第4話 ヴァリアブルコンビネーション

 ◎GAMER'S FILE No.3

  『五十嵐千里(いがらしちさと)』19歳

   その日暮らしのフリーター。

   得意なゲームジャンルはレーシング。

   他、マシンを操縦するジャンルなら大抵の物が得意。

   燃えるような赤い髪を短く刈り上げており、

   エセ関西弁で饒舌に喋るのを含め、ゲーマーズの中でも目立つ存在。

   バイクが趣味で、タイムアタックが煮詰まった時は、

   リアルドライブで気分転換しつつ感覚を研ぎ澄ませてるとは本人の弁。


   装着アーマーはあらゆるマシンを制御できる『G・ドライバー』で、

   アンチャーとの交戦時には、状況に応じたオールマイティな役目をこなす。





☆前回のあらすじ

ゲーマーズは動画サイトで見つけた凄腕アクションゲーマー、

宇崎八重花(うざきやえか)を仲間に引き入れようと試みる。

最初は断っていた八重花だが、ゲーマーズが三顧の礼にて誠意を尽くしたため、

その誠意に応えようと、ついに『G・アクション』に変身することを決意する!





『プレイ・VR!!!』


八重花が叫ぶと、ブレスレットが輝き出し、大気中の元素を固定して作り出したパワードスーツが現れる。

そのアーマーは八重花の身体を包み込むと、軽い蒸気を上げる。

変身完了!!

機動性に優れた戦士、『G・アクション』の誕生だ!!


「てなわけで、この前は出鼻をくじかれよったが、今日こそ頼むでヤエちゃん!」

「……………………」


空を覆うアンチャーの群れをビシッと指し示す千里だが、

八重花はそれには答えず、軽いジャンプや短距離のストップ&ゴーを繰り返している。


「ヤ、ヤエちゃ~ん……?」

「……『試運転』……」

「はん?」


背後の亜理紗が何かをつぶやいたので、千里は振り返る。


「……あたしも……初めてのゲームではやる……。ああやって……自機の操作感覚、確かめてる――」


そこまで言って、亜理紗はピクリと反応する。


「…………来るっ!!」



(ブォッ!!)



八重花が、地を蹴った。

一瞬で千里と亜理紗の頭上を飛び越えたかと思うと、まるでそこに足場があるかのように宙を蹴って進路を変える。

その一瞬で、八重花は鳥形アンチャーの懐まで飛び込んでいた。

もちろんアンチャーはまるで反応できていない。


「どいつもこいつも……バカにしやが、って!!」

「グェェ!?」


あらゆる鬱憤を籠めた八重花の回転蹴りが、アンチャーの脇腹に命中する。

蹴り飛ばされたアンチャーは、他のアンチャーを巻き込みながら派手に吹き飛ぶ。





「アタラシイゲーマーズカ! イチモウダジンニシテヤル!」


アンチャー達は、屋根に着地した八重花を包囲するように陣を敷く。


「クケケッ! トツゲキィッ!」


八重花の下に、三又槍を抱えたアンチャーの群れが一気に突撃してくる。

しかし八重花は慌てた風も無く、軽々とその攻撃をすり抜けるばかりか、

腰からサーベル状の武器を取り出し、すれ違いざまに次々と敵を切り伏せていく。


「……すごい……この数の敵に対し、どう動き、どう攻撃すればいいか、

 一瞬で判断し、最も効果的なアクションを最小限の動きで行っている……」

「これが、G・アクションの……いや、ヤエちゃんの力か!」


千里と亜理紗は援護するのも忘れ、八重花の動きに見惚れている。


「……あっ……しまった、アイツ……!」


はっと我に返った亜理紗は、ボウガンを手にしたアンチャーが八重花を狙っていることに気付く。


「バカメ、キヅクノガオソイワ! シンゲーマーズノイノチ、オレガモラッタ!!」


慌てて銃を抜こうとする亜理紗だが、もう遅い。

しかし……。



スパァン!



「ギャワッ!?」


狙い撃とうとしたアンチャーは、発射寸前に攻撃を受けて倒される。

八重花が武器を鞭に変形させ、離れた位置から打ち払ったのだ。

この武器は、G・アクションに標準装備されている『ウィップ・ソード』。

剣にも鞭にも変形し、どんな状況でも戦える万能武器だ。


「……敵に囲まれたあの状況で……危険な敵を瞬時に判断して、潰すなんて……」

「クソウ! ウテェ! ウテウテェ!!」


無数の射撃手により矢の嵐が降り注ぐが、八重花はすぐにその弾幕に穴を見つけ出し、そこへ飛び込む。

そして同時に、その場にいたアンチャー達を撃破する。


「……安全な位置……見切ってる……。死なない位置……勝てる位置……完全に見切ってるんだ……!」

「ごっついなー、もうヤエちゃん一人いれば全部倒せるんちゃうん?」


八重花の神技に、千里と亜理紗はただただ感心するしかない。




そうこうしている内にほとんどのアンチャーは倒され、残るはボス格と思われる巨大な一体のみとなった。


「オノレ……ヨクモカワイイブカタチヲ……!」


ボスは巨大な鉄球に手足がついたような形状の生物だ。


「オレノナハ、キエローデビル……キサマモナヲナノレ!!」

「あたしの名は……躍動の戦士、G・アクショ――」


八重花はそこまで言いかけて、ニヤニヤとその様子を見守る千里と亜理紗の存在に気付く


「……べ、別に名前なんてどうだっていいでしょ!

 とにかくあんた、暴れるなら他所行って暴れなさいよ!

 あたしん家の近くで暴れられたら迷惑なのよ!」

「あーあ。あとちょっとでこっちの世界に引き込めたのに」

「……惜しい……」


誤魔化しつつ、決着をつけようと飛び掛る八重花。

しかし……。



ドガァッ!!



「うっ!?」


デビルの腹部から小さな鉄球がバラ巻かされたのだ。

不意をつかれた八重花は直撃を食らってしまい、吹き飛んでしまう。


「ドウシタ? コノテイドカ?」

「くっ……舐めるな!!」



(ボカァッ!!)



「う……ぐ……!?」


再び、デビルの攻撃が八重花に直撃する。

今度は両腕による殴打だ。

先ほどの無敵ぶりが嘘のように、八重花は一方的に攻撃を受け続ける。


「な、なんやぁ!? ヤエちゃん、なして急にやられ始めたんや!?」

「……あいつ……『初見殺し』だ……!」

「しょけんごろし?」

「……あいつの攻撃……不規則な癖に、素早くて攻撃範囲が広い……。

 いくらアクションの達人でも……数機は費やさないと見切るのは無理……!」

「な、なんやとぉ!? 数機費やすって、ウチらは身ぃ一つやで!?」


亜理紗の言うとおり、デビルの攻撃は変則的だった。

腹部から鉄球をノーモーションで発射し、一方でその両腕を伸縮させ、予測もつかない動きで殴りかかる。

それの挙動があまりにも癖がありすぎて、どう避けたらいいか、八重花ほどの実力者でも見当が付かないのだ。


「ちっ……!」

「ニガサン!!」

「うっ!?」


距離を取って態勢を立て直そうとした八重花を、デビルの網状に変形した腕が捕らえた。


「サンザンヒッカキマワシテクレタガ……コレデトドメダッ!!」

「っ……!!」


動けない八重花に、巨大な鉄槌と化したもう片方の腕が振り下ろされる……!



(ドガァッッッ!!!)



「あ……あんた……!?」



八重花を守るように立ちはだかったのは、佳奈美だった。

佳奈美も地上の敵を殲滅完了し、ボスの下へ向かってきたのだ。


「ぐっ……!」


しかし鉄槌を正面から受け止めたのだ、流石に佳奈美の顔に苦痛の表情が浮かぶ。


「ぐ、ぐおおおっ!!」


佳奈美は辛くも鉄槌を押し返すと、デビルの腕を蹴り砕き、八重花を解放する。


「はぁ……はぁ……。な、なんのつもりよ!?」

「仲間がやられそうになっていたから、助ける。何か問題あるか?」

「仲間……勝手に仲間にしないでよ」

「いいから下がってな。あいつは、あたしが倒す」


強がる八重花を下がらせようとする佳奈美だが、

そう言う佳奈美も今の一撃で相当なダメージを受けていることは傍目でも分かる。


「……ふん、無理よ。あなたにはあいつの攻撃は見切れないわ」

「そうかもな」

「分かったら、とっとと下がって! あいつはあたしが――」

「ナニヲヨソミシテイル!?」

「!」


二人が言い争いを続ける間に、デビルは腕を再生させ、再び攻撃を仕掛けてきたのだ。


「くっ!」


咄嗟に佳奈美は前に飛び出し、再びデビルの攻撃を受け止める。

そのあまりに質量ゆえに、ブロッキングも不可能だ。


「ぬぐぅっ……!!」

「イツマデモツカナ?」


デビルは更なる追撃を加えようと、一旦腕を引くが……。


「……貰った!! 紅龍拳!!」

「グオオッ!!?」


その僅かな間隙を縫うように、佳奈美の研ぎ澄まされたアッパーが、デビルを吹き飛ばす。


「攻撃が避けられないなら……より大きな攻撃でやり返せばいいっ!!」


それを聞いて、デビルはむくりと起き上がる。


「……コムスメガ……コノオレト、タフサデショウブスルツモリカ!?」

「ああ、そうさ。自信が無いなら降りてもいいけど?」

「イイダロウ……スグニペチャンコニシテヤルガナ!」


互いにゆっくりと歩み寄ると、申し合わせたかのように一発ずつ殴り合いを始める佳奈美とデビル。


「どぉりゃ!!」「グホォ!!」

「ガァァ!!」「うげぇっ!!」

「だぁらっ!!「ヌグゥ!!」

「グォォ!!」「ぐぁっ!!」


佳奈美とデビルの殴り合いは、いつ終わるとも知れず続く。


「あ、頭おかしいんじゃないの!? こんなに体格差がある相手とガチンコ勝負なんて、正気じゃないわ!!」


動転する八重花に対し、遠巻きに見ていた亜理紗は納得したように手を打つ。


「……そうか……『相打ち上等』……」

「まーた専門用語が飛び出しおったなぁ」

「……相手の攻撃をわざと受けて、その後隙に確実かつ強烈な反撃を行う……。

 ……佳奈美が最も得意とする……肉を切らせて骨を絶つ戦法……」

「なーる、ボスとの耐久力に格差のあるアクションゲーマーには出来ない発想やな」


千里達は呑気に感心しているが、当の佳奈美はどんどんデビルに追い込まれてしまっていた。

ズタボロのフラフラになっている佳奈美に対し、デビルはまだ余裕だ。

やはり地力、というか体格に差が有りすぎる。


「やっぱり、いくらなんでもムチャクチャすぎる!」

「ムッ!? ウォッ……!!」


見ていられなかった八重花は、佳奈美と戦っている隙を突いて、デビルに飛び蹴りを決める。

デビルはダメージこそ軽そうなものの、大きく吹っ飛んで倒れる。

そうして生まれた僅かな時間で、八重花は佳奈美に話しかける。


「ねぇ、なんだっけ、あんたの名前」

「……佳奈美、だけど? 何だよ急に?」

「佳奈美、あんた強がってるけど、本当はあと何発も持たないでしょ?」

「…………ちぇっ、バレた?」


口内から出血してたり、足がガクガクだったりしてるのを見れば誰でも分かる。


「元々、先に攻撃を食らってるあんたは耐久力勝負じゃ不利。

 この状況を打破するためには、強大な一撃による逆転に賭けるしかない」

「強大な一撃? 何かアテでもあんのか?」


八重花は、力強く頷く。


「格ゲーとアクションにも、少しだけなら共通点がある。

 だからあたし達がその共通点を合わせれば、必ずあいつを倒せる」

「共通点って?」

「それは――」


八重花に何かを耳打ちされ、佳奈美は納得したように頷く。


「フタリマトメテカカッテクルキカ? ソレナラバ――」


身を起こしたデビルは、なんと腕を4本に増やす。


「サァ……ツギノイチゲキデ、コナゴナニシテヤロウ!」

「それはこっちの台詞よ!!」

「勝負はミリ残しから本番だっつーの!!」


地を蹴って下から駆け寄る佳奈美。

宙を蹴って上から飛び掛る八重花。

しかし、デビルはその両方を完全に迎撃できる体勢を整えている……!


「オワリダ……ムッ!?」


突進する二人の身体が、闘気を纏い始めた。


「テラ・クラッシュ!!」

「ソウル・クラッシャー!!」


共に突進系の必殺技を発動したのだ。

奇しくも互いに技の名前も似ている。


「ソウキタカ……ダガコノタテヲヤブルコトガデキルカナ?」


増やした腕を盾に変え、何重にも重ねたデビルは、不敵に笑う。

しかし……。


「……ヌゥッ!?」


佳奈美の身体がドリル状に回転を初めたのだ。

それに巻き込まれるように八重花の身体も吸い寄せられる。

それを見た亜理紗は、思わず声を上ずらせる。


「……そうか……その手があった……!

 二人のプレイヤーキャラクターによる合体必殺技……!

 格闘ゲームとアクションゲームの数少ない共通点……!」

「どうでもええけど、ウチらすっかり解説役やな」


合体必殺技の名の通り、今や二人の必殺技は完全に重なり合っている。

そこにあるのは既に佳奈美と八重花の技ではなく、一本の強大な矢だ。


「テラソウル・クラッシュクラッシャーーーー!!!」

「グギャオオオオオオオォォォォォ!!?」


センス皆無の技名はさておき、二人が全力を込めて生み出した矢は、

キエローデビルの盾を、まるで豆腐のように打ち抜いていく。

そして矢は、とうとうキエローデビルの本体に到達する……!



…………ボゥン!!



キエローデビルの中心を貫いた小さな破壊は、しかし放射状に拡大を続け、臨界点に達した時、とうとう弾ける。

キエローデビルの身体は強い風となって、近隣住宅の屋根を揺らした。









こうして辛くも初勝利を収めたG・アクションであったが、特に感慨がある風でもなく、あっさり変身を解く。

そうして自宅に向かって歩き出す八重花に、佳奈美が併走する。


「八重花、おつかれさん!」

「全く……あんたの捨て身の戦法には恐れ入ったわ」

「ははっ、ちょっとは格ゲーマーのことも見直しただろ?」

「さぁね。でも助けてくれたお礼だけは言っておくわ」

「礼なんて水臭いな、これから一緒に戦う仲間だろ?」

「勘違いしないでよ。騒音が迷惑だったから、今回だけ手を貸しただけ――」


言いながら、空いた穴から部屋に戻ろうとする八重花だが、部屋のあまりの惨状を見て、言葉を失う。

戦闘の流れ弾により、部屋の中は無茶苦茶になっており、八重花愛用のゲーム機も、木っ端微塵に大破していたのだ。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




今、八重花を含めた四人はゲーセンに来ていた。

『ゲーム機を弁償するから』という千里の言葉に釣られた八重花は、そのままなし崩しにゲーセンまで連れてこられたのだ。


「……アーケードは嫌いだって言わなかったっけ?」

「ここは禁煙やさかい、ちょいと付き合ってやー!」


千里になだめられつつ、不機嫌な顔で筐体を見渡す八重花。


「格ゲーや音ゲーばっか……やっぱりあたしにはアーケードは――」


八重花はそう言いかけて止まる。

彼女の瞳は、筐体の一つに釘付けになっていた。


「イ……インディアン・プレデター!!?

 版権問題で回収されたはずの幻のベルトアクションが何故ここにっ!!?」


慌てて八重花は、更に周囲を見回す。


「よく見たら、『電池を食らう』や『ヨイキューレの冒険』まであるじゃない!?

 どれもこれも諸事情で家庭用に移植されていないタイトルばっかり!!」

「ウチは他にも穴場のゲーセンやレゲーショップをぎょうさん知っとるで」


千里はニヒィ、と笑う。


「な、ヤエちゃん? ウチら、友達になろうやないの!」

「……しょ、しょうがないわねぇ。そ、そこまで言うなら仲間になってあげるわよ」


あくまで仕方なくよ、と言いたげな様子で承諾する八重花だが、

興奮を抑えきれずに身体がウズウズしてるのは傍目からでもよく分かった。


「さ、さてと、100円100円……あった!」

「おっと、待った!」

「あ、何すんのよ!?」


八重花が取り出した100円を佳奈美が奪い取ったのだ。


「その前に、あたしともう一度勝負してもらおっかな」

「なんでよ、いいから100円返しなさい!」

「あれー、勝ち逃げする気かなー? それとも自宅じゃなきゃ力を出せないとか?」

「……勝負……受けるべし……」

「わ、分かったわよ、でも1回だけだからね!」

「まぁ今日の所はな!」


佳奈美はニッと笑うと、八重花に100円を投げ返す。


「なぁ、折角やから全員参加でゲーマーズ最強決定戦ってのはどうや?」

「……いいね……賛成……」

「その発想は無かった、でもあたしも賛成」

「もう何でもいいわ。好きにしてよ」


こうして千里の提案でゲーマーズ全員で対戦することになったのだが……。


「よし、早速ストレートファイターで……」

「それはあんたが有利すぎでしょ。ラストファイトで死なずにどこまで行けるか勝負にしましょ」

「……ピストルバァールのハイスコア勝負……」

「アホウ、4人対戦つったらマリコカートに決まっとるやろ!」


ゲーマーズ達は、みな自分の得意ジャンルを一方的に要求するばかり。

このままでは一向にラチが明かないので、間を取って落ち物パズルの『よぷよぷ』で勝負することになりました。




誰が勝ったのかは……ナ・イ・シ・ョ♪








   チャチャチャチャラララン♪


  『よっ、樋口佳奈美だ。

   八重花の加入であたし達ゲーマーズの欠点も克服され、体勢は磐石!

   ……と思いきや、意外な欠点がまたまた大浮上!?

   その欠点を克服するために特訓を始めるあたし達だが……。

   そんな時、またまた新たな凄腕ゲーマーが現れた!

   そのゲーマーとは……ええっ、こんな真面目そうなメガネっ子!?」



  次回、闘え!! ゲーマーズVR


Round5「始まりはライトゲーマー!」


   ジャジャーン!!



  『あたしより強い奴に会いに行く!!』

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