第8話 孤独なエイユウ、マルチなゲーマー
◎GAMER'S FILE No.7
『G・シューター』
アンチャー討伐のために制作されたパワードアーマー第二号。
普段は四次元ブレスレットに格納されているが、
腕に装備して『プレイ・VR』と叫ぶと自動で装着される。
アーマーは白を基調としたボディに青のストライプが入ったデザイン。
G・ファイターを元に、遠距離戦をコンセプトとして開発されたアーマー。
腰部のホルスターに短銃が二丁搭載されている他、
肩部に多数の火器が格納されている。
更に背部にはバーニアが内蔵されており、短時間の飛行が可能。
シンプルな初号機の反動か、やや過剰兵装の傾向があり、
実戦におけるパフォーマンスには疑問が残る作りとなっている。
アンチャーの本拠地である異次元の暗黒空間。
その中央にある玉座の間でグラスを揺らしていたアンチャーの首領の下に、
幹部の一人である大柄な男が、背中から微かな鬱憤をにじませながらやってくる。
「在楼か。どうした?」
「首領。ちょっと人間どもに舐めさせすぎでしょう」
「ふふふ、そうか? 私は良い余興だと思っているが」
「あのゲーマーズとかいう連中、私がちょっと大人しくさせて来ようと思います。構いませんよね?」
「ふふふ、それも良いだろう。戦果を期待しているぞ」
玉座の間を去り、出陣しようとする大柄な男に、脇に寄りかかっていたひょろひょろとした男が声をかける。
「在楼。お前が出るほどの相手でもねェんじゃねぇの?」
「双弩。もし私がやられたら、後は頼むぞ」
「心にもねェことを言うなよ。気味が悪ィ」
嫌な顔をするひょろ男に、ふっと皮肉げな笑みを投げかけ、大柄な男は地球へと繋がる次元の裂け目へと飛び込んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、こちらは親睦と暇つぶしを兼ねて八重花の家に集まったゲーマーズ。
彼女らは昌子を除いた4人で協力ハンティングアクションのクリーチャーハンターをプレイしていた。
「ひゃっほう、突撃や! ……って、あら!?」
大型ランスを構えて大型クリーチャーに突進した千里のPC(プレイヤーキャラ)は、
あっさりと攻撃をはじかれ、その隙に大型クリーチャーに叩き潰される。
「突っ込むだけじゃダメに決まってるでしょ! ちゃんと正確に弱点を狙いなさいよ!」
そう怒声を発する八重花のPCは、手にしたハンマーを的確に弱点に命中させているため、
大型クリーチャーの装甲はどんどん剥がれていく。
「……弱点の狙撃なら……任せて……。…………ッ!」
悠々とボウガンで弱点を狙い撃っていた亜理紗のPCは大型クリーチャーの怒りを買い、
リロードの一瞬の隙に高速突進してきた大型クリーチャーに跳ね飛ばされたのだ。
「ちゃんと身を守ることを考えながら攻撃しなさいよ! 敵が動いてからじゃ遅いんだからね!」
そう喚く八重花のPCは、確かに敵の動きを予見して見事なヒット&アウェイを実践している。
「よし今だっ、7HITコンボ!! そんでもって反撃を確実にガード……なにぃっ!?」
片手剣による軽快なコンボを決めた後、大型クリーチャーの反撃を盾で防ごうとした佳奈美のPCだったが、
大型クリーチャーの攻撃はその小さな盾では防ぎきれず、盾を弾かれて怯んだ隙に追撃を食らってしまう。
「これは格ゲーみたいなディフェンシブゲームじゃないのよ! ガードを過信せず自分で避けなさい!」
そう声を荒げる八重花のPCは、大型クリーチャーとほぼ隣接してるにも関わらず、
敵の攻撃判定を完全に見切った、距離にしてドット単位、時間にしてフレーム単位の回避を行っている。
「うーん、まるで当たり判定が視認できているかのような動きでございますわねぇ。流石はアクションの達人・八重花さん」
ずずずと紅茶をすすりながら八重花の動きに感心する姫昌子。
一方、味方のボロボロの動きに八重花は痺れを切らしたようだ。
「……ちぇえい!!」
「あっ、なにすんねん!?」
大型クリーチャーの足元に突っ込んだ佳奈美と千里を、八重花が振り下ろしたハンマーの衝撃波で吹き飛ばしたのだ。
「あんた達、下手すぎて邪魔なのよ! こんなことならソロ狩りやった方がよっぽど効率いいわ!」
その言葉通り、単独であっという間に大型クリーチャーを討伐してしまう八重花。
『ありがとうございます、あなたは村を救ってくださったエイユウです!!』
「えっへっへー、それほどでもあるけどね!」
クリーチャーを倒した報酬をNPCから受け取って、ご満悦の八重花。
そしてプレイヤースコアには、驚異的な点数が表示される。
「どう? ボウガン封印でハードモードクリア時点でアベレージ100よ!
こんなミラクルな偉業、あんた達ごときには百年かけても達成できないでしょ!」
そのあまりにも尊大な物言いに、とうとう佳奈美がキレる。
「いいかげんにしろよ。八重花がスゴ腕なのは認めるけど、
そんな風にいつもいつも他人を見下してたら、それも台無しだろ」
「そういや、佳奈美って自慢とか全然せぇへんな」
「……佳奈美は……空手やってたせいか、礼節にはうるさい……」
キレた佳奈美に驚いた八重花は目を丸くする。
「……な、なによっ! 自分には出来ないからって僻んでんの!?」
「だからそういう問題じゃないって言ってるだろ!
自分の力を誇示することと他人を不愉快にすることは=じゃないぞ!」
説教を続ける佳奈美に、八重花はイライラしてきた。
「ひ、人の家に上がりこんでおいて、グダグダうるさいのよ!!
もうアンタら出てけっ、とっとと出て行きなさいよっ!!」
「ああっ、ウチらも巻き添え!?」
「分かった、好きにしろよ。一人で少し頭を冷やすんだな」
「か、佳奈美さん、待ってください!」
言うが早いか、あっという間に部屋を後にする佳奈美。
千里と昌子も慌ててその後を追う。
残った亜理紗は、乗り遅れたかのようにぽつんと佇んでいる。
彼女も追い出そうと声をかけようとする八重花だが、
先に口を開いたのは亜理紗の方だった。
「……八重花……」
「ん?」
「……一人は……寂しい、よ……?」
それだけ言うと、亜理紗もゆっくりと八重花の部屋を後にした。
「……………………」
急に静かになった部屋で、八重花は一人佇む。
先ほどまではギャーギャーうるさかったのが嘘のようだ。
「……一人……か……」
亜理紗の去り際の一言が、いやに八重花の胸に突き刺さっていた。
そのせいか、少し昔のことを思い出してしまう。
『八重花ちゃん、一緒に遊ぼうよ』
『やめとけよ。あいつ付き合い悪ぃし』
『そもそもあいつと遊んでも全然楽しくねーし』
『口というか、性格が悪いよなー』
『周りを気遣う気が全く無いってゆーか』
『全く、何様のつもりなんだかなぁ』
(あんなウスノロどもに、あたしの偉大さは分からないのよ!
あたしには仲間も友達も要らない! だってエイユウは孤独が宿命だもの!)
『『『『『エマージェンシー、エマージェンシー!!』』』』』
「!」
物思いに沈んでいた八重花は、いつもより大音量の召集で、はっと我に返る。
いきなり追い出されたゲーマーズ達は、ブレスレットを八重花の部屋に忘れていたのだ。
仲間達に届けるか連絡しようと思った八重花だったが……。
「一人……そうよ!」
魔が差したのか、ロクでもないことを思いついてしまう。
「あたし一人でアンチャーを倒せば、みんなあたしの実力を認めざるを得ないわよね!」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、ブレスレットを掲げて叫ぶ八重花。
『プレイ・VR!!』
G・アクションのしなやかな装甲を身に纏うと、八重花は一人で現場に飛び出していった。
現場では、弓矢を装備したアンチャーが、周辺の建物を破壊していた。
たかが弓矢と思いきや、奴の放つ矢は閃光を纏い、高層ビルですら一撃で打ち砕いてしまう。
「人間ども……泣け、叫べ、喚けっ!! それが貴様らの唯一の存在価値なのだからな」
「待ちなさいっ!!」
「むっ」
急襲する八重花の蹴りを受け止め、打ち払うアンチャー。
八重花も空中でくるりと回って地面に着地する。
「おまえがゲーマーズか」
「へぇ、カタコトじゃないんだ。ってことは、中ボスクラス?」
そのアンチャーは、普段のアンチャーとは様子が違った。
サイズは完全に人間大で、その全身には外付けの白い甲冑をまとっている。
顔の部分にものっぺりとした仮面が装着されており、アンチャー特有の黒くぬめった地肌の露出は一部に留まっている。
「在楼だ。貴様の名前は?」
「G・アクション……あんたらから地球を守る、誇り高き戦士よ!」
八重花は一人で決めポーズを決める。
「貴様一人か。仲間はどうした?」
「あたしには……仲間なんて必要ないっ!!」
飛び掛る八重花。
しかし……。
(バスッ)
「うっ!?」
左肩の重力制御ユニットを射抜かれ、八重花はバランスを崩して墜落する。
「どうした? かかってこないのか?」
対するアンチャーは、余裕たっぷりに次の矢を番えている。
「……このっ!!」
今度は敵の動きを良く見て、フェイントを織り交ぜて攻め込む八重花。
……奴が弦から手を離した瞬間が見えた、右足狙いだ、避けられる!
(ビスッ)
「うあっ!?」
ウィップソードを振りかぶった八重花の右足が貫かれる。
敵の狙いは分かっていたのに……それでも避けられなかった。
アンチャーが放つ矢の速度は、G・アクションの機動性能を遥かに上回っているのだ。
倒れこみ、痛む足をかばう八重花の下に、アンチャーがゆっくりと近づいてくる。
「単独で突っ込んでくるとは愚かな奴だ……物語のエイユウにでもなったつもりなのか?」
倒れた八重花を見て、奴は余裕をかまして近づいてくる。
……今だ!!
八重花は不意を付いて、射程内に入ったアンチャーに切りかかる。
「あたしは、強い……。だから、一人だって、あんたなんかに……ッ!!」
(ドスッ)
「あうぅっ!!」
だがそれより早く、八重花の腕が地面に縫いとめられる。
「貴様らは所詮、限りある命の生身の人間。我らアンチャーに敵うものか」
動けない八重花からじっくりと距離を取り、アンチャーは八重花の額に狙いを付け、弓を引き絞った。
「仲間の居場所を言え。10秒だけ待ってやる」
返事を待たず、アンチャーはカウントを開始する。
「あ、あたしは……」
「8……7……6……」
八重花の脳裏に、ゲーマーズの面々の顔が浮かぶ。
佳奈美、亜理紗、千里、昌子……。
「5……4……3……」
八重花は、ギリッと唇の端を噛んだ。
「あんたになんて……死んでも教えるもんか!!」
「2……1……0……!」
八重花は、目をつぶる。
「いつ撃って来るのか、わざわざ教えてくれてサンキュ」
「!?」
いきなり誰かの声が聞こえ、何事かと目を開く八重花。
声の主は、飛来した矢をブロッキングで弾いた佳奈美だった。
辺りを見回してみると、変身したゲーマーズ達が揃い踏みであった。
「ヤエちゃんも人が悪いなぁ。アンチャー来たんならメールしてくれればええのに」
「ブレスレットを忘れちゃった私達も私達ですけどね」
対するアンチャーは、仮面の奥でニヤリと笑った。
「来たか、ゲーマーズども! 一網打尽にしてくれる!」
「……クィック・ドロウ!」
「ぬぅ!?」
次の矢を番えようとしたアンチャーを、亜理紗の早撃ちが怯ませる。
しかし不意を突いたにも拘らず、ほとんどダメージになっていないようだ。
「みなさん、一旦引いてくださいませっ!
奴の装甲は頑健のようです、闇雲に攻撃しても有効打は与えられません!」
「よし来たっ、みんな乗りぃ!」
昌子の号令で、千里が変形させたマシンに乗り込むゲーマーズ達。
「逃がすかっ!!」
負傷した八重花をマシンに乗せていたため、隙だらけだった昌子に向けて、矢が放たれる。
(ブスッ)
「あっ……か、佳奈美さん!?」
佳奈美が盾となって代わりに矢を受けたのだ。
十字型に交差させた腕によって、何とか矢の貫通を防いでいる。
慌てて駆け寄ろうとした昌子を、佳奈美は後ろ足でぺいっと千里のマシンまで押し出す。
「あいつはあたしが食い止めておく! だから昌子はその間にあいつを倒す方法を考えてくれ!」
「佳奈美、ダメぇっ!!! あいつは絶対に攻撃を外さない!!!」
マシンから身を乗り出した八重花が叫ぶ。
必死の形相の彼女に対し、佳奈美はニッと笑う。
「大丈夫だよ八重花。ちゃんとガードすれば、削られるだけで済む。
……と言っても長くは持たないから、とっとと行ってくれ昌子!」
「……わ、分かりました! 千里さん、お願いします!」
「ほい来た! 佳奈美、死ぬんやないで!」
そうして佳奈美を除いた4人は、即座に戦場から離脱して行った。
「仲間を逃がすために己が死ぬか。下らん、人間は下らんよ」
「下らんことに命を懸けるのがゲーマーと申しましてだな」
佳奈美はファイティングポーズを取る。
アンチャーは呆れたように鼻を鳴らして矢鞘に手をかけると……。
次の瞬間、佳奈美の身体を容赦なく撃ち抜いていた。
リーダー用の最新型アーマーであるG・パズラーには、いくつもの特殊機能が搭載されている。
今、G・アクションのアーマーにエネルギーを送り込むことによって、
G・パズラーの特殊機能の一つ、アーマー修復を発動しているのだ。
「……はいっ、これで大丈夫でございますのよ」
アーマーを修復され、G・アクション自体の治癒機能で怪我も治った八重花は、何とか再び戦闘が可能な状態に持ち直す。
……が、それはあくまで身体的な状態の話だ。
完全な敗北を喫してプライドを粉々にされた八重花は、しゃがみこんで額をひざにうずめたまま、動こうとしない。
そんな八重花を不安げに眺めながらも、昌子は状況の分析、および現状打破のための議論を始める。
「奴の装甲は、G・シューターの銃撃を無効化するほど強力でした。
これを破るには、不意を付いての強力な一撃に賭けるしかないと思います」
「……アテは……あるの……?」
「ええ、亜理紗さんと八重花さんの力を合わせれば、きっと――」
「無理よ!!」
昌子の言葉を、悲鳴のような叫びで遮ったのは、八重花だ。
「仮にそれで装甲が破れたとしても、奴に攻撃を当てる前にこっちがやられて終わりよ!!」
「らしくないでヤエちゃん! あんなヘロヘロ矢、パパッとかわしたればええやろ!」
「だから無理!! 奴の弓矢は、あたしがかわせない……つまり誰にもかわせない!! どうしようもないのよ!!」
千里の叱咤を歯牙にもかけず、八重花は絶望の淵に沈む。
それほど彼女にとって、先ほどの敗北のショックは大きかった。
そんな八重花を見て、昌子は少し迷っていたが、意を決して、そっと語りかける。
「……八重花さん、これはシミュレーションゲームの理屈なんですけど……」
「……?」
「『100%と0%以外を信じるな』って言葉があるんです。
要は、期待した結果が出なかった時のことを考えて行動しろって意味なんですけど……」
昌子は言いながら、どこから取り出したのか、小さな算盤をカチャカチャ弾きだす。
チーン!と何かの結果をはじき出した昌子は、それを八重花の眼前に突き出してみせる。
……尤も、その珠の並びの意味は八重花には全く理解できなかったが。
「敵の命中率は100%……ならば、逆に計算は楽です。外れた場合のことを考えなくて済みますから」
それを聞いた八重花の眉が、ピクリと動く。
頃合と見た昌子は、皆に作戦を伝えることにする。
「――と、こういう訳です。私と千里さんは先に行って陽動を行いますから、
亜理紗さんと八重花さんは、もうしばらくしてから出発してください!」
「オッケー司令官! 急いで出陣せんと佳奈美が危ないで!」
「ええ、行きましょう!」
昌子は去り際に、未だうずくまっている八重花に振り返る。
「大丈夫、八重花さんは勝てます。……そう、100%の確率で!」
昌子は力強くそう言って、八重花に静かに微笑みかけた。
二人が去ってからも、八重花は同じ場所にうずくまって動こうとはしなかった。
そんな彼女から少し離れたところで、亜理紗も何をするでもなく座っている。
昌子の作戦に従うならば、そろそろ出陣の準備をせねばならない時間だ。
しかし八重花と亜理紗のどちらも、行動を開始しようとはしない。
亜理紗は八重花が動き出すのを待っているのだ。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……亜理紗……あたしのこと、バカにしてる……?」
とうとう根負けしたのか、八重花が口を開いた。
それに対し、亜理紗は静かに返答する。
「……してない……」
「嘘……つかないでよ……」
「……ついてない……」
あくまで無表情にそう言う亜理紗。
出会って日の浅い八重花にはそれが彼女の本音かどうか測りかねたが……。
それでも話す相手が欲しかったのか、ぽつりぽつりと、内心を吐露し始める。
「あたし……きっと、『エイユウ』になりたかったんだ……」
顔を逸らし、亜理紗とは目を合わせないようにする八重花。
「強くて、一人でどんな敵とも戦えて、みんなから賞賛される……そんなエイユウに……」
「……………………」
「でも現実には『エイユウ』なんて居ないから、
あたしはどんどんゲームの世界にのめり込んで行ったんだ……。
そうしてたら……いつの間にか、一人ぼっちになってた……」
いつの間にか八重花の頬には、涙の道ができていた。
「あ……あはは……あたし、バカだよね……。
やっと、自分の力が生かせる場所を得たっていうのに……。
あたし……その中ですら、自分から一人ぼっちになろうとしてる……」
吐き出すようにそこまで言うと、八重花は再び顔を膝にうずめてしまう。
「……八重花は……一人じゃない……」
「ぇ……?」
その言葉を聞き、八重花は驚いたような顔で面を上げる。
「……少なくとも……今は……」
亜理紗が、笑った……ように見えたのは、八重花の見た幻だったのかもしれない。
精神的に不安定だった八重花は、残念ながらこの時の記憶を後々はっきりと思い出せないでいる。
「へぇ、確かに外れないな。今の避けようとしたのに」
佳奈美は全身矢ぶすまになりながらも、怯まずにアンチャーとの対峙を続けていた。
体中から血を流しつつも、ファイティングポーズとポーカーフェイスを崩さない。
「それで……その矢であたしを殺すには、あと何発必要なんだ?」
「言ってくれる。安心しろ、次で脳天をブチ抜いて仕舞いだ」
「へぇ、狙う場所を教えていいんだ?」
「防げるとでも思ってるのか? 人間ごときが」
「そちらこそ早く試してみればいいじゃないか。ひょっとして自信が無いのか?」
「……………………」
アンチャーは、ゆっくりと矢鞘に手をかけた。
(ゴゥゥゥーーーン!!)
「……!?」
その時、佳奈美の足元の地中が突然盛り上がる。
「佳奈美さん、大丈夫ですか!?」
「ギリギリ間に合ったみたいやな、光速で掘り進んだかいがあったわぁ!」
削岩機に変形した千里のマシンが佳奈美を庇うように現れたのだ。
アンチャーは素早く目標を変更し、マシンの先頭に立つ昌子を射抜こうとする。
「リフレクト・オーラ!!」
「ぬおっ!?」
昌子を狙った矢はガキィンと跳ね返り、アンチャーの足元の地面を抉った。
G・パズラーのエネルギー全てを一点に集めることで、
アンチャーの矢を弾き返す光の壁を発生したのだ。
「ふん、ちょこざいな手を使いおって……。 だがそのバリア……狭い範囲にしか展開できないようだな!!」
はみ出した昌子の足を狙おうと、次の矢に手をかけるアンチャー。
「残念、あなたの攻撃は終了いたしました。今はこちらのターンでございます」
「なんだとっ!?」
その言葉で、アンチャーは後方から轟音を立てて飛来するロケット弾の存在に気付く。
だがもう防御も回避も間に合わない。
ロケット弾の直撃を受け、アンチャーは宙に吹き飛ばされる。
「ぐぅっ……おのれ、不意打ちとは……!
地上に落ちるのを待つまでもない、空から貴様ら全員蜂の巣にしてやろう!!」
「そんなこと、絶対にさせないっっ!!!」
「!? 貴様、一体いつの間に!?」
吹き飛ばされたアンチャーよりも更に高く、八重花が飛び上がっていたのだ。
「亜理紗が撃ったロケット弾に乗って近づいて、アンタが振り返る瞬間、高く飛び上がったのよ!!」
アンチャーは慌てて八重花に弓を向けようとするが、背後を取っている上、ここは自由の利きにくい空中だ。
八重花が大きく振りかぶって剣を突き立てる方が、ずっと早い。
「必殺……下突きィィィィィィ!!!」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!」
アンチャーはそのままの勢いで、八重花の剣ごと地面に突き立てられた。
「き、貴様ぁ……こんな卑怯な奇襲など……!
それでも、地球を守る誇り高き戦士か!?」
「卑怯で結構。あたしはセンシでもエイユウでもない。ただの『宇崎八重花』なんだから」
「……がっ……首領、申し訳ない……」
アンチャーは絶命し、その身体は風に溶けていった。
「……ただの八重花……か……」
一人ごちる八重花の肩に、佳奈美が後ろから腕をかける。
「いや、そうじゃないだろ」
「……?」
不思議がる八重花に、亜理紗が佳奈美の言葉を引き継ぐ。
「……『ゲーマーズの宇崎八重花』……でしょ……?」
「…………うんっ!」
佳奈美と亜理紗に、思いっきり抱きつく八重花。
そんな三人を、千里と昌子は薄く微笑んで見守っていた。
チャチャチャチャラララン♪
『ご機嫌いかがですか、田宮昌子です。
みなさん、ゲームの説明書って読んでいますか?
私はもちろん読んでいますよ、意外に重要な情報が載っていますから。
しかし中には説明書を頑なに読まないという、
少し変わった主義をお持ちになってるゲーマーもいらして……。
別にそれが悪いと言うつもりもありませんけども、
何か困ったことが起きた時ぐらいは説明書を読んだ方がよろしいですよね?
……だというのに……なぜ彼女はあんなに意地っ張りなのでございますか!?
キィィィィィーーー!!! 癪に障りますわぁぁぁーーー!!!』
次回、闘え!!ゲーマーズVR
Round9「マニュアルお断り! 記録破りは型破り!?」
ジャジャーン!!
『この才知、ハイク様のために……なんて、キャーキャーキャー!!!』
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