第2話 ゲヲタの癖になまいきだ

 ◎GAMER'S FILE No.1

  『樋口佳奈美(ひぐちかなみ)』17歳

  某公立高校に通う現役女子高生。

  得意なゲームジャンルは格闘ゲーム。

  高い身長、長い黒髪、そして吊り目が容姿上の特徴。

  他人からは誤解されがちだが、本人は割りと温厚な性格の模様。

  ちなみに運動能力が同年齢の平均と比べて著しく低い、

  いわゆる運動音痴であることが確認されている。


  装着アーマーは格闘に優れた『G・ファイター』で、

  アンチャーとの交戦時には、白兵戦による前線維持を担当する。








今日はシトシト雨の絶好のゲーセン日和だったが、

そんなことに関係なくゲーマーズVRの出動命令はやってくる。

緊急コールの指示通りにやってきたゲーマーズは、ショッピングモールを荒らす怪人たちの姿を発見する。


「いたな、アンチャー!」

「……天知る……地知る……ゲーマー知る……」

「今日こそ年貢の納め時や!」



『『『プレイ・VR!!!』』』



三人の声が重なる。

パワードスーツに包まれた彼女達は、決めポーズをつけながら名乗りを上げる。



「欲するは強敵、そして勝利のみ。

 道を追い求め続ける孤高の戦士……『G・ファイター』!!」


「千分の一秒を削るのに命を賭ける。

 音すら置き去りにする光速の戦士……『G・ドライバー』!!」


「狙った獲物は逃がさない。

 視界に映る全てを射抜く戦慄の戦士……『G・シューター』!!」




『『『三人揃って、ゲーマーズVR!!』』』




「よっしゃ、決まったな! 徹夜で考えたかいがあったわ!」

「……中二……臭い……」

「その割にはノリノリだったじゃないか」


おしゃべりしつつも、ゲーマーズは戦闘体制を取る。

対するアンチャーは三匹。

数がピッタリということで、三人は散開して一匹ずつ相手にすることにした。





佳奈美は、デパートの衣類売場でアンチャーの一匹と戦っている。


「コノッ! ヤロッ! クソッ!」


手刀、蹴り、上段、中段、下段。

そのあらゆる攻撃を、佳奈美は片手で楽々と捌く。


『ブロッキング』


敵の攻撃にあわせてこちらも手を出し、攻撃の軸をずらすことで、それを無効化する技。

これはよほどの動体視力と、敵の動きを読む能力、そして的確な身体動作が出来なければ不可能な技だ。


佳奈美は身体を動かすことがあまり得意なほうではない。

だが、動体視力と格闘センスだけは生まれつき人より優れていた。

だからこそ、格闘ゲーム界の女王と呼ばれるほどの腕前になれたのだ。

そんな彼女が「自分の思い通りに動く素早い身体」を手に入れたことで、

ゲームの世界に留まらない、無敵の戦士が誕生することとなった。

正に水魚の交わりと言う他無い。


「グッ……ナメヤガッテ!」

「……そこだっ!!」

「ブゲラッ!!」


痺れを切らしたアンチャーが大技を出そうとした間隙に、佳奈美は蹴りの乱舞を潜り込ませる。

トドメのかかと落としがアンチャーの脳天を打ち砕き、飛び散ったアンチャーの体液が、売り場の服に付着する。


「あっちゃー、やっちゃったよ。まぁ仕方ないか」


そう言ってポリポリと頭をかく佳奈美は、直前まで戦っていたアンチャーのことは既に忘れたかのようだ。

こうして全く苦戦することも無く、佳奈美はアンチャーの討伐に成功した。





佳奈美が売り場の外に出ると、ちょうど穴だらけになったアンチャーの身体が消滅する所だった。

その下手人であろう小柄な紫髪の少女は、銃をくるくる回して遊んでいる。


「なんだ、亜理紗ももう終わりか」

「……速射してれば……終わった……」

「千里は?」

「……向こう……」

「どれどれ」


亜理紗が指し示す方向を見ると、二台(?)のマシンが公道でカーチェイスをしていた。

四輪形態に変形していたアンチャーと、同じく四輪マシンを操る千里だ。

両者は激しく競り合ったまま、次のコーナーを迎える。

次の瞬間、千里はアンチャーの内側に潜り込むと、後輪を滑らせて幅を寄せ、

挟み込むようにアンチャーをガードレールに叩き付けた。

哀れアンチャーは、ペチャンコになって消滅する。


「おう、おまえらも終わったか」


千里はマシンから降りると、二人の下に歩いてくる。


「思ったよりつまんないね、この仕事」

「……ヌルゲー……すぎる……」

「そう言うなや、初っ端から強いの出てきても困るやろ。ゲームってのは難易度高けりゃええもんとちゃうで」


あーだこーだ言いながら変身を解除しようとする三人だが……。


『エマージェンシー、エマージェンシー!!』

「ん、どうしたんだ?」

『ゲーマーズ諸君、新手だ! 気をつけたまえ!』


長官の言うとおり、ゲーマーズの前に新たなアンチャーが三体現れていた。


「なんだ、また三体だけか」

「また散って一体ずつ倒すってことでええな?」

「……了解……」


即座に作戦を確認すると、ゲーマーズは再び散っていった。





「何度やってもあたしには勝てないよ、諦めな!」


先ほどの戦闘に続いて、戦闘を有利に進める佳奈美。

違う点があるとすれば、今度は攻め重視だということか。

怒涛の攻撃に、アンチャーは防戦一方である。


「さぁ、トドメだっ!!」


アンチャーのガードを割り、佳奈美はフィニッシュブローの体勢に入る。


「紅龍け……うわっ!?」


突然、背後から衝撃を受け、佳奈美は吹っ飛ばされる。

一匹に集中し、ガラ空きだった佳奈美の背中を、別のアンチャーが攻撃したのだ。


「……もう一匹隠れてたのか。逆ドラマティックモードってか……上等だッ!」


逆上した佳奈美は、二匹纏めて吹き飛ばそうと、再び必殺技の体勢に入るが……。


「ぐぁっ!? ……な、なんだって!?」


再び脇から吹き飛ばされた佳奈美は、後ろを振り返って唖然とする。

二匹、三匹どころではない。

4,5,6,7,8……。

とにかく、数えられないほどの数のアンチャーが、彼女を取り囲んでいた。

逃げ場は……無い。


「……ちっ!!」


佳奈美は、玉砕覚悟を決めた。

しかし、そこにアンチャーの群れをすり抜けて何かがやってくる。


「佳奈美ぃっ、はよう乗りいっ!!」

「千里っ! 亜理紗も!」


千里の操るホバークラフトだ。亜理紗も乗っている。

言われたとおり、咄嗟に飛び乗る佳奈美。

佳奈美を回収したホバークラフトは、素早くその場を離脱する。


「危ない所やったな」

「助かった、サンキュ!」


ぐっ、と親指を立てあう二人。


「しっかし、マジでビビった。まさかあんなに大量に湧くなんて」

「佳奈美はタイマン以外はからっきしやからな」

「……私も……正面の敵にしか対応できない……」

「でも、何でこんな急に大量の敵が?」

「……トラップ……」

「せやな、ウチら完璧にハメられたみたいや」

「最初の三匹が既におとりだったってことか」

「……戦ってる間に取り囲まれてた……」

「まぁ今は逃げるほか無いわなぁ」


千里はそう言ってエンジンを全開にするが、即座に四輪に変形したアンチャー達が追ってくる。


「あーあー、マズイわぁ、振り切れん。この形態じゃバイクや四輪ほどのスピードが出えへんねん」

「……じゃあ……四輪にすれば……?」

「この状況で小回り効かんマシンなんて自殺行為やで」

「……どっちにしろ……このままじゃ死ぬ……」

「そや、亜理紗の銃でどうにかならんか?」

「……奴ら……軽い弾は効かない……。でも……重い弾当てるには……動き止めないと……」

「さよか……」


問答を続ける千里と亜理紗だが、なかなかこれぞと言う突破口は見つからない。

その時、何かを考え込んでいた佳奈美が口を開く。


「千里……アンチャーの一匹を狙って、正面から突っ込んでくれ!」

「アホ抜かせ、この形態はパワーも他より落ちとんのやぞ?

 そんなんしたらカウンターもろうてマシンごと砕け散って仕舞いや!」

「一匹だけなら……あたしが、攻撃を止める!!」

「止める? どないして?」

「そんなの、身体張ってに決まってる!」

「んな無茶な……!」

「……佳奈美は……言ったことは必ず実現する……」

「…………分かった、どうなっても知らんからなっ!」


千里は佳奈美を信じることに決めると、手頃なアンチャーの一体に狙いを定め、正面から突っ込む。

対するアンチャーもハンマーを持った人型に変形し、ホバークラフトごと木っ端微塵にしようと待ち構える。

そんなアンチャーに相対するように、佳奈美はホバークラフトの船首に立った。


「佳奈美ィ、信じとるからなぁ!!」


そう言うと、千里は全力でアクセルを踏み込んだ。


「クケケッ! コナゴナニシテヤル!」


アンチャーは巨大化した右手をホバークラフトに向けて振り下ろす!



(ガキィン!)



結果から言おう。

ホバークラフトは粉々にはならなかった。

何故なら、佳奈美が振り下ろされたハンマーの攻撃をブロッキングしたからだ。

それも、超スピードで突っ込むホバークラフトの上で。


「亜理紗っ、今だっ!!」

「……チャージ・ショット!!」

「グギャアアアアアアアアアアア!!」


一瞬、動きの止まったアンチャーに向けて、亜理紗はエネルギーを充填しきった必殺の一撃を放つ!

それを受けたアンチャーは、粉々になって消滅する。


「ははは、どうなることかと思うたが流石は佳奈美や!」

「……この調子で……全部狩る……!」


勢い付いたゲーマーズは、続いて新たなアンチャーに狙いを定める。


「ブロッキン――……あっ、しまった!!」


佳奈美がブロッキングのタイミングを外してしまった。

百戦錬磨の佳奈美が、この土壇場で失敗する。

それほどまでに、このブロッキングの難易度は高かった。


「……ちぃっ、ブースト・オン!!」


咄嗟に千里がマシンを加速させたため、攻撃態勢に入っていたアンチャーを、逆にカウンターとなる形で吹き飛ばす。


「あ、あれ? 突っ込んだらマシンが砕け散るんじゃなかったのか?」

「ドアホ、これは奥の手や。マシンに無理を強いるから、何度も使える手とちゃう。

 それにまだ後があるって知っとったら、すぐ気ぃ抜いて手ぇ抜くやろ佳奈美は」

「……佳奈美は……いつも2ラウンド目で油断する……」

「……………………」


バカにされつつも、気合を入れなおした佳奈美は、今度こそブロッキングを連続で成功させ、

何とかアンチャーを各個撃破して殲滅することに成功した。





勝利を収めつつも、ボロボロになったゲーマーズ達は、地べたに座り込んで反省会を始めていた。


「……ま、今回でウチらにもそれぞれ弱点があることが分かった」

「ちょっと、慢心してたのかも知れないな……」

「……反省……」


いつも自信満々のゲーマーズも、今日ばかりは流石にしおらしい。


「で、ウチ考えたんやけどな。特訓として、今日のゲーセンは苦手なジャンルをプレイするってのはどうや?」

「なるほど。いいね、面白そう」

「……たまには……いいかも……」

「よし、それじゃ今日のゲーセンでやるゲームは、

 佳奈美はベルトアクション、亜理紗はTPS、

 そんでウチは……格ゲー辺りってことでええかな」

「そうだな、そんな感じでいいと思う」

「……異議なし……」


自分らの弱点を克服しようと、決意を固めるゲーマーズであった。









千里は宣言通り格ゲーをプレイしていた。

彼女は他の二人に比べ、苦手と言えるようなジャンルが少ない。

だから格闘ゲームもそれなりにこなせるのだが、さっきからどうにも気が散ってミスが多発している。

何故なら……。


「……おい、おまえら。そこで何しとん」

「いや、千里の指導をしてあげようと思って」


1面のボスにすら辿り着けずにやられた佳奈美は、あっという間に格ゲーエリアに舞い戻ってきたのだ。

呆れる千里を尻目に、佳奈美は対面の筐体にコインを投入する。


「……私は……見学……」


亜理紗に至っては、TPSエリアをチラ見しただけで嫌気が差して帰って来たのだ。

いつも見ている格闘ゲームを眺めてる方がずっと気が楽らしい。


「うんうん、やっぱり格闘ゲームは楽しいね♪」

「……シューティングが……一番……」

「おまえらなぁ……」


などと言っている間に、あっという間に千里のキャラは佳奈美のキャラにボコボコにされていく。


『K.O!! PERFECT!!』


「……千里……成長してない……」

「なぁに、上手くなるまであたしが付き合ってやるよ」

「…………前途は、多難やな」


千里は一人、ため息をついた。

こいつらゲーマーは自分の好きなゲームしかやらない。

そんなことは最初から分かりきっていたことだったのだ。




結局、特訓を忘れて思い思いのゲームで遊び出す佳奈美達であった。

好みの偏った偏食ゲーマーズの明日はどっちだ!








   チャチャチャチャラララン♪



  『……河井亜理紗……。

   ……あたし達に……足りないパーツがある……?

   ……それが……この引きこもり女……?

   ……千里は……いつも思いつきで物を言う……。

   ……本当にそいつの力が必要かどうか……。

   ……私のこの目で……見極めてあげる……』



  次回、闘え!! ゲーマーズVR


Round3「参上、Gアクション!」


   ジャジャーン!!



  『……見ている場所が違う……それがシューター……!』

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