闘え!! ゲーマーズVR

いぬマッサン

第1話 ゲーマーは地球を救う!

「よっ。はっ。とぉっ!」


短く刈り上げた赤髪の女性は、

着ているバイクスーツを上だけはだけ、アーケードゲームに熱中していた。

彼女が夢中になっているのは、対戦専用の格闘ゲーム筐体だ。


『K.O!! PERFECT!!』

「うぎゃーーー!? まさかの完封負けっ!?」


思わず仰け反った彼女 ―― 千里(ちさと)は、勢い余って後方に転倒する。


「いてて……ちぇーっ、1ラウンド目は割りといい感じやったのになぁー」

「千里、あんたは動きに無駄が無さすぎるんだよ。レースゲーならそれでもいいかもだけど、格ゲーじゃただのカモだよ」


そう言いながら向かいの筐体から立ち上がったのは、女子高の制服を着た長身長髪の黒髪の美少女だった。


「なるへそー、駆け引きって奴やな。分かってたことやけど、やっぱ格ゲーじゃ佳奈美には敵わんなぁ」


千里の対戦相手だった黒髪の少女――佳奈美(かなみ)は、

数々の格闘ゲーム大会で優勝している名うての格闘ゲーマーなのだ。


「ま、それはこっちも同じだけどね。千里、またタイムアタックで世界記録出したんだろ?」

「へっへー、後ちょっとで全コース記録をウチだけで総ナメやで!」


その言葉通り、千里の方もレースゲームでは名が通っており、

某レースゲームのオンラインランキングは彼女の名前で埋め尽くされているのだ。

あまりの辣腕に、チート(不正データ使用)を疑われているぐらいだ。


「よっし、次はレースゲーで勝負――」




ズダダダダダダンッ!!




その時、千里の背後から怒涛の銃声があがる。


「……千里……こっちも、付き合ってよ……」


ガヤガヤうるさい店内では聞き逃しそうになるほど小さな声でつぶやいたのは、

紫の髪を頭上で纏めた、大人しそうな少女だった。

服装は短パンにパーカーという洒落っ気の無い格好だ。

少女――亜理紗(ありさ)は、本来二人プレイ用の二丁の銃を一人で両手に持ち、

画面に現れるテロリストを一瞬のうちに撃退していた。

彼女は、見ての通りシューティングの達人だが、ジャンル自体が下火な為、他の二人に比べて無名に近い。


「おー亜理紗、いいでー、やろっか!」


亜理紗の呼びかけに答え、千里は隣の筐体に並ぶ。


「もっとも、ウチの腕じゃ足手纏いになるだけやろけどな!」

「……それが、目的……。このゲーム、2Pだと難易度上がるから……」

「なるへそ、納得や。……って、人をダシにすんなっ!」


ぶつくさ言いつつ、千里は筐体にコインを入れようとする。




ドガシャアアアアアアアアアアーーーーーーーーン!!!




「こ、今度は何や!?」


轟音に振り向く千里達だが、今度はゲームの音では無かった。

店の壁に、大きな穴が空いていた。

それは、妙なパワードスーツ?を纏った男が突っ込んできた為である。

当の男は、衝撃で倒れこんで気絶している。


「なんやうるさいなぁ。レコード出そうな時やったら確実にキレとったぞ今の」

「……それは……集中力足りないだけ……」

「じゃかあしいわ!」

「……………………」


異常事態に慌てて逃げ出す他の客をさておき、怯みもせずに漫才を続ける千里と亜理紗。

一方、佳奈美は倒れた男に近づいていく。


「おいアンタ、大丈夫か?」

「うっ……!?」


佳奈美が身体を揺することで、男は目を覚ます。


「……き、きみ達、ここは危険だ!! 早く逃げなさい!!」


男はそれだけ言うと、慌てて空いた穴から外に飛び出していった。


「なんだアイツ?」

「……レイヤー……」

「なんや気になるなぁ。ちょっと見てみよか」


千里達は空いた穴から外をのぞいてみる。





そこには道路から建物までことごとく穴だらけになったビル街と、

謎の生物と対峙する三人組のパワードスーツの男達の姿があった。

謎の生物は人型ではあったが、人間より一回り大きく、その全身はぜん動する黒い触手に覆われていた。


『さぁ行け、ボイドレンジャー!! 侵略者を倒すのだ!!』


上官らしき者からの通信が飛ぶ。


「よし、これでも食らえっ!!」


銃器らしき物を持った男が謎の生物に向かって光弾を放つが、謎の生物の動きは素早く、まるで当たらない。


『シューター、何をやっている!! しっかり当てないか!!』


「し、しかし、敵の動きが早すぎます!! こんな遅い弾では……!!」


確かに彼の言うとおり、銃から発射される光弾は見てから避けるのも可能な程度のスピードだ。




『ええいっ、ドライバー!!』

「こ、こっちも制御できません!!」


業を煮やした上官は、近未来的なフォルムのバイクに搭乗する男に檄を飛ばすが、

彼もその圧倒的なパワーとスピードを全く制御できず、マシンに振り回されている。


『くっ……ファイター、おまえだけが頼りだ、何とかしろっ!!』

「わ、わかりました!!」


先ほど店に突っ込んできた男だ。

他の二人と違い、彼にはパワードスーツ以外に特殊な装備は見当たらないが、

その分、運動能力は他の二人より大きく強化されているようだ。


「食らえ、正義の鉄拳……うわぁっ!!」


男は謎の生物に格闘戦を挑むが、あえなく反撃に会い、殴り飛ばされてしまう。


「クククク……ヨワスギルゾ、ニンゲン……!!」


謎の生物は、そう言って勝ち誇るよう黒光りする身体を蠕動させた。


「だ、駄目です……奴の動きを見切れません!!」

『泣き言を言うな!! 貴様らが勝てなければ誰が奴らから地球を守るというのだ!!』

「は、はいっ!!」


再び立ち上がり、謎の生物に飛びかかる男。

他の二人も何とか援護しようとふんばってはいるが、装備を使いこなせていない為、まるで助力になっていない。

このままでは全滅も時間の問題だということは素人目にも分かる。





三人の少女達は、その光景を呆然と眺めていた。

だが、それはこの超常的な出来事がショックだったからでは無い。


「……佳奈美、亜理紗。あれ、どう思う?」

「…………下手すぎ…………」

「あたしらがやれば、20秒で倒せる」

「やっぱ、そう思う?」


そうこう言ってる間に男達は佳奈美達の近くまで吹き飛ばされてくる。


「く、くそぉっ……」

「このままじゃ、地球の未来が……!!」


腕に装着されたブレスレットが吹き飛ばされた為か、パワードスーツは解除され、今の男達の格好はジャージや作業着だ。


「これが変身装置なのか?」

「……カッコイイ……」


佳奈美達は勝手にブレスレットを拾い上げる。


「あっ、勝手に触るな!」

「なぁ、どうやって変身するん?」

「腕にハメて、『プレイ・VR』って叫べば……」

「教えるなバカ!!」


『『『プレイ・VR!!!』』』


そう叫ぶと同時に、三人の身体にパワードスーツが装着される。















佳奈美は格闘重視の『G・ファイター』に。

亜理紗は射撃重視の『G・シューター』に。

千里は操縦重視の『G・ドライバー』に。


それぞれ、その姿を変身させたのだ。




「か、勝手な真似を!! 今すぐ変身を解除して我々に返すんだ!!」

「あいつ、倒せばいいんだろ?」

「バカを言うな!! 我々ですら倒された『アンチャー』に一般人が勝てるわけが……!」

「……あの生物……『アンチャー』って名前なんだ……」

「おっちゃん、時間計っといてや」

「え? う、うん……」


千里が投げ渡したストップウォッチを男が作動させたのを確認すると、

三人は散開して『アンチャー』を取り囲んだ。


「ナンダ……キサマラ……?」

「通りすがりの格ゲーマーだよっ!!」


人語を解したことに驚きもせず、佳奈美は『アンチャー』に向かって飛び掛っていた。


「バカメ! ニンゲンガニクダンセンデ、ワレワレニカテルトオモッタカ!」


『アンチャー』の腕が佳奈美の顔面を打ち抜く!!

……かと思われたが、佳奈美はあっさり屈んでかわすと同時に、

『アンチャー』を足払いで転倒させていた。


「ナンダト!?」

「おまえの攻撃、遅すぎる。上段見てから足払い余裕だから」

「クッ……」


想定外の事態に驚いた『アンチャー』は翼を展開し、宙に飛び上がって佳奈美から距離を取る。


「……ムッ!?」


そこに狙い済ましたように光弾が飛来する。

しかし弾速が遅いため、『アンチャー』は軽々と回避する。

弾が飛んできた方向には、片手で銃を構えた亜理紗が居た。


「ザンネンダッタナ! ソンナオソイタマニ、アタルワケガナイ!」

「……うん……私もそう思う……」


亜理紗は全く動揺した様子も無く、銃の持ち方を変えた。

銃底を右手で支え、左手は人差し指をトリガーに当てるだけ。

……次の瞬間、亜理紗の銃から数え切れないほどの数の光弾が乱射される。

が、その弾幕すらも『アンチャー』はあっさりとかわしてしまう。


「ケケッ! オレヲカズウチャアタルヨウナ、ノロマトオモッタカ!」

「……思ってないけど……思ったとおりのバカだった……」

「ナニッ!? ……グェアッ!?」


『アンチャー』の身体に、瓦礫をジャンプ台にした千里のバイクが突き刺さったのだ。

千里は、先ほどの男が振り回されていたマシンをあっさりと使いこなしていた。


「ドンピシャや! さすがやな、亜理紗!」

「バカナ……コノオレヲ、ユウドウシタトイウノカ……!」


ダメージを受けた『アンチャー』は、地上に墜落していく。


「佳奈美、止めは任せたでっ!」

「分かってる!」


佳奈美は飛び上がると、『アンチャー』の身体を掴む。


「うおおおおおおっ、スクリューパイルッッッ!!」

「グアアアアアアッ!!」


佳奈美は『アンチャー』の頭を下にする形で抱え込むと、そのまま全体重をかけて地面に叩き付けた。

頭を潰された『アンチャー』の身体は、そのまま消滅した。




「おっちゃん、何秒やった?」

「え!? ……あっ、24秒……」

「かーっ! 4秒もオーバーしとるやんけ、大失敗やな!」

「き、貴様ら、一体何者なんだ!?」

「……ただの……一般人だけど……」

「ただの一般人が『アンチャー』を倒せるわけがあるかっ!!」

「ゲームで慣れてるんだよ、ああいうの」

「……ゲームって……」


キッパリと言い切る佳奈美達に対し、男達は何も言い返せなかった。




『少女達、よくやってくれた!』

「長官!?」


その時、立体映像で現れたのはグラサンをかけた強面のオッサンだった。


『素晴らしい、全く素晴らしいよ! その戦闘技術はどこで修得したものだね!?』

「……セブン……イレブン……」

「セブンにはワイルドガンマンは置いとらんけどな」

『意味は分からないが、とにかく素晴らしい!』

「で、オッサンは誰なんだい?」

『おお、自己紹介が遅れたな。私は地球防衛軍の長官だ。ダンディズムの発揮に関しては定評があるぞ!』


長官は両腕を組んでダンディポーズを取ってみせる。


『さて、自己紹介が済んだ所で君達に頼みがある。明日から、アンチャーを倒して街の平和を守ってくれないか!?』

「いいよ、ヒマだし」

『あっさりだね。事情とか気にならないのか?』

「……裏設定とか……別に興味ない……」

『ス、ストイックだな。いや、助かるが』

「それはそうと長官はん、バイト代はちゃんと出るんやろな?」

『うーむ、一回の出動に付き1万でどうかね?』

「乗った!!」

『他に何か質問は?』

「聞きたいこと出来たらそん時に聞くよ。通信ボタンはコレでいいんだろ?」

『分かった。こちらからも何かあれば連絡する。では……』


長官はコホンと咳払いをすると、大きく息を吸う。


『今から君達は地球の平和を守る戦士・ゲーマーズVRだ!!』

「イェッサー!!」


力強く敬礼する長官に応じて敬礼を返したのは、千里だけだった。


「なんやおまえら、ノリ悪いなぁー」

「ごめん、そういうの苦手で」

「……千里が……テンション高すぎるだけ……」

「はぁ!? 地球の平和を守るんやで、燃えシチュやろ!」

「……安っぽい……」

「あたしはシナリオとか気にしないクチだからなぁ」


相変わらず緊張感の無いノリで、あーだこーだと盛り上がる千里と佳奈美と亜理紗。

そんな三人娘を他所に、立体映像の長官は思い出したように倒れている男達に振り返る。


『……あ、お前達はもちろんクビだぞ』

「そ、そんなぁ……」


名前も与えられずにフェードアウトさせられ、ガックリする男達であった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



それから少し後の時間。

謎の暗黒空間で密談をしているアンチャー幹部達の下に、組織の構成員の一人が倒されたという報告が入っていた。


(エリアAのボスが、ゲーマーズと名乗る連中に倒されたようです)

(我らアンチャーを倒すとは、そやつらなかなかやりますな)

(ふん、エリアAのボスなど我らの中で一番の小物)

(そのとおりだ。そのゲー何たらも所詮は人間、我らの敵ではない)

(我らが同胞を倒した罪、じわじわと思い知らせてやりましょうぞ)


暗闇の中で、何重もの笑い声が、不気味に響いていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



翌日。

地球の平和を守ることになったゲーマーズ達だが、今日も飽きずにゲーセンに通っていた。

今は佳奈美と亜理紗が『よぷよぷ』で対戦しているのを、横で千里が観戦している。


「うっわー、今のごっつい大連鎖やなー!」

「……マグレ……」

「ちぇっ、こっちも後ちょっとで連鎖完成だったのに」


佳奈美はポケットを弄りながら、後ろの千里に振り返る。


「千里、今日はやんないのかい?」

「いやー、実は金欠でなぁ。今日は見るだけで我慢や、わはは」

「亜理紗の奴、今日は妙にツいてるからさー。ちょっと流れ変えてくんない?」

「んー、せやな。じゃあ一回だけ……」


なけなしの100円玉を投入する千里だったが……。


『エマージェンシー! エマージェンシー! 竜王町でアンチャーの出現を確認!』


腕のブレスレットから、緊急コールが鳴り響く。


『ゲーマーズ、出動せよ!』

「ちょ、待ちいな!? 今100円入れたばっかやで!?」

『そんなことを言っている場合ではない! 事態は急を要するのだ!』

「ぐっ……!」


千里はクレジットをカウントしたディスプレイを忌々しげに睨み付けると、椅子を蹴って荒々しく立ち上がった。


「千里っ、早く!」

「おう長官、今の100円、経費として払って貰うかんなっ!」

『分かったから早く行け!』

「らじゃっ!」




『『『プレイ・VR!!!』』』




VRゲーマーズの戦いは、始まったばかりである。








   チャチャチャチャラララン♪



  『よっ、あたしだ! 樋口佳奈美だ!

   ゲーマーズVRとなったあたし達ゲーマーは、今日も絶好調!

   日々の鍛錬で培った超絶テクがあるから、アンチャーどもなんて敵じゃない!

   ……なーんて、油断してるところにしっぺ返しがあるのが王道だよな?

   だが、どんな困難も来るなら来い! それを乗り越えてこそゲーマーだ!』



  次回、闘え!! ゲーマーズVR


Round2「アンチャーの罠」



   ジャジャーン!!



  『あたしより強い奴に会いに行く!!』

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