第6話 遊びは終わりだ、ゲーマーズ!

  ◎GAMER'S FILE No.5

  『田宮昌子(たみやしょうこ)』18歳

   高偏差値の某公立高校に通う現役女子高生。

   得意なゲームジャンルはパズル及びウォーシミュレーション。

   学力に優れた優等生で、容姿も三つ編みメガネという生真面目な物だが、

   実はコスプレが趣味で、特に金色ツインテールのカツラを被ると性格が豹変する。

   本人はあくまで真面目な優等生というイメージを維持したいらしく、

   自分の趣味を周囲に知られることを極端に恐れている模様。

   余談だが、ゲーマーズの中では珍しいリセット否定主義者である。


   装着アーマーは多機能レーダーと最新の兵装を搭載した『G・パズラー』で、

   アンチャーとの交戦時には、チームの司令塔を担当する。




  ☆前回のあらすじ

  ゲーマーズは自分達の弱点を補うために向かった道場で、

  田宮昌子(たみやしょうこ)というメガネっ子ゲーマーに出会う。

  彼女はゲーマーズに積極的にアプローチをかけ、自ら仲間になることを望む。

  しかし昌子は内心では本当に仲間になるつもりなど毛頭無く、

  変身アイテムを騙し取ると、『G・パズラー』となって襲い掛かってきた!

  そう、彼女の正体は、悪の金髪大魔王だったのだ!!





「さぁ愚民ども、前作からのデータの引継ぎは完了なさったかしらっ?」

「終わったけど、なんで今時パスワード制なんだよ!」

「……しかも……キーボード使えないコマンド入力……」

「二回も入力ミスしてやり直しするハメになったよ……」

「パスワード解析して最強データ作ってもええか?」





格闘ゲーマーの佳奈美。

シューターの亜理紗。

レースゲーマーの千里。

アクションゲーマーの八重花。

そして、パズラー兼SRPGマニアの昌子。




十人十色のゲーマーが一堂に会しただけあって色々とギャーギャーうるさいが、

それはともかく無事に準備が完了したようなのでそろそろ本題に入ろう。


「それでは改めてもう一度宣言しておきますけど、

 わたくしの秘密を知ったあなたがたには消えていただきます!」


そう言ってG・パズラーに変身した昌子が前傾姿勢となったので、

それを見た千里は慌てて両手を振る。


「あ、あかんて! 暴力で物事を解決しようとするのは良くないで!」

「脅迫で解決しようとなさってた貴方たちに言われたくはありません!!」


千里の偽善的な提案を歯牙にもかけず、昌子は猛スピードのダッシュを開始する!

ゲーマーズ達は未だ変身前である、絶体絶命……!

……と思いきや。


「わたくしを仲間にしたいのなら、捕まえて『説得』してみることね!」


ゲーマーズの下へは向かわず、電波塔のヘリに飛び乗っていた昌子は、

それだけ言い残すと、あっという間に電波塔の屋上まで登っていってしまった。


ちなみに彼女の言う『説得』とは、ファイターエムブレムの特徴の一つで、

特定のキャラクターで敵ユニットと隣接して『説得』コマンドを実行することで、

その敵を自軍の仲間に加えることが出来るというシステムである。



「…………どーする?」

「…………そりゃ、昌子さん追うべき……なのかなぁ?」

「…………正直……相手にするの、めんどい……」

「…………とりあえず変身しよか?」



『『『『プレイ・VR!!!』』』』



なんかもう、色んな意味で鬱陶しい昌子の相手にウンザリしつつも、

放置する訳にもいかないので、ゲーマーズはアーマーをまとって変身する。


「まぁええわ、ウチがちゃっちゃと登って『説得』して来たるわ」


言うが早いか、千里はマシンをバイクに変形させ、電波塔の周囲を囲う鉄階段を華麗なテクニックで登っていく。

二輪で階段を登るというだけでも常人にはまず不可能だが、その速度がほぼ最高速で維持されているというのだから驚きだ。

ライン取りが的確で無駄が無いのも相まって、あっという間に電波塔を上り詰めていく。


「へー、千里の技ってあんま見たことなかったけど、すごいじゃない」

「……千里は……バカそうだからよく誤解される……」

「バカって言うなーーーっ、アホって言えやーーーっ!!」


余所見して亜理紗に突っ込みつつも、どんどん屋上に近づいていく千里だったが……。




カチッ……。


チュドォーーーーーン!!!




「な、なんだぁ!?」


千里の動向を見守っていた佳奈美達は、思わず声をあげる。

突然、千里の足元が爆発したのだ。

哀れ千里は宙に放り出され、黒焦げとなって脇を流れるドブ川に墜落する。


『おーーーっほっほっほ、言い忘れてましたけど、

 この塔にはG・パズラーの能力でトラップを仕掛けまくっておきましたわ!

 ゆめゆめ一気に突っ切ろうなどと考えず、

 ビクビクしながら一歩ずつ慎重に登ることね!!』


電波塔のてっぺんから拡声器片手に勝ち誇る昌子。

爆発の原因が彼女の仕掛けた地雷と知り、ゲーマーズも即座に反省会を始める。


「トラップか……千里は最短ルートを一直線に走るから、絶好のカモだな」

「……バナナだったら……キャンセルできたのに……」

「どっちにしろカーブ中だったから無理でしょ」

「お、おまえら……ちぃとはウチの身を心配せんかいっ!!」


ドブ川から必死に這い上がって来た千里が文句を言う。


「まぁまぁ、千里のおかげで敵の手の内が分かったんだから」

「……千里……大儀であった……」

「うん、敵の出方も分かったところで全員で突入しようよ」

「それなら先頭の露払いはあたしに任せな。

 トラップを全部ジャストガード、もしくはその場回避して無力化してやるよ」

「あー、後は頼んだで。ウチの犠牲を無駄にせんといてな」


満身創痍の千里を後に残し、三人は電波塔を登り始める。

作戦通り佳奈美が道を切り開き、亜理紗と八重花が後に続く。

慎重に油断無く歩みを進める佳奈美だったが……。



カチッ。


「あ」



トラップを見抜くスキルを持っているわけではない佳奈美は、

あっさりと仕掛けを作動させてしまい、一気にトラップ群が襲い掛かってくる。



ピュウ!


「おらぁっ!!」



ジャキン!


「せいっ!!」



ドガガッ!


「だりゃぁっ!!」



放たれる矢、飛び出す槍、飛来する石つぶての群れ。

己を狙ったその攻撃を、しかし佳奈美は全て正確に弾き、かわす。


「よっしゃ、どんなもんだ!」

「できれば……後ろの方に流さないようにしてくれると助かるんだけどなぁー」

「……露払いの……意味ない……」

「やー、悪い悪い!」


佳奈美が防いだトラップの一部はそのまま後方の八重花や亜理紗の元へ飛んでいってるのだ。

何とか全てかわして事なきを得てはいるものの……。

ともあれ、そうして進むうちに階段が一旦途切れ、少し開けたフロアに出るが、

未だトラップの猛攻は一向に止む気配が無い。

だがそれでも佳奈美は全く怯まずにトラップを迎撃し続けた。


「へっ、こんなもんか!? この程度の攻撃じゃあたしを傷つけることは――」



ガシャァーーーン!!



「……あれ?」


佳奈美が他のトラップに気を取られてる隙を突いて、上から降ってきた鉄格子が、

あっさりと佳奈美の四方を塞いだのだ。

少々思索すると、鉄格子に向かって思いっきり蹴りを入れてみる佳奈美。

……が、超合金で出来た鉄格子はそんなことではびくともしない。

仕方ないので、佳奈美は両手を腰に当ててふんぞり返ることにする。


「……どうだ、傷つけられてはいないぞ!」

「威張ることじゃないでしょーーー!!」

『おーっほっほ、なんておマヌケなのかしら! 眼前のトラップにしか対処できないなんて、イノシシと同じね!』


どこから見ているのか、壁に取り付けられたスピーカーから昌子の声が流れる。


「……やっぱり……正面突破は、無理……?」

「仕方ない、亜理紗はここで佳奈美と一緒に待っててよ。

 後は身の軽いあたしが、一人で行ける所まで行ってみる」


軽く身体を動かして自機感覚を確かめながらそう言う八重花。

そんな八重花を、亜理紗が呼び止める。


「……待って……」

「え?」

「……1つ……アイデアがある……」









八重花は、ぶっすーと音が聞こえそうなほど頬を膨らませていた。

それもそのはず、彼女の小さな背中には、短銃をくるくる回す亜理紗が、涼しい顔でどっかりと居座っているのだ。


「……八重花が避けて、私が撃つ……完璧な分業プレイ……」

「っくぅぅ、どうしていつもいつもあたしが割りを食うのよ!

 けっぱれロクエモンやる時でもいつも背負う側だったしぃー!」


八重花には兄と妹が居るのだが、協力プレイをする際には兄にはいつも背負う役を押し付けられ、

妹の方もだだを捏ねるので、結局は八重花が折れて下になるハメになるのだ。


「……どんな高難易度でもベストを尽くす……それがゲーマー……」

「んもーっ、分かったわよ! やればいいんでしょやれば!」


半ばヤケクソで、亜理紗を乗せて階段を駆け登る八重花。

それを察知したトラップ群が、二人を狙う!


「あそこっ!!」

「……(ガァン、ガガガァン!!)……」

「おっと、危ない危ない」


八重花がトラップの場所を察知し、亜理紗がそれを撃ち抜いて破壊する。

僅かに撃ち漏らしたトラップも、八重花が軽い身のこなしでかわしていく。

即興の思いつきにしては、なかなかのコンビネーションだ。

そうして低身長コンビは、いくつものフロアを制して上の階へ登っていく。

昌子の待つ屋上フロアまであと少し……。


『コンビプレイで突破とは、なかなかやりますわね!

 だけど、この城塞ミッドガルドはそう簡単には攻略できなくてよ!』


ただの電波塔に大層な名前をつけた昌子の声がスピーカーから響くと同時に、

どこから調達したのか、なんと巨大な丸太の群れが八重花達に向かってくるではないか!


「げぇーーーっ!!?」

「……あれは……銃撃で止めるのは無理……」


慌ててフロアから脱出して下り階段に逃げ戻る八重花達だが、待ち構えていた落石トラップが、彼女達の背中を焦がす。

何とか逃げ切れるかと思えば、いつの間にか逃走先に針山が敷き詰められている。

……逃げ場が無い。


『おーーーっほっほっほっほ、絶望しなさい!! 連鎖、連鎖、トラップのだ~い連鎖ですわ~~~!!』

「こなくそーーーっ!!」


背に腹は変えられないとばかりに、八重花は自ら電波塔から飛び出し、宙にその身を投げ出した。

転がる落石は針山に直撃し、砕け散る。

なんとかトラップからは逃れられたものの、このままでは地上に墜落してしまう。


「んがっ!!」


八重花が咄嗟に階段の淵に掴まったため、二人は何とか落下を免れる。


「……八重花……クライミングゲームも得意なの……?」

「違うわよっ、落下死ゲーは崖捕まりのスキルが死亡率に直結すんのよ!!」

『んまっ、今の大連鎖で生き残るとは生意気な!

 それならこれでも食らうとよろしくてよっ!!』


(ドグワァァァーーーン!!)



「んなっ!?」


八重花達から見て少し上の辺り、電波塔の外壁を覆うコンクリートの壁が、内側からの爆破によってふっとばされたのだ。

木っ端微塵になった元壁は、落石物となって八重花達に襲い掛かる……!


「こ……こうなったらアクションゲーマーの底力、見せてあげるわよっ!!」

「……何……する気……?」


八重花は素早く階段によじ登ると、地を蹴り、再び宙に飛び出す。

そしてなんと、八重花は亜理紗をその背に負ったまま、落下する瓦礫を足場にして、ぴょんぴょんと上に登り始めたではないか!


「田宮昌子! このまま貴方のところまで、一気に行かせて貰うわ!!」


瓦礫の落下よりも早いスピードで、どんどん高く上り詰めていく八重花。

しかし当然だが、登るに連れて瓦礫の足場もどんどん少なくなっていく。


「まだまだぁ!! ここが勝負どころよっ!!」


最後の瓦礫を、全身全霊を込めて蹴り飛ばす八重花。

全力のジャンプで二人の身体はぐんぐんと上昇し、屋上は目前だ。

しかし……僅かに届きそうで届かない。


「くっ……あとちょっとなのにっ!」

「……八重花……あなたのことは、忘れない……」

「は?」


亜理紗はぐいっと八重花の肩に足をかけると、そのまま八重花を足場として踏み捨て、昌子の居る屋上まで飛び移ったのだ。

哀れ、踏み台にされた八重花はまっさかさまに落下していく。


「あ、亜理紗……覚えてなさいよぉー!!」


八重花の恨み節が聞こえたが、振り返ることはせず、亜理紗は真っ直ぐにそこに佇む敵を見据える。

そう、そこには腕を組んで待ち構えていた昌子の姿があった。





「仲間を犠牲にしてここまでやってきたのね……。

 ……いいえ、わたくしはあなたを責めたりしませんわ。

 時として、勝利のためには涙を呑んで大切な仲間すら犠牲にする必要もあります!

 非情采配とそしられようとも、皆のため、決して負けるわけには行かないのです!

 ユリアン、ヒグマ、デューガ……

 貴方たちの犠牲は、決して無駄には致しませんわっ!!」


大仰な科白を述べている内にすっかり自分の世界に突入してしまった昌子に対し、亜理紗は面倒くさそうに銃口を向ける。

が、昌子は慌てた様子も無く、ちっちっちっと指を振る。


「おおっと、短気はいけませんわ。

 この辺りにはね、事前に可燃性のガスが散布されているの。

 火器なんて使おうものなら、あなたの身体は一瞬で丸焦げですわよ!」

「……なるほどね……」


鼻を鳴らして昌子の言葉が嘘でないことを確認し、手持ちの銃を捨てる亜理紗。

ちなみに今撒かれているガスは人体には無害という都合のいいものなので、

良い子は生身でガスを吸引してみたりしないように注意して欲しい。

作戦がピタリとハマったことに気を良くした昌子は、腰からレイピアを抜き放ち、亜理紗に向かって突きつける。


「ふふっ、銃の使えないあなたなど恐れるに足らず!

 このカラリーネ自ら、成敗して差し上げますわ! 覚悟っ!」


レイピアを高く振り上げ、亜理紗に突進する昌子だが……。



ボガァッ!!



「はぁん!?」


実にあっさりと、素手の亜理紗に殴り返されたのだ。


「くっ、よくもこのわたくしの顔に傷を……ぐぇっ!!」


狼狽する昌子を、亜理紗は更に蹴り飛ばす。

さらには倒れた昌子に、馬乗りになって殴打を開始する。


「はぐっ!! ……ちょ、ちょっとお待ちに……げぇっ!!」


昌子の言葉を意にも介さず、無表情の亜理紗はひたすら昌子を殴り続ける。

何とか逃げ出そうとじたばたする昌子だが、一向に逃れることが出来ない。

これは亜理紗が強いのではない。

昌子の方が弱すぎるのだ。

何故なら昌子は思考系ゲームばかりプレイしてきたため、

反射神経を始めとした、直接戦闘に必要なスキルが全く育っていないのだ。


「おぶっ!! ……お、落ち着きなさい、バイオレンスは人気下がる……おぇっ!!

 ……あ、あなたはわたくしを『説得』に参ったのではないのですか!?」

「……みんなの……カタキ……」

「ひぇっ……!!」


もはやどっちが『説得』してるのか分からない状況だが、

とかく昌子は必死に亜理紗に語りかけ、亜理紗は淡々と昌子を殴り続ける。

その時……。


「はいはい、ストップや亜理紗。こっちは全員無事やで」

「……千里……佳奈美……! ……ついでに八重花……」

「ついで扱いすんなっ!」


ゲーマーズの面々が、千里操るバイクに三人乗りで現れたのだ。


「そろそろトラップ除去完了したころかなぁ思て、

 登ってきてみたらヤエちゃんが空から降ってくるんやもん、えらいビビったわ」

「亜理紗、さっきはよくも人をゴッシーのごとく乗り捨ててくれたわね!!」

「……佳奈美はどうやって鉄格子から……?」

「さっきの爆発の衝撃で鉄格子が傾いてさ。そんで隙間から出れた」

「それをウチが拾って、一気にここまで駆けあがって来たわけや」

「……でも良かった……あの状況でも千里と佳奈美が無事で……」

「えっ、あたしが一番危なかったんだけど!?」


八重花の突っ込みを無視して、佳奈美達に駆け寄る亜理紗。

その為に解放された形になった昌子だが、未だ屈するつもりは無いらしく、ダメージの残る身体に鞭打って立ち上がる。


「くっ……わたくしは腐っても戦場貴族のカラリーネ!!

 いくら多勢に無勢でも、貴族の誇りにかけて貴方がたに屈したりは――あっ!!」

「隙ありィ! いただきや!」


こっそり背後に回っていた千里が、昌子の金髪のカツラを奪い取ったのだ。

その下からは、真面目っ子の象徴である黒い三つ編みが露わになる。


「かっ、返しな……! ……い、いえっ、返して……ください……」


さっきまでの威勢はどこへやら、昌子の声は一気にトーンダウンし、

立ち振る舞いも、小動物のようにビクビクオドオドしたものへと一変する。


「へっへー、流石にこのカツラ抜きでのロールプレイは恥ずかしいんやな」

「ロールプレイ? RPGのことか?」

「違うよ。平たく言えば、なりきりごっこのこと」

「……最近のRPGは……ロールプレイ要素が薄い……」


ダベるゲーマーズ達を他所に、昌子は所在なさげに目を泳がせるばかりだ。


「……そ、その……ご、ごめんなさいっ!!」


昌子は変身を解除するとゲーマーズにブレスレットを差し出し、間髪入れずに地面に頭を擦り付ける。


「こ、こんなつもりじゃなかったんです!

 すみません、ごめんなさい、許してくださいっ!

 どうか、私がゲーマーだって周囲に公表するのだけは勘弁してください!!」

「え、えっと……」


あまりにも昌子の様子が切実なので、ゲーマーズ達にも罪の意識が芽生えてきたようだ。


「……いや、あたし達こそ昌子に謝らなくちゃいけないよ。そんなに気に病んでることを勧誘の道具に使ったりしてさ」

「あー……せやな。いくら仲間を増やすためとはいえ、ちょっとやりすぎやったわ」

「しょ、昌子さん……ごめんなさいっ!」

「……ごめんなさい……」

「みなさん……ありがとうございます……」


揃って頭を下げる4人。

おかげで昌子のほうも気持ちがほぐれてきたようだ。


「せやけど、何でゲーマーっちゅーのをそんなに隠したいんや?」

「……家の両親……とても私に期待していて……。

 沢山勉強して偉い人になれって、口癖のように言うんです……。

 ゲームで遊んでばっかりの人にはなっちゃいけないよ、って……」

「うわぁ……耳が痛い……」

「でも両親のことは大好きだから、その期待に答えるように頑張っていたんです。

 なので遊びといえば、たまに祖父とする将棋や、パズルゲームぐらいで……」

「……そっかー、いいんちょは立派やなー。それに比べたらウチは……」


「でもある時……ストレスから、あるゲームに夢中になってしまったんです……」

「それがファイターエンプレスだったのか」

「ええ……パッケージの素敵な男性キャラクターに惹かれて、つい衝動買いを……」

「そんでそれを切っ掛けに、今度はSLG自体にハマってしもうたワケやな」

「分かる、分かります!

 真面目に生活してると、その反動でゲームにハマってしまうんですよね!」

「ヤエカのどこがどう真面目なんだよ」

「子供の頃はとっても真面目な子だったの!!」

「はいはい」

「……じゃあ……さっきのコスプレも……」

「は、はい……ファイエムの世界観に浸りたい気持ちが強すぎて、

 気が付いたらリアルロールプレイにまで手を出してしまって……」

「ウチは元ネタ知らんけど、高笑いとかしはってエラい没入ぶりやったね」

「は、恥ずかしながら私……キャラクターに成り切ると、

 つい気が大きくなって高飛車になってしまう悪癖があるんです……」

「じゃあG・パズラーに変身した時にそのカツラ被ったのも?」

「はい……私は気が弱いので、まともに戦える自信が無くて……。

 なのでカラリーネに成りきれば、強気で戦えると思ったんですけど……」

「……強気というか……横柄……」


昌子はここで一旦話を切り、改めてゲーマーズに向き直った。

その瞳は少々震えながらも、何か強い決意が見て取れる。


「ほ、本当は、私……あなた達ゲーマーズに憧れていたんです!」

「ん、それじゃあ街で会った時は何であんな態度だったんだ?」

「それは……私の体面上、あの街中で正直な気持ちを伝えることは出来なくて……」

「なるほど、だからゲームの名台詞を使ってウチらを試したわけやな」

「……八重花以上の……ツンデレ……」

「だから人を引き合いに……というかあたしってツンデレ扱いなの!?」

「あ、あの時の無礼を詫びるためなら何でもします……。

 だからおねがいです……私も、ゲーマーズとして一緒に戦わせてください!!」

「いいよ」

「あっさりだなー。賛成だけど」

「だって最初からそのつもりだっただろ?」

「……戦力的には……申し分ないと思う……」

「決まりやな」


千里は、そっと昌子に手を差し伸べる。


「今回はウチらも悪かったし、お互い水に流そうや。ゲーマー同士なら一度対戦すれば分かりあえる……そやろ?」

「ち、千里さん……ありがとうございます!」

「そうかぁ? あたし、ゲーセンで対戦相手と何度もリアルファイトになったけど」

「折角いい話でまとまったんだから、そういうこと言わないの!

 そりゃ、あたしだってチルドクライマーやバルーンウォーズでいつも兄貴とケンカになるけど……」

「……でも……これで5人集まった……」

「そう……5人パーティこそ、最も各々の実力を発揮できる黄金比!

 JRPGは4人が多いですが、5人パーティこそ真の王道なのでございますわっ!」

「せやな、戦隊物も大体5人だし……って、待てや、いつの間に!?」


いつの間にやら金髪のカツラを千里から奪い返した昌子は、再びお姫様キャラへと成り切り完了していたのだ。


「わたくしが貴方達のお仲間になったからには、もう心配は要りません!

 あんな化け物ども、わたくしの指揮と貴方達の力があれば恐るるに足らず!

 さぁ、この世界に平穏をもたらすため、共に戦い抜きましょう!」


そう言って仲間に向けて力強く腕を振り上げる昌子だが、皆は既にゲンナリした表情だ。


「……なぁ、このノリっていつまで続くん?」

「……きっと、照れ隠しなんだよ」

「……それに付き合う方はしんどいけどな」

「……仲間にするの……やっぱりやめない……?」


頼れる(?)仲間は増えたものの、別の方向性で苦労は増えそうな予感でいっぱいのゲーマーズであった。









   チャチャチャチャラララン♪



  『あたし、宇崎八重花!

   とうとう5人揃った、あたし達ゲーマーズ。

   そんな折、長官が昌子さんを司令官に任命したんだ。

   うーん、あたしは適役だと思うけど、

   亜理紗辺りはとっても不満顔だなぁ。

   これはもしかするとひと悶着あるかも?

   ……あっ、あたしは巻き込まれるのはゴメンだからね!』



  次回、ゆけゆけ!!ゲーマーズVR


Round7「司令官任命! ゲーマーズ本格始動!」


   ジャジャーン!!



  『百万回やられたって、負けない!!』

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