第9話 ドリドリ、トビトビ!!
◎GAMER'S FILE No.8
『G・ドライバー』
アンチャー討伐のために制作されたパワードアーマー第三号。
普段は四次元ブレスレットに格納されているが、
腕に装備して『プレイ・VR』と叫ぶと自動で装着される。
アーマーは白を基調としたボディに黄のストライプが入ったデザイン。
万能変形マシン『ドルフィン』を制御する媒介として開発されたアーマー。
当初、『ドルフィン』はパワードアーマーとは無関係に開発されていたが、
そのあまりの馬力の高さに生身の人間が操縦することは不可能と判断され、
精神感応式で操るパワードアーマーが後から開発されることになった。
アーマー単体のスペックは、パワーが劣る他はG・ファイターに準拠する。
グワッシャァァァァァーーーン!!!
「あいたた……みんな無事!?」
「……なんとか……」
「ったく、千里の操縦はいつも乱暴すぎるんだよ」
「の、乗ってるこちらの身にもなって欲しいですわ!」
「はっはっは、すまんすまん」
変身中のゲーマーズ達は、ひっくり返ったマシンの下から何とか身を引きずり出す。
どうにか全員無事のようだ。
公道を猛スピードで疾走する四足歩行の獣型アンチャーを倒すため、千里に追跡を一任した一行。
命知らずの千里のドライビングで見事にアンチャーに追いつき、亜理紗と八重花の銃撃&鞭撃によりアンチャーを追い詰めたまでは良かったが……。
アンチャーに追いつくことしか考えていなかった千里は勢い余って目標を追い越してしまい、 慌てて方向転換しようとしてマシンをガードレールにぶつけ、見事に空中四回転クラッシュを決めたのだ。
当然、アンチャーにはその隙に逃げられてしまう。
『バッカもぉーーーん!!! こんな失態は、ゲーマーズ始まって以来だぞ!!』
立体映像で現れた長官は、すっかりカンカンである。
「も、申し訳ありません長官殿!! それもこれも全て千里さんが……!」
「ああっ、ウチ一人に責任押し付けるのはセコイでっ!?」
「いや、どう考えても千里のせいだろ」
「あたしもそう思う」
「かぁぁ、この裏切り者どもがっ!」
「……当前の反応……」
千里を冷ややかな目で見るゲーマーズ+長官。
しかし千里本人は妙に自信満々だった。
「だが安心せぇ、長官! ウチには起死回生の秘策がある!」
『秘策!? なんだねそれは!?』
「ふっふっふ……」
千里はビシッとVサインを長官に突きつける。
「失敗したら……ポーズしてリトライ選べばええんや!!」
「「『「「……はぁ?」」』」」
千里の意味不明の発言に、場の空気が白ける。
「い、いや、その……。そうすれば、またコースの最初からできるんやないかなぁーて……。ははは……」
慌てて弁解じみたことを言う千里に、ゲーマーズ達はますます冷ややかな視線を浴びせる。
「……ごめん、あたしゲーム脳って何かの冗談だと思ってたよ。本当にあったんだな」
「こ、この事実はどうにかして隠蔽しないと!! PTAにでも知られたらおしまいですわ!!」
「あたし……ゲームする時間、ちょっと減らそうかなぁ」
☆ゲーム脳は明確な根拠も無い、ほぼ完全に否定されている学説です。
身近に頭がパーなゲーマーが居たからと、安易に信じないようにしましょう!
「じょ、冗談やて、ほんの冗談! んもーっ、軽く言ってみただけなのにマジに取んなや!」
「……千里のボケは……つまらない……」
「関西弁キャラでボケがつまらないって、致命的じゃない?」
「大体、リトライって要するにリセットするってことでしょう!?
いつもいつも言ってますけど、失敗したからってリセットするのはおやめになってくださいな!
いくらリセットしたって、ダダトルやガッシュが一度死んだ事実は変わらないんですのよ!!
千里さん、そんな彼らの犠牲を忘れてしまうつもりなんですの!?
そんなこと、このわたくしが絶対に許しませんわ!!」
「だああっ、またいいんちょのリセット否定論が始まってしもたっ! つーかダダトルとガッシュって誰やねん!?」
「そんなことはいいから、急いでアンチャーを追うのを再開しないとヤバイだろ!!」
「キキッ! ゲーマーズ、オロカナリ!」
「え」
パァンッ!
「あ」
「……完了……」
ゲーマーズを嘲笑するために姿を見せた獣型(ネズミ型?)アンチャーは、あっさりと亜理紗に眉間を撃ちぬかれて消滅した。
「……ふう、これでお役ゴメンやな! ウチはそろそろバイトの時間や、ほななーっ!」
「あっ、逃げた!」
ゲーマーズが放心している一瞬の隙を突き、千里はあっという間にマシンに乗ってとんずらぶっこいていた。
『キミたちぃっ、今までは何も言わずにいたが、今日こそはビシッと言っておくぞ!!』
頭に湯気を立ち上らせた長官は、ゲーマーズ達を正座させると、くどくどとお小言を拝領たまわってくださる。
「……本人の居ないところで連帯責任でお説教……最悪なパターン……」
「いやあああああ!! 優等生はお説教には耐性が無いんですのよおおおおお!!」
『大体キミたちはなぁーっ、自覚が足りんのだ自覚が!! 地球の平和を守るという重大な使命を帯びているという自覚が―――』
prrrrrrrrr...
「ん、誰の携帯だ?」
「こ、こらぁっ!! あなた達、任務中は携帯の電源を切れとあれほど―――」
『いやすまん、私だ。ちょっと待ってくれ。……あー、こちら長官。何の用だ?』
軽い調子で電話に出た長官だったが、何事か顔色が変わる。
『そ、そうか……。分かった、後はこちらで何とかしよう』
長官は携帯を胸ポケットにしまうと、困ったような表情でゲーマーズに向き直る。
「長官さま、どうなさったんですか?」
『う、うむ……それが……』
「言いたいことがあるならはっきり言ってくれよ」
『五十嵐千里が……』
「千里が?」
『……警察に捕まったそうだ』
「「「「……はぁぁっ!?」」」」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「堪忍……堪忍や、おまわりさぁ~ん……。もしオトンとオカンにこのことが知られたら……ウチ、ウチっ……!」
「はいはい、迎えに来たよ」
「おおっ、おまえらっ!」
交番で三文芝居を続ける前科者のところに、ゲーマーズ達が迎えにやってくる。
地球防衛軍の公権力で根回しされていたため、千里はあっさりと釈放される。
「やっぱ持つべきものは友達やなぁ……」
「礼なら長官におっしゃってくださいな」
「で、なんで捕まってたの?」
「それがなぁ……」
長官の説教からバイクで逃亡していた千里は、まずスピード違反で引っかかり、そしたら免許不所持で引っかかり、 そんで警官がしょっ引いてみたら、そもそも千里は免許を取得していないということが判明したのだ。
「あたしらバイクに乗せてる時も無免許だったのかよ。じゃあ3人乗りとか犯罪もいいところじゃないか」
「……それは……元々違法……」
「はっはっは、すまんすまん! どうにもウィンカーって奴が苦手でなー、教習所卒業できんかったんや」
「ええっ!! 免許取ろうとして取れなかったの!?」
「そんなまさか……千里さんの操縦技術を持ってすれば、運転免許ぐらい簡単に取れるでしょう?」
「いやいや、マシン動かすのに必要な機能はちゃんと把握できるんや。でも方向指示器とか交通ルールとかって、マシンの動作そのものには何の関係も無いやろ?」
「まぁ、確かに」
「……だからって……任務中に事故られても困る……」
「まーまー! 次はちゃんとミスらないようにするよってからに!」
自信満々にそう言う千里だが、ゲーマーズ達は不安な思いがぬぐえなかった。
今回の失態を重く見た地球防衛軍は、急遽ゲーマーズの教育を目的としたパワードアーマーのマニュアルを製作・配布することとなった。
防衛軍の秘密基地の一室で、軽くマニュアルに目を走らせるゲーマーズ達。
「へー、G・アクションが身軽なのって重力干渉機能のおかげだったんだ」
「おい、見ろよ亜理紗! G・シューター、自力で空が飛べるって書いてあるぞ!」
「……知らなかった……」
「G・パズラーのマニュアルにも、長官様に教えて頂いた機能以外の物がいっぱい書いてありますねぇ」
そうして自身のアーマーのマニュアルに目を走らせる傍ら、ゲーマーズ達は千里にチラリと視線を飛ばす。
先ほど彼女に手渡されたはずのG・ドライバーのマニュアルは床に放置されており、本人はレトロな携帯レースゲームに夢中になっている。
(ドガッシャァァァァァーーーン!!!)
「あっちゃー、最近なんか調子悪いわー」
レースゲーム内でもクラッシュしてしまった千里は、頭をポリポリとかく。
それを見ていた八重花は何か思うところがあったのか、こんなことを言い出した。
「あたし、チサトの欠点が分かった」
「ウチの欠点?」
「……だから……ゲーム脳でしょ……?」
「ボケがつまらないことじゃなくてか?」
「いや、それはそうだけど、そうじゃなくて!」
「ほう、面白そうやんか。言うてみぃ」
八重花は少し間を置くと、千里の目を真っ直ぐ見据えて再び口を開いた。
「千里は限界のタイムを追及するために、常にリトライありきのプレイをしている。
だからチサトにとって大きかろうが小さかろうがミスはミス、全てのミスが等価値でしかない」
「……………………」
「でも、それじゃダメなんだよ。あたし達には、残機なんて一つも無いんだから。
些細なミスを避けるために致命的なミスを招いたら本末転倒、ゲーマーズ全体のピンチに繋がる。
何よりも致命的なミスを避ける、要するに生き残るためのプレイをしなきゃいけないんだよ」
「…………ほーん、なるほどな」
真剣な表情で黙って八重花の言葉を聞いていた千里だったが……。
次の瞬間、表情をコロッと締まりの無い笑顔に変える。
「でもヤエちゃーん、損得で決める人生って空しいでぇ?
死んだら死んだで、そん時はそん時やろ! わっはっはー」
「そん時で済みますかぁっ!!!」
「ぎゃああああああああああ!!?」
千里のあまりにいい加減な態度にぶち切れ、昌子が千里の耳を掴み上げる。
「いたた、いた、痛いて、いいんちょ!」
「私、委員長なんてやっていません!!」
「ええっ、ホンマに!? 三つ編みメガネっ子てコテコテやん!?」
「黙らっしゃい!!」
「いで、いででででで!! 耳、耳ちぎれるて、いいんちょ!!」
意地でもふざけた態度を崩そうとしない千里を、昌子は無理やり引っ張っていく。
「ともかく、千里さんにはたっぷり6時間ほど、長官様に用意して頂いた更生プログラムを受けていただきますわ!!」
「ぎゃああああーーーっ!! 嫌やぁーっ、自由を奪われるぐらいなら三千円払ったほうがマシやーっ!!」
「たった三千円で自由が買えると思ったら大間違いですわっ!!」
「た、助けてヤエちゃぁーーーーーーん!!!」
……バタン。
千里と昌子の姿は、重い扉の向こうに消えてしまった。
「……ねぇ、千里って昔からあんな性格なの?」
「……さぁ……?」
八重花の質問に、亜理紗は小首を傾げる。
「さぁ、って……あんた友達でしょ?」
「……友達だよ……」
「それなら―――」
二人の会話に、佳奈美も割り込んでくる。
「千里とあたし達、まだ知り合って半年なんだ」
「えっ、そうなの?」
「……佳奈美と近所のゲーセンで遊んでたら……千里がふらっとやって来た……」
「へー、もっと長い付き合いなのかと思ってた。もしかして佳奈美と亜理紗も?」
「いや、あたし達は中学入る前からだから……五年来ってとこだな」
「ふーん」
などと残された三人が雑談している間にも、千里と昌子は地獄の特訓を繰り広げていたのだ。
「走行中、目の前の信号機が黄色くなっています! さぁ、千里さんはどうします!?」
「赤になる前に突っ切る!!」
「どあほーーーーーッ!!!」
スパァン!とハリセンの音が部屋中に響く羽目になる。
「いいですか、千里さん! 考えるよりもまずはマニュアルの暗記です!
こういう状況では、こう行動するのが最も安全!
そういう定石を全て脳みそに叩き込んで頂きます!」
「嫌やっ!!」
「嫌じゃ済まないんですのよっ!!」
再びスパァン!と音が響く。
……が、千里は少し寂しそうな瞳で昌子に訴えかけてくる。
「分かってくれや、いいんちょ……。
ウチはな……型にハマるのが、どうしても嫌なんや」
「そ……そんな、勝手な……!」
「勝手なワガママっちゅーことは分かっとる……やけど、ウチは……」
「……………………」
寂しそうに目を逸らす千里を見て、どうにも居たたまれなくなってしまった昌子は、それ以上は何も言う事ができなかった。
昌子一人が力なく戻ってきたのを見て、ゲーマーズ達は千里の特訓が失敗に終わったことを悟る。
「やっぱり無理だったか」
「……予想通り……」
「千里はバカだから、難しいことを言われても分からないんじゃない?」
『いや、それは違うぞ』
不意に立体映像の長官が現れ、話に加わってくる。
「長官さん、ここ防衛軍の基地なんだから、たまには生身で出てきたら?」
『残念だったな、私の勤務地はここではないのだ』
「あっそ……」
「それで、何が違うって?」
『あぁ、そうそう。前に、学習塾に授業を受けに行かせたことがあっただろう?』
「わたくしは現在進行形であそこに通ってますけどね」
『その時、学力テストがあったと思うが、それの結果が……』
長官は、千里のテストの結果を立体映像で浮かび上がらせる。
「えええっ!? 全教科満点じゃない!?」
「……奇跡すぎる……」
『いや、これはそこまで難しいテストではないんだ』
「そうなのか?」
「ちなみにわたくしも満点でしたわよ」
『とはいえ、ろくすっぽ勉強していない落第生に解けるほど簡単でもない』
ジロッと長官に睨まれたバカ三人組は、目を逸らして口笛を吹いた。
「やっぱりそうなんです。千里さんは頭が悪いわけじゃないんです」
「じゃあ分かってて悪ふざけしてんのか。余計に性質が悪いじゃないか」
「いえ、きっと彼女なりにどうしても譲れない一線なんだと思います。アイデンティティーというか……」
「なら、どうするの?」
「それは……」
昌子は、ぐっとこぶしを握り締める。
「……諦めましょう!!」
ゲーマーズ達は盛大にずっこける。
「……結論が高度すぎて、あたしらみたいなバカには理解できないんだが……」
「千里さんは多分、自由気ままに突っ走るためだけにゲーマーズをやってるんです。
そんな彼女にマニュアルプレイを強要するのは、ゲーマーにゲームをやめさせるのと同じ! そんなことは理論的に不可能です!」
「……ゲーマーって……薬物中毒者以下……?」
とうとう諦めの境地に達した昌子に、しかし八重花が異を唱える。
「待ってよ昌子さん、それって勝利や記録に拘らないレクリエーション型のゲーマーの話でしょ?」
「……千里が折れないのは……きっとこのままでも上手く行くっていう自信があるから……」
「だけど千里みたいな求道型のゲーマーは、壁にぶつかれば必ず別の道を模索しはじめるはず。つまり、千里に今のままじゃ駄目だと思わせることが出来れば……」
「なるほど、その発想はありませんでしたわ!」
「……でも……どうすれば……」
『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』
「なんだよ、こんな時に……」
「ううん、これはチャンスだよ! アンチャーを利用して、千里を矯正する方向に上手く持って行ければ……」
「なるほど、早速作戦を立ててみますわ!」
出現したアンチャーの情報を元に、即興で『五十嵐千里・矯正計画♪』の計画書を書き上げる昌子なのであった。
公道を疾走するアンチャーが再び現れたとの報に、ゲーマーズに召集がかかる。
再びG・ドライバーのマシンに乗り込むゲーマーズ達。
「まーた同じタイプのアンチャーが出よるなんて、なーんか都合よすぎひん?」
「バカなことをおっしゃらないでくださいませ! 読者に何かの伏線と勘違いされたらどうなさるおつもりですか!?」
「千里が頼りなんだから、今日も頑張ってくれよ!」
「そうそう、千里はゲーマーズの大黒柱なんだから!」
「……いよっ……大統領……」
「……ま、ええか。じゃあ出発するで」
操縦席の千里はマシンを発進させる。
一方、他のゲーマーズ達は互いに目配せする。
(いいですか皆さん、今回の作戦で上手いこと千里さんの無力を思い知らせてやるのですよ!)
(……もちろん……)
(うーん、なんだかドッキリみたいでワクワクするなぁ)
(一応言っとくけど、アンチャー倒すのも忘れちゃダメだからね!)
直に目的地に辿り着き、ネズミ型のアンチャーの姿を発見する。
「早速おったな、逃がさんでぇ!」
追いかける千里、しかしアンチャーは木々の生い茂った山の中に逃げ込む。
しかしこれは昌子達の作戦通りであった。
最初からこの山に追い込むことになるよう計算して、作戦開始位置を設定したのだ。
「アンチャーめ、随分と厄介なところに逃げ込んだわね!」
「おい、こんな木ばっかりのところに猛スピードで突っ込んだら事故りたいって言ってるようなもんだぞ!」
「千里さん、ここはマニュアル通り、安全策を!」
「……減速……」
ロールプレイに慣れている昌子を除いて、やや棒読みの忠告をするゲーマーズ達。
しかし……千里は一向にマシンを減速させる気配が無い。
「ちょ、千里!? 減速だって言ってるじゃない!?」
「ウチは絶対に妥協せぇへん……。妥協するぐらいなら、死んだ方がマシやっ!!」
「えええええええええ!? ちょっとお待ちくださ……ひええええっっ!!!」
忠告に全く耳を貸さず、トップスピードを維持したまま山に突っ込んでいく千里。
流石に上手くかわしていくものの、脇を木の枝がかすめていくのだからゲーマーズ達は気が気でない。
「うわ、すっげー! こんなに障害物がある場所をこんなにスルスル行けるのかよ!」
「……すごい動体視力……」
「先読みスキルも高いっぽい?」
「感心してる場合ですか! 仕方ないから次の段階に移りますわよ!」
昌子はG・パズラーの機能の一つ、高機能マップを立体映像にて浮かび上がらせる。
「千里さん、アンチャーを10時の方角に追い込んでください! あちらは崖ですから、追い詰めることが出来ますわ!」
「らじゃ! 追い詰めた後のトドメは頼んだで!」
そうしてアンチャーを崖に向かって追い込んでいく千里。
そしてとうとう崖まで到達する。
「さぁ、年貢の納め時……なにぃっ!?」
突如としてアンチャーが翼を広げ、崖から飛び立ったのだ。
「なんだアイツ、ネズミかと思ったらコウモリだったのかよ!」
「千里さん、急いで減速を! このままでは崖から落ちてしまいます!」
「……………………」
「……千里さん?」
急に黙りこくった千里は何を思ったか、なんと逆にマシンを加速させたのだ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? そっちには崖しか無いのよ!?」
「そんなん見りゃ分かるわ!」
「お、落ち着いてください千里さん! ここはマニュアル通り、アンチャーの逃走先を予測して先回りを!」
「マニュアルなんて関係あらへん!! これがウチのやりかたや!!」
更にマシンを加速させる千里。
崖はもう目前だ。
「ま、まずいって千里!! もう道が無いって!!」
「道が無いっちゅうなら……空飛んだるわぁーーーー!!!」
「んな、むちゃくちゃなっ!?」
「と、止まってぇぇぇーーーーーっ!!!」
ゲーマーズの絶叫も虚しく、マシンは全速力のまま崖を走りぬけ、宙にその身を踊り出した。
…………………………………………。
「…………あれっ?」
来るべき衝撃に備え、目をつぶって身を縮こまらせていたゲーマーズだったが、
いつまで経っても浮遊感が消えないので、恐る恐るその目を開けてみる。
「……何……コレ……」
「嘘でしょ……?」
「はっはっは、ウチの言うとった通りやろ!」
先ほどの千里の宣言通り、彼女の操るマシンは戦闘機型の航空形態に変形していたのだ。
飛行によって更なる加速度を得たマシンは、逃げるアンチャーに容易に追いつく。
「おっしゃ! 亜理紗、ヤエちゃん、頼んだで!」
「わ、分かった!」
「……フライトシューティング……」
ピシィッ!!
ガァァン!!
アンチャーの動きを八重花の鞭が止め、亜理紗のチャージ弾がトドメを刺す。
その的確なコンビネーションにより、ケリは一瞬でついた。
胸部を貫かれたアンチャーは、力なく山へ墜落していく。
「ま、今回はウチのプライドとド根性が窮地を救ったっちゅーわけや。思いつきの作戦でウチを矯正させようなんて、カフェモカよりも甘い考えやったな」
「……なんだ……見抜かれてた……」
「ん、どうした八重花? 考え込んじゃって」
「いや……昔々あるところに、車道を走るレースゲームだったはずなのに、最終的に空を飛び続けるのが最速になったゲームがあってさ……それを思い出しちゃって」
八重花がどうでもいいことで考え込んでいた一方、真面目に考え込んでいた昌子は、沈痛な面持ちで顔を上げた。
「……皆さん、わたくし達が間違っていたみたいです。きっとこの奔放さこそ、千里さんの力の根源なんで―――」
その時、マシンがガクッと大きく傾いた。
かと思うとマシンが再び変形し、地上用の形態に戻ってしまう。
そして航空形態ではなくなったため、当然ながらそのまま高度を失っていく。
「お、おい、どうした千里!?」
「な、なんやぁ!? 制御が効かへんぞ!?」
「ちょ、冗談じゃないわよ、あたしまだ死にたくない!!」
「……アーメン……」
「「「「ぎゃ嗚呼あああああああああああああああああああああ!!!」」」」
ゲーマーズ達の絶叫を乗せて、マシンは山に墜落した。
墜落地点には巨大なクレーターが出来たが、幸い人や施設は特に無かったようだ。
「あいたた……みんな無事!?」
「……なんとか……」
「ったく、千里の操縦はいつも乱暴すぎるんだよ」
「の、乗ってるこちらの身にもなって欲しいですわ!」
「はっはっは、すまんすまん。……って、前にもこんなやり取り無かったか?」
変身中のゲーマーズ達は、ひっくり返ったマシンの下から何とか身を引きずり出す。
どうにか全員無事のようだ。
「でも、なんで急にマシンが元の形態に戻ってしまったんだろう」
「ウチの気合が切れちまったんかなぁ」
「まぁマニュアルにも乗ってないアクションなんだから、不具合があった可能性もあるんじゃない?」
「いえ、その……」
何故か、気まずそうに口ごもる昌子。
「ん、どないした委員長?」
「その、非常に言いにくいんですが……あの航空形態、マシンのマニュアルに普通に載っているんです」
「へっ?」
昌子の指摘に、慌ててマニュアルの該当部分を引っ張り出してみるゲーマーズ達。
「あっ、本当だ!」
「……確かにある……」
「安全上の問題で航空形態だけはプロテクトがかかっていたみたいですけど、ちゃんとマニュアル通りに手順を踏めば問題なく起動できるかと……」
千里に向けて、四方向からジト目の視線が集まる。
「何よ、やっぱり最初っからマニュアル読んでれば済んだ話じゃない」
「……だから言ったのに……」
「コマンド表読まずに対戦するバカはいないだろ」
「んな、ウチの味方はおらんのか!? 直前まで持ち上げノリだったやんけ!」
「ちなみにマニュアルにはこうも書いてあります。航空形態の使用は十分が限度で、それを超過した場合、自動で通常形態に戻ると……」
千里に対する視線の圧力が、更に強まる。
「い、いや……その……」
じとーっ……。
「……す……すんまそん……」
千里が頭を下げたのと同じ頃、先に落下していたコウモリ型アンチャーがひっそりと消滅した。
チャチャチャチャラララン♪
『ウチが誇り高きヤングレーサーこと、五十嵐千里や!
なぁ、雑魚をどっかんどっかんいてこますのって気持ちええよなぁ?
辺りがちんまい雑魚で溢れてたら、ぶんぶん振り回すだけで大量やろな!
……なーんて、何も考えずに突っ込んでりゃいいゲームが好きなんやが、
中にはそうもいかへん特殊なクリア条件のあるゲームもあったなぁ……。
中でも特に難しいクリア条件が、アレやよ。……えー、なんやったっけ?』
次回、闘え!!ゲーマーズVR
Round10「超難易度ゲーム!? 人質救出指令!」
ジャジャーン!!
『ウチの記録、破ってみぃや!!』
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