ格の違いを教えてやるわ!」
「ヤエちゃんそれ完璧に三下ムーブやで?」
「何でもいい、返り討ちにしてやるよ」
「おーっほっほっほー! 今日も手加減よろしくお願い致しますわー!」
「……おミソのボンボン……ミソボン……」
とまぁ、そんなこんなで今日もゲーマー対決が始まるのであった。
「ちょっ、また亜理紗の一人勝ちなの!?」
今日はミニゲーム集合型ゲームで対戦していたゲーマーズだったが、結果は亜理紗の圧倒的な独走勝利となっている。
「……楽勝……」
「イチダントエールは連打系のミニゲームばっかりだからなぁ」
「あ、亜理紗さんはシューターでしたか。だから連打は得意なんですのね」
「マリコパーティ2でも独壇場だったし……」
「どうでもええけど、いいんちょ何でコスプレしとるん?」
千里の言うとおり、昌子は金髪ツインテールのカツラに加え、原色系の生地にフリルを編みこんだ貴族風?コスチュームに身を包んでいた。
「決まってるでしょう、わたくしはお忍びでここへ来ているのよ? もしこんな所に来ていることがお父様やお母様にバレたら大変ですもの!」
「なら目立つ格好は逆効果と思うんやけどなぁ」
「……場違い……」
「昌子さんち、厳しいんだね……」
「話は戻るけど、これで一回連射速度を計ってみたらどうだ?」
佳奈美が休憩所にかかっていた連射測定器のシュワッチを見つける。
さっそく計測してみた結果、亜理紗は秒間17.8連射ということが判明した。
「おお~、高○名人を超えとるで!」
「でもあの人、ホントは全盛期に17連射できたらしいけどね」
「……大したこと無い……」
「どうした、照れてんのか?」
顔を見られないように逸らしてしまった亜理紗を、佳奈美が肘で小突く。
面白がった八重花と千里が、先回りして亜理紗の顔を覗き込む。
「どれどれ……なんだ、いつも通りの無表情じゃん」
「ほんま亜理紗はポーカーフェイスやなぁ。もちっと可愛げってもんが―――」
「あら、やっぱり亜理紗ね?」
いきなり二人の間に首を突っ込んで会話に割り込んできたのは、ゲーセンには場違いなスーツ姿のお姉さんだった。
ゲーマーズ達は怪訝な顔をして、名前を呼ばれた亜理紗とお姉さんを見比べる。
当の亜理紗は少し目を丸くしていたが、すぐに呆れたようなため息をつく。
「……亜希子お姉ちゃん……仕事、どうしたの……?」
「あはは、営業回りの一休みってところよ」
「あら、亜理紗さんのお姉さまでございましたか。わたくし、田宮昌子と申す者でございます」
「あ、これはご丁寧にどうも! 私、○○化粧品の……じゃなくて、亜理紗の姉の河合亜希子と申します」
金髪貴族コスプレの昌子と慇懃におじぎと名刺を交換するスーツ姿の亜理紗の姉、亜希子。
傍から見ると異様すぎる光景である。
「亜理紗に姉ちゃんなんておったんですか。ウチ、千里です。ほなよろしゅう!」
「あ、あの……あたし、宇崎八重花です」
「佳奈美です。お姉さんのことは亜理紗から聞いてます」
「あらあら、みなさんのことも亜理紗から聞いていますよ。昌子ちゃんは賢いし、佳奈美ちゃんは頼りになるし、千里ちゃんは面白いって」
「……あの……あたしは……?」
名前を挙げてもらえなかった八重花は、所在無さげに自分の存在を訴える。
「あ、八重花ちゃんのことももちろん聞いていますよ。八重花ちゃんは……ふふっ」
「ええっ!? なになに、家で何を言われてるのあたし!?」
「……お姉ちゃん……言ったら怒るからね……」
「おお怖い怖い。というわけだから、ゴメンね八重花さん」
「は、はぁ……」
「……あたし、トイレ行ってくる。お姉ちゃん、早く仕事に行ってよ」
居心地が悪くなったのか、亜理紗は姉を睨みながらトイレに退散する。
一方、亜希子は興味深そうにゲーマーズ達に向き直る。
「でも、本当に驚きました」
「何がですか?」
「実はさっき、亜理紗とあなた達が一緒に遊んでいるところをこっそり見てたんです」
ふふふっ、と軽く思い出し笑いをする亜希子。
「最初、人違いとすら思っちゃいました。だってあの子があんなに嬉しそうな顔をしているところ、久し振りに見たんですもの」
「嬉しそうな……顔!!?」
ゲーマーズの間に衝撃が走る。
「……おまえら、亜理紗の表情の変化、分かったかぁ?」
「い、いえ……てっきりいつも同じ表情をしてるのかと……」
「無理もないよ。あたしも未だによく分からないし」
そんなゲーマーズのリアクションに、亜希子は少しうつむいてしまう。
「……ごめんなさい、あの子、自分の気持ちを表情に出すのが下手で……」
「い、いやいや、謝るのはこっちの方ですって!」
「いいえ、あの子が扱いにくい子だってことは、私もよく知っていますから……」
八重花が慌ててフォローするも、亜希子は表情を沈ませたままだ。
「あの子、無愛想で、そのうえ人見知りが激しくて……よく知らない相手にはつっけんどんで……。
だからとても誤解されやすいんですけど……家族や、大事な友達なんかには、とてもとても優しいんです」
一人一人の目を見て、ゆっくりと彼女達に語りかける亜希子。
「あの子と友達になってくれてありがとう。そして願わくば、どうかこれからもずっと友達でいてあげてください」
亜希子はゲーマーズ達に対し深々と頭を下げた後、ゲーマーズに別れを告げて仕事に戻っていった。
「……ただいま……」
「戻ったか亜理紗。姉ちゃんはもう帰りよったで」
「亜理紗さんのお姉ちゃん、いい人でしたわねぇ」
「姉なんてみんな妹には甘いもんだよ。あたしもそうだし」
「ええっ!? 佳奈美って、妹持ちだったの!?」
「悪い?」
「いや、悪くは無いけど、なんか意外で……」
「……お姉ちゃんの話はもういいでしょ……早くゲームの続きを―――」
『エマージェンシー! エマージェンシー!』
「あー、そろそろ来ると思ったわ。長官、今日の現場はどこや?」
『現場は駅前の商店街なのだが……今回は少し事情が違ってな。
まずは現場から少し離れた地点に集まって貰いたい』
「……なにかあったの……?」
『それが……信じられないことにアンチャーが人質を取って立て籠もり、日本政府に要求をしてきたのだ!』
「なんだって!? あいつらにそんな知能があったのか!」
『要求は日本政権の委譲……。当然だが、こんな条件を呑めるはずも無い。だが奴らは要求を拒否をすれば、人質ごとアンチャー兵士を自爆させると言って来ている』
「迂闊に突っ込んだら、人質に被害が出るってことですわね」
『その通り。だが対策は既に考えてある。作戦開始地点の座標を転送するから、5人揃ってそこに集結するように!』
長官の指示通り、作戦開始地点に集まったゲーマーズ達。そこは高層ビルの屋上だった。
双眼鏡で商店街の方を除いてみると、確かに沢山のアンチャーが人質達を羽交い絞めにしているのが見える。
「確かにここからなら全てのアンチャーが見下ろせますが、こんなに現場から離れたところから一体どうするんですの?」
「いやいや委員長、こういうシチュエーションでやることなんて決まっとるやろ」
ゲーマーズ全員の視線が、亜理紗に集まる。
『流石に察しがいいな。今回は亜理紗くんの狙撃によって、敵をすべて排除してもらう』
「でも、G・シューターは遠距離狙撃には向かないはずだろ? まさか人質に向けてロケット弾も無いだろうし」
『安心したまえ、そこも解決済みだ!』
長官は歯を光らせてダンディポーズを取る。
『G・シューターの射程が短い理由は、高密度の弾丸を高速で打ち出すためのパワーが足りないためだ。要は動力不足なのだよ』
「それが解決できたの?」
『うむ、こんな状況にも対応できるように秘密裏に開発していたシステムが二つある。
もう一つはまたの機会に話すとして、今回の任務で使用するのは、G・フュージョンシステムと呼ばれるものだ。
これは各アーマー同士を連結させることにより、一点にエネルギーを集中し、莫大なパワーを生み出すことが出来る!』
「おおっ!! 要するに、合体技ってことやな!!」
『G・パズラーに簡易マニュアルデータを転送しておく。後は昌子くんに任せたぞ!』
「は、はい! やってみますわ!」
『『『『『プレイ・VR!!!』』』』』
「欲するは強敵、そして勝利のみ。
道を追い求め続ける孤高の戦士……『G・ファイター』!!」
「千分の一秒を削るのに命を賭ける。
音すら置き去りにする光速の戦士……『G・ドライバー』!!」
「狙った獲物は逃がさない。
視界に映る全てを射抜く戦慄の戦士……『G・シューター』!!」
「あらゆる死地を活路に変える。
フィールドを駆け巡る躍動の戦士……『G・アクション』!!」
「全ての謎は、ただ解き明かすのみ。
真理を究明する英知の戦士……『G・パズラー』!!」
『『『『『五人揃って、ゲーマーズVR!!』』』』』
「……って、一刻を争うこの事態にこの決めポーズって必要なんですの!?」
「ったり前や、任務以外でのバイク使用禁止に続いて、これまで禁止されたらウチは泣くでっ!!」
「……変身しないで戦うと……怒られるし……」
「と、とにかく急いでパワードアーマーを連結しますわよっ!」
G・ドライバーのマシンを装甲車型に変形させ、マシンを囲うようにゲーマーズ達のアーマーを連結させていく。
まず昌子がマシンの中央で腰のプラグを座席に連結し、G・フュージョンシステムを起動させる。
次に千里は後部のエンジンに両足から伸びるプラグを連結し、制御を行う。
更に佳奈美と八重花がマシンの左右でそれぞれ左腕と右腕を連結させ、機体を支える。
最後にマシンの先端部分には、G・シューターの長銃を連結させた亜理紗が寝そべる。
「どうだ亜理紗、行けそうか?」
「……うん……アンチャー、全部丸見え……」
「ねぇ、一匹や二匹じゃないんだから、連射できないとマズイんじゃないの?」
「そうですね、とりあえず再装填時間のシミュレートをしてみます」
言うなり、そろばんを取り出してカチャカチャやり始める昌子。
ただし実際はG・パズラーの内部で計算されているので、これは単なるポーズである。
「計算終了! 弾丸発射から再装填までの時間は、きっかり2.4秒です!」
「……秒で言われても分からない……フレームで言って……」
「フ、フレーム……?」
「144フレームや、亜理紗。秒間は60でええんよな?」
「うわっ、千里、計算はやっ!」
「……了解……その程度の間隔なら十分……」
「あ、あの……フレームとは一体……?」
「昌子は分からなくてもいいよ。専門が違うからさ」
「そ、そうですか、よく分からないけど分かりました」
昌子は頭を切り替えると、意味もなくノリノリで腰の剣を振り上げる。
「さぁ、みなさんのエネルギーを亜理紗さんに集めてください!! いよいよ作戦開始です!!」
「よっし、行くぞぉ!」
「オーライ、送ったで!」
「こっちもOK!」
「…………発射…………!!」
パァン!!
高圧縮のエネルギー弾が放たれ、人質を抱えたアンチャーの頭をあっけなく吹き飛ばす。
「よっしゃ、命中や!」
「まだ他のアンチャーには気付かれていません! 今の内にどんどん始末してくださいませ!」
パァン!!
パァン!!
静かな発砲音が響くたびにアンチャーが一匹ずつ消えていき、人質が解放されていく。
そろそろ他のアンチャー達も異変に気付いたようだが、事態の把握にまでは至っていないようだ。
パァン!!
パァン!!
「ん……?」
不意に、佳奈美が怪訝な声を出す。
「どないした、佳奈美?」
「いや、今の発射、前回から142フレしか経ってないような……気のせいかな?」
「細かっ! ってか、なんでそんな正確にフレーム測定できるのよ!?」
パァン!!
「んー……今度は137フレしか経ってないぞ?」
「ゲームと違ってリアル機械なんやし、誤差があるんとちゃうん?」
「こら、あなた達! 黙って集中しなさい!」
パァン!!
……………………。
「ん、どないした亜理紗?」
不意に、規則正しく鳴らされていた発砲音が消えたのだ。亜理紗を見ると、何かに気を取られているようだ。
ゲーマーズ達も双眼鏡でそちらを確認してみると、そこに人質に取られていたスーツの女性には見覚えがあった。
「おい、あの人……!?」
「う、うん! 亜理紗のお姉ちゃんだよ!」
「そういえば、頂いた名刺には駅前の化粧品メーカーに勤務していると書いてありましたわ!」
もう残っている人質は彼女だけなのか、アンチャー達は亜理紗の姉・亜希子を囲んで自爆の準備に入る。
「まずいっ、狙撃が気付かれたみたいだよ!!」
「どうするんだ昌子、このままじゃ人質が!」
「ちょ、ちょっとお待ち下さい!」
「悠長に作戦立てとるヒマは無いで!!」
「……うるさいッ!!!」
「!?」
突如として放たれた怒号に、ゲーマーズ達は思わずキョロキョロしてその声の主を探してしまう、
それもそのはず、その大きな声は、なんと亜理紗から放たれた物だった。
「お姉ちゃんは……私が助ける!! だからみんなは黙ってて!!」
亜理紗の大声に狼狽するゲーマーズ達の返事を待たず、長銃の引き金を引く亜理紗。
パァン!!
パァンパァン!!
間断なく放たれた狙撃弾が、亜希子を囲う全てのアンチャーを次々と貫いた。
「れ、連射!?」
「おい昌子、どういうことだよ? 再装填には2.4秒はかかるって言ってたよな?」
「お、おかしいですわね……全員のエネルギー総量を計算した結果、確かにその数字が出たはずなのですが……」
ともあれその勢いのままアンチャーを次々と討ち果たし、とうとう駅前を占拠していたアンチャーの全滅に成功した。
「……完了……」
「亜理紗に任せっきりやったから、ウチら暇やったなぁ」
「すぐに民間人の安全確保に参りましょう。再びアンチャーが現れないとは限りませんから」
現場に向かうゲーマーズ達だが、彼女達が辿り着く頃にはほとんどの人が逃げ出した後で、残っているのは怪我をした亜希子ぐらいだった。
「亜希子さん、大丈夫ですか!?」
「あ、あなた達は……亜理紗のお友達の……?」
「ほら亜理紗、姉ちゃんを安心させたりぃ。……亜理紗?」
振り向いたゲーマーズが見たものは、茹だった顔で倒れている亜理紗の姿だった。
「お、おいっ、どないした亜理紗!?」
「……だ、大丈夫……」
「体温が上昇しています……風邪でしょうか?」
「いや、さっきの狙撃で集中力を使いすぎたんじゃないか?」
「そうかも、知恵熱って奴だよきっと」
亜理紗を助け起こそうとするゲーマーズ達だが、その時、彼女達の頭上に影が降りてくる。
「あははははっ、さすがねゲーマーズ!」
「誰だっ!?」
「私の名は芭=苦椴。栄えあるアンチャーの幹部が一人」
「この前の弓矢野郎の仲間か!」
上空から現れたそのアンチャーは、前に出会った幹部クラスと同じくサイズは完全に人間大で、顔の部分には仮面が装着されている。
大きく違う点と言えば、その全身に纏った白い甲冑からは羽が生えており、おそらくその羽の力で宙に制止していることだ。
「あなたですか、日本政権をよこせなんて無茶苦茶を言ったのは!」
「あれは言ってみただけよ。別に私達はこんな国の政権なんて欲しくは無いの。だって人間みたいな虫けらと共存するなんてまっぴらゴメンだもの」
「虫けらやて!」
「虫けらを皆殺しにして、その上にアンチャーが支配する世界を作り上げる……そのためには地球防衛軍ならびに、あなた達ゲーマーズはとぉっても邪魔なの!」
アンチャー幹部はそう言って高く飛び上がったかと思うと、一欠けらの羽を振り落とす。
散った羽は丸太ほどの大きさになり、煙と轟音を上げながらゲーマーズに飛来してくる。
「誘導ミサイルかっ!?」
「あたしに任せてっ!!」
飛来するミサイルに飛び掛り、ウィップソードで真っ二つに撃墜する八重花。
チュドーーーン!!
しかしミサイルの爆発に巻き込まれ、八重花は吹き飛ばされてビルに身体を打ちつけ、気絶してしまう。
「ああっ!? ヤエちゃーーーん!!!」
「あははははっ、これで一匹目! お次はどの虫が駆除される番かしらっ!?」
再び、アンチャー幹部の羽からミサイルが放たれる。
「あたしに任せろっ!!」
「ま、待てや佳奈美!! 無謀すぎるて!!」
「無謀でも何でも、やるしかないだろ!!」
千里の制止を振り切り、ミサイルに飛び掛る佳奈美。
チュドーーーン!!
直撃を食らい、あえなく真っ黒焦げになって墜落する佳奈美。
爆風だけ受けた八重花よりもダメージは大きそうだ。
「うぉぉぉーーーん!! 佳奈美、おまえ漢やぁぁぁーーーっ!!」
「それで、次はどなたが漢になっていただけるのかしら?」
「……くっ……」
「なんだ、名乗り出ないの? なら面倒くさいから、まとめていっぺんにバームクーヘンになりなさい!!」
大きく広げられたアンチャー幹部の羽から、三発のミサイルが一度に放たれる!
「い、いいんちょ、バリアやバリア!!」
「む、無理です! あのバリアではあの爆発は防ぎきれません!」
「なんやてぇーーーっ!?」
チュドドーーーン!!
あわやと言うところで、ミサイル全てが空中で爆発する。
息を切らせながら立ち上がった亜理紗が、短銃で撃ち落としたのだ。
「あ、亜理紗、助かったで! でも身体は大丈夫なんか!?」
「揺れ動くミサイルを全て撃墜するなんて……そう、あなたね? 私の可愛い部下達の脳天をブチ抜いてくれたのは」
「……お姉ちゃんに続いて、佳奈美と八重花まで……おまえだけは、絶対に許さないっっっ!!!」
亜理紗が吼えると同時に彼女の身体、というよりG・シューターのボディが鈍い紫色の光を纏い始めた。
「ふん、許さなかったらどうするって言うのかしら? 抵抗したところで、どうせこんがりハンバーグになる運命なのに!」
本気を出したアンチャー幹部の羽から、数え切れないほどのミサイルが放たれる。
十、二十ではきかない。ひょっとすると三桁に到達しているのではなかろうかという数だ。
しかし次の瞬間、G・シューターの全身に取り付けられた火器の砲口が全て開き、無数のミサイルを漏らさず撃ち落としていた。
「なん……ですって!?」
「うおおっ!? よう分からんが、すごいで亜理紗っ!!」
更に亜理紗は、背中のバーニアを展開して、空へと飛び上がった。
「あ、あれ……どうしてG・シューターが飛行できるんですか!?」
「んっ、マニュアルにはG・シューターは自力で飛べるって書いてあったやんけ?」
「確かにそうなんですけど、G・シューターの飛行能力はパワー不足を解消できないために、実用レベルには至っていないはず……」
『これは、まさかバーストモードか!?』
驚きの声と共に、二人の会話に長官が割り込んでくる。
「長官、なんやそれ?」
『作戦前に言っていた、秘密裏に開発していたシステムのもう片方だ!
G・シューターのリミッターを外すことにより、一時的に限界を超えたパワーを引き出すことができる!
ただしその反作用は大きく、アーマーはもちろん、装着者自身にも負担をかけてしまうのだが……』
「それじゃあ、先ほどの狙撃で再装填時間が短くなっていったり、いきなり倒れたりしたのも?」
『うむ、G・シューターのバーストモードが発動しかけていたのだろう……おそらく亜理紗くんの精神力に影響されてな』
「なるほど、パワードアーマーは感応式ですから、本人の意識が機構に影響を与えても不思議ではありませんものね」
「前にウチが気合で航空形態を作動させたのと同じ理屈かいな」
一方、宙に飛び上がった亜理紗だったが、アンチャー幹部によってばら撒かれた散弾機雷によって、四方を弾幕に覆われてしまっていた。
「なんや、あの弾幕は!?」
「あれじゃあ、ハエの通る隙間もありませんわよ!」
しかし驚いたことに、亜理紗は弾丸のカーテンをいとも容易くすり抜けていく。
そのままあっという間にアンチャー幹部の間近まで到達する。
「……シューターは……撃つだけじゃない……!」
「へえ、まさかこの弾幕を抜けられる虫けらが居るなんてね! でもね、そんな安っぽい火器では私の装甲を貫くことなんてことは―――」
バルルルルルルルルル……!!!
「できはしない……わ、よ……!?」
台詞を言い終わらないうちに、アンチャー幹部の装甲は至近距離での秒間17連射に貫通される。
弾丸はそのまま本人も貫き、致命傷を与えたようだ。
「う、うそ……い、嫌よ、射殺されるなんてっ……! 私の最期は……美しい爆死って、決めて……。…………」
力なく地上に墜落したアンチャー幹部の身体は、そのまま消滅した。
「……お姉ちゃん……大丈夫……?」
「ありがとう、亜理紗。私なら大丈夫よ」
地上に降りてきた亜理紗は、真っ先に姉の下へ駆け寄る。
一方の亜希子も、亜理紗を安心させるために頭を撫でてあげる。
「……私……お姉ちゃん達を助けるために、頑張ったよ……!」
「なるほど、亜理紗の強さの源はシスコンパワーなんやな」
「……何か……言った……?」
バーストモードで開いた全身の砲口が、全て千里に向く。
「げげっ!? じょ、冗談やて、早まるなっ!!」
ぷしゅー……。
「あ」
突如として、G・シューターは煙を上げて動かなくなり、亜理紗も気絶してしまった。
「ふぃー、助かった……どうやらタイムリミットみたいやな」
「限界を超えたパワーを引き出してたんですから、こうなるのも当前ですわね」
「……ふふっ」
いきなり亜希子が笑い声をあげたので、千里と昌子は思わず振り返る。
「この子があんなに怒った顔をしているの、久し振りに見ました」
「いいんちょ、亜理紗の顔の変化……いや、分からなくても怒ってるのは分かるか」
「全身から怒りのオーラが見えました……」
「この子が何より怒るのは、自分の大切な人が傷つけられた時……。
私もですけど、皆さんを危機に陥れたことに対して怒ったんですよ、きっと」
「…………」
少し照れくさそうにほほをかく千里と昌子。
「……ま、今日の亜理紗は頑張ったし、家まで送ってやるかい」
「あのー、私も一緒に乗せてもらっていいかしら?」
「あ、道が曖昧なんで助かりますわ。いいんちょは?」
「わたくしはちょっと駅前で買いたい物があるので、それを買ってから自分で帰りますわ」
「ほーか、んじゃほななー!」
亜希子と気絶した亜理紗を乗せ、千里操る四輪マシンは走り去る。
昌子もそれを見送ると、変身を解いて歩き去っていった。
「ねぇ……あたし達、忘れられてない?」
「忘れられてるな。確実に」
昌子達が去った後には、ダメージで起き上がれない状態のまま取り残された八重花と佳奈美の姿があった。
「たまにあるんだよね。主役級にスポット当てすぎて、サブキャラの消息を完全にスルーされることが」
「まだプレイ中だったのにゲーセン閉められちゃった時のことを思い出すなぁ」
道端で仰向けに寝っ転がったまま、どこか呑気に二人ごちる八重花と佳奈美。
通行人の通報を受けて彼女達が救助されるのは、もうしばらく後のことである。
『よう、樋口佳奈美だ。
学校帰りに街をウロウロしてたら、
同じく学校帰りの昌子を偶然見かけたんだ。
なのに声かけても全然気付いてくれなくてさ。
仕方ないから気付いてもらえるまで後を追ってみてるんだけど、
何故か昌子はどんどん足早になっていって、一向に気付いてくれないんだ。
……こうなったら気付いてくれるまで地の果てまでも追っかけてやるよ!』
次回、闘え!!ゲーマーズVR
Round11「彼氏彼女と隠れゲーマーの事情!」
ジャジャーン!!
『あたしより強い奴に会いに行く!!』
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