第3話 平らな所でしか闘えないの?

 ◎GAMER'S FILE No.2

  『河井亜理紗(かわいありさ)』15歳

   某公立高校に通う現役女子高生。

   得意なゲームジャンルはシューティング。

   ただしシューティングと名の付くジャンル全てが得意というわけでは無い。

   身体がとても小さいことと、紫髪のポニーテールが容姿上の特徴。

   無口というより小声で、雰囲気は暗いが根は優しい。

   弓道部に所属しているが、幽霊部員と化している模様。


   装着アーマーは射撃に優れた『G・シューター』で、

   アンチャーとの交戦時には、遠距離からの攻撃で前衛を援護する。





「ゲーマーズのメンバー……増やすべきだと思わへんか?」


ゲーセンのPCコーナー前にメンバーを招集した千里は、

何の前フリも無いまま、いきなりそう提案した。


「何だよ、藪から棒に」

「……三人で……十分……」

「まぁ聞けや。前回の敵は数が多かったから苦戦したろ?」

「そりゃあ数が多かったからな」

「……うん……多かった……」

「でな、ウチ考えたんや。ウチらのチームには足りないパーツがある!って」


千里はそう言って、人差し指を振り上げる。


「タイマンしか出来ないファイター!!」


佳奈美を指差す。


「正面の敵にしか対応できないシューター!!」


亜理紗を指差す。


「そして、操縦しか出来ないドライバー?」

「いや、それは無問題やろ」

「……棚上げ……ズルい……」


ジト目で抗議する二人だが、そんな視線を千里は軽く受け流す。


「ともかく、ウチらに足りないのは広範囲の敵を効果的に迎撃する能力や」

「確かに、あたしの能力では囲まれたらお仕舞いだ。悔しいけど……」

「……私も……背後の敵には、気が回らない……」

「せやろ、だからホラ!」


千里が二人の前に突き出したのは、ゲーマーズのブレスレットだ。

もちろん、三人が既に持っている物とは別の物である。


「……新型……どうしたの……?」

「これな、長官におねだりして作ってもろうたんや。

 一撃離脱型の機動性重視のアーマーやて。ウチらの弱点を補うのにピッタリやろ」

「で、肝心の装着者は誰がやるんだい?」

「そう……本題はそこや!」


千里はPCモニターを叩く。


「おまえら、TASって知っとる……いや、流石に知らんわけないか」

「TAS? 何だそりゃ?」

「ちょ、佳奈美っ! ゲーマーなら流石に聞いたことあるやろ!?」

「知らんもんは知らん」

「……まぁ、格ゲーのTASってほとんど無いからな。格ゲー馬鹿の佳奈美らしいっちゃ、らしいわ」


やれやれ、と頭を振る千里。


「亜理紗はもちろん知っとるよな?」

「……Tool Assisted Speedrun……」

「せや!」



 ◎TAS(タス)(Tool Assisted Speedrun)

   ツールの手助けを借りたプレーのこと。

   人間のプレイとは違ってやり直しを繰り返すことで、

   通常では不可能なプレイを実現している。

   ゲームクリアまでのタイムを競うものが多い。



「ウチもTASにはいつも泣かされとってなぁー。今んトコ、タイムアタックで256戦8勝248敗なんや」

「……実機プレイでTASに8勝もしたの……?」

「せや!」

「…………千里、すごすぎでしょ…………」

「せやろせやろ!」


ふんぞり返る千里。


「……でも、TASは所詮ズル技……。……実戦の役には立たない……違う……?」

「いいから、ちょっとこの動画見てみ?」


千里は某動画サイトに上がっている動画を再生する。

その動画は有名アクションゲームのプレイ動画で、

プレイヤーキャラは超人的な身のこなしを行い、並み居る雑魚敵をバッタバッタとなぎ倒していた。


「へー、無駄のない良い動きだな。上手いじゃんコイツ」

「……TASだから当たり前……。……あれ?」

「気付いたか、亜理紗?」


千里はニヤリと笑う。


「ん、ボーナスキャラが出現したのに逃したのか? なんだ、TASってのも万能じゃないんだな」

「アホ抜かせ、TASが失敗するかい」

「??? じゃあ何で失敗したんだよ」

「……あのボーナスキャラの出現は完全ランダムで、先読みは不可能……。

 でも、TASなら出現を確認してから時間を戻せば確実にGETできるはず……。

 ……なのに、この動画はそうしなかった……。いや、できなかった……つまりっ!?」

「ウチも最初は勘違いしたんやけどな……そう、これはTASやない!

 実際に人間が実機でプレイしている、正真正銘の通常プレイ動画や!」

「つまり、この動画を上げた奴は、TASと見紛うような超人的なプレイが可能なゲーマーってことか」


佳奈美は無意識に舌なめずりをする。


「なるほど、興味湧いたな。そいつに会いに行ってみようじゃないか」

「ほな、早速」


千里は、ブレスレットで長官を呼び出す。


『こちら地球防衛軍の長官だ。ゲーマーズ諸君、何かあったのかね?』

「おう長官。プロパイダをハックして、この動画上げた奴の住所を割り出してくれや」

『むっ、何のためにだね?』

「もちろん地球の平和のためや!」

『そうか、それならばよかろう!』


あっという間に、ゲーマーズの手元に情報が送られてくる。


「宇崎八重花(うざきやえか)……これがそいつの名前か」

「八重花……ヤエちゃんでええな」

「……馴れ馴れしさに定評のある千里……」

「まぁ住所も分かったことだし、行ってみよか」


立ち上がる千里だが、何かを思いついて再びPCに向かう。


「おっとと。いきなりお邪魔すんのもアレやし、コメント書いとくか」


『スーパーハカーの知り合いに頼んでうp主の住所は突き止めた。

 今から会いに行くからよろしく。 貴方の秘密を知るゲーマーより』


「これで、よしと」

「……脅迫文書……?」

「それじゃあ行こうか」


千里のバイクに三人乗りし、ゲーマーズは宇崎八重花の下へと向かった。





『帰って』


宇崎家宅のインターホンを鳴らしたゲーマーズだが、まぁ当然というか、無碍な拒絶を受ける。


「そないなイケズ言わんといてやー。ヤエちゃんのプレイに感銘を受けてはるばる来たんやでー?」

『警察呼ぶわよ?』

「残念だったね、あたし達は国家権力と繋がっているんだ。何故ならあたしたちは、地球防衛軍所属のゲーマーズVRだからね!」

「ドアホ!! ヒーローがいきなり正体ばらすなや!!」

「……ヒロイン……だけどね……」

『ゲーマーズVR? 最近、噂になってる連中?』


インターホンの声色が変わった。

それからしばらく押し黙っていた彼女だが……。


『……興味出た。上がっていいよ』


玄関のドアが遠隔操作で開く。


「ほな、おっじゃましまーす!」


遠慮を知らずに意気揚々と上がりこんだ千里に、残りの二人も続いた。





家の中に居た小柄な栗色ショートカットの少女、八重花。

彼女の部屋には古今のアクションゲームが多数散らばっていた。

やはりアクションが得意分野なのだろう。


「――……っちゅーわけでな、

 腕の立つゲーマーに仲間になって貰おうと探してたんや」


そんな彼女に、千里は切々と事情を説明する。

……が、当の八重花はくんくんと鼻を鳴らし、その話よりも別のことが気になって仕方ないようだった。


「……あんたら、ヤニの臭いがするね」

「あぁ、堪忍。さっきまでゲーセンにおったんでな。せやけど、ウチらは一人も吸わんから安心しぃや」

「何だ、あんたらアーケードゲーマーなの? やっぱ帰って。アーケードのゴロツキどもは虫が好かない」

「え……そ、そないなこと申されましても……」


再びの拒絶に慌てる千里。

一方、佳奈美はアーケードを馬鹿にされてカチンと来たようだ。


「ふん、流石にコンシューマーゲーマー様はお高く止まってるね。

 どーせ外に出て野良対戦で負けるのが怖いから引き篭もってるんだろ」

「なっ!!」


あからさまに侮辱され、今度は八重花が眉を吊り上げる。


「亜理紗、千里、行こうよ。こんな奴を仲間にしても仕方が――」

「待ちなさいよ!!」


佳奈美が振り返ると、八重花は何かのゲームを彼女の前に突き出した。


「あたしと、これで勝負しましょう? これであたしが負けたら、あんた達の仲間になってあげる」


八重花が手にしているゲームは、スカッシュ・シスターズという非常に有名な対戦格闘ゲームだ。

コンシューマー専用ゲームながら、佳奈美も経験がある。


「ただし、プレイするルールはあたしが決めるわ。文句無いわよね?」

「……いいだろう、ゲーマーならゲームで決着つけないとな」


八重花からコントローラを受け取り、戦闘態勢に入る佳奈美。


「ヤエちゃんには悪いが、この勝負もろうたな。格ゲーで佳奈美に勝てる奴がおるわけがない」

「……スカシスなら、佳奈美は大会で優勝もしてる……非公式のだけど……」


『READY......FIGHT!!』


八重花と佳奈美の対決の火蓋が、切って落とされた。











「かっ…………!」


アンチャーと初遭遇した時ですら微動だにしなかった亜理紗と千里が、驚愕のあまり、目を見開いている。

この勝負は、互いに3機ずつ残機を持って始まった。

そしてその勝負が終わった今、それぞれ残っている残機は……。



  佳奈美:0機  八重花:3機



「かっ……完敗やないかっ!? どないしたんや佳奈美!?」

「……そ……そんな……佳奈美が負ける訳が……」


二人に声をかけられても、何も言えずに歯軋りするばかりの佳奈美。

一方、八重花は得意げに口を開いた。


「やっぱりね、こんなことだろうと思ったわ。

 あなたが優勝したって大会、どうせ平らな場所でのアイテム無しルールでしょ?」

「……!」


図星だった。

佳奈美がこのゲームの大会で勝ち得た勝利とは、

平地での一対一という、イレギュラーの起こらない状況での物だった。

そこでの勝負は、正面からの格闘技術が全て。小細工は全く挟む余地が無い。


しかし今、八重花が佳奈美に対して得た勝利はそれとは全く別種の物だ。

移り変わる地形、不意に現れるお邪魔キャラ、何が出るか分からないアイテム。

彼女はそれら全ての不確定要素に柔軟に対応し、対応しきれずに実力を出せない佳奈美を一方的に蹂躙したのだ。

そう……言うなれば、手段を問わない何でもありの戦い……。


「これだから格ゲーマーって嫌いなのよ。ガチガチのルールに守られた戦いしか出来ない癖に、自分を強いと思い込む」


八重花が得意気に口上を述べる一方で、

それを聞いている亜理紗の身体がブルブルと震えだした。


「…………卑怯…………」

「亜理紗……?」


普段、滅多に感情を表に現さない亜理紗だが、

顔を起こしたその表情は、目に見えるほどに憤っていた。


「……あんな卑怯な戦いじゃなければ……佳奈美は、負けないっ!!」

「亜理紗……」

「はん、バカじゃないの?」


食って掛かる亜理紗に対し、小バカにしたように鼻を鳴らす八重花。


「あんたら、未知の生物と戦ってるって言ってたけど、

 そいつらは正々堂々ルールに乗っ取って戦うような、

 そんなスポーツマンシップ溢れる連中なの?」

「…………っ…………」


言葉を詰まらせる亜理紗。

悔しいが、八重花の指摘は確かに的を射ている。

先日のピンチは、アンチャーは必ず真っ向勝負を仕掛けてくる物だと、ゲーマーズ達が勝手に決め付けていたせいだ。


「……そいつの言うとおりだ、あたしが甘かった。今日は出直そう」

「……佳奈美……」


亜理紗の頭を撫でて、落ち着かせようとする佳奈美。

一番悔しいのは彼女だろうに……。

佳奈美の意を汲めば、亜理紗も大人しく引き下がらざるを得ない。

その時……。


『エマージェンシー! エマージェンシー! バイスシティーにアンチャーの群れが――』


「仕事か。行くよ、二人とも!」

「……あまり……気が乗らないけど……」

「ほな、また来るからよろしゅう!」

「もう来るな!」


半ば八重花に追い出されるように、三人は家を飛び出して行った。






「ルール無用……勝ったもん勝ち……。……せや!」


現場に急行しながらも、未だ策を巡らせていた千里は、何かを思いついたのか、不意にポンと手を打つ。


「勝てば官軍、手段を選ばないでええんならまだ手はあるで!」

「……何するつもり……」

「怒らせてでもアンチャーとの戦いの場に引きずり出したらええねん。

 一度でもゲーマーズとして戦えば、後はウチがなぁなぁにしたる」

「怒らせるって……既に嫌われまくってんのに、あれ以上どうやって怒らせる気だよ?」

「まぁ、見とき!」


そう言って、イヒヒと笑ってみせる千里であった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




招かざる客がやっと出て行ったので、ようやく八重花は中断されたゲームの攻略を再開できた。


「ここのパターン、まだ完全じゃないな……」


一人でブツブツ言いながら手元のノートに攻略メモを書き込む八重花。

その時……。



ドガアアアアアアアアァァァァァァン!!



「な、なによっ!?」


いきなり、部屋の壁が衝撃音と共に大破したのだ。

そこから転がり込んできたのは、奇妙な黒い生物……。

ノックアウトされたアンチャーだった。


「ヤエちゃん、すまーん! 巻き込むつもりは無かったんやー!」

「……大嘘……」


空いた穴からひょっこり顔を出す千里と亜理紗。

その身には既にパワードスーツが装着されている。

千里がへらへら笑っていることから、故意であろうことは明白だ。

更に向こうでは、佳奈美が敵を食い止めるために戦っているのが見える。


「あんたら、どういうつもりよ?」

「……手段を……選ぶのはやめた……」

「で、ウチらの仲間になるって件、考えてくれたかいな?」

「……………………」


人の家を破壊しておいて、この言い草だ。

これ以上こいつらの相手をしても無駄だと悟った八重花は、眉間にしわを寄せつつも、無視してゲームを続けようとする。

だが不意につんざくようなアンチャーの奇声が響き、八重花は思わず耳を塞ぐ。

見ると、鳥形のアンチャーの群れが空を覆っている。


「何よ、アンチャーってこんなにうるさい連中なの!?」

「……今日のは……特にうるさい……」

「こいつらおる内は、やかましゅうてゲームできんやろ。どや、今回だけでいいからウチらと一緒に戦ってみいひんか?」


ブレスレットが八重花の足元に放り込まれる。


「さぁ、それを腕に巻いて、プレイ・VRって叫ぶんや!」

「…………今回だけだからね」


根負けしたのか、八重花はやれやれと頭を振り、ブレスレットを拾うと、腕に装着する。


「地上の敵は佳奈美が何とかするから、ヤエちゃんは空中の敵を頼むわ」

「はいはい、分かったわよ」


八重花は面倒くさそうに返答すると、変身コマンドを叫ぶ。



『プレイ・VR!!!』



八重花の身体が光に包まれ、アーマーが装着される。

彼女が変身したのは、機動性重視のG・アクションだ。


「さぁ、早速頼むで、ヤエちゃん!」

「……………………」


腰を低く落とし、戦闘態勢に入る八重花だが……。




(プシュ~)



『Bメンヲセットシテクダサイ』




「な、なに!? なんなのよコレ!?」

「……容量……切れ……」

「あちゃー、おしゃべりに時間使いすぎたな」


いいところですが、どうやらディスクチェンジが必要のようです。

G・アクションの活躍はまた来週!



「ちょ、ちょっと待ちなさいよぉーーー!!」








   チャチャチャチャラララン♪



  『五十嵐千里やで!

   今回はなんとも三枚目な幕切れやったが、

   いざ戦闘に参加したヤエちゃんは、ごっつ強い強い!

   たった一人でアンチャーの群れをなぎ倒しやっ!

   ……これで佳奈美と手ぇ組んでくれたら、

   きっと最強のタッグになれると思うんやけどなぁ。

   ヤエちゃんプライド高そうだから厳しいかもしれへんなぁ』



  次回、闘え!! ゲーマーズVR


Round4「二傑ゲーマー、並び立つ!」


   ジャジャーン!!



  『ウチの記録、破ってみぃや!!』

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